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僕は殺されれば殺されるほど、強くなる  作者: 三毛猫乃観魂


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第六章 決戦、炎魔王ダマン・ラーサ

 ダマン・ラーサとの直接対決。

 トリフーイの港には各国の船がずらりと並ぶ。船と言っても普通の船ではない、戦闘用の船、所謂軍艦。

 邪怪族侵攻前までいがみ合い、敵対していた国同士もダマン・ラーサを倒すと言う目的に一つになり、トリフーイの港に集結した。

 船に乗る兵士は各国から集められたエキスパート中のエキスパート、それも志願兵。命を捨ててまでも邪怪族と戦う覚悟を決めた者たち。愛する人のため、大切な人のため、志願した。

 皆の決意は固い、ガチガチに。


 ゾナアマス国の軍艦を旗艦に、各国の軍艦が大海原に出港、目指すは南。


 海風に吹かれながら南を見ているエデ。婚約者に対する思い、ダマン・ラーサと邪怪族に対する怒りが交差している。

 傍にいる翔も黙って南を見ている。この先で待っているのは邪怪族との決戦、この世界に来るまではフィクションの中でしかあり得なかった世界。

「こちらにいたのですね」

 リックが話しかけてきた。

「南の孤島ですか……。考えてみれば霧が発生し始めたのも、邪怪族の侵攻が始まったころでしたね」

 霧が発生したため、迷う船が続出。航行が危険になったので、航行を禁止にした。それも邪怪族の策略だったのだろう。

「我々も秘密兵器を用意しました。もう邪怪族の好きにはさせません」

 リックは南の孤島にいるであろう、ダマン・ラーサと邪怪族を睨む。ただ顔色は良くないが、その理由は船酔いでもなく、決戦に対する恐怖でもない。



 艦隊が海上を進む。

 3回朝日を見た後、急に周囲が霧に包まれ始めた。

 霧はどんどん濃くなり、やがて5m先も見えなくなる。

「この霧は……」

 エデは霧に魔力が含まれていることに気が付く。この霧は普通の霧ではない、魔法で生み出された人間を惑わらせる霧。

 霧に巻かれた船乗りが迷うのも当然である。

「エデさん」

 リックに促され、エデはカインに託された球を掲げた。

 周囲を包んでいた濃霧が一人でに動いて穴が開き、通路が形成される。

 最初に旗艦である翔とエデ乗せた船が霧の通路に入り、その後を各国の軍艦が続く。


 濃霧の中に出来た通路を進む艦隊。

 異様に静か、太陽の光も届かず、海鳥一匹の姿さえ見えない。各国から集められた兵士の中には、このまま、永遠に通路が続くのではないかと不安に思う者も現れ始める。

 どのぐらいの時間が経ったのだろうか、唐突に霧は晴れ、孤島の姿が見えた。

「あそこに、ダマン・ラーサがいるんだな」

 無意識に魔導剣の柄を握るエデ。


 艦隊は孤島に着き、続々と各国の兵士たちが降りる。

 船から降りた翔、ここからでも解る、孤島に漂う異様な雰囲気。

 翔の横で背伸びをしているエデ、緊張は見えない、一見は。

 リックに引きつられて旗艦からは全身を甲冑で包み、大きな剣を背負った一団が降りてきた。

 まるで何度も練習したかのように、規則正しく整列し、リックの止まれの声でピタリと立ち止まる。

 迫りくる邪怪族との決戦、どの国の戦士も緊張感と高揚感を持っていた。

「さぁ、行くか!」

 大きな声で一言、エデが前へ歩き出す。

 不思議なことにその一言で緊張が解れ、兵士たちも進み出る。

「僕も行くか」

 気合を入れ、翔も続く。


 全身甲冑の一団を先頭に、各国の兵士たちが孤島を進む。

 中央に大きな山があり、おそらく、そこに件の洞窟があるのだろう。

 足元には背の高い草、あちらこちらに背の低い木が生えている。

 鳥も獣も虫の姿も見えない、生きているのは翔とエデ、リックと各国の兵士たちと草木のみ。

 小一時間程進んだ頃、目前に屍骸とゴブリンの群れが現れた。

 屍骸たちは翔とエデを確認次第、襲い掛かって来る。一部のゴブリンも襲い掛かってきたが、中にはお互い顔を見合わせ、ため息交じりに戦闘に参加するゴブリンも。

 真っ先に動いたのは全身甲冑の一団、背負った大剣を引き抜く。

 大剣は普通の剣ではなかった、刃がチェーンソーになっている。

 全身に甲冑を着こんだ上、チェーンソー大剣を持っているとは思えない素早い動き。

 キュィィィィィィィィィィィンとチェーンソー大剣を唸らせ、屍骸を斬る。

 屍骸たちは手首から出した三刃の鉄の爪で攻撃するが、甲冑に弾かれ全くダメージを与えられない。

 甲冑の一団、この者たちは人間ではない、その名は武形(ぶけい)


 回収した屍骸を解析して手に入れた技術とゴーレムの技術と掛け合わせて作られた武形。

 一国の力だけで作られたのではない、各国から、それぞれの専門家が集結することで完成させた。

 それぞれの国の抱えていた遺恨を乗り越え、生み出された対邪怪族の秘密兵器。


 元から屍骸を倒す目的に作られた武形、数では劣るものの戦闘力では圧倒。

 触発された各国の兵士たちも戦闘に参加、屍骸やゴブリンを斬り捨てる。

「僕たちの出番はないみたいだね」

「ああ、そのようだな」

 翔とエデが参戦すまでもなく、敵が倒されて行く。


 屍骸は全滅、ゴブリンの半数が倒された。残っていたゴブリンは怯え、逃げ出す。

 その様子を黙ってみている翔とエデ。

 後を追うをしようとした兵士が中にはいたが、リックが止めた。下手な追撃は危険を伴う。

 人間の世界を侵略しようとしている邪怪族に対して翔とエデ、リックは違和感を持つ。

 そう言えば辺境の町で戦ったオークも、ハイドの引き連れていたゴブリンも似たような様子を見せていた。


 決戦が待ち構えているであろう孤島での初戦の勝利、兵士たちのテンションは爆上がり。

 ゴブリンの行動に違和感を持っていたリックに、

「素晴らしい成果です、リック王子。武形は大成功、量産が確立すれば邪怪族など敵ではなくなります」

 大喜びで言い寄ってきた側近に対し、

「……そうだな」

 奥歯に物が挟まったような言い方。正直、人間を改造して作られる屍骸を応用することに嫌悪感はあった。

「確かに数を増やせば兵士の犠牲を無くせる――な」

 嫌悪感よりも兵士たちの命を守ることの方が大事。リックが武形を制作に乗り出した最大の理由が、兵士の犠牲を無くすこと。

 勝利の余韻が覚めないまま、各国の兵士たちは山へ向かう。


 山の麓に辿り着くと、そこには洞窟の入り口が開いていた。

 真っ暗で先が全く見えない、この洞窟の奥に炎魔王ダマン・ラーサが待ち構えている。否が応でも兵士たちの中に緊張感と高揚感が蘇る、そこに加わるのは恐怖感。

「さぁ、行くぜ、ダマン・ラーサの野郎をぶっ倒しによ!」

 エデの一言が、今回も兵士たちの恐怖感と緊張感が薄めてくれた。

 全員が洞窟に入る。初めての経験、まるでRPGゲームのクライマックス。そんなことを思ってしまった翔が出遅れ、一番最後に洞窟に入ることに。


 洞窟の中は意外と広かった。武形を先頭に周囲の警戒を怠らずに、奥へ奥へと進む。

 道はなだらかな下り坂になっていて、進むごとに地下に潜っていくことになる。

 敵の襲撃も無いまま、下へ下へ行くほどに気温が高くなっていった。

 武形は勿論、ここに集まったのは猛者ぞろい、これぐらいの気温でへこたれることなどなし。つい翔は胸のボタンを一つ外す。

 急に武形が立ち止まる。そこは大空洞、床からは炎が噴き出し、あちらこちらに炎が舞っている、気温上昇の正体はこれ。

 大空洞の奥には玉座があり、赤いローブを着た真っ赤な髪の筋骨逞しい浅黒い肌の男が座っている。誰もが解った、こいつが炎魔王ダマン・ラーサだと。

 玉座に座るダマン・ラーサの前には、ズラリとリザードマンが立ち並んでいる。

 ダマン・ラーサと戦う前に、リザードマンを倒さなくてはならないようだ。

 今回も一番最初に動いたのは武形。


 衝突する兵士とリザードマン。ここまでくればダマン・ラーサを倒すのみ、ダマン・ラーサを倒せば世界に平和が訪れる。

 勝利への願い、平和への思いが強い分、兵士たちの勢いは強い上、武形までいる。みるみる合間にリザードマンを押していく。

 戦いの最中、翔はリザードマンが怯えていることに気が付いた。怯えている対象は前方ではない、背後、つまりはダマン・ラーサ。

 ダマン・ラーサに脅え、がむしゃらに飛び掛かってきているのだ。

 それに気が付いたからと言って、同情や手加減をしている余裕などないのだが。


 僅かな時間でリザードマンを倒した武形と兵士たち、体力の消耗もほとんどなし。

「ほぅ、ここまで来るだけあって、中々、やるな」

 玉座から立ち上がるダマン・ラーサ。

「焼き尽くせ!」

 両手から激しい炎の魔法をぶっ放す。

 くるりと武形は背中を向け、炎の魔法を受け止めた。

 武形の着ている甲冑は防御強化の魔法が施されていて、武形そのものも人間よりも格段に高い防御力を持っている。

 こうやって武形が盾になっている間に、魔法の使える兵士たちが魔法を放つ。見るからに炎の魔法が通じなさそうなのなので水風雷の魔法を使う。

 魔法に合わせ、銃を持った兵士たちが一斉にぶっ放す。

 武形が盾になり、絶え間ない魔法と銃の遠距離連続攻撃。

「嘗めるな、人間風情が!」

 ダマン・ラーサの周囲で爆発が起こり、武形6体が吹っ飛ばされる。

 武形が盾になってくれたおかげで、各国の兵士たちはノーダメージ。

「身の程を教えてやる」

 赤いローブを脱ぎ捨て筋肉ムキムキの上半身をさらけ出し、兵士たちに襲い掛かってきた。

 ダマン・ラーサの拳が炎に包まれる。殴ると同時に炎の攻撃を叩き込む。

 咄嗟に魔法と銃使いの兵士たちが下がり、代りに槍を構えた兵士たちが前に出る。

 ダマン・ラーサを四方八方から、槍で突く。

 何本かの槍は防御されてしまうが、何本かの槍は突き刺さるが致命傷にはならず。

「こんなものか人間ども」

 ダマン・ラーサは倒れず、笑いながら槍を圧し折り、炎の拳で殴り掛かる。

 慌てて退く槍兵たち。

 魔法と銃の遠隔攻撃で、退く時間を稼ぐ。

「ちょこちょこ逃げ回りやがって、これでケリをつけてやる」

 ダマン・ラーサは高熱の炎を全身に纏い、それを一気に放とうとした。真面に食らえば、例え鎧を着こんでいても、黒焦げになってしまう。

 倒れていた武形6体が起き上がり、纏う炎に焼かれながらもダマン・ラーサに張り付く。

「みんな、伏せるんだ」

 リックの号令、前もって聞かされていたこともあり、各国の兵士たちは、その場に伏せた。

 武形6体が連続して爆発、ただの爆発ではない大爆発。

 ダマン・ラーサを爆風と爆炎が覆いつくす。

 各国の軍師が集まり、対ダマン・ラーサの戦略を練りに練ったのである。

 その結果がこれ。


 床に転がる武形の破片と、裂傷を全身に負ったダマン・ラーサが倒れている。

「やった、人間の勝利だ!」

 飛び上がって喜ぶリックの側近。兵士たちも国の枠組みを超え、喜び合う。

 翔とエデ、リックだけは警戒を怠ることなく、倒れているダマン・ラーサを見ていた。

 ふらふらになりながらも起き上がるダマン・ラーサ、

「まさか、人間風情がここのでやるとはな。いいだろう、見せてやる! 我の真の姿をおぉぉぉぉっ!」

 周囲を舞っていた炎がダマン・ラーサに吸収されていき、その体を燃え上がらせた。

 燃え上がる炎の体は膨れ上がりながら形を変えていき、炎が消えた時、そこに立っていたのは赤い鱗を持つ、巨大なドラゴン。


 大きく口を開くダマン・ラーサ。ドラゴンが口を開くと何が起こるのか解った。魔法の使える兵士たちが前に飛び出し、魔法の盾を張った。

 残っていた武形も盾になるべく、前に立つ。

 吐かれる灼熱のブレス、武形も魔法の盾では完全に受け止めきれず魔法の使える兵士たちが黒焦げになる。

 それでも武形と魔法の使える兵士たちの犠牲のお陰で、他の兵士たちに被害が出ずに済む。

 ダマン・ラーサが前足を振るう。ふっ飛ばされた兵士たちが壁や床に叩きつけられ、二度と動かなくなる。

「ひぃぃぃぃ」

 側近が失禁。

「撤退するぞ」

 リックの判断は早かった。ドラゴンになったダマン・ラーサに勝てる見込みは無い、残された選択は逃げるのみ。

 ダマン・ラーサは誰一人として逃がすつもりなど無い。口を大きく開き、ブレスを吐こうとした。もう盾となる武形も魔法の使える兵士たちもいない、食らえば全滅は確実。

 ダマン・ラーサの顔面を気の砲弾が直撃。

 気の砲弾は今にも吐かれようとしたブレスを打ち消し、ダマン・ラーサの巨体を仰け反らせる。

 大きくジャンプ、氷の魔法を発動した魔導剣でエデがダマン・ラーサを斬りつける。

 着地したエデは目で合図。

 その意図を受け取ったリックは、

「すまない」

 一声謝って、各国の兵士たちを引き連れ洞窟から撤退。

 翔とエデは逃げる選択はせず、最後まで戦う覚悟を決めた。また兵士たちの逃げる時間稼ぎにもなる。


「お前たちだな、ベカケノとハイド・イウンを殺したのは」

 翔とエデを見下ろす、見下すように。

 何も答えない翔とエデ、沈黙が肯定の証。

 婚約者を改造した仇を目の前に、魔導剣を握る手に力が入る。

「ここで貴様らを亡き者とし、人間の希望を絶つてくれよう!」

 灼熱のブレスを吐く。

 翔とエデ、同時に左右に飛ぶことで灼熱のブレスを躱す。

 気温が上昇、エデの額に汗が流れた。

 体を回転させ、尻尾でエデを叩き潰そうとする。

 この攻撃は予想通り、難なく躱して反撃。

 エデの攻撃も読まれ、当たらない。

「嘗めた真似を」

 大きな足を振り上げ、エデを踏み潰そうとした。

「はっ!」

 迫りくる足の裏を魔導剣で切り裂く。

 2、3歩下がり、呻いたダマン・ラーサに向け、翔が気の砲弾を何発も撃ち込む。

 ダマン・ラーサの巨体が倒れる。

 倒せたとは翔もエデも思ってはいない、そんな甘い相手ではないダマン・ラーサは。

 案の定、倒れたままの体制で灼熱のブレスを放射線上に吐く。

 真横に飛んでエデは躱したが、逃げ遅れた翔を灼熱のブレスが直撃。


 灼熱のブレスは一瞬で翔を黒焦げにした。防御強化の魔法の施されたレザーアーマーも着ていたのに。

 ガソリンの炎など、比べ物にならない程の超高温。外側だけでなく、鼻と口の呼吸器を通って体の内部も焼かれる。

 その苦痛、一瞬にして全身を貫く。


「ハッハハハハハハハハハッ、所詮、人間はこの程度よ」

 勝ちを誇ってダマン・ラーサは起き上がり大笑い。

「次は貴様の番だぁっ」

 エデに向き直り、灼熱のブレスを吐こうとする。

 起き上がる翔、焼け焦げたはずの身体に火傷の形跡すらなし。灼熱のブレスの名残は焼けて殆ど無くなったレザーアーマーと衣服、つまり、全裸に近い状態。

「バ、馬鹿なぁっ! 何故、生きているのだぁ!」

 驚きながらも灼熱のブレスを吐いた。

 今度も直撃。だが翔の体は全く焼けることなく、何のダメージを受けてはいない。

「!」

 驚愕するダマン・ラーサに翔はジャンプして、氷の魔法と気を巡らせた魔導剣を首目掛けて斬りかかる。

 ダマン・ラーサの背後からエデもジャンプ、氷の魔法を発動した魔導剣を首目掛けて振るった。

 前後から挟み撃ちにする形、

「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 翔、エデ両者共、力を籠めダマン・ラーサの首に魔導剣をめり込ませ、斬っていく。

 ダマン・ラーサは翔とエデを叩き落とそうとしたが、2本の魔導剣が交差し首を切断する方が早い。

 ダマン・ラーサの首が落ちる、殆ど同時に翔とエデは着地。ダマン・ラーサの体がゆらり揺らぎ倒れる。

 翔もエデも勝利の宣言はしなかった。エデは着ていたマントを外し、翔に渡す。その顔は少し赤い。


 洞窟の外で待っているリックと各国の兵士たち。

 果たして洞窟から翔とエデは無事に出てくるのか? 待っているだけでも期待と不安をごっちゃ混ぜ、1分が一時間にも感じる。

 洞窟から翔とエデが出てきた。2人の無事な姿を見た側近と各国の兵士たちは飛び上がって歓声を上げた。

「ダマン・ラーサを倒したのですね」

 問いかけてきたリックにエデは頷く。他の者たちのように飛び上がって喜びはしなかったが、それでも喜びを抑えることは出来ない。

「ダマン・ラーサとの戦いで翔の服がボロボロになってしまった。何か代わりの服を持ってきてくれないか」

 エデのマントを羽織って恥ずかしそうにしている翔。

 すぐさま、リックは兵士に服を用意させた。


 確認のため、翔とエデを先頭に洞窟に戻ったリックと各国の戦士たち。

 大広間までくると、吹き出していた炎も周囲を舞っていた炎も無い、気温も下がっている。

 何よりもリックと各国の戦士たちの目を引き付けたのは、首を斬られて倒れているドラゴンの姿のダマン・ラーサ。

 本当にダマン・ラーサを倒した。聞いただけでもあれ程に喜んだ各国の戦士たち、今、目の前でダマン・ラーサを倒したのは確実な真実だと認識。

 先ほど以上に大喜び、国々の諍いや蟠りを越え、抱き合い人類の勝利を噛み締める。

 リックは天井を見上げた。

『父上、やりました』

 黙祷。

「やったな、翔」

「わあっ」

 いきなりエデに抱きしめられ、驚いた翔の顔は真っ赤っか。

【ハッハハハ】

 皆が喜ぶ中、空気の読めない不気味な笑い声が聞こえてきた。

 一体、誰がこんな不気味な笑い声を出しているのか、笑い声に気が付いた者たちが辺りをキョロキョロ。

 しかし、笑っている人など見当たらない。

【ハッハハハハハハ、我が部下の1人、ダマン・ラーサを倒すとは中々やるではないか、人間共よ】

 今度は全員が理解できた。誰がしゃべっているのではない、空間、そのものから声が聞こえているのだ。

 全員が気になったのは“我が部下の1人、ダマン・ラーサ”のセリフ。

「お前は誰なんだ?」

 代表してエデが問う。

【我が名は邪怪魔帝王ベルトラーター・ツペシュ・フーン。邪怪族を束ねる者である】

 “我が部下の1人、ダマン・ラーサ”“邪怪族を束ねる者である”このセリの意味することは……。

「ダ、ダマン・ラーサが邪怪族の支配者じゃないのか!」

 ややヒステリックに側近が叫ぶ。

【ダマン・ラーサは我の部下の1人に過ぎぬ。人間世界を支配するため、送り込んだのだが、まさか倒されるとはな。我としたことが人間を甘く見ていたわ】

 やっと、やっとダマン・ラーサを倒して平和を勝ち取ったと思っていたのに、部下の1人に過ぎ無かったとは、絶望感が各国の兵士たちに広がっていく。側近は死人のような顔色になっている。

【真の平和が欲しいのなら、我を倒しに邪怪魔界来るがいい。入り口は玉座の裏にある】

 自然に翔とエデの視線が玉座の方を向く。

【楽しみにして待っているぞ、ハッハハハハハハ】


 孤島へ来るときは決戦に対する高揚感と闘志を漲らせていた各国の兵士たちも、帰る時には邪怪魔帝王ベルトラーターの存在を知り、肩を落としていた。

 帰還する部隊の中に翔とエデの姿は無い。

「行くのですね、邪怪魔界に」

 リックに頷くエデ。

「ああ、私の戦いは終わっていないからな」

 邪怪炎魔王ダマン・ラーサを倒せば終わると思っていた戦い、だか、さらにの上の存在がいた。ならば邪怪魔帝王ベルトラーター・ツペシュ・フーンを倒さない限り、エデの戦いは終わらない、

 翔も頷く。もし、この世界に来たことに意味があるなら、このことかもしれない。

「私も体制が整い次第、後を追います」

 各国の兵士のようにリックは落ち込んではおらず、むしろ意識を強くしていた。

 艦隊が見えなくなるまで翔とエデは見送る。


 玉座の裏に隠れるように、扉があった。これがベルトラーターの言った邪怪魔界への入り口。

 翔とエデはお互い顔を見合わせ、意識を確かめ合う。

 2人の意識は変わらない。

 一歩前にエデは扉の前に、この先は邪怪族世界、完全な敵陣の真っ只中。

 それでも、ここで引き返すなんて選択肢は2人の中にはない。

 力強くエデは扉を開いた。







 ちょっと、ドラゴンクエストをイメージしました。

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