第五話 ドッキリ!うふふ♡ 魔界温泉旅行
王妃の「たまには羽を伸ばしてきなさいな」という一言で始まった温泉旅行。
だがその裏には——とんでもない仕掛けがあった。
ことの発端は今朝。
枕元で「くるっぽ〜」という鳴き声が聞こえ、仕方なく起き上がると、
足に伝令を結びつけた鳩がちょこんと座っていた。
『王城へおいでなさいませ。王妃より』
……嫌な予感しかしない。
そして案の定、登城すると王妃から軽いノリで一枚の紙を渡された。
「あの〜、これは……」
「あら、どこからどう見ても魔界温泉の宿泊チケットにしか見えないのですけれど、
なにか別のものに見えまして?」
「いや、そういう意味ではなくて……なぜ俺が魔界温泉に行くことになってるんですか?」
「あら、質問を質問で返されてしまいましたわ。うふふ。
でも、私、今日は機嫌がいいの。ですから教えて差し上げましょう。
もちろん、魔王殿下からの招待ですわよ」
「行かないという選択肢は……」
「行く一択でしてよ。ほら、そこに案内のくるっぽ〜(3号)がいますから、さっさとお行きなさい」
「はぁ〜……分かりました。行ってきます」
***
**『魔界温泉へようこそ』**の看板をくぐると、
石畳の通りに、湯気と甘い香りが漂っていた。
両側には古びた土産屋が並び、どこか懐かしい雰囲気だ。
「ほら、これを食べてみろ」
魔王が差し出したのは、湯気の立つ温泉まんじゅう。
湯気越しに少し笑ったように見えて、胸が跳ねた。
「甘いもの、好きなんですか?」
「いや、甘いものより——お前の反応のほうが見ていて楽しい」
「……そういうこと、サラッと言わないでください!」
「まぁまぁ、半分こだ」
ひと口かじると、やわらかい生地の中から黒糖の香りが広がる。
——魔界の温泉まんじゅう、意外と美味しい。
通りを抜けた先には、射的の屋台。
魔王が挑戦して、見事一発で的のぬいぐるみを落とした。
「ほら、お前にやる」
「え? これ、うさぎですよ!?」
「悪くないだろう?」
「いや、かわいすぎますって!」
そんなやりとりをしているうちに、宿が見えてきた。
看板には**『魔界温泉・湯けむり館』**の文字。
鄙びた外観に、なんだか不安しかない。
「嫌な予感しかしない。帰りたい……」
「残念だが、帰すわけにはいかないのでな」
鳩:ポ〜(似たようなくだり、やったな)
***
「部屋に通されたあと、案内されたのは── 」
「……温泉ってこれ一つ……? え、混浴!?」
「何を言っているのだ。魔族に性別などない。気にすることではないだろう」
「いや、こっちは気にするんですけど!?」
魔王は湯船の縁に腕を預け、目を細めた。
黒い湯面が静かに波打ち、その瞳に光を映している。
「この湯……本当に黒いんですね」
「反射率ゼロの湯だ。闇をそのまま湛えたようだろう。魔界では“心を映す湯”とも呼ばれている」
「……綺麗、ですね」
「ふっ、そう思えるなら、もう大丈夫だ」
「え?」
「疲れているだろう。少し、肩の力を抜け」
「……」
「どうした? 顔が赤いぞ。湯が熱かったか?」
その声が妙に優しくて、思わず息をのんだ。
湯気の向こうで揺れる黒髪。肩から滴る湯が、滑らかな肌を伝っていく。
その姿は——まるで湯に溶けた闇のようで、美しかった。
(魔王の……肉体美……)
何かを言おうとしても、喉が乾いて声にならない。
心臓の音だけが、やけにうるさく響いた。
♬ BGM:「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」/Awesome City Club
静かな湯気の中で流れ出すメロディ。
胸の奥が、ゆっくりと熱に溶けていく。
ただの湯の熱なのか、それとも——。
そのままふっと、身体の力が抜けて——
気づけば、魔王の肩に頭を預けていた。
鳩:ポ〜(記録:勇者、完落ち)
【あとがき:王妃の執務室にて】
王:「……完落ち、だと?」
王妃:「えぇ、鳩さんの報告ですわ。見事に肩を預けておりました」
王:「二日後とは……本当に二日後か。おそるべし王妃の読み」
王妃:「うふふふ、賭けは私の勝ちですわね」
王:「まったく……そなたの策には毎度驚かされる」
王妃:「まぁ、陛下に比べれば可愛いものですわ」
王:「それよりも王妃よ……」
王妃:「はい?」
王:「結婚して三年、婚約からだと十一年にもなるのだぞ。そろそろ寝室を共にしても——」
王妃:「陛下のいびきに耐えられそうにございませんので、無理なご相談ですわ」
王:「……ぬぅ……そんなにか!?」
鳩:ポ〜(報告:王、撃沈)
次回予告:『偽グッズ現る!クオリティ高すぎるだろ!』
王都に突如現れた「魔王と勇者」公式(?)グッズ。
だがその出来が、あまりにも精巧すぎた——!
そして、王妃のもとに届く鳩からの一報とは?
鳩:ポ〜(記録:混乱、拡大中)




