土の章 第1話:泥の中の王女(リブート)
私の意識は混沌としていた。
それでも、 光がかすかに見えていた。
(……あ、最悪。なにこれ。
意識が、自分の形を保てていない。)
それは、手足の先がどこにあるのかさえ分からない、おぞましいほどの体のばらばら感だった。
さっきまで私を包んでいたはずの、
重力から解放されたような浮遊感は、
唐突に訪れた猛烈な圧力によって無残に粉砕された。
(……痛い、痛い痛い。熱い。狭い。
なに、この暴力的なまでの圧縮。)
逃げ場のない狭窄したトンネルが、
私の未熟な骨格をきしませ、
細胞のひとつひとつを押し潰していく。
内側から切り裂かれるような内部の痛みが、
容赦なく神経を逆撫でする。
耳元では、自分のものではない巨大な心臓の鼓動が、ドラムのように意識を直接叩き続けていた。
(……はぁ? なにこれ、拷問?
逃がしてよ、早く。 逃げ場のない熱量と、
一秒ごとに強まる、逃れられない圧倒的な収縮。 これは、肉体という名の牢獄へ、
私という魂を無理やり引き摺り出すための、
一方的な処刑じゃない。)
頭蓋が歪み、視界が真っ白に染まる。
圧力が最高潮に達し、
ヌルリと、世界に放り出される感覚だった。
肺の奥に、氷の刃のような冷気がなだれ込む。 反射的に喉が震え、胸郭が大きく跳ね上がった。
(……寒い。眩しい。眩しすぎる。 光、音、匂い。
すべての不純な情報が、処理しきれない解像度で脳に流れ込んでくる。
声を出そうとしても、喉が焼けるように熱くて、
酸素を吸い込むだけで精一杯だ。
視界を覆っていた粘液が剥がれ落ち、
滲んだ世界が少しずつ焦点を結び始める。
そこに、温かい祝福なんて一滴もなかった。)
「……は? 待って。なにこれ、私……出てきちゃった感じ?
マジで意味わかんないんだけど。
最悪。
え、ちょっと待ってよ。
この全身のぬるぬるした不快感、何?
洗いたての髪が湿気で死んだ時より、
一億倍くらいテンション下がるんだけど。
つか、この状況を『生命の神秘☆』
とかいって美談にしようとしてる奴、
マジでセンス疑うわ。
ただのグロい物理現象でしょ。
映えなさすぎてるわ。
あーもぉー、本当に、本当に、最高に最悪。
せめて転生するなら、
もっとこう……
課金勢みたいなチート装備ありで、
キラキラした
お城の天蓋付きベッドからスタートしてくんない? なんでこんな、
冷房の効きすぎた教室みたいに肌寒い場所で、
自分ひとり、
生まれたての小鹿みたいに無防備に放り出されてんの。」
(その時だった。 私の頬に、熱い滴が落ちた。
血と泥に汚れ、ボロボロの鎖に繋がれた、
白すぎるほどに白い細い腕。
私を抱き上げたのは、息を呑むほどに妖艶な、泥まみれの聖母だった。




