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救済(5)


「「ルイ~。寂しかったよ~」」

「くぅん」

「ごめんね。もう終わったから帰ろう」


 ぬいぐるみたちとチップを一度に抱き締めたルイ。たった一晩離れただけなのに懐かしさがある。この夜がとても密度の高いものだったからだろう。


 彼らを預けていた街の人たちにお礼を告げて、荷物を受け取ったルイたちはアトリエへ帰ってきていた。


「ただいま! みんな大丈夫?」


 すぐさまアトリエの中に入り無事を確かめるべく視線を彷徨わせた。物たちは出てこない。不安に襲われたルイだったが、視界の端がコートハンガーの一部を捉えた。


 急いでソファの間にあるローテーブルへと近づいたルイ。すると、ローテーブルの下から物たちが一斉に出てきてルイに飛びついた。


 忙しなく動き何かを伝えようとしている。口がないため何を言っているのかは定かではない。だが、なんとなく伝わったのだ。


『コートハンガーが守ってくれたんだよ』


 ルイは横たわっているコートハンガーを起こした。しかし、窓から飛び込んできた瓦礫により体が真二つに折れてしまっていたのだ。


「コートハンガーさん、大丈夫。今僕が治すからね。‘Olu Makana。……あれ? ’Olu Makana!」


 何度も何度も魔法をかけたがコートハンガーが動く気配はない。


「どうして! ねぇ、お願いコートハンガーさん、生き返ってよ!!」


 どれだけ訴えても微動さえしない。


「……うあああっ」

 コートハンガーを抱きしめて泣くルイ。


 そんな彼を見ていたキキも涙を滲ませた。


 ふとアトリエ内に響く鈴を転がすような声。


――泣かないで、愛しの子

――心配いらないよ


 魔力の精霊はルイの周囲を飛びまわって声をかける。しかし、ルイには届いていなかった。同じ精霊として彼らの姿が見えているリュカはルイの傍らに跪くと、彼の華奢な肩に手を置いた。


「耳を澄まして。ほら、聞こえるでしょう? 彼らの声が」


 リュカの一言に目が覚めたルイは言われた通り耳を澄ました。


――大丈夫だよ

――僕たちがいるからね

――治せるよ


「……治せるの?」


――君が僕たちに願えばね

――私たちは君のためにいるんだから


「……お願い、魔力の精霊さん。コートハンガーさんを治して!!」


 軽やかに笑った魔力の精霊はコートハンガーの元へ飛んでいくと、色とりどりな体を瞬かせて折れた個所を包み込んだ。


 コートハンガーは光出し、あまりの眩さにルイたちは目を閉じた。


 しばらくして光は収まりルイが目を開いた直後、頬が硬い物につつかれる。


「……コート、ハンガーさんっ」


 目の前にはいつも通りに動いているコートハンガーの姿があった。コートハンガーはルイの瞳から流れる涙を枝の先で拭っていく。


 そして立ち上がると、紳士よろしく腕に見立てた枝を前に持ってきて恭しく頭を下げた。と思えば、開いているアトリエの扉へ向かい脱走を図ったのだ。もちろんリュカに止められ抵抗空しく壁に括り付けられていた。


 いつも通りの光景に思わず笑いだすルイ。悲しいものから嬉しいものへと変わった涙を拭い告げる。


「おかえり」


 コートハンガーはゆっくりと頭の先を前に傾けた。それはまるで微笑みながら『ただいま』と言っているようだった。


「みんなも、また一緒に楽しく過ごそうね」


 ルイの言葉に応えるように、それぞれ体を揺らした物たちによりアトリエはたちまち賑やかさを取り戻していく。


「よし! 今日は宴だー!」

「美味しいご飯を作るぞー!」


 張り切ってキッチンへと向かったぬいぐるみたち。


「わん、わん!」

 となぜかチップもついて行った。

 が、ルイが呼ぶと律儀に戻ってくる。


「チップ、キキさんだよ」


 おとなしいチップの体に恐る恐る手を伸ばしたキキ。その柔らかな毛に触れた途端、彼女の顔は綻んだ。すぐに打ち解け合った一人と一匹はボールを投げて遊んでいる。


 キッチンで何やらいたずらっ子然としているぬいぐるみたち。


「宴飯と言えば~?」

「「ドラゴンの肉!!」」


「「いえ、ドラゴンの肉は美味しくないので却下で」」


 声を合わせたぬいぐるみたちに瞬時に飛ばされるルイとリュカからの苦言。以前食べたブルードラゴンの肉の味を思い出して顔をしかめる二人。


「じゃあなににするよ」

「メニューを考えるのだって簡単じゃないんだからね」


 ごもっともな意見だ。

 少し考えこんだのち控えめに手をあげたルイ。


「じゃあ、提案してもいい?」

「「いいよー」」


「……ハンバーグ、がいいな」

 少し照れ臭そうに告げたルイはさらに続く。


「でもね、豆腐が入ったふわふわなハンバーグなんだ」


「「とうふ?」」

 どうやらこの世界にはまだ豆腐はないらしい。


「そっか、ないのか……」


 悲しげに顔を俯かせたルイの元へと駆けてきたぬいぐるみたちは問う。


「ねぇねぇ、とうふってなに?」

「食べ物? 美味しいの?」


「聞きたい?」

「「うん!」」

「豆腐はね――」


 意外にも料理談議が弾み、日が暮れたことから今夜は宴ではなくいつも通りのご飯となった。


「ふふ、やっぱりいつも通りが楽しくて美味しいね」


 ルイの笑顔と共にアトリエに日常が戻る。

 少しだけ新しい風を吹かせて。


ご覧いただきありがとうございます。


4章『ミスフィット』編が終了し、最終章に入ります。

最終章『出会いと別れ』。


次回『転生魔法使いと追放精霊』。計3話。

最後の物語となります。

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