第一章 仲良し
まだ本編とは言えないかも。
「翔、見つけたぞ!」
物陰に隠れていた前髪を切りそろえた小さな男の子。男の子と言わなければ女の子に間違えらてしまう桃崎翔が出てきた。
「アハハ、見つかっちゃった。流石は岳人くんだね」
翔に褒められた半ズボンの良く似合う男の子、門敷岳人は、
「へん、俺にかかればなんてこそないやい」
少し恥ずかしそうにしながら、鼻の下を人差し指で擦る。
「後は佐和子ちゃんだけだね」
翔が辺りを見回しても、峰谷佐和子の姿は見当たらず。
バブル期に建てられたものの、バブル崩壊とともに打ち捨てられたホテル。
解体しようとしたら祟りがあったので、そのまま放置されたとの噂もあるが、実際はオーナーが雲隠れしてしまい、解体するにも金がかかるためにほったらかしにされているのが本当のこと。
それでも、時折、夜中、肝試しに来る人たちかいる。
「佐和子ちゃん」
「佐和子」
翔と岳人は廃ホテル内を佐和子を探して歩き回るが、一向に見つからない。
「わあっ!」
突然、背後からの大声。振り向いたら、そこにいたのは怖い怖い顔をしたお化け。
岳人は尻もちをつき、翔は身構える。
けらけらと笑いながら、元気溌剌丸出しの女の子、佐和子は怖い怖い顔のお化けのマスクを取った。
ここへ肝試しに来た誰かが、脅かし用に持ってきたものを落としていった物のだろう。
「酷いよ、佐和子」
恥ずかしそうに翔に助け起こされる岳人。
この廃ホテルは翔と岳人と佐和子の格好の遊び場所、学校が終わると、ランドセルを家に置いて、よく遊びに来ていた。
かくれんぼうの後、屋上へ。ここからは3人の住んでいる柄九巣市の丸生町がよく見える。
みんなここから見える景色が大好き、嫌なことがあっても忘れることか出来た。
危ないから行くのは止めなさいと何度も親に止められても子供のこと、止められれば止められるほど、廃ホテル来てしまう。
翔を真ん中に岳人と佐和子が、それぞれ手を握る。
夕日に照らされた丸生町が真っ赤に見える、まるで燃えるに。
いつまでも、こんな関係が続けばいいな、心底、翔はそう思う。
☆
時が過ぎ、華奢なまま可愛く高校1年生に成長した翔。
翔の住んている家は丸生町内の一軒家。
翔とは真逆にシャツの上からも解るぐらいに、鍛え上げられた筋肉を持つ父親の浩平は新聞を熱心に読んでいた。
母親の幸恵は、コトコトと台所で夕食の調理中。高校生の頃は隣町にまで知れ渡るほどの美少女。その奇麗さは、現在も維持されている、翔は母親似。
2つ下の妹、友香はスマホゲームに夢中、友香は父親似。男の子は母親似、女の子は父親似をを体現した兄妹。
「あら、いけない」
台所から、困った幸恵の声。
「どうした?」
新聞を下ろし尋ねる。
「晩御飯に使う牛乳が足りないのよ」
声と同じく幸恵が困った顔を覗かせる。
「なら、私が買いに行こう」
テーブルに新聞を置き、立ち上がる。
「じゃ、僕も一緒に行くよ」
暇を持て余していた翔が同行することに。
「お兄ちゃんが行くなら、あたしも行く」
友香も同行を申し出るが、
「2人で十分だよ、それに今日は寒いしね」
笑顔で言われてしまう。こんな笑顔で翔に言われたら、友香も引っ込むしかない。
ブーと頬を膨らませつつも、しぶしぶ従う。
翔と浩平はコンビニの前まで来た。
コンビニの前では誰が見てもどこから見ても、DQN丸出しの3人が座ってくだらない話をしながら菓子類を食い荒らし、煙草を吹かしている。
「あの、店の前でそのような行為をされると、他のお客様にご迷惑になりますので、止めてていただけないでしょうか」
見るに見かねた店員が恐る恐る注意。
「何だとぉ、こらぁ、俺たちはお客様だぞぉ」
「お客様は神様だろうがぁ」
店員に食って掛かるDQNたち、店員が怯えるのを見て、ますます調子に乗る。
「俺たち、傷ついちまったぜ」
「慰謝料払えよ」
「10万円で許してやりぁ」
怖い怖い顔で脅す、店員は膝が笑い完全に及び腰。
そんな様子を見た浩平は、無言でDQNたちの前へ。
「君たち、恥ずかしい真似は止めた方がいい」
静かな声で注意。
「何、かっこつけてんだよ」
「このクソじじぃがぁ」
「俺たちの恐ろしさを思い知らせてやるぜ」
凶悪な表情を浮かべ、浩平を取り囲む。
ひゅん、風が鳴った。DQNたちの咥えていた煙草が根元だけを残して無くなっている。
浩平の回し蹴り一発で飛ばされたことを理解した途端、
「覚えていろ~」
お決まりの捨て台詞を残し、DQNたちは逃げ出す。弱者にはとことん強いが、強者にはとことん弱い。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
何度も感謝する店員。
「気にしないでくれ、私はあんな奴らを見て見ぬふりが出来ないたちなんだ」
少々、照れくさそうな浩平。
買った牛乳パックをエコバッグに入れての帰り道。
「お父さんは本当に強いんだね」
「ガキの頃から、空手をやっているからな」
それは翔もよく知っている、今も浩平は毎朝、庭での特訓を欠かしていない。
「でもな翔、強い力を持っているから言って、それに胡坐をかいていてはいけないんだぞ」
立ち止まり、真剣な顔で翔を見つめる。
「常に練磨は欠かさないように、それも体だけじゃない、心も鍛える必要がある。強い力は使うものであって、使われるものではないんだ」
そう言って、笑顔で頭を撫ぜてくれる。
浩平は尊敬できる父親であり、翔の憧れでもある。
柄九巣市にある『モラル』と言う名前の雑誌社で浩平は記者として働いていた。
「どうしたんですか、先輩」
後輩の倉野、倉野敏行が難しい顔している浩平に話しかけてきた。
「この間、見つけた隠し口座の一つなんだがな……」
架空請求詐欺を探っているうちに見つけた、幾つかの隠し口座。
「あの時はすごかったスっね、黙らせようとした暴力団員を先輩はみんなノックアウトしちまったんですから」
襲い掛かってきた暴力団員5人を浩平は得意の空手で、全員叩きのめしたのである。
「この口座、暴力団の紛れ込ませて誤魔化してはいるが、これだけは暴力団の隠し口座じゃない」
暴力団の隠し口座に紛れ込まされた、何者かの隠し口座。
「勘違いじゃないんですか」
倉野の指摘を首を横に振って否定。
「じゃ、誰の口座なんスっか?」
恐る恐る聞く。
「柄九巣市市長、門敷泰道だ。この口座を使ってマネーロンダリングを行っている」
門敷泰道、岳人の父親。
「な、何かの間違いじゃないんでスっか、確かに良くない噂も聞きますけど……」
何度か良くない噂が立つことはあったが、疑惑は疑惑のまま終わり、噂もいつの間にか消えている。
この時、倉野の顔が引きつっているのを浩平は気が付いていなかった。
「私もそう思って何度も調べたのだが、間違いない」
相手が相手、間違えましたでは済まされない。尚更慎重に調べても間違えは無かった。
「それで、どうするつもりなんです、先輩」
何とか、顔の引きつりは抑えている。
たとえ相手が息子の親友の父親でも不正は見逃せない。強い正義感でこれまで記者をやってきた浩平、これからも同じ。
「穴井さんに話すつもりだ」
穴井さんとは顔見知りの刑事、穴井健司のこと。柄九巣市の警察署に務めている。
思い立ったら吉日、スマホで穴井に連絡を取る。
「これから、穴井さんの所へ行く」
立ち上がり、証拠となるUBSメモリーを引き抜き、椅子の背に掛けていたスーツを取って着る。
スマホだけでは不十分、直接、UBSメモリーを渡すことに。
翔、岳人、佐和子は共に中学を卒業、市内にある同じ高校に進学。高校になっても仲良し3人組は変わらず、今日も一緒に中庭でお昼ご飯を食べている。
翔のお弁当は母親の手作り。
岳人の昼食はコンビニで買ったやきそばパンにコロッケパンにハムチーズデニッシュ、校内の自動販売機で買った牛乳。
佐和子は早起きして自分で作ったお弁当。
楽しく雑談しながら食べる3人。
「幸恵さん、相変わらず料理が上手ね」
お世辞ではなく、本当に幸恵は料理は得意中の得意、結婚前は飲食店で働いていた経験もあり。
「佐和子ちゃんのお弁当も美味しそうだよ。きっと、佐和子ちゃんをお嫁さんにする人は幸せだね」
何気なく言った翔の言葉に、佐保子の頬っぺたが染まる桜色に。
翔は気が付かなかったが、岳人は表情を顰める。
「うん?」
今日の授業終了後、帰宅の用意をしていた翔は机の中に、見知らぬ紙切れを見つけた。何だろうと取り出してみると、
『放課後、体育館裏に来てください』
それだけ書かれたノートの切れ端。
紙切れの意味を深く考えることもなく、相手を待ちぼうけにさせたら可哀そうだと、そう翔は思って体育館裏へ向かう。
「……」
そんな様子の翔を廊下の陰で岳人は見ていた。
「来てくれたんだ、翔くん」
体育館裏で待っていたのは佐和子であった。
「手紙くれたの佐和子ちゃんだったんだね、何の用かな」
何も気も無しに、ただ幼馴染に対する気持ちで尋ねた、そう幼馴染に対する気持ちで。
少し深呼吸をしてから、まっすぐ翔の顔を見て一秒。まっすぐ翔の目を見つめる。
「あなたのことが好き」
顔を赤らめ、告白。
「えっ」
最初、何を言われたのか思考が追い付かなかった。
「あなたのことが好きなんです」
再度の告白。
思考が追い付いた途端、翔の顔が真っ赤になる。
慌てふためきながら、本気で告白してきたのだから、こっちも本気で答えを出さなくはならない。
翔も深呼吸をして、気持ちを落ち着けさせる。
「少し待っもらえるかな、僕自身、しっかり考えて答えを出したいから」
人生で初めてされた告白、すぐに白黒は付けられず。
「うん、待っている」
佐和子自身、すぐに答えを出してくれるとは思ってはいなかった。それでも、翔の出す答えに期待大。
佐和子が翔に告白。体育館の物陰で一部始終を見ていた岳人。
唇を噛み締め、拳を握り、身を震わせる。
バイブレーション機能が作動し、泰道、岳人の父親の泰道は懐のスマホを取る。
岳人を大人に、それも色んな悪事を覚えたような容姿をしている泰道。
「――穴井か」
電話の相手は刑事の穴井。
「ほう、その話は倉野からも聞いている、報告、ご苦労」
それだけ言って、通話を切りスマホを懐にしまう。
市長であり、柄九巣市を支配する泰道は邪魔になるものを見つけ出すため、あちらこちらに自分の息きのかかった駒を配置している。
「郷介」
そう名を呼ぶと、いつからそこにいたのか泰道の背後に印象も見た目も影のような男、的場郷介が立っていた。
「お前たちに動いてもらうことになりそうだ」
そう支持されると、一礼の元、出て来た時と同じく、闇の中に郷介は消えていく。
「この柄九巣市で私の邪魔をするものは消えてもうぞ、例え、我が子の親友でも」
薄く邪悪な笑みを浮かべる。
「母さんの料理は、本当に美味しいな」
幸恵の料理に舌鼓を打つ浩平。
「ねーねー、母さん、私にも料理を教えてよ」
「いいわよ、でもスパルタで行くわよ、友香がいいお嫁さんになれるように」
口ではスパルタと言いながら、嬉しそうな幸恵。
「私、お嫁さんに行くつもりは無いよ、だって、私にはお兄ちゃんがいるもの」
友香のセリフに、吹き出しそうになる翔。
「何言ってんだよ、友香」
困り顔をしながらも、ほんのちょびり嬉しそう。
暖かな一家団欒。
そんな様子を外から見張っている一団。物音ひとつ立てず、佇むその姿は、まるで“影”のよう。
夜型の人でなければ寝静まる時間、桃崎の家の窓に穴が開き、そこから手が伸び、鍵を外す。
ほとんど音を立てずに窓が開き、1人の“影”が潜入してくる。
静かに静かに廊下を歩く。水の流れる音の後、トイレのドアが開き、浩平が出てきた。
目が合う、浩平と“影”。
一瞬、浩平の方が動きが早かった。取材中、何度となく、物騒な連中と渡り合った経験が功をなす。
浩平の正拳が“影”の顔面にめり込み、ノックアウト。
廊下を見れば、いつの間にか“影”がゾロゾロ入ってきているではないか。
友好的な連中でないのは確かめる必要なし。
「チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
妻を息子を娘を守るため、戦う。
1階であれだけの大立ち回りを行えば、2階で寝ていた翔と友香も否が応でも気が付く。
降りてきた翔と友香、1階で寝ていた幸恵共々、廊下で“影”ような集団と戦っている浩平を目撃。
何が起こっているのか問うよりも早く。
「こっちへ来るな、2階に隠れていろ!」
声が渡る。
ここに居たら足手まといになる、そう察した翔たちは階段を上がろうとした。
いつからそこにいたのか、いつの間にか廊下には“影”の一団よりも、さらに影の印象が強い男、郷介が立っていた。
一目見ただけで、浩平は只者で無いことを見抜く。
そして、それは当たっていた。浩平が身構えるよりも速く動き、鳩尾に拳の一撃を食らわせ、廊下の端まで吹っ飛ばす。
「父さん!」
足手まといになるなんか、もう頭の中にはない。父親の元に翔は駆け付けようとしたが、郷介が右手を上げた途端、“影”の一団が一斉に襲い掛かり、幸恵、友香と一緒に拘束される。
何とか抵抗しようとする翔は当て身を食らわせられ、意識を失う。
何か冷たい液体をかけられ、翔は目を覚ます。
両手両足をロープで縛られ、少したりとも動くことが出来ず、猿轡までされている。意識を取り戻した浩平も幸恵も友香も同じ状態。
鼻を突く匂い、かけられた液体はガソリン。
目の前に郷介と“影”たちに守られるように、スーツ姿の男が立っている。この男ことを翔は知っていた、柄九巣市の市長で岳人の父親の……。
「泰道!」
浩平が叫ぶ、どうやら猿轡の絞め方が甘かったらしく、外れた模様。
「この柄九巣市市内で私に歯向かおうとするから、そうなるのだよ」
泰道の目は浩平を翔を幸恵を友香を見下すと言うより、人として見ていない目付き。
「何故、解ったんだ」
動けずとも眼だけは意志をしなっておらず、泰道を睨みつける。
「報道の中にも警察内にも手駒を飼っているのでね」
UBSメモリーを浩平に見せつける。
このUBSメモリーには見覚えがある、刑事の穴井に渡したはずの物。泰道のマネーロンダリング、不正の証拠が入ったUBSメモリー。
「まさか、穴井が」
信じたくはないが泰道の手にUBSメモリーがあるのが、何よりの証拠。
「穴井だけではないよ、私の駒はね、言っただろう報道の中にも勝っていると」
馬鹿にするように鼻で笑う。
「まさか、倉野もか」
浩平が泰道を告訴しようとしていることを知っているのは、穴井を除けば倉野だけ。
ニヤリとした嫌な泰道の笑みが、浩平の出した名前が正解だと伝えた。
浩平は倉野と穴井のことを信じていた。信じてい者に裏切られたショックは大きい。
泰道が煙草を取り出し、口に咥える。何をするつもりなのか聞くまでも無し、先ほどのショックなど、簡単に吹き飛ぶ。
「やめろ、家族には手を出すな!」
浩平の訴えなど意に介さず、高そうな金色のライターで煙草に火を着ける。
「岳人」
泰道に呼ばれた岳人が“影”たち間から出てきた、その顔は青い。
火の着いた煙草を岳人に渡す。なんとも惨酷なことをやらせようとするのだろうか。
動けない翔の目と、青い顔の岳人の目が合う。視線と視線、思いと思いが交差する。
「そんな事、出来ないよ、父さん。翔は――、翔は俺の親友なんだ!」
煙草を手に拒絶を示す。
「そんなことは解っている。これは試練なんだよ、お前が私の後継者に相応しいがどうかのな。私の後継者になる者は邪魔者は必ずに確実に消さなくてはならない。それが親友や恋人でもな」
その言葉どころか、目も冷酷そのものを表していた。
煙の立ち上る煙草を手にしたまま、青白い顔で岳人は震えている。
チッと舌打ちをした泰道が手を上げると、“影”が動き出す。
“影”が岳人の手の煙草を取ろうとした時、
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
涙を流しながら、煙草を投げ捨てる。
縛らている翔も浩平も幸恵も友香も逃げるどころか、真面に動くことも出来ない。
煙草が床に落ちた瞬間、ガソリンに引火、一気に炎が燃え広がる。
間違いなく泰道は笑っていた、それも楽しそうに。
打ちひしがれている岳人とは対照的に、嬉しそうに泰道はUBSメモリーを炎の中に投げ捨てる。
一家全員が亡くなったとされる桃崎家の火災は、泰道が裏から手を回したことにより、単純な火の不始末が原因と処理された。
この後、プロローグに繋がります。




