第十一章 禍風
前回のボスは岩山、今回は……。
信仰の対象だったゲ・モンを失い、打ちひしがれるトロールたち。
毎日祈っていた岩山=ゲ・モンは、今はもうない。
レジスタンスたちにしてみればベルトラーターの圧政から自由を取り戻すための戦いだが、この町のトロールたちからしてみれば自分の信仰対象を奪っていった憎むべき敵でしかない。
町に一陣の風が吹いたかと思うと、突風が巻き起こる。
何が起こったのかトロールたちが突風が吹いたところを見てみれば、マントを纏ったガリガリに痩せた男が立っていた。
「誰だ!」
尋ねるトロール。
「わたくしはドルフ・シィー、邪怪風魔王なり」
名乗った途端、一斉に打ちひしがれていたトロールたちがひれ伏した。何せ相手はゲ・モンと同じ、邪怪五魔王の1人なのだから。
「この町で起こったこと、詳しく聞かせてもらいますよ」
「そうですか、まさか、あのゲ・モン殿が倒されるとは――ね」
話を聞き終えたドルフ・シィーは薄く笑っているが、トロールの誰もが気が付いていない。
「さぞかし無念でしょうね。ならば、あなたたちのその無念を晴らすお手伝いをわたくしがしてあげましょうぞ」
パッと顔を上げるトロールたち。
「しかし、奴らがどこにいるかは解らないのですが……」
今度はみんなに解るように、微笑む。
「居場所なぞ、風が教えてくれますよ」
☆
ゲ・モンを倒し、オーガの町に帰ってきた翔とエデ、シデルとレジスタンスたち。今回はリックと各国の兵士たちも一緒。
まずは犠牲になった者たちを弔う、レジスタンスも各国の兵士も関係なく共に。
弔いの後は、町に残っていたオーガたちは勝利を祝福してくれた。
ゲ・モンとの戦いと旅でレジスタンスたちと各国の兵士たちは疲れもあったが、勝利への祝福は素直にうれしい。
ただ翔は浮かない顔。
食事でレジスタンスたちと各国の兵士たちが疲れをいやす中、エデが翔に話しかけてきた。
「トロールのことを気にしているのか?」
理不尽な暴力で家族を奪われた翔、つい自分と重ねてしまう。
「気にするなってのは無理だな。だがな、いちいち気にしていたら、守れる命も守れなくなるってことも頭に入れておけよ」
厳しくとも翔のことを思っての言葉。
翔は死なない、でも仲間はそうではない、迷いは仲間の死を招く。
戦っている敵は同情が通じる相手ではないのだ。
もう戦う覚悟は決めている。迷いを完全に捨て去ることは難しいけど、仲間は守りたい、それが翔の本音。
今回もベルトラーターの居城を護る結界の一つが消えているのが確認された。これでまた、ベルトラーターに一歩近づいたことになる。
例えベルトラーターを進行している邪怪族を蹴散らしても、シデルとレジスタンスたちは自分たちの進む道を、それが正義と呼べなくとも進んで行くのみ。
その気持ちは翔とエデ、この世界に来て間もない各国の兵士たちも同じ。
早朝、ベットから起きた翔は着替えを済ませると、魔導剣を持って町外れに向かう。
瞳を軽く閉じて念じる。すると、小ぶりな岩が幾つも現れ、翔目掛けて降り注ぐ。
岩を躱し、魔導剣で斬る素早く確実に。
「ゲ・モンから覚えた“力”か」
いつの間にか来ていたエデが訪ねてきたので、
「うん」
翔は頷く。
「覚えたての力だから、使いこなせるようにしておかないとね」
力は使うもので使われるものではない、今もしっかりと実践している。
「なら、私も使わせてもらうか」
魔導剣を片手に、特訓に参加。
四六時中、オーガもレジスタンス活動をしているわけではない、日々の生活のために様々な仕事をする。これは目くらましの意味も。
朝の特訓を終えた翔とエデは部屋の中でくつろぎ、リックと各国の兵士たちは来たばかりのこの世界のことを勉強中。
もうそろそろ、お昼になろうかと言う時間、オーガの町に一陣の風が吹いたかと思うと、突風が巻き起こる。
突風が通り過ぎた後、そこに立っていたのはトロールたち。
何故、こんなところにトロールが? と疑問を持つよりも早く、トロールたちが襲い掛かってきた。
その血走った目、ゲ・モンの信仰者の生き残りであることはオーガたちも理解。
日常生活を送っていとはいえレジスタンスはレジスタンス、襲い掛かって来るトロールたちに、即時、対応。
素手と魔法を使う者が牽制している間に他の者が武器を取りに行く。
くつろいでいた翔とエデと、勉強中だったリックと各国の兵士たちは武器手に外飛び出す。
戦うと決めた時から、このような事態は想定していた。したがって、すぐに戦えるように準備済み。
レジスタンスたちは各々の武器を手に、死に物狂いで襲い掛かって来るトロールたちと応戦。
各国の兵士たちも戦う気満々でこの世界に来たばかりだったので、すんなり対応が出来た。
非戦闘員のオーガは家の中へ避難。オーガの町の家は戦闘に巻き込まれ目のを見越して、頑丈に建てられている。
邪怪族の自由のために戦うレジスタンスたち、崇拝していたものの敵討ちのために戦うトロールたち。お互いの信念の元、ぶつかり合う邪怪族と邪怪族。
翔とエデも、リックも各国の兵士たちも信じる道を進むために戦う。
死に物狂いで襲い掛かって来るトロールたち、信念、町、家族を守るために戦うレジスタンスたち。
五分と五分の戦いの最中、外で待機していた武形が戦いに加わる。盾になると共に攻撃も行う武が戦いに参加したことで、流れが一気にレジスタンスたち側に向く。
「ハッ!」
レジスタンスの1人が残っていた最後のトロールを剣で斬り、勝利を決めた。
勝利したとは言え、いつもとは違い後味の良くないものであった。誰一人、勝利の喜びを口にする者はおらず。
「こいつら、どうやって此処へ来たんだ?」
動かなくなったトロールを見ながら、エデが口にした当然の疑問。
「危ない!」
いち早く気が付いた翔がエデの前に立つ。
突然、切り裂かれ、倒れる翔。地面には血が流れる。
ヒョーホホホホホホホッ、笑い声とともに突風が吹き、ガリガリに痩せた体にマントを纏った男が現れた。
「わたくしは邪怪風魔王のドルフ・シィーでございます」
誰だと尋ねられる前に名乗ったドルフ・シィー。
「何故、ここか解った」
質問しながらも、シデルはライフルの照準を外さない。
「風の記憶を見ただけ、わたくしにはそれができるのです」
レジスタンスたちは一定の距離を開け、警戒。何せ、相手は邪怪五魔王の1人、油断してはならない相手であり敵。
各国の戦士たちもそれに倣う。
「トロールを送り込んだのもお前か」
リデルの問いに頷くドルフ・シィー。
「わたくしの風で送ってあげました。まっ、捨て駒にさえならなかったようですが」
倒れているトロールを蹴る。
敵とはいえ、信念で戦った相手に対するドルフ・シィーの態度。おまけにこの町にトロールを送り込んだ本人と言うのに。
出会ったばかりと言うのにドルフ・シィーは許せない奴だとレジスタンスたち各国の戦士たちも認識。
「わたくしの仲間を3人も倒したあなたたちに免じて、最初から本気で戦ってあげましょう!」
ドルフ・シィーがマントを脱ぎ捨てた。たちまち、ガリガリの体が膨れ上がり巨大化。その姿を例えるなら、手が太くて長いテラノザウルス。
変身したドルフ・シィーが太くて長い腕を振り下ろす。
ドルフ・シィーの距離は十分に開いていたのに、対角線上にいたレジスタンスたちが切り裂かれた。
切り裂かれたのはレジスタンスたちだけでなく、対角線上にあった樽や柵までも。
エデとシデルは見たドルフ・シィーの爪先。そこにあったのは固い爪ではなく風で出来た爪。
風の爪は何でも切り裂き、攻撃の距離はどこまでも届く。風の爪の前には間合いは意味をなさない。
くじけることなくレジスタンスたちが銃とライフルで攻撃、各国の戦士たちは魔法で攻撃。
弾丸も魔法もドルフ・シィーに辿り着く前に弾き飛ばされた。ドルフ・シィーの全身は風が護り、ありとあらゆる攻撃を弾き飛ばしてしまう。
攻撃に風の爪、防御に風の衣、これがドルフ・シィー戦闘スタイル。
どんなに魔法を放っても、どんなに弾丸を撃ち込んでも、風の衣により弾き飛ばされ、ドルフ・シィーには届かず。
休む間など与えてくれない風の爪の攻撃は、真っすぐどこまでも届き、触れればたちまち切り刻まれる。
避けるには左右に飛びのくしかない。
「くそっ、あの風の衣を何とかしないとどうもしようがねぇじゃねぇか!」
風の爪を避けながら、エデは適切なことを言い放つ。
風の衣がある限り、一切の攻撃は通らない。的確ではあるが、ならば、どうやって風の衣を矢降ればいいのか?
「ヒョーホホホホホホホッ、逃げろ逃げろ逃げ回りながら、切り刻まれなさい」
笑いながら、風の爪で攻撃しまくる。
その時だった、ドルフ・シィーの背後から忍び寄った翔が風の衣をむんずと掴み、一気に剥ぎ取った。
「はぁ?」
何が起こったのか理解できないドルフ・シィー、その目を目掛け、シデルがライフルを撃つ。
両目を撃ち抜かれ、悶絶するドルフ・シィー。いまだとばかり、レジスタンスたち各国の戦士たちが総攻撃。
「おのれぇッおのれぇッおのれぇッおのれぇッおのれぇッおのれぇぇぇぇぇッ!」
何度も風の爪を放つが視力を失っているため、照準が定まらず誰にも当たることなし。
それでも、むやみやたらに撃たれるので非常に危険。
「たあっっっっっっっっ」
魔導剣を抜きエデが氷の魔法を纏わせ、僅かな風の爪の隙を掻い潜って間合いに飛び込みジャンプ、ドルフ・シィーの左腕を切り落とし、着地と同時に再び、ジャンプ、今度は右腕を斬り落とす。
「ぐあひゃあっっっっっ」
悲鳴を上げるドルフ・シィーの背後から、翔が炎の爪で止めを刺す。ただ単にドルフ・シィーの覚えた能力を使ったのではなく、ダマン・ラーサの能力と重ね合わせ、新しい技を作り出した。
恐竜のように身体をぐらつかせ、ドルフ・シィーは倒れ、土煙を巻き上げる。
「これで、後一体」
小さな声でシデルが呟いた。
前回は重量級だったので、今回は軽量級なボスになりました。




