短編エピソード16『ゴンちゃんとひょっとこ』
短編エピソード16『ゴンちゃんとひょっとこ』
ある日、信吾が仕事帰りに玄関のドアを開けるなり、不思議な笑顔で袋を掲げた。
「美沙さん、これ見て」
袋から出てきたのは、白地に赤い口、片目をつむった――あの独特な顔。
そう、ひょっとこのお面だ。
「え……なんでそれ?」
「商店街のイベントで、余ったからってくれたんだよ。なんか面白そうだなと思って」
その瞬間、廊下の奥から「きゅ?」と首をかしげる音がした。
ゴンちゃんが顔を出し、お面をじっと見つめる。
*
「ほら、ゴンちゃん。これがひょっとこさんだぞ」
信吾がお面を顔につけ、ひょっとこの表情を真似して体を左右にくねらせる。
――が、ゴンちゃんの反応は予想外だった。
「ぷしゅーっ!」
全身の毛を逆立て、一歩後ずさるゴンちゃん。
その目は完全に「正体不明の侵入者」を警戒している。
「いやいや、ぼくだって。信吾だって!」
お面を外して「ほら」と笑って見せると、ゴンちゃんは少し安心したように鼻を鳴らす。
……が、信吾がもう一度お面をつけると、再び警戒態勢。
「完全に敵扱いだな……」
*
見かねた美沙が「ちょっと貸して」とお面を手に取り、自分がかぶってみる。
ゆっくりとゴンちゃんの前にしゃがみ、低い声で「ひょっとこだぞ〜」と近づく。
すると――
「きゅぅぅぅ!」
今度は飛びつく勢いで美沙に駆け寄り、お面を前足でぽすぽす叩き始めた。
どうやら“倒すべき敵”とみなしたらしい。
「お面は完全に敵認定なんだな……」
*
その夜。
お面は棚の上に置かれ、静かに見下ろしていた。
しかし、寝る前のゴンちゃんは何度もちらりと棚を見上げ、しっぽをぴくぴくさせていた。
――ゴンちゃんの中で、ひょっとこはまだ「戦いの相手」として生きているらしい。




