少年は「化物だ」と思った
「皆さんも知ってのとおり、この学校は日本で唯一、銃の訓練をカリキュラムに入れた学校であります。それは政府の抽選によって、この学校と決められました。言わば、君たちは政府による実験の対象にされたと、思っていただいて構いません。しかし、この学校の生活での中心は勉強であり、新入生の皆さんも心して学勉に励んでいただきたい――――」
体育館で繰り広げられるは眠気との葛藤であり、負けたものは頭を完全に膝の中へと埋もれさせていた。
何だよ……入学式ん時と言ってる事、変わりないし……
康太はつまらなさそうにあくびをしたが、すぐにその眼をキリッとさせた。
言われなくても……勉強頑張ってやる! 銃なんてどうでもいい!
新入生の中でそう決意したのは康太ぐらいのものだろう。何故なら、殆どの者がこの銃の射撃などの対人兵器の訓練を目的として、また、知名度で入ってきた者ばかりであるからだ。
だが、新入生たちはまだ、その意味を理解していない。いや、この学校の生徒はその意味を理解していない。あくまで、実験の対象だという事を。
「えー……学年責任の山路です。一年一組の担任をしてます。僕からはこの学校においての決まりをお話したいと思います」
と校長の話が終わると同時に眠気から解放されたと思った生徒たちであったが、またもやの刺客に溜息を吐いた。
「大事な話ですので、ちゃんと、聞いていてくださいね。校長先生も言っていたとおり、この学校は銃などの対人兵器の訓練をカリキュラムに入れた日本唯一の学校です。その時限数は週に四。各クラスで曜日は違いますので、確認しておいて下さい。準備するのは学校指定の体操服、またはジャージだけで、銃や場合によっては防弾チョッキなどは学校で管理しています。銃はその授業の時にしか、使うことはできません。そして、自分の組と番号の入った銃のみを使用してください。もし、銃の盗難があった場合、退学では済みません。罰金、懲役は当たり前と頭に入れておいて下さい。授業以外での銃の使用も禁止です。射撃部も同様です。しかし、射撃部のみは二人以上の先生がいる場合には使用を許します。その時にはこの紙を書いて、僕まで提出してください」
一枚の紙を生徒全員に見せる山路。生徒たちはその真剣な話に目を見開いていた。
新入生全員に緊張感が走っている。それは、銃を初めて手にする恐怖からか好奇心からか。
いや、緊張感が走っているのは厳密に言うと、全員ではない。その眼からして、銃を握った経験のあるような何人かの者は歪な空気を放っていた。
そんな歪な空気を新入生は感じ取れないほど、体を強張らせており、体育館は暫くの間、静寂だけが支配していた。
「……それでは、僕の話を終える前に一つ、君たちに言っておきたい事があります」
そう言って、スーツのジャケットのうちポケットから取り出したのは黒い物体であった。
瞬間、何人かの生徒はそれだけで悲鳴を上げ、殆どの生徒が息を呑んだ。
「これは本物です。僕たち職員は常にこれを持ち歩いているわけではありませんが、今日は特別に僕がこの場で手に取らせていただいてます。これを見て、叫び声を上げた生徒……何人かいましたよね?」
新入生は辺りを見回して、叫び声を上げた生徒を一瞥していく。
「大丈夫ですよ。恥ずかしい事ではないです。恐怖とは人間の生きるための本能なのですから。そして、今、叫び声を上げた生徒でも一ヵ月後にはもう慣れてしまうんです。そう。この音も、ね」
銃を自らの頭上に向けた学年責任者の山路はその銃の引き金に指を掛けて、引いた。
体育館に鳴り響く轟音によって、咄嗟に耳を両手で塞いで顔を俯ける新入生は過半数を占めていた。しかし、その周りで立っている教師陣は顔色一つ変えずに佇んでいた。
そんな教師陣を見た康太は「化物だ」と思った。
「人の慣れと言うものは怖いものです。一ヶ月間、死体のある部屋で生活。殆どの人が『無理だ』と言うでしょう。しかし、慣れてしまうんです。だから、君達も早く、慣れてください。学校生活も、勉強も、銃の訓練も。では、僕の話はこれで終わりです」
そう言って、銃を再度、スーツのジャケットの内ポケットへとしまった学年責任者は階段を一段一段下りていった。
無言でその姿を眼で追う新入生の顔の殆どは青ざめていた。
その中の一人である康太は少し、この学校を受験した事を後悔した。彼は勉強をするためにこの学校に来た。しかし、勉強のプレッシャーよりも対人兵器の訓練のプレッシャーの方が彼の内では打ち勝っていた。
体育館から教室に戻る最中、入学したてと言う事もあるのだろうが、学年責任者の山路の言動の影響だろう。
教室に戻って、今日は下校となる。
その前にSHRがあるため、担任が戻ってくるまでの教室は異様な空気が支配していた。
教室に戻ってきた担任は生徒たちの表情を見て、その気持ちを察する。
「皆……山路先生の言動で混乱してるかもしれないが、山路先生の言ったとおり、慣れてしまえば問題は無いです。慣れるためには正課の授業が始まってからだろうが、頑張っていきましょう! では、終わります!」
明間の挨拶により、その日の一年五組の授業は終わった。




