短編エピソード7『信吾の好き嫌い克服作戦』
短編エピソード7『信吾の好き嫌い克服作戦』
「ねえ信吾、ゴンちゃんってさ、何でも食べるよね」
ある日の昼下がり、サラダをつまむ美沙が言った。足元ではゴンちゃんが、小さく切ったニンジンを「きゅきゅっ」と嬉しそうに食べている。
「うん、ほんとに好き嫌いないよな。エラいよ、ゴンちゃんは」
「……それに引きかえ、大人のくせにトマトすら食べられない人がいるらしいけど」
「……だって、あの食感と青臭さが……」
信吾は思わず声を濁す。子どものころからトマトだけはどうにも苦手だった。サラダに入っていようものなら、そっと脇へ避けてしまう。
「でもさ、ゴンちゃん見てみてよ。この前なんてプチトマト喜んで食べてたよ?」
ゴンちゃんはちょうどその瞬間、冷蔵庫のほうを見て「きゅ」と小さく鳴いた。もしかして、トマトの気配を察知したのかもしれない。
「……わかった。大人としての意地、見せるよ」
信吾は気合を入れて、プチトマトを一つ手に取る。そして目をつぶり、勢いでぱくり。
──もぐもぐ。
……やっぱり無理だった。
「うっ……ごめん、やっぱ無理」
「はい、残念。ゴンちゃんの勝ち」
「うう……くやしい」
その横で、ゴンちゃんは誇らしげにしっぽをふっていた。
「でも、がんばったね。ちょっとだけ、大人ポイントあげる」
「……“ちょっとだけ”かよ」
信吾はそう言って笑った。テーブルの下から、ゴンちゃんがそっと鼻先を寄せてきた。「きゅ」と小さく鳴いて、まるで「ドンマイ」と言っているかのように




