少年の朝は主婦
「同じクラスになれたなぁ!」
そう言って、男子生徒に近寄るのは拓也と呼ばれた男子生徒だった。
男子生徒の名前は千原康太。そして、康太に話しかけたのは上野拓也だった。
「成績順に振り分けられてるって聞いたからー……五組は莫迦って事だな!」
と、明るく話す拓也を見ながら、康太は苦笑い。そして、そんな二人の様子をまじまじと見る人物が一人いた。
「あれ……? 有井?」
拓也のその疑問符の向かう方向へと康太も顔を向けると、そこには同じ中学だった女子もいた。
「あんた達と同じクラスだとはねぇ……ちょっとショック……」
溜息を吐く有井美佳を見ながら、二人は笑う。
「まあ、同じクラスなんだし、仲良くしていこうぜ!」
と拓也が微笑んだ。
康太は今、少し考え事をしていた。だから、何も言葉を発することはなく、反応だけを見せていたのだった。
有井美佳……良いとこのお嬢さんじゃなかったか……?
だが、考えるばかりでは答えが出るはずもなく、康太はすぐに白旗を上げた。
三人の会話が終わった後、康太はすぐに親と下校した。そして、家に帰ってから待っているのはアルバイトだった。
「じゃあ、行って来るから!」
そう言って、私服に着替えた康太は出て行った。
公立高校も私立高校も関係なく、無償化になった。それもTime is money制度の影響からだった。そして、今年中にはその高校の無償化も来年度予算案には入れられないが報道された。
それに対して、政府へを講義する人々もいたが、高校へと通わないお金持ちからすれば、「税金の無駄使いなのだから、早く廃止しろ」と言う声が大きい。
日本の国民はもはや、真っ二つに分かれていた。
「いらっしゃいませー」
とコンビニの自動ドアを開いて入って来た客へと言葉を投げかける康太。その笑顔は当たり前だが、作り物だった。
慣れた手つきでレジに持ち込まれたものを機械で読み取って行く康太のその姿は本当につまらなさそうだった。
そのアルバイトで手に入るお金が自分のものになる事はないからだ。
いや、間接的に自分の食事としてなっている。服のお金になっている。だが、遊ぶお金は一文たりとも無かった。
大学に行く為のお金でもあるアルバイト代。
彼は一生懸命に働いた。
☆
目障りな電子音が繰り返され、彼はその目を覚ました。
康太の目覚めは良くなかった。
今の時刻が午前の四時半だからだ。
彼は布団から起き上がって、その布団をたたんで、台所へと向かった。何をしようと、そこへと向かったのか。それは弁当を作るためだった。
初日から弁当かぁ……
大きなあくびをしながら、台所の蛇口を捻って、顔を洗う康太。
水で濡れた顔をタオルで拭いてから、石鹸をつけて手を洗うと、腕まくりをして、
「よし!」
と、目をパッチリと開けて呟いた。
えーっと……昨日の残ってた野菜がいくつかあったなからー……野菜炒めでも作るかなぁ……
と思考を巡らせながら、手も動かしていくその姿は高校生の男子とは思えない光景だった。
ついでに彼は自分のと母親の分の朝ごはんも作った。
康太の父親はと言うと、どこかへと行方をくらましてしまった。それもTime is money制度が施行されてからの事だった。
その分、彼はTime is money制度を恨んでいる。
自分の父親を奪い、貧乏にさせたTime is money制度。
そんなTime is money制度を活用する人間も同時に彼は嫌いだった。だから、彼は証明したかった。
“世の中はTime is moneyでは無い”と。
そのために彼は高校に入って、勉強が中心の生活を送ろうと心に決めていた。
パジャマから制服へと着替えた康太は洗濯物を洗濯機の中に入れてからスイッチを押し、胡坐をかいて、机の上にある朝ごはんをテレビを見ながら、食べていた。
朝のニュース番組を見ながら、彼はその端を動かし続け、食べ終えた皿を自分で洗う。
もう、一人暮らしなど、余裕でこなせるのではないかと言うくらいのものだった。
それから、洗濯物を天気予報を見ながら、外へと干すことを決め、干し終えたら、学校指定のかばんを持って、玄関を出て、鍵を閉めた。
学校へは自転車で登校をする予定だったのだが、いろいろと手続きがあるようで、今週は歩いて学校へと登校しなければならなかった。
康太の家から学校までの距離はそう遠くない。だから、彼はそこを選んだのだった。
電車代は彼にとって、致命的な出費になると分かっていたからだ。
足を進めていく内に段々と、人影が多くなっていく。
それは電車の駅が近いからだった。
校門の中へと入り、慣れない足取りで自分の教室へと向かう康太。
それは誰の目から見ても新入生だと分かる感じだった。
康太は少々、躊躇いながら、自らの教室に入っていった。
教室は静けさだけが包んでいた。
入学式の直後の学校なので、当たり前なのだろうが、康太はその空気を重苦しく感じる。
拓也と美佳はもう各自の席に着いていた。
はぁー……早くHR始まらないかな……
と康太が思ったとき、チャイムの音が校内に響き渡った。




