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こちら、<対魔族魔法精霊学園>  作者: 海鼠なまこ
1 精霊の天敵
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11/15

Ep.9 正体 前編

 9-1


 ひらひらと、粉雪が舞い散る。

 焦げた空気、暗い空。


 白い雪によって、その空間だけが、まるで過去に置き去りにされたかのように。

 白黒(モノクロ)になったかのように、静かに時を刻む。


 部外者が踏み入ることを拒むような、その切り離された空間に、異様な色彩を放つ二人がいた。

 いや、違う。正確には、その二人も白と黒の二色の色彩だけであった。


 しかし、その二人は、一面の雪景色とは異なる、漆黒と純白を纏っている。

 黒の美女と、雪からその美女を守るように傘を持った、白の少女。

 美女の方は分からないが、少女の方は、外見は十四歳程度のようだ。


 そのあまりにも特徴的な風貌から、二人の様子は昼と夜──終わることのない、永遠を体現しているかのようだった。


「ここね」

 二人は、焼け落ち、瓦礫と化した(やしき)の門の前まで来ると、弾かれたように立ち止まった。

「……これはすべて、()()()がやったんですか?」

 もはや原型を留めてすらいない門を眺めて、純白の少女は顔をしかめた。


 つい先ほどまで戦闘が起きていたらしい門の周辺には、打ち捨てられた死体が、殺されたままの状態で、雪を纏って静かに横たわっている。


 時が止まっているかのように錯覚するほどの静寂。二人が歩みを進める音の他には、何も聞こえない。


「同じ目的なのに、どうして()月姐(つきねえ)さまとここまでやり方が違うのでしょうか」

「……愚問ね。()は手に入れてしまったのよ。世界を屈服させてでも、総てを創造し、破壊しうる()を」


 まだ肉体が腐り始めていない死体を見回して、漆黒の美女は肩を竦めた。

「でもそれは、あの坊やも同じこと」


 敷地の片隅から流れる魔力の波を、糸を手繰るように遡る。

 魔力の出所は、瓦礫──ではなく、瓦礫に埋もれている少年だった。

 瀕死ではあるが、幸いなことに、まだ息はあるようだ。


 少年は美女と少女に気づかないまま、少年の目の前に突き刺さった剣に、魔力を流している。

 しかし、コントロールがうまくいかず、剣から魔力が発散され続けていた。

 ふと、糸が切れたかのように、魔力の波は途絶える。

 ぎらぎらと、瞳に憎悪の炎を滾らせながら、少年は舌打ちした。


 再び魔力を剣に流し込もうとして、少年は二人に気がついた。

「……あんた、誰だ……?」

「ごきげんよう、坊や。昨夜はとんだ災難だったわね」

「……俺は、坊やじゃない…………俺の質問に、答えろ……」

 息を切らしながら、少年は美女を睨みつけた。


「あら、随分と血の気が多いのね。いいわ、教えてあげる。私の名前は月都(つきのみや)向日葵(・ひまわり)というのだけれど、聞いたことはないかしら?」


「……冗談……月都と言えば、酒好きで、賭博に身を腐らせた、とんでもない遊興惚け……」


 美女は悪戯っぽく笑ってから、

「そうね。お酒も賭け事も、みんな好きよ。そして、私は知ってるわ。昨晩誰の手によって何が起こったのか。貴方が黒鋼(くろがね・)真來(しんらい)という名を持っていることもね」


 どこでその情報を手に入れたのかと、真來は仰天した。


 そんな真來をよそに、美女──向日葵は、隣にいた純白の少女に手招きした。

 着物の色こそ正反対ではあるが、顔立ちはとても似通っている。その様子は、まるで姉妹のようだ。


 少女は全て心得ているようで、真來の目の前までくると、背を向け、着物を脱いだ。

 真來はぎょっとしたが、もはや目を覆う気力も、体力も残っていない。

 ()に対する怒りと憎悪をもって、意識をなんとか保っていた。


 よく見ると、少女の腰の辺りに、外見に対しては似合わない刺青がされている。それは文字で、「月都」と読めた。

「綺麗でしょう?この子は月都の二精霊<白華(はくが)>の<白>──白夜(しろや)よ」

 その言葉を聞いて、真來の瞳がわずかに見開かれる。


 月都の創りし精霊──<月下(げっか)>。その真作<白華>。それは、未だに世に出回っていないとされる幻の精霊たち。


 それを、今まで創り主以外の誰かが使役しているという話は聞いたことがない。


 だとすれば。


「あんたが……あの<戦姫(いくさひめ)>を創った……!?」

「だからそう言ってるじゃない。私は、月都その本人。それにしても、失敗作の戦姫(あれ)を坊やが知っているなんて、驚きだわ」

 向日葵は降り積もる雪のように、冷淡に言った。


「あれが、失敗作だって……!?あの、日本軍の本拠地を四割消し飛ばすような、化け物が……?」

「だって、ただの破壊活動は、美しくないじゃない。戦姫(あの子)は、もう外国のお偉いさんにあげちゃったわ」

 絶句する真來を無視して、向日葵は勝手に話を進める。


「でも、表の世界に出てくるものは、何一つ無駄なものがない。まるで真玉のようにね。でも、戦姫(あの子)のおかげで、私は随分と顔が広くなったの。今じゃ、すっかり有名人。軍部のお偉いさんにも顔が利くのよ」

 ふっと微笑み、真來の瞳を覗き込む。


「少なくとも、貴方の願いを叶えるお手伝いはできそうね」

「願い……?」

「そう。貴方が復讐を誓った人を、捜してあげられるわ」

 向日葵は愛おしい我が子を見つめるように、そっと真來の頬に手を触れる。


 本能的な恐怖を感じ、真來は身動きが取れなかった。無論、瞳を動かすことさえ、ままならない。


 だが、同時に魅せられてもいた。

 自分にとって、凶刃とも、盾にもなる、その存在に。

「今、坊やの前には二つの道がある。今、ここで凍え死ぬか。それとも──」


 9-2


「月姐さん、なんでここに──」

 真來の言葉を遮り、向日葵は唇の前で指を立てた。

 静かにしろ、ということだろうか。


「おい、シンライ。どうかしたか?」

 美形の寮監が、寮監室から顔を出した。真來はしまった、と思ったが──

「なんだ、何もいないじゃないか」

 と、顔を引っ込めた。


 ──この二人が見えていない?

 見えていないとすれば、向日葵が得意とする隠形(おんぎょう)の魔術だろう。


 ほのかに香るクチナシの香りに、寮監は眉をひそめたが、まさかここに絶世の美女がいるとは、夢にも思わないだろう。

 真來は素知らぬ風を装い、自室へと引き返した。


 すぐにでもイヴを捜しに行きたいが、わざわざ向日葵が学園(ここ)まで出向いてきたのだ。

 察するに、ただごとではないのだろう。


 自室に戻ると、白夜は飛び上がらんばかりに驚いた。

「月姐さま!?それに、氷華(ひょうか)姉さままで……」

「おお、元気であったか、白夜?調子はどうだ?」

「絶好調です!」


 今日の向日葵は、少女を一人従えている。

 白夜と似てはいるが、こちらの方が背が高く、黒髪の白夜とは違い、こちらは銀髪だ。


 氷結を操る能力と、その花のように美しい風貌、ダイアモンドダストのように光を反射して、きらきらと輝く銀髪から、白夜の姉は氷華と名付けられた。


「ふむ。若干ではあるが、魔力の流れが不安定だな?あまりの無理は禁物だぞ」

「はい。この白夜、いつでも心得てます!」

 と、楽しそうに話す姉妹をよそに、真來と向日葵は向かい合う形でソファに座った。


「それで、何か話があるんだろ?月姐さん」

「ええ。分かったことがあるの。<精霊の天敵(アンノウン)>絡みでね」


「軍で調べたのか?」

「そうよ。白夜から連絡をもらったあと、早速、行方不明者を捜索してみたのだけれど」

「……見つからない、か」

 真來の返答に、向日葵は黙って頷いた。


「そう。破壊された精霊と召喚獣、双方の主について調査しても、被害に遭った次の日には行方が分からなくなっているの。犯人は精霊たちの主を──ひょっとしたら死体を──隠せておける連中ってことになる。つまり」

「……つまり?」

「犯人は、坊やが思っているよりも、大きな敵かもしれないってことなのよ」


 確かに、死体を隠すのは骨が折れる作業だ。

 多くの殺人者が、死体の処理に困ってボロを出し、捕まっている。

 埋めた場所には掘り返した土が、解体した場所には血液が残る。そもそも、動かすだけでも一苦労だ。

 生きている人間を隠すほうが、まだ楽かもしれないが──


 それにしたって人数が多い。確かに、一個人が隠蔽できるとは思えない。

 だから、「大きな敵」か。


「学園、もしくは王室や英国政府が絡んでくるかもね」

「学園と<精霊の天敵>がグルだってのか?」

「だって、そうでしょう?学園は風紀委員と警備、二つの組織に守られてる。何者かが組織のような行動をとれば、すぐにでも勘付かれるはずよ」


 だが、現実には見つかっていない。

 これだけの失踪者を出しておきながら、風紀委員も、警備も、捜索の結果を出せていない。

 風紀委員だけでなく、警備──もしかしたら教授陣も──全てが敵かもしれない。


「今なら、知らん顔もできるわよ?」

 そのごく短い間、真來は強い誘惑に襲われた。


 もしここで真來がこの一件から離脱すれば──真來がその程度の存在で済むのならば、学園も真來を切捨てはしないだろう。

 だが。


「……助けたい奴がいるんだ」

 気づけば、真來はそう呟いていた。


「……そう。それでも行くと言うのなら、私は止めないわ」

 向日葵は溜息をついた。怒ったわけでも、呆れたわけでもない。


「白夜、こちらにいらっしゃい」

 向日葵が白夜に手招きする白夜が近寄ると、向日葵は白夜の胸に手を翳し──

 刹那、白夜の体がどくんっと痙攣し、白夜は目を回してそのまま倒れた。


「月姐さん、白夜に何を──」

「能力の自動制御(リミッター)を解除したわ。これで、貴方は白夜の能力を惜しむことなく扱うことができる。それだけじゃないわ。白夜が見ている世界に、貴方はこの瞬間、足を踏み入れることになる」


 ここで一度言葉を切り、白夜に目を向ける。

「白夜は力を司る精霊。『力』を持つものに対しては天下無敵よ。だけど、概念とかの『力』をもたないもの──例外はあるけれど──に対しては、その本領を発揮できない」

「分かってる。無理をさせるつもりはないさ」

「そう。気をつけてね」


 白夜を起こしてから、真來は白夜と共に、部屋を飛び出した。

 寮から出るとき、寮監に引き止められたが、いちいち風紀委員の捜査協力とか、説明している時間もない。

 真來たちは冷えた風と共に、夜の森へ駆けていった。

感想欄にてアドバイスをいただいたので、文章中に空行を入れてみました。

どうでしょうか?多少は読みやすくなってるのでしょうか?


アドバイスはいつでも受け付けてます。どんどん書き込んじゃってください!

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