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魔法使い狩り(4)


 手配書に導かれオークション会場の地下へとやってきたネロ。手配書はルイたちが捕らえられている部屋へと繋がる重厚な扉の隙間へ入っていく。


 が、ネロが続いてこないと見ると隙間から頭に見立てた角を出し、「入らないの?」と言いたげに角を傾げた。


「あのなぁ、お前は薄いからいいけど俺はどう頑張ってもその隙間には入れねぇの」


 ネロは顔を出した手配書をひっつかむと自分の顔に近づけて怒りを露にする。


「ま、俺ぐらいになるとできちゃうんだけどね」


 手配書からパッと手を離して得意げに鼻を鳴らしたネロは、闇属性魔法で自分の姿を透過させて扉を難なく通り抜けた。部屋に入ってすぐ目に付いたのは檻から出て集っているこどもたち。


「……お、もうここまで進んでんのか。さっすが、ルイ」


 姿を現したネロは丸眼鏡を掛け直し辺りを見渡してルイを探した。入り口から最も離れた位置にある、見るからに頑丈な檻を見つけ駆け寄る。


「遅くなったな、ルイ」

「ネロくん……!」


 ネロは檻の柵を掴んで顔を近づけた。


「……良かった。怪我はなさそうだな」

「はい」


「待ってろ、今枷を――」

「ダメです! この枷は魔法を使ったらあちらに伝わってしまうんです。今ばれるわけにはいきません」


「チッ、魔法が使えねぇのかよ。……ん? じゃあ、こいつらはなんで外に出られているんだ?」


 こどもたちを指さしながら首を傾げたネロに、ルイは唇の前に人差し指を添えると「裏技です」と微笑んだ。


「ネロくん、たしか闇魔法に人を転移できるものがありましたよね」


「あるにはあるが、この人数ともなると時間がかかるぜ」

「それで構いません」


 言い切ったルイに不信感を募らせたネロは眉を顰める。


「……何する気だ?」

「僕が時間稼ぎをします」

「どうやって?」

「オークションにかけられてきます」


「……!? 何言ってんだよ! 俺たちはお前がオークションに出ないよう助けに――」

「僕だけ助かるのはダメです」


 ネロは束の間目を丸くしたが、吐き出した息と共に顔を綻ばせた。


「……リオンの言ったとおりだな。お前は優しすぎる」

「いえ、みなさんを信頼しているからこそ踏み出せた決断です」


「そういうところな」


 肩をすくめて笑うネロの夜空色のマントが不意に引っ張られた。ルイより小さい男の子が今にも折れそうな細い腕で握っていたのだ。


「……お兄ちゃん、僕たち、お外にでられるの?」


 男の子と視線を合わせるようにしゃがんだネロは作り慣れていない笑顔で、「絶対に家族の元に返してやるからな」と告げる。男の子は顔を輝かせ元気よく頷いた。


「てか、目玉商品が登場するのは最後だろ。どうもたせるってんだ?」


「それが、ここでは目玉商品は一番初めに出すようです。ぬいぐるみたちが聞いてきてくれました」


「「えっへん!」」


 こどもたちの隣で腰に手を当てて胸をそらしたぬいぐるみたち。だが綿が抜けた体は不安定でそのまま後ろに倒れてしまう。


「あ、そういえばそんなこと言ってたな。しかし変わったオークションだこと」


「はい。存分に価値を上げてなるべく引き延ばしますので、どうかこの子たちを家族の元に」


「ああ、わかった」


 答えたネロはルイが捕らえられている檻の前に膝をつき、柵の隙間から腕を伸ばした。それは、ルイの頭に伸ばされる。


「……お前のことも、絶対に助けるからな」


 優しく撫でられ胸が暖かくなったルイは、その手に自分の小さな両手を重ねて微笑む。


「……はい」


 立ち上がったネロは外からこちらへ近づいてくる気配を感じ取り、咄嗟にこどもごと闇に紛れた。


 直後勢いよく開かれた扉。

「おい、時間だ」


 額から左目を引き裂くように走る二本線の傷跡を持つ男は一直線にルイへと近づいてくる。柵を捻じ曲げた檻は元通りにしてあるものの、男は周囲に視線を送ることなくルイだけに視線を注いでいた。


 おかげで檻の中からこどもたちが逃げ出していることは気付かれていない。


 ルイは咄嗟に膝を抱えて涙を流した。か弱いこどもを演じるためだ。男の死角を縫ってルイの元へと戻ってきたぬいぐるみたちは、ルイの傍らで生ないぬいぐるみのように横たわっている。


――ガチャン


 檻の鍵を開けて中に入ってきた男は、束から別の鍵を取り足枷も外すとルイを小脇に抱えた。


「嫌だ! 離して!」


 落とされない程度に手足をばたつかせるルイに男は舌打ちを鳴らして拳を握り締めたが、商品、それも目玉商品を傷つけるわけにはいかず踏みとどまる。


「静かにしねーと、その舌切り落とすからな」


 こどもには効く脅しだろう。だがルイは自分が傷つけられない理由含めすべてを理解している。そして自分が今、するべきことも。


「ヒッ!」


 大げさに悲鳴を上げたルイは慌てて口を押さえ、体を震わせた。そのルイの反応を見て男は満足そうだ。


 ルイは顔を後ろ向きに抱えられているため、顔を上げると檻に残されたぬいぐるみたちと視線が合う。

 ふらつきながら起き上がったぬいぐるみたちはルイに小さく手を振った。彼も微笑むとぬいぐるみたちに手を振り返す。


(……ルイ、大丈夫だ。お前をリュカの元に返すからな)


 ネロは改めて強く決意すると、男が完全に扉と隔たれたことを見て闇を解く。


「よし、3人ずつ来い」

 そして、転移魔法を展開させ始めた。


(というか、ただでさえ高い価値を更に上げるって、あいつら金は大丈夫なんかな? ま、俺しーらね)



   ◇



「さあさあ、トップバッターは本日の目玉商品! どの属性にも属さない魔法を持つ『神の子』です! あの夜空色のマントを纏っている、即ち国家魔法使い! この幼さで国家魔法使いとなった逸材にございます!」


 ルイは大きな鳥かごに入れられステージ中央に運ばれる。自分を舐めまわすような視線に総毛立った。胸を押さえ、早く終わってほしい気持ちを抑え込む。ここで自分が時間を稼がなければ作戦が失敗してしまうからだ。


「50からスタート!!」

 次々と上がっていく手。


「はい、60!!」


「……100、100出ました!!」


 盛り上がっていく会場の中、ルイは鳥かごの中で顔を俯かせたまま大きく息を吸った。そして――


「……やめてー!!!」


 声の限り叫び、同時に会場中に魔法をかける。呆気にとられている客を傍目に浮かび上がる“物”たち。それは会場の上空に集まると楽しそうにひとりでに動き出した。


「「「うおお!!」」」


 再び上がる歓声と拍手。まばらに上がっていた手は次々と上がり始めた。


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