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僕は殺されれば殺されるほど、強くなる  作者: 三毛猫乃観魂


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第四章 地下水路

 翔くんの初めてのダンジョン。

 ゾナアマス国の地下に広がる水路、ランプを持つ案内人を先頭に翔とエデは進む。

 地下水路に入ったのは翔とエデの他、雇われた案内人と、リックに選抜された2人の衛兵。

 流れる水の音、天井から落ちてくる水滴が足音と重なる。この先、戦闘が待ち構えていると言うことで高揚感を翔は持っていた。

 何度か遊んだことのあるRPG、それを実体験しているような感覚。

 雰囲気的に言えば物陰からスライムが出てきたり、水の中からサハギンが飛び出してきそうなんだけど、一向にモンスターは出てこず、みんな言葉を交わすことも無く、地下水路を進んで行く。

 複雑に入り組んだ地下水路、まるでどころか迷路そのもの。地図が無かったら、確実に迷子になっていただろう。

 地図作成には、相当苦労したことが窺い知れる。そんな苦労を厭わないリック王子の覚悟。

 ギッギギギッと不気味な音が暗闇の向こうから聞こえてきた。

 案内人がランプの明かりを向けた先に見えたものは、土色の顔をした人たち。

「屍骸だ……」

 衛兵の1人が呟く。

「あれが屍骸」

 改めて翔は土色の顔をした人たち、屍骸を見る。

 “処刑された方が、どれだけマシだったか”の屍骸。

 口を開くと頬まで裂け、歯は鮫の歯のそのもので金属製。

 両手首が真っ二つに割れ、三枚並んだ鋭い剣が出てくる、それはまるで爪のよう。


 人間を改造し、作られる屍骸。

 勿論、自我意識など無い、動く死体であり、戦闘用の自動人形にすぎない。

 それが屍骸。

 邪怪族は侵略すべき人間で先兵の数を増やしているのだ。


 襲い掛かって来る屍骸たち。

「ヒッ」

 悲鳴をあげ、案内人は後ろへ下がった。

 いの一番に動いたのは2人の衛兵。腰の剣を抜き、斬りかかる。

 剣と鉄の爪がぶつかり、金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。

 遅れながらも翔とエデも魔導剣を抜き、参戦。

 力任せに2人の衛兵は屍骸を突き飛ばし、叩き切る。

 エデは難なく鉄の爪の攻撃を躱し、斬り捨てた。

「わぁっ」

 身を低くして翔は、何とか鉄の爪を躱すことが出来た。目の前にあるのはがら空きの屍骸の胴。

「てあっ」

 ほぼやけくそ状態で斬った。

 盗賊を斬った時とは違う感触、血も流れず、代りにドロッとした黒い液体が流れ落ちる。

 残っていた屍骸の鉄の爪が手首から回転。中には首が伸び、金属製の歯をカチカチ鳴らす。

 足の関節があり得ない方向に曲がったか思うと、ピョンとジャンプして襲い掛かってきた。

 エデと衛兵2人は躱し、カウンターで斬る。辛うじて翔は躱す。

 盗賊たちとは違い、喜怒哀楽の無い相手、それは人形と同じ。

 決意をため、翔は斬りかかる。


 屍骸には痛みを感じない、感情も無い。多少のダメージを受けても倒れない、仲間が倒されても怯むことなく、がむしゃらに攻撃を続ける。

 その反面、知性が無いために臨機応変な行動が出来ず、手慣れた武人ならば簡単に行動を読むことが出来る。

 エデも衛兵2人もベテラン。本来、翔は素人ではあるが身に着けた能力のお陰で、十分に戦うことが出来た。


 襲い掛かってきた屍骸を片付けた一行、みんなが先へ進もうとする中、翔だけが残り、目を閉じて黙祷。

「何をしているんだ、翔」

「あっ、今行く」

 遅れないように、エデたちの後を追う。


 やがて赤い丸を付けられた場所の前まで来た、目の前にはドアがある。

 開ける前から、翔もエデも衛兵2人も感じていた、只ならぬ気配を。

 みんなの様子で状況を察した案内人が震えている。

「お前は帰っていいぞ」

 1人の衛兵に言われ、走り去っていく案内人。

 道は覚えているし、予備の地図とランプもある。この先は、案内人の仕事ではない。

 衛兵がドアノブを掴み、ドアを開けた。


 そこは地下にあるにしては、かなり大きな部屋で、地下水路建設時には無かった。

 部屋の奥に白い外套を着た男が椅子に座っていた。青白い肌、やや高めの身長で太ってもいない痩せてもいない体型。

 翔にも解る、放つオーラが人間の物ではないと、これが只なるぬ気配の発生源。

「……ベカケノ」

 衛兵の1人が呟きながらも、しっかりと構えている。

「来たのか、人間ども」

 ゆっくりと白い外套を着た男、ベカケノが椅子から立ち上がる。次の瞬間、剣を構えた衛兵が吹っ飛ぶ、一息で間合いを詰められ、肘打ちを食らったと気が付ないままに。

「このっ!」

 仲間がやられた衛兵は斬りかかった剣はベカケノの左拳で弾かれ、右掌打を叩き込まれる。

 その場で蹲り、衛兵は倒れる。

「本命はお前たちだな」

 ジロリ、ベカケノは翔とエデを睨む。

 ほんの少し翔はビクッと来たが、平然とエデは睨み返す。

「魔気孔使いか」

 微かにベカケノは頷く。


 魔力と気を融合させた武術。

 その戦闘力は凄まじいが、魔力と気を融合は難しく、下手をすれば修行中に体を壊し、命を落とすこともある

 したがって、魔気孔は机上の空論に過ぎず、会得は不可能だと言われていたのに……。


「流石は邪怪族、最強の将軍と呼ばれるだけはあるな」

 エデに恐れた様子など、微塵も無し。

 ハアァァァァァァァッ息を吐くと同時に、ベカケノは掌打を打ち込む。

 掌打を躱し、お返しとばかりに斬りかかる。

 エデの一撃を素手で掴んで止めるが、魔導剣を折ることまでは出来ず。

 エデとベカケノはお互い後ろへ飛んで、距離を取る。

 チラッとエデは翔を見つめる。

 それだけでエデの意図が解った翔は頷く。

 魔導剣に炎の魔法を注ぎ込み、連続斬り。踊りを舞うような仕草で全てを躱す。

 攻撃が途絶えた一瞬を狙い、体重を乗せた拳を打ち出す。

 踏ん張ったベカケノの足元の床が割れる。

「ハッ!」

 とっさに振り下ろした魔導剣を盾代わりに受け止める。もし普通の剣だったら、折れていたこと間違いなし。

 がら空きになったベカケノの背後を狙って、翔が銃で撃とうとする。

「甘い!」

 振り返ると気の砲弾を放つ。

 気の砲弾は翔を直撃。


 気の砲弾を食らった痛みも苦しみも感じる余裕なんかなかった。翔の体は内側から破裂、骨、内臓、体の内部を徹底的に破壊されてしまう。

 気の砲弾は相手の体内で爆発、内部から破壊する技。

 目、鼻、耳から血を流し、

「がはっ」

 大量の血を吐き出して倒れた。


「?」

 仲間が死んだと言うのに、悲しむ様子も慌てる様子も見せないエデに違和感を覚えながらも、その程度の仲だっだのだろうと判断したベカケノは判断、練った気の攻撃を繰り出そうとした。

 むっくりと立ち上がった翔、

「何だと!」

 ベカケノに向け、気の砲弾を放つ。

 ベカケノにしてみれば気の砲弾の直撃を食らって起き上がっただけでも驚くべきことなのに、気の砲弾を放ったのは驚愕を越えること。

 何10年も過酷な修行して、ベカケノは魔気孔を身に着けたのに。

 なのに平然と翔は気の砲弾を使った。

 それでも邪怪族、最強の将軍と呼ばれただけあり、咄嗟にさっき練った気を防御に変換、気の砲弾を受け止めた。

 この時、生まれた好機を見逃すエデではない、魔法を充填させた魔導剣で斬りかかった。

 身を反らすことで致命傷を受けることは避けたものの、気を練っていなかった左腕を肩から切り落とされる。

「ぐあつ」

 咄嗟に翔とエデから、距離を取ったのは流石と言うべきか。

 右手で傷口を押さえて出血を止めながら、ベカケノは翔とエデを交互に見る。

「おのれ……人間の分際で……」

 それからの判断は速かった。不利を悟り、逃げ出したベカケノは椅子の後ろの壁に体当たり、壁はくるりと回り、その中に姿を消す。

 すぐさま、後を追う翔とエデ。


 椅子の後ろにあった隠し部屋、ベカケノの姿は見えない。

 部屋の壁には、ミイラ化した遺体が寄りかかっていた。

 絢爛なローブを纏い、着ている服も高貴なもの。

 ミイラの足元に落ちていた剣をエデは拾う。

 煌びやかな宝飾をされていながらも、成金趣味は感じさせない。

「この紋章は……」

 エデの目が鞘に標された紋章で止まる。

 翔にも見覚えのある紋章。リック王子の持っていた短剣の紋章と同じもの。

 だとすれば、このミイラは……。

「なるほどね、突然、ギュスターヴ王が変貌した理由がこれなんだな」

 つんつんと、翔がエデをつつく。

「エデさん」

 翔の指さす先にあるのは通路。



     ☆



 王の間を目指し、リックは20人の衛兵を引き連れて廊下を進む。

 リックの顔には迷いは無く、それが衛兵の士気を高める。

 護衛の兵士が王の間の前に控えてはいたが、数の差、何よりもリックの連れている衛兵は手練れぞろい。あっさり、護衛の兵士は武器を捨てて降伏。

 傍にいる分、護衛の兵士もギュスターヴの変貌に思うところがあった様子。

 扉を開き、リックと衛兵は王の間に雪崩れ込む。

 天蓋付きのベット。ベールがかかっているが中にギュスターヴの影が見える。

 衛兵が天蓋付きのベットを取り囲む。

「何用だ、リックよ」

 聞きなれた父王の声。弱々しくなっているが、容赦はしない。

「父上には王位を退いてもらいます。命までは奪いません、大人しく、従ってください」

 実の父親を更迭する罪の意識はある。しかし、リックには罪の意識を上回る覚悟があった。

「それで儂に勝ったつもりか」

 シルエットが動き、ベルをリーンリーンと鳴らす。

 すると、王の間の奥から、武装したゴブリンの群れが現れた。

 何でこんなところに魔物がと思うよりも早く、衛兵たちが動く。

 武装したゴブリンは手強い。しかし、これまで衛兵たちは人類の代表として前線に立ち、数多くの魔物と戦ってきた猛者中の猛者、瞬く間に武装したゴブリンを全滅させた。

「父上、これは一体……」

 リックの問いの答えは、リーンリーンと新たなベルの音であった。

 今度、現れた魔物は一体。長身にムキムキの筋肉、額には一本の角、手に持っているのは大きくて太い金棒。

 オーガ、魔物の中でも強敵の部類に入る。

 金棒を振り回し、オーガは襲い掛かっ来た。

 衛兵たちも交戦状態に入るが、がむしゃらに攻撃してくるオーガの前に防戦一方になり、攻撃するチャンスがない。

 このままではじり貧状態になってしまうと思われた矢先、突如、オーガが仰け反り、倒れた。

 何が起こったのか、すぐに答えが解る。

 王の間に翔とエデの姿があった。オーガを倒したのは翔の気の砲弾。

「エデさん、翔さん、どうしてここへ」

 翔とエデは地下水路でベカケノと戦っているはず。

「そこにいるギュスターヴ王は偽物、証拠はこれだ」

 エデは隠し部屋で見つけた剣をリックに手渡す。

「それは父上の剣」

 手渡された剣をしっかり見る。それは自分の持つ短剣が王子の証であるように、父親の持つ剣が王の証。

「本物の王様は地下水路で亡くなっていました」

 翔が告げる。隠し部屋にいたミイラこそ、本物のギュスターヴ王。

 地下水路の隠し通路をベカケノを追って来たら、王の間に繋がっていた。

 リックと衛兵たちの視線が、ベールのかかった天蓋付きのベットに集中する。

 躊躇いはあった、それでもリックはベールを掴み、一気に引く。

「何をしておる、リックよ」

「父上」

 ベットの上にはギュスターヴ王が腰を掛けていた、その顔は青白い。

 ちゃんと、ギュスターヴ王はいる。翔とエデがデタラメを言ったのか、そう思われた時。

 強引にエデがギュスターヴ王のローブを剥ぎ取る。

 王の間にいる皆が見た、ギュスターヴ王の左腕が肩から無いのを。

「そいつはベカケノだ!」

 翔に正体を暴露された。

「バレたかぁっ」

 皆の見ている前でギュスターヴ王の姿がベカケノへと変貌する。

「父上……」

 父親であるギュスターヴ王は人類を裏切ったわけではなかった。全てはベカケノの仕業、父親を疑った自らの不甲斐なさ、父を失った悲しみにリックは涙を流す。

 一番最初に動いたのは衛兵たち、持っていた槍を構え、一斉に攻撃。

「なめるなっ!」

 ハアッと気合を発し、右手を振った。そこから放たれた気が衛兵たちを吹っ飛ばす。

 切り落とされた左腕は気を巡らせることで傷口を塞ぎ血を止めている。しかし、左腕を失ったこと、失った血の量が気の攻撃を弱らせていた。

 本来の状態なら生きていなかった衛兵たちが、ふらつきながら立ち上がる。

 それでもダメージは少なくなく、すぐに行動が出来ない。

「人間が、大人しく騙されてばいいものを」

 更なる気の攻撃を繰り出そうとした時、翔とエデが同時に動く。

 ベカケノが攻撃の相手を変えようとしたが間に合わず、エデの魔導剣が突き刺さり、炎の魔法が炸裂。

 追撃とばかり、翔が氷の魔法を発動させた魔導剣で斬りかかり、覚えて間もない気もを叩き込む。

「父上の仇!」

 怒りと悲しみの叫びとともに、リックが形見の剣を抜き放ち、ベカケノを背中から貫いた。

 反撃をしようとしたが力が入らず、ベカケノは倒れ動かくなる、二度と。



 翌日、ゾナアマス国の大広場に老若男女問わず民衆が集められた。

 何が起こるのか、民衆がガヤガヤ騒ぎ始めた頃、大広場の高台に衛兵たちを引き連れたリック王子が現れた。

 衛兵の中には翔とエデの姿も。

「先日、我が父、ギュスターヴ王が崩御なされた。まずは黙祷を」

 ギュスターヴ王の訃報が告げられ、リック、衛兵たち、翔とエデ、民衆がしばしの黙祷に入る。

「しかし、同日、邪怪族、最強の将軍と言われたベカケノが討ちとられた」

 主君を失った悲しみと同時にベカケノが討ちれたという喜びも、民衆に広まっていく。

「私私はここに誓う! 世界に父上に国民に、全ての力を費やし、邪怪族と戦い、必ず炎魔王ダマン・ラーサを倒すことを!」

 堂々とした演説は民衆の心を打つ。衛兵たちと翔とエデが拳を上げ、勝利を誓う勝どきを上げる。

 瞬く間に勝どきは民衆の間に広まっていった。

 この演説は見せかけの物ではない、リックの本心から出たもの。



 新たなゾナアマス国の王となったリックの呼びかけにより、改めて各国が対邪怪族で足並みをそろえることに。

 また、ある計画をリックは提案、各国から選りすぐりの専門家が集められ、計画を実行に移す。



     ☆



 ただ広い空洞。床のところどころからは炎が噴き出し、宙を炎が舞う。

 その空洞の奥、玉座に腰を掛ける炎のような真っ赤な髪と目、筋骨逞しい浅黒い肌に赤いローブを纏った男。

「ベカケノがやられたのか――」

 子供が見たら泣きそうな怖い顔を顰める。

 この男こそ、邪怪族を率いて人間の世界を征服しようとしている邪怪炎魔王ダマン・ラーサ。

「ハイド・イウンを呼べ!」

 雷のような声が響き渡り、宙を舞う炎が渦巻く。


 やがて禍々しい漆黒の鎧に、目も鼻も口も付いていないのっぺらぼうの仮面を被った男がダマン・ラーサの前に現れた。

 大柄な体ではあるが左右の手足の長さなど、何かバランスがおかしい。

「来たか、ハイド・イウンよ」

 のっぺらぼうの仮面を被った男、ハイド・イウン。

「ベカケノを倒した人間を殺せ、それも見せしめに惨たらしく」

 ほんの少しの間を置き、ハイドは深々と頭を下げることで了承を示す。




 強敵を倒したら、新たな強敵の登場。お約束のような気が……。

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