少年は銃声を聞いた
はははっ! 一発だ! 一発で気絶しちゃったよぉぉぉおお!!!
とっておきの飛び道具を手にした異常者は今まで隠し続けていた“狂い”を存分に表へと出す。
……銃声聞いて誰か来るかもしれねえなぁ……屋上にでも行くかぁ……?
焦りの表情など見せずに口元を歪めたまま、オレンジ色の空と同化する廊下に伝わる血液を見ながら、男子生徒はその場を後にし、屋上へと向かった。
屋上への扉を開けた男子生徒は眩しさで目を閉じ、再び目を開けたその時、男子生徒の目の前には女性が立っていた。
それは康太が二度見た女性であり、さっき銃で撃たれた女子生徒が見た女性であり、そして――――“Time is money制度”の創始者の前に現れ、「自分は死神だ」と言った女性であった。
「私があげた銃の使い心地は?」
「この学校に来て銃が使えるのかと思ったら、テストに合格しなきゃならないし、人は撃てないし、銃は訓練所から外に持ち出せないしで……今日までは楽しくなかった。でも、今は楽しいよ。人を撃つとねぇ、花火の様に血が迸るんだ。そして、床に段々と広がっていく紅い液体は正に芸術だよ」
異常者の言う事を聞き流した女性はその男子生徒によって睨まれる事となった。
「分からないのかい?」
「ええ。私は芸術に疎いのよ」
より一層、女を睨みつける男子生徒は殺気まで放つようになり、そして――女に対して銃口を向けた。
「俺があの“千原康太”の銃を持ってると知ってるのは現段階でお前だけだ」
「いいえ。あなたに撃たれた子も知ってるわ」
「いや。俺たちはまだ、入学したばかりだ。あいつとは同じクラスじゃないし、一度見た人間の顔を覚えてられるほど、人間の頭は有能じゃない」
その瞬間、女は笑い声を上げた。
「そうよ……人間の頭は有能じゃないわ。あなたのようにね」
次の瞬間、二度目の銃声が夕焼けの空に響き渡った。
男子生徒は嗤おうとしたのだが、目の前の光景がそうはさせなかった。
――女は突然とその姿を消していた。
☆
教室で一度目の方の銃声を聞いた康太は先生と目が合い、二人は急いで上の階へと向かった。
その最中で二人が見たものはあの女子生徒が血の湖に浸っている姿であった。
「先生!」
「ああ! 早く保健室の先生を呼んできてくれ!」
「はい!」
さっき上ってきた階段を康太が駆け下りるのと同時に先生は銃で撃たれた女子生徒の方へと近づいた。
首筋を触って、脈を確認する先生。それと共に呼吸をしているのかどうかも確認した。
しかし、その後の行動が分からない先生は戸惑った。
何をすればいいんだ? 止血か? 救急車を呼ぶのか? 保健室の先生を待つのか?
そんな状態の先生を救うように康太が保健室の先生を連れてきた。
血に塗れた少女の下へと近寄った保健室の先生は、
「早く救急車を!」
と血相を変えて叫んだ。
すぐに携帯電話を取り出して、「119」とボタンを押した先生。しかし、その瞬間、二度目の銃声は小さく鳴り響いた。
「外……?」
すぐに廊下の窓を開けて外を見た康太だったが、そこに映るのは俯瞰風景のみだった。
☆
少年はそのまま、警察署へと出迎えられ、事情聴取と口封じをされた。
警察もこの件について、公表はしないらしい。それは学校側の圧力があったから、ではない。警察に圧力をかけたのは日本政府だった。
「はぁー……銃を盗まれた挙句にその銃を使って女子生徒に怪我を負わせた……これは、君の首が問われるねぇ……」
校長室に足を運んできた人物は都知事であった。
頭を下げる校長は必死だった。
「承知しております。それで怪我を負った女子生徒のご家族の方の件についてですが……」
「訴えられる可能性があると?」
少し躊躇いながら頷いた校長を見て、都知事は再度、溜息を漏らした。
「此方から警察に女子生徒が怪我した訳を改竄させるように言っておく。君が心配するべきことではない。君が心配すべきことはさっきも言ったように君の首だよ」
「はい……」
頭をもう一度下げる校長。
そんな校長の肩に手を置き、耳に顔を近づけて都知事は言葉を漏らす。
「此処が“政府にとって”どれだけ重要なものなのか。それをもう一度、深く理解するべきだね、君は。では、これで失礼するよ」
ソファから立ち上がった都知事はドアのほうへと歩き出す。
それを見た校長も瞬時に立ち上がって、校長室の出入り口の扉を都知事に代わって開けた。
「それともう一つ。銃を盗まれた少年――千原康太をちゃんと見張っておけ、と上からの命令だ」
「……何故、彼なんです?」
校長のその質問に都知事は速やかに回答した。
「彼は、“あの女”と過去に接触した可能性があるらしいんだ。あの――Time is money制度を創る為には必要不可欠だった人物の女とね」
「そう……ですか……」
いまいち、その回答にピンと来ていない校長は少しの疑問を頭の中に残しながら、校長室の扉を閉めた。




