少年の銃は紛失した
それは今週の銃の訓練の授業での事であった。
その出来事は全ての始まりと言っても過言は無い出来事であり、千原康太の人生を変える出来事だった。
その出来事とは――
「合格だ。千原」
よっしゃああぁぁぁあああああ!!!
――ある意味、銃の各部分の名称のテストに合格した事だった。
昨日、勉強ずっとしてたからなぁ! バイト中も紙見て、寝る前に何度も擬似テストだってしたんだ! 努力が報われるって、やっぱり良いなぁ!
上機嫌な康太が銃を手に取るのは今回で二度目。だが、一度目とは違って、二度目の今日は射撃訓練も受けられる。
だから、康太は上機嫌と言うわけではなかった。彼が上機嫌なのは努力が報われたからであり、銃を手に取るのは逆に気分は乗らないようだった。
さっきの上機嫌とはうってかわって、ロッカーの前に辿り着いた瞬間に康太は溜息を吐いた。
ロッカーの指紋認証に自分の指を当て、鍵の開いたロッカーの扉を開いた瞬間、康太は驚愕の表情を浮かべた。
えっ? あれ?
そこにある筈の黒い物体がそこには存在しなかった。
へ? いや、ちょっと……冗談だろ?
笑いながらロッカーの扉を閉め、再び開けるがやはり存在しない銃。
マジ……で……?
「せん……せい……」
重い足取りで先生の元へと向かった康太は報告する。
「銃が……無いです……」
その言葉を聞いた途端、先生は血相を変えて康太を払い除け、その銃の入ってないロッカーへと向かった。
銃の無い光景を見た先生はすぐさま声を張り上げた。
「訓練止め!」
怒号のようなその声は生徒たち全員を一時的に制止させた。
「今日の授業はここまでだ。速やかに銃を自分のロッカーにしまえ!」
先生の指示に従う生徒を見ながら、突っ立っている康太の肩へと先生の手が乗る。
すると、先生は康太の耳元で呟いた。
「千原。お前は俺と一緒に職員室、校長室に来てもらうぞ」
冷や汗を垂らしながら頷いた康太。
「全員! 教室へ戻れ!」
☆
「銃が……無くなった……?」
校長室には三人の人物がいる。
一人は言葉を繰り返した校長先生。もう一人は銃の訓練を教える先生。そして、もう一人は被害者である康太がいた。
「それは……冗談ではないよね?」
「真実です」
目を瞑った校長は康太、先生と校長との間にある机を勢いよく叩いた。
「指紋認証で厳重に管理をしているはずだ! どうして紛失する!? そのなくした本人であるその生徒が持ち出したに決まっている!」
「それは否定できません。なので、徹底的に調べましょう。大丈夫だな? 千原」
小さく頷いた康太。そんな彼を見ながら、校長は話し出す。
「この高校は銃の訓練をカリキュラムに入れた高校であり、銃と言う法を犯している物を使う高校だ。日本中にこの高校を良く思っていない、反対している人々が沢山おられる。そんな反対を押し切りながらも政府が決定した事だ。この一件が世に流れるようなことがあれば――――この学校は廃校だ。だから、持っているのなら早く出しなさい」
「僕は持ってません! 本当です! 徹底的に調べてください!」
そうだ……俺は無実だ。被害者なんだよ……
「……桐原先生……応接室にこの子を連れて行きなさい……」
「分かりました」
立ち上がった康太と桐原先生は静かに校長室から出て行った。
自分のデスクへと戻り、頭を抱える校長はちゃんと気付いていた。康太が銃を持ち出していなかった場合の方が厄介な事に。
指紋認証、厳重な銃の訓練所への出入り、警備員、隠しカメラ、センサー、警報……この全てをすり抜けて、誰かが銃を奪ったと言うのか……?
校長は笑った。
そんな事……ありえる筈が無い……
☆
放課後まで徹底的に調べ上げられた康太は今、教室で担任の先生と共に待機していた。
それは自宅に隠し持っている可能性もあるからであり、それを調べるために先生たちが出動されたからであった。
「千原……お前、銃を他の奴に売ったりしてないだろうなぁ?」
「してませんよ……もう、質問するのはやめてくれませんか? 散々されたので……」
机に右頬を付ける康太は空を見た。
橙色に染まりつつある空を見て、康太はバイトの心配をしている。
なんで俺が……こんな目に遭わなければならないのだろうか……?
その疑問に答えは無い。
「先生……帰っては駄目ですか?」
「……当たり前だ」
☆
放課後の学校の廊下をスキップで行く少女の姿はお小遣いを貰って、欲しいものを買いに行くような姿であった。
そんな少女の眼に映るは一人の女性であった。
足を止める少女がその女性の制服を着ていない姿に首を傾け、瞬きをした瞬間、女は目の前には存在しなかった。
「……あれ?」
目をこする少女だが、その目には誰もいない廊下しか映らない。すると、少女の肩がポンッと誰かによって叩かれた。
反射的に振り向く少女。
――その瞬間に銃声は廊下中に響き渡った。
少女が振り返った先には東啓高校の制服を着た男子生徒が立っており、その手には黒い物体が握られていた。
少女が自分が撃たれた事を認識するまでに五秒の時間を要し、少女の意識は飛び、廊下に倒れこんだ。
じわりと広がっていく血を見ながら、男子生徒は嗤った。
――物語の歯車は、ゆっくりと動き始めた。




