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僕は殺されれば殺されるほど、強くなる  作者: 三毛猫乃観魂


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第二章 異世界へ、ようこそ

 異世界編の始まり。

 出だしはほぼ、プロローグと同じになっております。

 縛られて動けない翔。

 岳人は泣きながら、火の着いた煙草を投げる。

 床に落ちた煙草が撒かれたガソリンに引火、たちまち炎は家全体に広がり、翔を家族を包み込む。

 泰道に対する恨みつらみは確かにあった。だが、強く感じたのは父親の浩平のこと、母親の幸恵、妹の友香のこと、告白された佐和子のこと、泣く岳人、無二の親友の辛い思い。

 燃え上がる業火に身を焼かれ、死が間近に迫った時、翔は思った、強く思い、強く願った。

 恨みつらみ、それ以上の家族への思い、佐和子への思い、親友に対する思いが願わせた“死にたくない”と。



     ☆



 ハッと翔が気が付くと、今までいたはずの燃え上がる家の中ではなく、荒涼とした大地のど真ん中にいた。

 物心着く前から住んでいた家も無ければ慣れ親しんだ町も無く、代わりに広がるのは見たこともない風景。

「父さんは母さんは友香は」

 何故、ここは何処と疑問を持つよりも、家族のことに思いがいたる。どこを見渡しても父親の姿も母親の姿も妹の姿も見当たらない。

 次に自分の体が無傷なことに気が付く、体のどこにも火傷の跡もなければ痛みもない、ところどころ焼け焦げたパジャマが炎の中にいたことを教えてくれる。

「どうして、僕は死んだんじゃないの……」

 でも生きている、ピンピンしている。

 周囲を見渡し、もしかしたら死後の世界なのかと思い始めた時、下卑た笑い声が聞こえてきた。

 某世紀末を舞台にした漫画、もう世紀末は過ぎてしまったけど、その漫画に出てくる雑魚敵のような男2人に取り囲まれる。

「可愛い女の子がいるぜ」

「俺たちと楽しいことしようぜ」

 いやらしさ丸出しで舌なめずり。

 女の子に間違えられるのはよくあること、僕は男だと言う前に。

「うん?」

 1人が敗れた翔のパジャマに気が付く、そこにあるのは平らな胸。

「何だよ、こいつ、男じゃねぇか」

 男の子であることに気づいてもらえた。これで貞操の危機が去ったかと思ったのに。

「まぁ、これだけ可愛けりゃ、男でもいいか」

 予想以上のゲスだった。

 近づいてくる男たち、身の危険を感じた翔は、とっさに近くにあった石を拾い上げ、投げる。

「うげぇ!」

 石はクリーンヒット、抑えた男の額から流れ落ちる血。

「このガキがぁぁっ!」

 流れ落ちた血とは別の血が男の頭に上り、剣を抜く。

 逃げる間なんか無かった、右肩から脇まで切り裂かれ、炎とは違った熱い痛みと吹き出す血を感じながら、翔は思った。

『やっぱり、僕は死ぬんだ……』

 それでも“死にたくない”と強く思う。


 薄れていく意識が急に回復、同時に斬られた熱い痛みが薄れ消えていく。

 立ち上がる翔、斬られた傷は跡形もなく消えている。まるで斬られたのが夢であったかのように。

 だが、切り裂かれ血に染まったパジャマが斬られたことが現実だったと教えてくれる。

「こ、こいつ、何で生きてんだよ」

 確かに斬ったはずの翔が、何事なかったように立ち上がったことに怯え、男は再び剣を振り下ろす。

 剣は肩の所で止まった。何度も何度も剣を振り下ろしても肩の所で止まり、斬れない。

 一度、斬られた時にはあれ程に痛かったのに2度め以降は斬れることもなく、痛くも痒くもなし、例えるなら、羽毛で叩かれたよう。

 一歩、前に進むと、ヒッと悲鳴を漏らし、男は反射的に後方へ飛びのいた。この際、持っていた剣を落としてしまう。

 何気なく、剣を拾った途端、翔には解った剣の使い方が。一度たりとも修練を積んだところか、創作物でしか見たことないのに、剣の使い方が解ったのだ。

 踏み込み、飛びのいた男を斬る。いくら何でも殺すことは躊躇われたので、寸止め、着ている衣服だけを切り裂く。

 腰を抜かしてしまう男。

 初めて剣を使ったのに、こんなことまで出来てしまう。

 ぱぁん、空気が鳴る音。剣で斬られた時とは違う熱い痛みが翔の左胸の下に生まれる。

 もう1人の雑魚敵男の手には銃、リボルバーが握られていて、銃口から上がる煙。

 ぱぁんぱぁんぱぁんと立て続けに銃声が鳴り、翔の体に何発もの鉛の弾丸がめり込み、撃たれたと自覚すると同時に倒れ、意識を失う。


 ヘラヘラしながら男は近づき、倒れている翔に銃口を向けた。

 いきなり、翔の目が開き、起き上がる。銃創から弾が飛び出し、見る見るうちに治っていく。

「ひゃっ」

 悲鳴を上げ、残っていた弾を全て撃ち込むが、パジャマに穴を開けるだけで、弾は(はじ)かれ地面に転がる。

 撃たれた翔も初めての時とは違い、痛みは全然無し。

 雑魚敵のような男2人は情けない声を上げ、逃げ出す。

 ふらりとマントを翻して勇ましさが溢れ出ている女性が現れ、片刃の剣で1人を斬り、もう1人は峰打ちで意識を奪う。

 できるだけ怯えさせないように、剣を鞘に収め笑顔で歩み寄って来る。

「オイ、大丈夫か、お嬢さ――」

 お嬢さんと言いかけたところで、気が付く。

「君、男の子なのか?」

 頷く翔。


「私はエデ・アテニャン、魔導剣士だ」

 とりあえず翔は勇ましさが溢れ出ている女性、エデが張ったテントに移動している。

 気絶させた雑魚敵のような男はロープで縛り上げ、テントの外に転がしておく。

「これに着替えるといい」

 大きな皮の袋から服を出して渡す。女物ではなく、動きやすい男女兼用の丈夫な布で作られた服。

 今、翔の着ているのはパジャマであり、もうボロボロ。これでは真面に出歩けない、ありがたく布の服を受け取る。

「君は誰なんだ? 何で、あんな格好であそこにいた。浚われてきたとは違うようだしな」

 着替え終えた翔に問う。

 少し迷ったが、

「僕は桃崎翔」

「モモモサキ・ショウ、変わった名前だな」

 ありのままを話すことにする。この人には話すべきだ、直感でそう思った。ただし、家族共に殺されたことは伏せた。何となく、それがいいと思ったし、翔自身、心の奥底に押し込めておきたかったから。



「異世界から来たって……、それは面白い話じゃないか」

 それが話を聞き終えたエデの感想。

「信じてくれるんですか……」

 もし自分の目の前に見知らぬ人物が現れ、『私は異世界から来ました』と言われても、にわかなは信じらないだろう。

「お前さんが嘘を吐くように見えないんでね、これでも私は自分の人を見る目には自信があるんだ」

 エデの翔を見る目が品定めをするようなものになる。

「今、この世界は邪怪族率いる、邪怪炎魔王ダマン・ラーサの侵攻を受けているんだ。そんな最中、異世界から君が現れた。私にはこれが偶然たと、思えないんだよ」

 そんなことを言われても、この世界に来るまでは、ただの高校生だったのだから。

「僕は――」

 言いかけたのをエデは片手で制す。

「言っただろ、私は自分の人を見る目には自信があるってな」

 にんまり笑顔の後、急に表情を引き締める。

「私は邪怪炎魔王ダマン・ラーサを倒すため、出奔した。あいつは――」

 唐突に話を区切る。何か悲しそうな表情をしたが、表情を戻し話を続ける。

「だが、私一人では勝てないだろう。だからこそ、相棒を探していたんだ。そこに君、翔が現れた」

 エデの目は至って真剣、冗談を言っているものの眼差しではない。

 まだ翔が迷いを見せていると、

「ならば試してみようじゃないか」

 立ち上がるエデ。

「先程、捉えた盗賊はここら辺を荒らしている連中でね、私はその討伐の依頼を受けているんだ」

 まるで長年の親友に見せるような笑顔を見せる。


 生け捕りにした盗賊をエデがどうやってアジトの場所を聞きたしたのか、その後、どうなったのかは翔は知らないし、知らない方がいいだろう。


 山間にある廃墟、外観からして建設当初は立派な建物だっただろうが、今は見る影もない、ここが盗賊のアジト。

 木の陰でアジトの様子を見ている翔とエデ。翔が持っているのは剣は、盗賊の持っていたもの。

「何か幽霊が出そうな雰囲気だ」

 よくネットで出てくるような心霊スポット丸出しの廃墟。これなら、異世界の人も近づきたいとは思わないはず。

「ここに間違いないようだな」

 幽霊がどうのこうのなど興味なし、エデの目は廃墟にたむろする盗賊たちを捉えていた。

「行くぞ」

 作戦なんか何にもなし、そのまま殴り込む。

「あっ、待って」

 慌てて翔も後を追う。


 この廃墟を根城にしている盗賊団は、略奪虐殺強姦はお手の物の凶悪極まりない連中だと翔は聞かされている。だからこそ、エデもこの仕事を引き受けたのだ。

 廃墟に殴り込むなり、そこにいた盗賊をエデは片刃の剣で斬り捨てる。エデの技はただ斬るだけではない、斬ると同時に刀身に魔法を発動させ、斬ると魔法のダメージを与える、魔導剣。

 この時、発動させた魔法は雷、斬ると同時に雷撃を叩きこむ。

「うぁっ」

 翔は声を漏らしてしまったのはエデに対してではない、壁や床に飛び散った血の形跡。1人や2人なんて人数ではない、何10人の血の跡。

 翔でもここで何が行われたのか解る、一体、ここでどれだけの人の命が奪われたのだろうか。本当にここに巣くっている連中は外道中の外道。

 剣を振り上げた盗賊が翔に襲い掛かってきた。

 斬られる前に斬れ、翔も剣を振ろうとしたが、一瞬、人を斬ることを躊躇ってしまう。

 だが相手は外道な盗賊、躊躇せず、問答無用で翔を斬りつける。

「なっ!」

 剣は翔の肩で止まり、全然、斬れない。

 翔は覚悟を決めた。今、目の前にいる相手は躊躇なんかしていられない相手なんだ。

 初めて本格的に使ったのに、翔は剣を使いこなす。

 奥からワラワラと、剣、棍棒、鉈などで武装した盗賊共が出てきた。

 微塵たりとも恐れを見せることなく、エデは盗賊共に向かう。

 恐る恐るな動きでも、翔も続く。


「この少年はやはり――」

 盗賊共との戦いの中、エデも翔の能力に気が付く。

 初めてにも関わらず、翔とエデのコンビネーションは盗賊共を倒していった。

 丁度、盗賊共の片付けた頃、

「人がいい気持ちで寝ているのに、バタバタ騒ぎやがって」

 廃墟の奥から、アフロヘアのムキムキマッチョの大男が現れ、倒れている盗賊共も見回す。

「あーあー、折角、集めた手下をみんな殺っちまってくれたじゃねぇか」

 あーあーと言いながらも、少したりとも悲しそうではない。正確には倒れている盗賊共の中には行動不能になっているだけで、息のある者もいるけど。

 翔も感じ取ることが出来た、こいつはさっき倒した盗賊共とは格が違うと。

「お前がモノクトイか」

 エデが問うと、いかにも愉快そうに、

「そうさ、俺が盗賊団の頭、モノクトイ様だ!」

 名乗るなり、斧を振り下ろす。

 振り下ろされた斧を魔導剣で受け止める。

 刃と刃がぶつかり、雷が迸る。

「女、貴様、魔導剣士かっ」

 力任せにエデを払い飛ばす。

 飛ばされながらも、体制を崩さないエデ。

「ゴラッゴラッゴラッゴラッ!」

 力任せに振り下ろされる斧を、見事な剣さばきで軌道を反らす。

 モノクトイが隙を見せれば、今だとばかりに斬りつける。

 とっさに斧で受け止める。高温を発する魔導剣が斧の刃を焼く、いつの間にか雷から炎に切り替えていたエデ。

 斧を持つ手とは逆の左拳でモノクトイは殴り掛かって来る。逆手とはいえ、あの体躯、威力はかなりのもの。

 後ろへ飛び、距離を取ることで当てさせない。

「凍えて眠れ、氷結!」

 モノクトイの手から、冷気が放たれる。

「魔法を使うだと」

 いかにも脳筋なモノクトイが魔法を使ったことに驚き、一瞬、動きが遅れてしまう。

 考えての行動ではなかった、自然に体が動いた。エデの前に飛び出した翔を凍てつくような冷気が直撃。


 針で突き刺すような冷気が全身を覆いつくしていき、見る見る間に体が動かなくなっていく。

 どんどん意識が薄れ、まるでまどろみの底ような死へと誘う。

 真っ暗な深淵に沈み、プッンと全ての意識が消えた。


 刹那、消えたはずの意識が一気に覚醒する。


 意識が現実を認識した時には、翔の凍り付いていたはずの体は復活、湿っている布の服が名残。

「な、何なんだ、お前は!」

 翔の復活を見たモノクトイは恐怖にかられ、斧を振り下ろす。

 斧は翔の頭どころか胸元まで真っ二つに勝ち割る。

「ざまみろ」

 勝ちを誇って笑っているモノクトイの目の前で翔の傷は癒えて行き、何事も無かったように元通りの姿に。

「うあっ!」

 悲鳴に近い声を上げて再び斧を振り下ろすが、今度は頭の上で止まってかち割るどころかかすり傷さえ追わない。

 翔も先ほどとは違い、全く痛みは無し。

 翔は斧を握る手を掴む、途端、その腕は凍り付く。

 悲鳴にならない悲鳴を上げ、

「俺の~俺様の腕があぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 モノクトイは凍り付いた手を押さえて喚きだす。

 ごっつい体に怪力、これまで他人を痛めつけることはあっても、自身が痛めつけられることは無かった。

 初めて味合う激痛。

 エデは剣の峰で喚き散らすモノクトイに当て身を食らわせ、気絶させる。

「これで依頼は完了だな」

 剣を鞘に納める。


 こうして盗賊退治の依頼は完了した。

 モノクトイを始め、生き残っていた盗賊共は連行され、そのまま牢獄へ。

 モノクトイたちの処遇は看守任せ、エデの受けた仕事は盗賊団の退治までであり、その後のことまでは関わりのないこと。


 町の宿屋の一室。今夜、翔とエデはここに宿泊。

「翔、お前の力のことだが――」

 夕食後、早速、その話になった。

「多分、剣で殺されれば、すぐに生き返って剣に対する耐性と能力が身に付いて、銃で殺されれば銃に対する耐性と能力が身に付くんだと思う。それに僕が倒した相手の能力も会得できる」

 やっぱりなとエデ。何せ、目の前で目撃したのだから。そうでもないと、簡単には信じられないような、無茶苦茶な能力。

「すげー、力じゃないか、流石は私が見込んだだけはあるな」

 バンバンと、翔の背中を叩く。

 でも、剣で殺されれば、その苦痛はしっかりと味合うし、銃で殺されれば、その苦痛もしっかりと味合う。

 殺される度、死の苦痛は経験する。家族と一緒に焼かれた時、願った“死にたくない”思い、家族への思い。その強い思いが翔に力を与えてくれているこそ、死の苦痛に耐えられる。

「でも、この能力は無敵じゃないんだ……」

 出会ってから間もないとはいえ、翔が自虐や冗談でこんなことを言う子でないのは解る。自然とエデも真剣な表情になる。

「僕と同系統の能力を持つ者に殺されたら、多分、生き返ることは出来ない、本当に死んでしまう」

 確かめたわけではないが、でも解る、自分自身の能力だから。

 ふとエデの表情が緩む。

「死ぬ度に生き返って強くなるなんて、そんなスゴイ能力を持っている奴なんぞ、翔の他にいるかよ」

 さぞかし安心して、再び親し気に翔の背中を叩く。




 最初、そのまま第二章にしようと思いましたが、出だしをプロローグに持っていくことにしました。

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