短編エピソード15『信吾の好き嫌い克服作戦・アゲイン』
短編エピソード15『信吾の好き嫌い克服作戦・アゲイン』
「美沙さん……今日こそ、勝つ」
朝食の準備をしていた美沙が振り返ると、信吾はテーブルに両肘をつき、やたらと真剣な顔をしていた。
「また? 今度は何で挑戦するつもり?」
「今日はトマトスープだ。昨日の夜、敗北のあと布団の中で考えたんだ。スープにすれば、やつ(トマト)の存在感を薄められる」
「やつって……野菜相手に何言ってるの」
その横で、ゴンちゃんがカウンター越しにこちらをじっと見ている。
尻尾が小刻みに揺れているのは、間違いなく「観戦モード」だ。
*
鍋にオリーブオイルを熱し、玉ねぎとにんにくを炒める。
そこにざく切りのトマトが投入され、じゅわっと赤い香りが広がった。
「……この時点で、すでに敗北の匂いがする」
「弱気になるなって」
美沙がスープを煮込みながら、鶏肉と野菜を加えて味を整える。
完成したのは、見るからに美味しそうなトマトスープだった。
*
「では、いただきます」
信吾はスプーンを手に、そっとひと口すする。
「……あれ?」
眉がぴくりと動いた。
「美沙さん……これ、いけるかもしれない」
「ほんと?」
「うん、鶏肉と野菜の旨味が勝ってる。トマトは……おとなしくしてる」
その言葉に、ゴンちゃんが小さく「きゅっ」と鳴いた。
何かが始まる予感――。
信吾は勢いづき、もうひと口。さらにもうひと口。
だが、三口目を飲み込んだ瞬間、表情が変わった。
「……やっぱり、最後にトマトが牙をむいた」
「そんなホラーな言い方しなくても」
美沙が笑う横で、ゴンちゃんはスープの香りに鼻をひくつかせている。
信吾が「飲むか?」と差し出すと、ぺろりと舐めて満足そうにしっぽを振った。
「……ゴンちゃん、完全勝利だな」
「次はどうするの?」
「……まだだ。次はトマトをソースにしてパスタで挑戦する」
「終わりが見えないね」
その朝、信吾は静かに「トマト討伐計画・第四章」の開幕を宣言した。




