贖罪(3)
前話回想シーンの続きです。
『止めるべきは魔物じゃないだろう。……元凶だ』
ルークはこの惨状を忘れないよう目に焼き付け、元凶である彼らの元へと戻った。そう、ミスフィットだ。再び黒いマントを羽織り、頭領として彼らの前に姿を現す。
『あ、頭領! あいつらマジで滑稽ですね。仲間の中に敵が潜んでいたとも知らずのこのこと情報を明かして、その結果がこれですよ!』
国家魔法使いたちと関わりつつ、ルークは情報を引き抜いていた。魔法属性や性格、家族構成、過去。その結果から相性の悪い魔物を彼らの元へそれぞれ送ったのはルーク自身である。
『ああ、さいっこ~!』
耐えきれず歯を剝き出したルークは、陶酔しているそいつの首をはね飛ばした。転がっていく首を見たミスフィットの者たちは恐怖で逃げ出すも、ルークは容赦なく全員の首をはね飛ばす。
『……終わった……』
魔物の方も国家魔法使いにより討伐され、この大規模戦争は大きなものを幾つも失ったのち終結したのだった。
実質ミスフィットは解散だった。ルークしか残っていないのだからもう組織とは言えない。残しておく意味もない。
これからは国家魔法使いのルークとして償えるものではないが、少しずつでも罪を償っていこう。そう心に決め黒いマントを脱ごうとした時だった。
『……許さない……。ゆるさないっ! ……お姉ちゃんを、殺したあいつらを……』
涙に濡れた顔で包丁を両手で握っている少女を視界に捉えたのだ。視線は、聖女を抱きかかえているリオンへ向けられていた。
そして包丁を構えて走り出した少女。ルークは咄嗟に少女の前へ飛び出した。
『……っ……』
鋭い痛みに口から溢れ出す血。その包丁はルークの腹に突き刺さっていた。
『……え、あ……ちがっ、私は、あいつをっ……』
関係ない人に包丁を刺してしまったという事実にパニックを起こしかけている少女を抱きしめたルーク。
『大丈夫。わかっている。ちゃんとわかっているから。……名前、聞いてもいい?』
ルークは彼女を抱きしめたまま優しく尋ねる。
『……キキ』
『キキ、君は道を踏み違えてはいけない。お姉ちゃんが殺されて、たまらなく苦しいよね。……その怒りはなかなか消えないだろう。でも、ダメだ。今ぶつけてしまってはダメだ。……少し、時間が必要だね』
微笑んだルークは彼女の体から腕を解き、その小さな額に手を当てた。
『君の怒りは僕が10年後引き受ける。だから、“ミスフィット”の名を覚えていて。……必ず迎えに行くから』
キキは自分の額に当てられているルークの腕を掴み戸惑っている。
『……なに、わかんないよっ!』
『そうだね。ごめんね。でも、君を助けるには、こうするしかない。……しばしの別れだ』
優しく微笑んだルークの手のひらから発せられた淡い光はキキを包み込み、そしてその場から彼女を消した。黒魔法のひとつ『時空操作』。ルークはキキを10年後へと飛ばしたのだ。
『……なんだよ、成功しちゃうのかよ……』
それは、以前ルーカスが失敗した黒魔法だった。
彼女の額に当てていた手は指先から徐々に黒く変色していき、二の腕で辛うじて侵蝕が止まる。血が溢れる腹を押さえて立ち上がったルークは黒いマントで姿を隠し闇に消えた。
『……ミスフィットを、壊すわけには、いかないっ……。あの子の、ためにも……』
ルークは再びミスフィットを立ち上げ仲間を集った。だが、以前の二の前にならないよう慎重に選んでいく。特に自分に忠実であるものを選定した。国家魔法使いの内部にも関係者を作る必要があるだろう。
そして、目を付けたのがカミーユである。黒魔法に『蘇生』があることを伝えたら二つ返事で引き受けてくれた。だが、カミーユがその黒魔法を試すことはなかった。おそらく成功しないことを知っていたのだろう。もしくは見ていたか……。
そして、10年後――
あの日キキを飛ばした場所へ向かったルーク。彼女は訳がわからず視線を彷徨わせていた。そうだろう。だってあの子はついさっきまで悲惨な戦場にいたのだ。
だが今はどうだ。荒れ果てた家屋は建て直され、道も舗装されている。町は火に包まれても居なければ、魔物の姿もない。そして、姉の姿もどこにもないのだ。
ルークはキキに近づき声をかけた。
『迎えに来たよ』
『……っ! 誰!?』
しゃがんだルークはマントのフードを外して顔を見せる。その顔を見た途端キキの目は見開かれた。
『ミスフィットは覚えているかな?』
『……おぼえて、いる』
『……国家魔法使いたちを、殺しに行こうか』
立ち上がりキキに手を伸ばしたルーク。今はこう言うしかなかった。彼女を自分の元に引き留めておくために。そして、彼女が間違った道へ進まないように。
ルークはキキをカミーユの元へ連れて行った。
『その子がキキね。……本当にいいの?』
『はい。お願いします』
カミーユはルークに言われた通りキキの口を魔法で縫い付けた。
『君を守るためだ。我慢してくれるね?』
恐怖で泣いているキキを抱きしめたルーク。
『国家魔法使いを殺すんだろう?』
その言葉に目を丸くした彼女は涙を拭って力強く頷いた。
可哀そうな措置だろう。だが、他のミスフィットに目を付けられないための最善の方法であったのだ。
『……大丈夫だ。君の怒りは僕がすべて引き受けるから』
――――――
黒に侵蝕された右手に再び手袋をはめてフードを被りなおしたルークは、火が広がっていない街を感情が宿らない瞳で見下ろした。
◇
リュカは空飛ぶ絨毯の上で先刻のルイの言葉を思い出していた。
『ミスフィットの頭領は、ルーカスさんではなくルークさんです。そして、ルークさんは今日死のうと思っています』
「……彼を止めること、それがあなたにしかできないことなのですね?」
リュカからかけられた声に、前に座っていたルイは振り向き頷く。
「はい。だって、ルーカスさんが見えているのは僕だけですから」
ルイはふとリュカの背後へ視線を送った。リュカも誘発され自身の背後に視線を送ったが彼の瞳には何も映らない。
だが、ルイの柔らかな萌黄色の瞳にはルーカスの姿がはっきりと映されていた。ルークと顔立ちはよく似ているがまだ幼さが残る、あの日から時の止まっているルーカスの亡霊が。
『おう。任せるな、小さな天才魔法使いくん』
「はい!」
ルイは彼へ微笑み答えた。
ご覧いただきありがとうございます。
ルークの過去を深掘りする物語でした。
回想シーンにお付き合いいただきありがとうございます。
次回『傷跡』。計3話。




