短編エピソード17 『ゴンちゃんの要求』
短編エピソード17 『ゴンちゃんの要求』
夜。信吾はリビングの机でパソコンを開き、カタカタとキーボードを叩いていた。
「うーん、ここの資料をまとめて……」
そのとき、不意に視界が真っ暗になった。
「えっ……ちょ、見えない!」
顔を上げると、ゴンちゃんが机に飛び乗り、モニターの前にどっかり座り込んでいる。
「ゴンちゃん、そこはダメ! 完全に画面ふさいでるから!」
慌てて手でどかそうとするが、ゴンちゃんは尻尾をふわりと揺らすだけで動こうとしない。
ソファで本を読んでいた美沙が笑いながら顔を上げた。
「遊んでほしいんじゃない?」
「いやいや、今は無理だって。締め切り前なんだから!」
信吾は苦笑しつつも必死に説明する。
「それに体重的に……そのままじゃパソコン壊れるって!」
ゴンちゃんは「きゅぅ~」と一声鳴き、わざとらしく前足でキーボードを押してみせる。
「おいおい、入力されてるし!」
信吾は頭を抱え、美沙は肩を震わせて笑った。
「ねぇ、信吾。ちょっとだけでいいから遊んであげたら? ずっと待ってたんだよ、きっと」
その言葉に、信吾は小さくため息をつき、パソコンをそっと閉じた。
「……分かったよ。少しだけな」
立ち上がると、ゴンちゃんは待ってましたとばかりに目を輝かせ、床に飛び降りる。
信吾は肩をすくめ、笑みを浮かべる。
「これは今日、寝られるかな。……でも、これも大事な時間だな」
ゴンちゃんの嬉しそうな鳴き声が、静かな夜にやさしく響いていた。




