短編エピソード18『信吾の好き嫌い克服作戦・ファイナル』
短編エピソード18『信吾の好き嫌い克服作戦・ファイナル』
「美沙さん……これで決める」
夕食の支度中、美沙はキッチンで首をかしげた。
「またその顔。今度は何を思いついたの?」
「トマトソースパスタだ。これがダメなら……もう一生トマトと和解はできない」
ダイニングテーブルでは、ゴンちゃんが姿勢よくお座りしている。
まるで「最終決戦の審判」を務めるかのように、目をまんまるにしていた。
*
オリーブオイルでにんにくを炒め、玉ねぎを加える。
刻んだトマトが投入されると、湯気とともに赤い香りが立ち上った。
「……おのれ、来たな」
信吾は眉間にしわを寄せる。
「集中して!」と美沙が笑いながらパスタをゆでる。
ソースが煮詰まり、塩とバジルで仕上げられると、皿の上に赤いパスタが完成した。
*
「いただきます」
信吾はフォークで麺を巻き、慎重に口へ運んだ。
一口、二口……。
「……うん?」
意外そうな表情。
「どう?」美沙が身を乗り出す。
「……いける。トマトが、他の旨味とちゃんと仲良くしてる」
感慨深げにつぶやく信吾。
ゴンちゃんが「きゅるっ」と声を上げ、しっぽをぱたぱた。
立会人の判定は――どうやら合格らしい。
三口、四口。気づけば皿はほとんど空になっていた。
信吾はフォークを置き、深く息を吐く。
「……勝ったな」
「ほんと? もうトマト嫌いって言わない?」
「……いや、好きとまでは言えない。でも、戦える相手にはなった」
ゴンちゃんが満足そうにテーブルにあごをのせる。
その姿を見て、美沙はくすりと笑った。
「つまり、和解成立ね」
「……まあ、停戦協定ってところだ」
その夜、信吾の長き戦い――『トマト討伐計画』は、ゴンちゃんの立会いのもと、静かに幕を閉じた。




