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魔法使い狩り(5)


「……ルイくん、やってくれたね」


 際限なく上がっていく金額にリオンの顔が引きつっていく。その隣ではローガンがグレーのやや混じる黒髪を押さえて項垂れていた。


「はぁ……。時間稼ぎのために自分の価値を上げようとしているのはわかる。だが、これ以上上げないでくれ……!」


「あらまあ、足りるかしら?」


 自分の貯金額を思い出しながら役になりきり「ほっほっ」と笑っているシンシア。


 そんな彼らの心配など意に介さずリュカとタリアは手を挙げていく。


「あ、360!! ……えぇ!? ご、500!? ご、500、500が出ました!!」


 上がりすぎる金額に徐々に手は上がらなくなり、とうとうリュカと、全身を上質なマントで覆った者との一騎打ちとなった。お互い一歩も引かずオークショニアの戸惑いをよそに熾烈な戦いが繰り広げられている。


(絶対に負けられない。ルイを他の誰かに取られてたまるものですか!!)


 リュカは闇オークションで上限とされている「1000」を宣言した。


――ダン、ダン

 打ち鳴らされるガベル。


「せ、せ、1000!! 上限、1000で落札です!!」


(……や、やり過ぎた)

 と内心反省をしていたルイだったが、落札者がリュカと見て満面の笑みを浮かべる。


 安心しきった顔で微笑んでいるリュカの隣で頭を抱えている五芒星。


「……いきやがった、上限……」


「……はは。うん、行くと思ったよ。だってルイくんのこととなると“バカ”になるもん、あの精霊」


「当分、美味しいケーキはお預けね」

「僕も新しいお洋服買えないよぉ……」


 直後、会場中の照明が一斉に消えた。


「……やっとか」


 リオンの呟きを合図に立ち上がった五芒星とリュカは、顔に付けられていたマスクを剥ぎ取り夜空色のマントを羽織る。


 再び明かりが戻った時には、オークション会場は騎士団と無数の国家魔法使いに囲まれていた。咄嗟に、スーツに身を包み会場を巡回していた者たちが拳銃を構える。


「ここはすでに包囲されている! 武器を下して手を上げろ!」


 だが、宣言した騎士団長アレクサンダーの指示の元迅速に動いた騎士団により、スーツの者たちはあえなく制圧された。


 アレクサンダーはひとりステージに飛び乗る。そして、カゴに捕らえられているルイの前で跪いた。


「……アレクさん!」

「よく耐えたな、ルイ坊」


 騎士団長アレクサンダーは、強面のためにこどもに泣かれることが多い笑顔をルイへと向けた。


「ふふ、みなさんが助けてくれるって知っていましたので」

「ああ、そうだな」


 アレクサンダーは鳥かごを掴んだ手に力を込めると、ミシミシと音を立てながら壊していく。その怪力に、騎士団に捕らえられているオークショニアはあんぐりと口を開けた。逃げ出されないよう硬い素材で作られた特注品の鳥かごであったからだ。


 かごで閉ざされていた視界が開ける。瞬きひとつ、ルイの瞳に映るのは眩いほどの金色。ルイは足をもつれさせながら立ち上がるとステージから飛び降りた。


「リュカさん!」

「ルイ!」


 大きく広げられたその腕の中に飛び込んだルイ。リュカは彼を受け止め愛おしそうに抱きしめる。


「……よく頑張りましたね。立派でしたよ」

「だって、リュカさんなら絶対助けに来てくれるってわかっていたもん」


「「ルイ~!」」


 ネロに連れられてきたぬいぐるみたちはルイの姿を見るや否や彼の腕から抜け出し、何度も転びながら綿の少なくなった足を一生懸命動かしてルイに駆け寄る。


 リュカから下ろされたルイは膝をつくと、ボロボロなぬいぐるみたちを抱きしめた。


「こんなにボロボロになってまで僕を助けてくれてありがとう」


――ふふ、良かったね

――もう大丈夫だね


 力を貸してくれた魔力の精霊たちにも感謝しつつ微笑んだルイの瞳から一筋だけ涙が零れた。



 騎士団と国家魔法使いが控えていた場所にこどもたちを転移させたネロ。おかげで、こどもたちは速やかに家族の元へと帰された。


 闇オークションに携わっていた者は即時逮捕されたのだが、ルイを捕まえた傷を持つ男と黒いマントの魔法使いはそこにいなかった。


 五芒星はこれから後処理に追われることだろう。ちなみに、オークションが潰れたことで大枚をはたくことは免れたそうだ。そのため五芒星はやや上機嫌。


 一方、オークション会場の地下に戻ってきていたルイとリュカ。


「……ああ、あなたは彼らも見捨てないんですね」


 そう。ルイは檻の中で亡くなってしまったこどもたちの元へと戻ってきていたのだ。地縛霊と化している彼らはこの地下から出ることができていない。


 亡霊たちに近づいたルイは手を差し伸べてそっと言葉をかける。


「一緒に、家族の元へ帰ろう? ‘Olu Makana」


 彼らが囚われていた枷に魔法がかかり、こどもたちは幻影となり姿を現した。


「いってらっしゃい」


 亡霊たちは笑顔を浮かべると地下から抜け出し各々家族の元へと向かっていく。この先の光景をルイは知らない。だが、霊となってでも帰ってきた我が子をもう一度抱き締められた家族は、顔も知らない魔法使いに感謝を示したのだった。




 アトリエに戻るとすぐさま飛びかかってきたチップ。


「わん!」

 彼の顔を舐めている。


「わぁ、くすぐったいよ、チップ。お留守番ありがとう」


 コートハンガーを筆頭に“物”たちもルイを快く出迎えた。ルイはたまらなく安心感に包まれ声を上げて笑う。



 翌日、リュカによって元のマシュマロボディに戻ったぬいぐるみたちは今日もルイのために美味しいお菓子と紅茶を用意中だ。


――ドゴン


 突如、鈍く響いた音と共に軋んだ扉へ視線を送った一行。ルイが確認しようと立ち上がったがリュカが制す。


「私が確認してきます」


 アトリエの扉を開けて外を確認したリュカは笑みを携えたままそっと扉を閉めた。


「風で石が飛んできたのでしょう。なんともありませんでした」

「そうですか」


 リュカの穏やかな顔を見て胸を撫で下ろしたルイは再びチップと戯れだす。リュカはそんな彼らを微笑ましく見つめたまま、しばらく誰も扉に近づけさせないよう立っていた。


 アトリエの外、扉の前にもたれかかるようにして無惨に放り出された死体。その者には、額から左目を引き裂くように走る二本線の傷跡があった。


ご覧いただきありがとうございます。


総出でルイを救出する物語でした。

ただ待っているだけではなく自分から行動を起こすところも、ルイの魅力ですね。


次回『口が縫われた少女』計3話。

3章最後の物語です。

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