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僕は殺されれば殺されるほど、強くなる  作者: 三毛猫乃観魂


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新1章 包帯男

 文字通り、新しい章の始まり。

「桃崎家の火災から、もう15年か……」

 しみじみと健司が語り、手に持ったウィスキーの入ったグラスを揺すって氷を鳴らす。

「いやはや、私の会社の経営がうまくいっているのも警察署長である健司さんが便宜を払ってくれるお陰ですよ。これでどんな汚いことも平気で出来る」

 酔っている敏行の口は軽い。

 健司や敏行とは違い、黙ってウィスキーを飲んでいる岳人。

「桃崎も馬鹿なことをしたよな、黙っていれば殺されることも無かったのに。まぁ、桃崎家の犠牲で今の我々の地位を得ることが出来たのですから、良かったと言うべきですな」

 かっての先輩を馬鹿にしながら、カラカラ笑う。

「まぁ、私も同意と言っておきましょうか」

 健司はグラスのウィスキーを飲み干す。

 何も言わない岳人に敏夫は近づく。

「今や柄九巣市は我々の支配下、ねぇ、あんたもそう思うでしょ市長」

 話を振られても、岳人は無言のまま。

 健司と敏夫は権力欲が滲み出ているような風貌になっているのに対し、岳人はどこか苦悩を感じされる風貌になっている。

『我々の支配下か……、ハハッ、真の支配者は私たちではないと言うのにな』

 自嘲に笑うが健司と敏夫は、自分たちに同意したと勘違い。本気で自分たち3人が柄九巣市の支配主だと思っている。

 懐に入れたスマホが鳴り、岳人が出ると相手は佐和子。

「後、一時間ほどで帰る、夕食の必要は無い」

 簡潔に話し終え、通話を終える。スマホの待ち受け画面は子供の頃の翔、岳人、佐和子の写真。


「あなた、こんな手紙が届いていたわ」

 妻となった佐和子から、一通の封筒を渡される。送り主は出門栗之介(でもん くりのすけ)。最近、柄九巣市に引っ越ししてきた人物でタワーマンションの最上階を買い占めたことで、一気に噂の頂点になった。

 封を破り、開けてみれば内容は夫婦そろってのパーティへの招待状。

「あなた、パーティの日にちは……」

 パーティの開かれる日は桃崎家の火災のあった日、すなわち、翔の命日。

 無言で手紙をゴミ箱へ捨てようとしたところ、

「岳人様、電話ですよ」

 いつの間にか部屋に入ってきていた秘書がスマホを渡す。岳人様と言いながら、尊敬の念は感じられない。

 出ないでも相手は誰かは察しが付く、捨てようとした手紙を机の上に置き、スマホを手に取る。

『岳人か』

 やはり父親の泰道。

『出門栗之介はたった一代で出門グループを築き開けた男だ。交流を持つことは我が門敷家の利益に繋がる。必ず夫婦そろってパーティに参加して繋がりを築け』

 柄九巣市の真の支配者からの命令。

『そして栗之介の持つ画期的な技術を奪い取れ、儂のためにな。その後は解っているな、あとくされの無いようにしておけ』

 つまりは始末しろと言う事、それを息子にやらせようと言うのだ。断れば始末されるのは岳人自身。

 泰道ば息子でも容赦しない、そんな男なのだ。

「――解りました。パーティには必ず参加します」

 スマホを切り、返す。秘書という立場ながら、彼は見張りでもある。

 それを聞いて満足そうに、白々しい笑顔になる秘書。

「……」

 佐和子も逆らえない、“目的”を果たすまでは。



 敏夫の経営する会社のオフィス、花の入った花瓶を乗せた机がある。

 机を見ている社員の顔は全員が辛辣。そこへ敏夫が入って来ると、社員全員に緊張が走る。

 机の上の花の入った花瓶を見た敏夫は、チッと舌打ちして花瓶を持ち上げ、ゴミ箱に捨ててしまう。

「何をするんですか!」

 社員の1人がたまらずに抗議するが、

「自殺するような役立たずはゴミと同じなんだよ」

 ヘラヘラと笑って言い捨てる敏夫。

 自殺したのはお前のモラハラが原因じゃないかとは、誰も言えなかった。言った途端、次に自殺するまで追い詰められるのは言った本人。

 例え訴えたところで揉み消されてしまう、柄九巣市では敏夫たちに誰も逆らえない。

 市外に出て訴えようとした者もいたが、市外に出る前に見つかってしまい、潰されてしまった。

 その際、敏夫は笑いながら、こう言った『お前たちは、いつでも見張られている』と。それっきり、告発する者はいなくなってしまう。

 敏夫に対し、悔しく腹立たしい思いをしているのは社員全員。

「歯車が壊れたなら、新しい歯車を仕入れればいい。不満なら、辞めてもらってもかまわないぞ、代わりの歯車は幾らでもあるからな」

 嫌味たらしく、ニヤニヤしながら言う。

 会社を辞めれば次の就職先を潰されてしまうのは、まだましな方である。

 何も反論できない社員全員を見て、自分の権力を自覚、満足して高笑いしながら敏夫はオフィスを出ていく。

 自殺した社員と仲の良かった男は、ギリッと奥歯を鳴らし拳を握りしめる。

 そんな男の肩を最古参の社員が叩き、

「俺たちは我慢するしかないんだ。仕方がない」

 悲しそうに呟く。


「遺書を握り潰すぐらいは、俺にとっては簡単なこと何だがな」

 スマホ片手に、少々、困った表情の健司。

『まぁまぁ、いいじゃないですか、これが初めてではないですし』

 電話の相手の敏夫には悪びれた様子は見られない。

「何度も揉み消すとなると、手間なんだよ」

 敏夫の所業を揉み消すのは、これで何度目になることやら。

『私たちの仲じゃないですか、謝礼はいつもの口座に振り込んでおくので』

 確かに敏夫との仲は深い、特に15年前の桃崎家の事件からは繋がりが深くなった。

「そうだが、少しは自重してくれよ」

『解った解った、気を付けるとするよ』

 敏夫の声から、本当は全然、解っていないことが窺い知れる。これからも、敏夫は同じことを吐く返すだろう。その度、健司が警察権力を利用して揉み消すことになる。

 余程のことが無い限り、岳人、敏夫、健司の関係は切れない。



 どうどうと聳え立つタワーマンションの前に立つ岳人と佐和子の夫婦。それは天高く上るハベルの塔のよう。

 入り口だけでも豪華な造り、この最上階の部屋を買い占めるとなればとなればどれだけの金が必要になるのだろうか、セレブと呼ばれる部類に属する佐和子でも想像を絶する。

 出門グループ。突然のように現れ、目から鱗のような画期的な技術で生み出された製品、素材や部品で世界中で名を上げる。

 製品、素材や部品の収入、それに伴う特許ライセンス料の請求、透視の成功により、あっという間に巨万の富を築く。

 ただ、あまりにも画期的な技術でオーバーテクノロジーと言っても差し障りのないだったものため、どうやって栗之介が生み出したのか本人が語らないこともあり、地球外生命体から教わったや超古代文明の叡智を手に入れたなど、オカルトめいた噂まである。

 入り口の自動ドア開き、メイドが一人出てきた。

「よくき――参られました門敷夫妻ですね。失礼ですが招待状を確認させて貰います」

 岳人が招待状を出し、それを確認したメイド。

「本物のようですね、私は栗之介様に使える使用人のアニ・バローです」

 ペコッと頭を下げ挨拶。

「どうぞ」

 メイドに招かれ、岳人と佐和子の夫婦はタワーマンションへ。


 岳人と佐和子の夫婦が最上階の部屋に入ると、

「これイミテーションキャビアじゃなく、本物のキャビアだ」

 健司と、

「このチーズ、一体、いくらするんだよ」

 敏夫が先に来ていて、テーブルに並ぶ高級おつまみに舌鼓を打っていた。ちなみに健司と敏夫は独身で家族はいない。

「しばらく、お楽しみください」

 メイドのアニは奥の部屋に引っ込む。

「市長も来たんですか、奥方も」

 健司は形式的な挨拶。

「柄九巣市の支配者が集められたな。新参者なのに関心関心」

 ガハッハハッ、笑う敏夫は既にほろ酔い。

 佐和子は支配者の言葉に嫌悪感を持つが表に出さない。


 しばらくすると、奥でドアの開く音がした。部屋にいる誰もが栗之介が来たと思い、みんなは挨拶しようとしてが本人を見た途端、思わずギョッとしてしまう。

 アニに押される車椅子に乗る男、上等なスーツを着ているが全身が包帯で巻かれていた。

「初めまして、私が出門栗之介です」

 その姿に誰も何も言えないでいた。

「このような姿で実に申し訳ない。高校生の頃、全身に大火傷を負いましてね」

 声も少し枯れているような感じがする。

「そ、それは気の毒でしたな」

 健司が何とか答える。

 栗之介の姿に目を取られていたが、ここで車椅子の影に1人の少女、それもとっても綺麗な少女がいることに気が付く。

「この子は私の娘、澪です。皆さんに挨拶を」

 そう言われ、綺麗な少女がペコッとお辞儀。恥ずかしいのか、すぐに車椅子の陰に隠れる。

 目で合図すると、アニが澪を連れ、奥の部屋へ。

「ここからはビジネスの話をしましょう」

 ビジネスの話。岳人、健司、敏夫がここに呼ばれた本題。

「私は、この柄九巣市に工場を誘致したいと考えております。そのため、皆様に協力を頼みたい」

 出門グループの工場が誘致されるとなれば柄九巣市の発展、それも大きな発展に繋がる。その上、オーバーテクノロジーと言っていい程の画期的な技術がもたらされるのだ。一見、断る理由はどこにもない。

「それはありがたい話ですな」

 真っ先に敏夫が共感を示した。

「まぁ、そうですな、私の出来ることなら、何でしましょう」

 健司も同意。

 岳人だけは無言で栗之介を見ていた。包帯で覆われているため、表情が読めない。

「迷うことは無いでしょう、父親も喜ぶはずですよ」

 敏夫が岳人の背を叩く。

 柄九巣市の発展に連なることを泰道が逃すことを赦すはずがない。

「そうだな」

 市長となった今でも岳人は父親の泰道には逆らえない。この柄九巣市に住む者は誰も、泰道には逆らえないのである。


「……」

「……」

 奥の部屋に引っ込んだ澪とアニ。隠しカメラで撮られていた栗之介、岳人と健司と敏夫のやり取りをモニターを通じて静かに見ている。


 迎えに来たメルセデスベンツの後部座席に乗る岳人と佐和子。

「岳人さん、あ――」

「解っている。それ以上、言う必要は無い」

 言いかけた言葉を止める。すぐにハッとして佐和子自身、言わなくて良かったと思った。

 運転手は無言のまま、車を走らせる。


「……まさかな」

 クラウンの後部座席の健司。

 15年前の桃崎家の火災に関して泰道にも岳人にも敏夫にも言っていないことが1つある。

 火災の後、しっかり確認できた遺体は父親の浩平と母親の幸恵と長女の友香だけで、長男の翔の遺体だけは確認できなかった。

 泰道に知られて自身の評価が落ちることを危惧し、死んだものとして処理した。あの火災で生き残れるとは思えない、何より、あの郷平がしくじることはあり得ないはず。

「俺の考え過ぎだな」

 自分自身を納得させるため、あまり意識することなく呟いていた。


 ふかふかのソファーで寝落ちしている敏夫の前に、大きな革製のカバンを持ってアニは立つ。

 カバンを置き、敏夫が眠っているかどうか確認。完全に眠っている、こうなるように彼の飲み物に一服盛ったのだが、一応、用心に確かめてみた。

 革製のカバンを開く。中にあったのは手術道具、それもこの世界とは違う手術道具。

 手術道具を取り出し、アニは敏夫に“ある処置”を施す。ついでにマイナンバーカード、鍵束やカードキーなどの品を複製しておくことも忘れない。




 この章から、現実世界が舞台になります。

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