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短編エピソード16『ゴンちゃんとひょっとこ』

短編エピソード16『ゴンちゃんとひょっとこ』


 ある日、信吾が仕事帰りに玄関のドアを開けるなり、不思議な笑顔で袋を掲げた。


「美沙さん、これ見て」


 袋から出てきたのは、白地に赤い口、片目をつむった――あの独特な顔。

 そう、ひょっとこのお面だ。


「え……なんでそれ?」


「商店街のイベントで、余ったからってくれたんだよ。なんか面白そうだなと思って」


 その瞬間、廊下の奥から「きゅ?」と首をかしげる音がした。


 ゴンちゃんが顔を出し、お面をじっと見つめる。



「ほら、ゴンちゃん。これがひょっとこさんだぞ」


 信吾がお面を顔につけ、ひょっとこの表情を真似して体を左右にくねらせる。

 ――が、ゴンちゃんの反応は予想外だった。


「ぷしゅーっ!」


 全身の毛を逆立て、一歩後ずさるゴンちゃん。

 その目は完全に「正体不明の侵入者」を警戒している。


「いやいや、ぼくだって。信吾だって!」


 お面を外して「ほら」と笑って見せると、ゴンちゃんは少し安心したように鼻を鳴らす。

 ……が、信吾がもう一度お面をつけると、再び警戒態勢。


「完全に敵扱いだな……」



 見かねた美沙が「ちょっと貸して」とお面を手に取り、自分がかぶってみる。

 ゆっくりとゴンちゃんの前にしゃがみ、低い声で「ひょっとこだぞ〜」と近づく。


 すると――


「きゅぅぅぅ!」


 今度は飛びつく勢いで美沙に駆け寄り、お面を前足でぽすぽす叩き始めた。

 どうやら“倒すべき敵”とみなしたらしい。


「お面は完全に敵認定なんだな……」



 その夜。

 お面は棚の上に置かれ、静かに見下ろしていた。

 しかし、寝る前のゴンちゃんは何度もちらりと棚を見上げ、しっぽをぴくぴくさせていた。


 ――ゴンちゃんの中で、ひょっとこはまだ「戦いの相手」として生きているらしい。


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