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Time is money制度  作者: 刹那END
はじまり
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30/35

少年は展開公式で苦戦した

 初めての銃の訓練も先週のこととなった今、少年――千原(ちはら)康太(こうた)は言うまでも無く、次の時間の銃の訓練のテストは不合格であり、百回プリントを欠かされたという事実も粗方、察することのできることであろう。

 そして、彼はまたもや苦戦を強いられている状況下である。

 今日は月曜日。朝課外も始まり、課外、一時限目と続けて数学だ。

 その課外の時間の今、康太は顔を引きつらせている。

「えーこれね。因数分解はこの方法から外れることは一切、ないからな!」

 一切と言う言葉を妙に強調する先生の言葉を聞きながら、尚も顔を引きつらせている康太。

 因数分解の前にはやはり、展開公式が教えられ、その八パターンを覚えなければならないのに今度は因数分解の手順と来た。

 康太の頭の容量はもう限界だった。

 銃の名称に……展開公式に……因数分解……

「はい。じゃあ、一時限目にはこれの演習問題な。じゃあ終わろう」

 その台詞が終わるともにチャイムの音は鳴り響いた。

 先生が去るのと共にざわつく教室内。

 えーと……まずは、共通因数があればくくるで……次が一番次数の低い文字に着目して降べきの順に整理……各項因数分解ができるならする……で、また最初からそれを繰り返す……

 因数分解の手順を一通り確認し終えた康太は思う。

 俺……無理かも……

 そんな彼へと近づくのはおなじみの二人であった。

「因数分解なんて簡単! ちょちょいのちょいってやっちゃえば良いんだよ!」

 と軽く話す有井を見ながら、康太は頭を抱える。

「くそー……数学苦手なお前がちょちょいのちょいなのかよー……」

「はは……てか、本当にお前分かってるのか?」

 有井へと尋ねる拓也(たくや)だったが、有井の反応は少し不自然だった。

「う、うん……ちゃんとわかってるよー」

 その様子を横目で見ていた康太もやはり拓也と同様に少しの不自然さを感じ取っていた。伊達に三年間、同じ教室で勉強していたわけではないらしい。

「あ、あたしちょっとトイレ行ってくるねー」

 と教室から出て行った有井の姿を見ながら、

「俺もトイレ行ってくるわ」

 と康太も椅子から立ち上がって教室から出て行った。教室で一人取り残されてしまった拓也は自分の席へと戻った。


 ☆


 教室から出た康太はその目で階段を上っていく有井を捉えた。

 トイレに行くんじゃなかったのか?

 疑問に思う康太は有井の後を追う。そして、辿り着いた場所は学校の屋上だった。

 その扉を開けっ放しで屋上へと出て行った有井に見つからないよう壁に隠れて屋上を覗き込む康太。

 そんな彼が見ていることに気付かず、有井は携帯電話を取り出して誰かに電話を掛け始めた。

『どんな御用ですか?』

「数学の高校一年の一年分の内容」

『一万七千円となります』

 携帯電話のボタンを押す有井。

『入金を確認致しました。またのご利用をお待ちしております』

 携帯電話を耳から離し、閉じた瞬間に屋上の入り口で立っている人物に有井は気付いた。

「何……してんだよ……?」

 目を大きく見開かせて、すぐさま携帯電話をポケットへとしまう有井は康太から目を逸らした。

「え、あの……えぇと……」

 そんな有井へと康太は詰め寄りながら、眉間にしわを寄せた。

「何でケータイ持ってきたんだよ! 禁止だろ? ちゃんと守れよな!」

「えっ!?」

 バレてない……

 意表をつく康太の言動にほっとしながら有井は笑う。

「明日から持ってこないよー? 今日はたまたま持ってただけ! ショートホームルーム(SHR)始まるから早く戻らないと!」

 と屋上から出て行った有井の姿が見えなくなった瞬間に康太は何も無いところを睨んだ。

『数学の高校一年の一年分の内容』

 有井の言葉を思い出しながら、康太は段々とその拳を力強く握り始める。

「Time is money制度……使えるなら何で高校来たんだよ……」

 就職すればいいものを……

 奥歯をギリッと鳴らした康太は屋上から出て行く際、その扉を思いっきり蹴り上げた。

 康太が足に凄まじい痛みを覚えたのは言うまでもない事である。


 ☆


「はい。じゃあ、(x2乗+y2乗)(x+y)(x-y)を……千原!」

「は、はい!」

 えーと……これは(x+y)(x-y)を展開して、(x2乗-y2乗)になって……

「(x2乗+y2乗)(x2乗-y2乗)……」

「終わりか?」

 えっ? 終わりじゃないの? 何かあるの……?

 クエスチョンマークを何個も出す康太の様子から察したのか先生は答えを書きながら説明し始める。

「千原、いいか? (x2乗+y2乗)(x2乗-y2乗)って、さっきやった展開公式の二番の(a+b)(a-b)の形になってないか?」

 言われてみれば……

「だから、答えはx4乗-y4乗になるわけだ。わかったか?」

「は……い」

 分かったと言えば分かった。一回展開して安心するなって事だな!

 納得の表情を見せる康太を有井は「大丈夫なのかな……」と呆れた眼差しで見ていた。

「展開は難しくないし、因数分解もあの手順を踏めば、絶対にできるからな! 中間はこの展開と因数分解、それと実数が範囲だから、十分百点狙える。高校生活で良いスタート切るためにちゃんと予習・授業・復習のリズムを今のうちにつけておくんだぞ? じゃあ、終わります」

 話の途中でチャイムが鳴ったが、気にせずに先生は話を進め、授業が終わった。

 はー……まだ一時限目が終わっただけかよー……

 頭を使いすぎて熱暴走しそうな状態な康太はその熱気を口から溜息として吐き出した。

 先生によれば中間考査はゴールデンウィークの後にあるらしいけど……ゴールデンウィークを挟むって事は大体の予想がつく……

 再度、大きな溜息を吐いて康太はその予想を心中で呟いた。

 ――宿題が多いはずだ。

 右頬を机につける康太は傍(はた)だと明らかに寝ているように見えた。

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