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3日目、最強の聖女の騎士 後半

主人公ライラ視点です!



 初めて訓練じゃなかった魔物との戦いは、聖女の騎士がいたことも含めて、とても貴重なデータをとることができた。まずまずの滑り出しと言っていいだろう。


 魔物が無事倒され、砂に変わっていく。


 砂は全て袋詰させる機械を作ってあったから、邪魔になりにくいだろうし、すぐ成分表を出せる箱も作ってある。


 ただの砂とわかれば怖がる人も少ないだろう。


 俺は、それらを見届けたらすぐ技科の校舎へ戻り、学校備え付けのPCへさっきドローンで撮影していた魔物との戦闘データをアップロードした。


 同時に、自分のPCでニケ達の戦いを再度確認しながら、他の勇者科の人達の戦闘スタイルや能力を数値化していく。


 携帯も起動して机に置き、ニュースをつけた。


 想定していたことでもあったけど、ニュースでは魔物がでたと一切ない報道されていない。


 パニックを防止するため、報道規制がかけられているんだろう。


 その代わり、いつもと違い緊急ニュース等がすぐ見れるよう、テレビや携帯、ラジオなどを常につけておくように何度も注意喚起がされ、避難経路や避難所の確認などを各々でするよう呼びかけられていた。


「ようやく、避難所や避難経路への関心が上がるな。」


 今までだってなかったわけじゃない。


 でも、やっぱり何処か他人事な人が多かったと思うし、国全体も強く意識させていなかった。


 人類は、恐怖を抱き続けて正常に生きていけない。


 ある種、生命維持のための防衛本能だからしょうがないところがある。


 でも、しょうがないままでいてもらうわけにはいかない。


 誰も、この戦争で死なせるわけにはいかないから。


 どうしたって、危機感のない人達や諦める人たちも出てくると予想されるけど、そんな人達すら避難させられる環境と設備を整えるしかない。


 魔王戦はニケ達が主役だけど、ニケ達にばかり負担をかける気でいてもらっちゃ困るし、それは魔王戦後も同じだ。


 全国民一丸となって“死者ゼロの避難”を達成するという、団結力の結果と成果があるか無いかで、きっと魔王戦後の国民の団結力に差が出るだろう。


 今日一日でなんか無理なことは重々承知だけど、欲をいうとこの学校の人達全員は今日から本気を出してもらい、生き抜くための力を底上げしてほしい。


 父さんの親友の一人“ファル”兄さんと母さんは人類だった。


 その人類の二人が、争いを絶やさない人類をよく皮肉っていたのを思い出す。


『人類の発展は、いつだって戦争かエロが関わっている。』


 “発展”のための戦争にすべく、俺は手を止めることなくニケや勇者科の人達のデータを入力していった。


 何だか、どんどん集中力が上がっているのを体全体で感じられる。


 周りの音は聞こえているのに、PCの画面以外は見えないような、真っ暗な部屋の中でPCだけが光っているような感覚になっていた。


 聞こえる音の中に、俺がアップした動画を見て議論している人達の声が出てくる。


 諦めるのではなく、立ち向かうすべを模索していくその声達は、素直に嬉しかった。


「ここから魔物の出現率や数は増えていくし、勇者科じゃない人達が身を守るすべもほしいな。正しく安全な避難ルートの割り出しは明日完璧にするとして、救護科の人たちの活動をバックアップするとなると…」


 後ろから、なぁと声をかけられた気がした。


 でも、PCから目も体も離せる気はしなかったので、俺に話しかけられたのかもわかってなかったけど、反射的に声だけがはいと返事をした。


「あの袋の砂、全部わしにくれん?」


 あの袋の砂とは、魔物から出てたやつのことだろう。


 もうアレはただの砂だからなんの問題もなかった。


 でも、この事を人類側の人達はわかることができない。力が宿っているか目に見えないからだ。


 だからこそ、ただの砂でも核兵器のような扱いと恐怖だと予想できたし、そのくらいの危機感は持ってほしかった。


 それでも、その恐怖で足を止めてほしいなんて思っていなかったから、そうじゃない人が現れて嬉しくなる。


 あの砂の使い道なんて、力が残っているのかや、どこらへんの地層のものかを調べるために使われるくらいしかないだろう。


 俺が出した成分表と照らし合わせてもらえたら、確実性も証明されるし、あとから俺が魔王だったとなったときでも、他の人が調べても砂であったという事実が残るからとても重要だ。


 まぁ、国も調べるだろうし、国に保管されるだろうから、国公認で砂であったと発表される未来はほぼ確定だけど、良い未来への可能性や布石は多いほうが良い。


 まだ集中モードだったから、声をかけてくれた人に顔を向けられなかったけど、絶対に通じるように深く頷いた。


「砂の成分表も学校のPCで見られるようにアップしましたが、ご自分でも調べたいでしょう。外にある銀の箱に袋を教室のそばまで持ってこさせます。箱にスコップと手袋、防塵マスクなどを要求すると出すようになっているので、よければ使ってください。」


 自分の声でも箱達はこっちへ来るようになっているけど、今はPCを使って呼び寄せた。


 窓の方角がざわついたので、ちゃんとこっちへ向かってきているようだし、俺は自分の作業に没頭する。


 何度戦闘データを見返しても、コーラル君の戦闘スタイルにはあの剣より合っているものがある気がしてならない。


 思いつく限りの武器を片っ端からデータ化して、家の3Dプリンターへと送りつけていく。


 これで、とりあえず帰ったらいくつか試せる武器が出来上がっているはずだ。


「お前、パシられ慣れすぎてね?」


「わしがパシったこと無いやろ。」


 パシリと聞こえてきて、そういえばコーラル君にも心配されていたなと思い出した。


 この誤解も、絶対に解いておかなければ。


「パシられたことは一回もないし、流石にパシリはカッコ悪すぎる。」


 誤解を解くためにも、どうか彼とまた喋るきっかけが欲しかったし、欲を言うと、お試しでいいから違う武器も何個か試してもらって、自分の戦闘スタイルに合うものを見つけてほしかった。


「お前!せっかく色々用意してもらえとんのに何をマスクもつけずに開けようとしとんねん!」


 低くかっこいいバリトンボイスと、バシンと軽めの平手のような音、そして、アボンという高めの声が響いて、何だか窓側は賑やかだなと思った。


 この騒がしさが、何だか昔のララさん達の様子を思い起こさせる。


 父さんとララさんを含めた親友達の馬鹿騒ぎや茶番劇。


 ララさんは、昔はイタズラ好きなところがあり、良く叱られたりもしていた。


 その昔のはずの光景が後ろに広がっている気がして、頭を軽く降る。


 深呼吸をして、その妄想達を消そうと少し目を閉じたら、俺の妄想のはずなのに父さんが近くで倒れてくるような気配がした。


 とっさに左手で背中あたりを支え、ゆっくりと立たせる。


 昔は、母さんにべったりだった父さんがララさんに引っ剥がされて転がされるのを面白く見てたけど、大きくなった今では面白いよりしょうがないやつだなぁみたいな気持ちが強かった。


 妄想なのに手があったかい気がして、すぐに手を作業に戻して目を開けた。


 目の前に映るのは、PCの画面とニケ達だ。


「やめときなよ父さん。いくら母さんでも、あんまりくっつかれ続けたら引くって。」


 もし、死後の世界なんてものがあったとしたって、母さんと同じ場所にはいない可能性が高いと思う反面、“あの”父さんが母さんを離すとも思えないのもあって、俺は父さんに忠告した。


 聞こえてないとわかっていたけど、言葉が口から出てしまったのだからしょうがない。


「え?わしとたまさんの子?まだ抱けてへんのに?」


 今度はダンッと鈍い音がして、背中!と言う叫び声みたいなものが聞こえた気がする。


「相当似とるんやなぁ。」


 たきちゃんの声がして、妄想の父さん達は本格的に消え去った。


 視界も少し明るくなった気がする。


「たまさんがオカンに似とる言うんか?」


 “たまさん”が、もし技科のたまきさんの事であるとすると、オカン…つまり母さんに似ているかどうかでは似てないが正しい。


「外見とか性格が似てるとは言えないんだよな。こう目力的な…何だかふっと似てる時があるみたいなレベルの話なんだよね。」


 でも逆にと言うか、本当に外見とかは似ていない。


 あんな美人だったら、父さんは友達から洗脳を疑われることも無かったと思うし、母さん自身も妃が似合わないって言ってたけど、たまきさんなら妃もバッチリ似合ってる。


 1人で納得して、画面を見返した。


 勇者科の人達は男の人だらけで、それは普通のことでもある。


 人類も魔族も、女性の方が筋肉は付きにくい。


 背だって男性のほうが高い人は生まれやすいし、骨格だって男性のほうががっしりしてる。


 でも、母さんはそれこそ骨格から女性離れしていた。


 がっしり、ムキムキだった。骨の強度含め、人類の女性の中で一番だったと思う。


 母さんなら、がっしりとした甲冑じゃなくてもぜんぜん人を圧倒できるものがあった。


 俺はまた、無意識に右腕をさすっていた。


「腕とか足とか、ハリアモンド先生の方が似てる。俺だって実の息子なのに、目力すら受け継げてない気がしてならない…。」


 戦闘中の先生を大きくして、戦い方のクセや打撃力を見ていく。


 先生は、武器として刀を使っていた。


 母さんが刀を使っているところなんて見たこと無いのに、やっぱりどこか母さんを連想させる気がするのは、俺がマザコンだからかもしれない。


 先生の数値も、動き方も、今までテレビなどで放送された訓練の様子よりもずっと高い。


 彼の本気をやっと知ることができて安心する。


 聖女の騎士の強さをより正確に知っておくことは、今後の戦い方を考えるためにとても重要なことだった。


 魔物や魔力の量を計算するのに、彼らの強さは基準になってくる。


「というか、マジでこの人強いな。純粋なパワーだけなら母さんを上回るかもしれない。」


 今までの計算をすべて白紙にとまではいかなくても、根本の数値を変えても良い気がしてきた。


 自宅のPCへ今考えた変更案の数値の羅列を送っておく。


 後で帰った俺が、どの数値がどこか思い出しながら整頓するはずだ。


 よりハデな最後にしたかったので、この誤算はありがたかった。


「さっきから母さんって言ってるけど、父さんの事じゃね?そんなムキムキな母ちゃんなの?」


「ガチガチのムキムキだったよ。」


「えぇ………。」


 誰かの引く声が聞こえるけど、事実そうなのでしょうがないし、俺はそんなガチガチムキムキの母さんが好きだった。


 誰一人勝てないし、人類の人たちからは“人類の魔王”なんてあだ名を付けられていたほどだ。


 授業で教わる人類の魔王とは全く違うけれど。


「もしかして、お前父ちゃん似?」


 グサッと、言葉が後ろから背中へ思いっきり刺さった気がした。


 思わずうぐぅと声が漏れる。


「でも……、父さんよりは体力も握力もあるし…見た目に出ないだけで…うん……。」 


 父さんは、仕事のできる人だった。


 魔王になってしまったこと以外は、王としてとても優秀だったし、母さんもそんな父さんの事を尊敬していた。


 父さん以下になるわけにはいかないと、気合で手だけは動かし続ける。


 魔王としても、ライラとしても、やらなければならない事は山積みなんだから、止まってなんかいられない。


「見た目に出てねぇなら、筋肉ついてなくね?」


 もう一発グサッと刺されたけど、何とか手は止めなかった。


 俺は、ニケ以外には負けない……。


「腹筋は……割れてるし……。」


「マジで!?そんなヒョロくて!?」


 少しメンタルを持ち直し、気合を入れ直すために軽く左頬をはたく。


 軽くのつもりだったのに、パシンとわりと大きめの音がなってしまった。


「気合を入れ直せ。まかみさんが上げ直すはずの“魔物襲来シミュレーション”を見るために、できるだけ早く作業は終わらせておきたい。」


「そんなもん、もう今アップした。」


 そんなもんなわけ無い。色々言いたいことはあるし、絶対に早すぎる。今さっき魔物出したばっかだし。


 でも、俺の口から出た言葉はなんだと!?だったし、手は勝手に学校用のPCへ伸びてアクセスを始める。


「マジでもうUPされてる!!スゲェ!!」


 左手が勝手にそのシミュレーションを起動させてしまったので、目も仕方なく今日の魔物戦と重ねて見ていく。


 本当に再現度が高いものだ。


 シミュレーションなので、魔物の数を増やしたり、色々できてしまう。


 この学校に2体出現させることで、8割の学生が死傷するというデータが出た。


 これがあれば、逆に死傷者を出さないための動きが計算可能だ。


 魔物の種類もかなり変わっていたし、全部試したかったけど、こんなの熱中し始めたら時間を馬鹿みたいに溶かすことはわかりきっていたので、今は我慢した。


「死者をゼロにするためには、やっぱり人口のバリアがいるな。町で魔物が出てる時の避難経路の確保と、警国隊の避難誘導をもっと確立させたいし、AIを搭載したアンドロイドに交通整備や避難し遅れた人達が居ないか確認させて、ドローンも増やして…。」  


 “警国隊”(けいこくたい)とは、国の秩序を守る団体で、俺達の国でいう警察と近い組織だ。


 警察との違いは、“正義”で動いているわけではないというところだ。


 表向きは、国の秩序と平和を守るための組織という事になっていて、彼らだけ市民を逮捕できる権限と、銃の所持を許されている。


 でも、実際のところは“地位が高い奴ら”と、そいつ等の住みやすい国のの秩序を守ることと、市民に法を守らせるための組織だ。


 この組織のトップに、母さんを撃ち殺した奴がいるし、そいつはあのクソジジイの手下なので、権限は実質あのクソジジイのものだ。組織としても、その在り方にしても、問題しか無い。しかもそいつらの給料は国民からの税金だ。


 俺が死んだ後、絶対に組織ごと解体されるように、こいつ等の“ホコリ”を全て記録してあるし、国民達がそのデータを全て閲覧できるようになる仕組みや、組織を停止させるためのウイルスも作ってある。


 流石にそのウイルス関連のことはココ“勇育”ではしないけどねと思いながら、一旦シミュレーションを閉じた。


「お前、魔石のエネルギーが熱で感知できることどこで知ったん?」


 この質問は、俺の中で何十回とシミュレーションしたものだ。


 逆の立場だったら絶対に気にするし、技科の人達だけじゃなく、先生やそれこそ警国隊に聞かれる可能性がある。


 でも逆に、全人類この問いに対しての“正しい正解”を知らない。


 俺達魔族ですら、魔力って何エネルギー?と問われてもわからないからだ。


 俺が光らせれば光るし、俺が熱をもたせれば熱を持つ。今回は熱だっただけの話だ。


「俺の作ったエネルギーサーチ機能付きドローンは、熱や電磁力、原子力や太陽光エネルギーなんかの人類が検知できるほとんどのエネルギーを感知するように作っただけなんです。今回は熱に反応しました。」


 今後もそうしていく予定ではあるけど、感知されたくないものは熱を加えないし、水を出す魔物も考えているので、そいつは何エネルギーで感知させるかとかをまだ決めてない。


 魔力は、全魔族が持って産まれる。


 でも、家長さんのようにほとんど持っていない人や、父さんのように大増量した人もいる。


 だけど、それで王が決まるとか無い。


 優劣が決まるわけでもないし、差別もないから魔力量の差を研究されたりしてないほどだ。


 人類ではありえないと、母さんやファル兄は良く話していた。


 警察の事は尊敬していたのに、警国隊の事は“国の犬”なんて言っていたくらいだった。


 優しいあの二人が、自国の人達をそう言うほど、事実でしか無かった。


 人類は、差別的だ。


 絶対にニケ達を、その差別の対象にされるわけにはいかない。


 そのためには、ニケが確実に勇者であると証明され、人類を救うことが必要不可欠だ。


 そのためにも、俺が魔王だと最終決戦までバレてはいけない。


 そのための立ち回りを、俺はいつもシミュレーションしているけど、想像もつかない事が起こるし、もうそれ前提で何が起きても回避できるほどのモノを身に着けなければならない。


 本来人見知りの俺には、筋力をつけるより何千倍も難しいことだけど、だからって逃げるわけにもいかない事だとわかっているし、


 ニケのためなら、どんなことでも頑張れる気だってしていた。


「やーーーっぱし、魔物を生け捕んのがいっちゃん手っ取り早いなぁ。」


「いや、魔力を人類が解明することは不可能だと思うから、身を護る手段として小型の魔物とかの動きを封じるとか以外では……、それができる武器も今後作り出したいけど、勇者科以外の人達ってどのくらいの立ち回りができるのかをまだデータ取れてないしな。」


「勇者科以外って俺達か!?無理だべや!!」


「無理だったら死ぬんだよ。」

 

 何通りか考えてある魔物捕縛用の武器を映し出す。


 まだデータのみでしか存在しないコレは、まだまだ作り出すまでにいかないほどのモノたちだ。


 魔物をもっと出現させることになるし、誰一人殺さない予定なので、わりとすぐ人類達は魔物への危機感を薄れさせてしまうと予想できる。


 立ち向かう人たちも増えるだろうから、そういう人たちに自衛として配るまでいきたい。


 危機感の薄れ=調子に乗るでもある。


 絶対に自分から危険へ突っ込んでいくバカが出てくるので、バカでも死なないでいてもらうためのものも作っておかなければならない。バカをカバーしてくれる人たちも育ってほしい。


 そして、そんなバカたちでは到底倒せない魔物達と、


 危機感の薄れを心底後悔し、絶望に叩き落とす最強の魔王が必須だ。


「難しいけどね。全人類死なせないのって。」


「なんでそんなこと考える必要があるん。とりあえず勝ちゃえぇやろ。」


 最も過ぎるその言葉に、思わず笑ってしまう。



 魔王側からしても、殺した方が楽だ。


 何千人と死んだって人類は絶滅しないし、何万人と死んだ方が、恐怖を植え付けられる。


 人類が滅ぶ直前のほうが、勇者の凄さや強さを際立たせることができるだろう。


 ゲームやマンガだってそうだ。


 モブから主要人物まで、“クライマックスのために殺される”。


 でも、俺は勇者に誓ってしまった。


「ニケの幸せな未来に必要なものが、“全人類の生存した完全なハッピーエンド”なら、俺はそれを叶えるよ。」


 母さん“1人”を失った時、世界が変わったあの日が脳をかすめる。


「もう、悲しみの連鎖は止めないといけない。」


 人類のためにも、魔族のためにも、この戦争で終わらせる。


「お前のオカンどこ所属なんや。警国隊か、市民が勝手に作っとる団体も何個かあるみたいやけど。」


 俺は、嘘をつくことなく答える。


「何処にも居ないよ。もう、この世にいないんだ。」


「なら、オトンはどこや。まさかサラリーマンなんて言わんやろ。」


 嘘をつかない。


 でも、“真実も言わない”。


 俺が一番気をつけないといけないこと、忘れてはいけないと心で唱えていることだ。


 だから、ちゃんと“嘘はつかない”。


「父さんも、この世に居ないよ。」


 何処にも所属してないし、


 サラリーマンじゃないし、


 この世にもいない。


 でも、サラリーマンじゃないよとは言わない。


 言わなかっただけで、その可能性は消えないし、そう思い込む人はいる。


 全部“嘘じゃない”のに、“魔王”からは遠ざかっていく。


 何なら、本人の写真を見せたって“真実を知った生き残り”以外は、魔王だと思わないまである。


 一般的で弱そうなおじさんでしか無いし、事実パンチ力は3歳程度だった。


「お前、歳なんぼなんや。最近後追い自殺の事件なんてあらへんかったことない?」


 “歳”だけは、魔王であることの次くらいにバレるわけにはいかない。


 魔王の息子、つまり僕の本当はニケの4歳上、20歳だ。


 魔王の息子は、魔王が死んでからは産まれない。


 すなわち、人類が予想している魔王の息子の歳は“16歳以上”。


 もっと言うと、今年から戦いを宣言したことによって、18や20といった節目の歳であると思われている可能性が高い。


 でも“ライラ”はニケと同じ年に生まれている設定なので、今年の秋、ようやく16になる。


 これだけでも、魔王の息子候補から少しそれる。


 この“少し”が、俺の“嘘じゃない”と加わることで、大きくなる確信を持っていた。


 今回のような場合は、“はぐらかす”事が一番のはずだ。


 話をそらす方法は何パターンかあるけど、それ以上聞き出しにくい状況に持っていくことが有効なはずだ。


 大人が受ける悲しみより、子供が受ける悲しみの方が大きく感じられる性質を利用する。


 母さんもそんな人だったから、俺はこの優先順位は嫌いじゃない。


 守れるものの範囲が決まっているのだから、未来がある方を選ぶ選択は、きっと大切なことだ。


 でも、結局見える範囲の人達は助ける様な人だった。


 また色々思い出してしまいそうで、首をふる。

  

 いつまでも答えないわけにはいかないし、自作AIで質疑応答練習していたので、多分大丈夫なはずだ。



「どした?」


「色々思い出しそうになっただけ。過去を見てる暇ないのにね。」


 返答の前に心の声が出てしまって、自分はつめが甘いなとため息を付いた。


 シミュレーションでこれでは、本番大丈夫なのか、いや、大丈夫にするけど。


「僕が4歳のときだから最近じゃないし、父さんは自殺じゃなかったから事件性も無かったんだよ。母さんがいないこの世界で生きる気力を無くした事による衰弱死だからね。」


 魔王のダミーを派手に空中爆破させたことを知っている人達はもちろん、その他の人だってあの魔王の死因が衰弱死は予想を立てたり出来ないはずだ。


 でも、俺は何一つ嘘をついていない。


 嘘発見器を使われようが、拷問されようが慌てなくていいし、覆さなくて良い。


「4歳から一人暮らしは、普通に無理じゃね?」


「ムリムリ。父さんの親友が代わりに育ててくれたんだよ。」


「オカンの死因はなんや。」


 聞かれる予想をどこかで立てていたのに、何度もAIと練習したのに、


 今日は急に、母さんの“笑顔”がフラッシュバックする。


 いつも、穏やかにニコリと笑うことができなかった母さんの、最初で最後の穏やかな笑顔。


 いつも以上に白い顔のせいで、画面越しでも血の赤がより鮮明だった。


 最強の母さんを殺したのは、最強の力でもなんでもなく、


 人類では珍しくもない、たった一つの銃。


 本来、けして母さんに訪れることの無いはずだった死因。


「銃…さ、つ…」


「「ライラ君!!!!」」


 たきちゃんとギブさんに名前を呼ばれ、大きくビクリと体が動く。


 ずっと、教室にいたはずだった。


 なのに、教室に帰ってきたような、最悪な感覚を味わっていた。


 ゆっくり視線を動かすと、AIではなく“天才まかみ”さんがいる。


 この人と対峙する時があったとしたら、いつも以上に気合を入れなければとずっっっっっっと思っていたし、それこそ何十回とシミュレーションしていたのに、


 全く発揮できた気がしない。


 むしろ、自分は本当にこの人と話していたのかと疑問に思ってしまうほどだった。


 運良く、1台ドローンが録画を起動したまま俺の肩に乗っていたので、今すぐに何を喋ったか確認したかった。


 でも、ここでそんなの確認し始めたら怪しいどころでは無いし、結局口で聞くしか無い。


 ダラダラと被汗をかきながら、ゆっくりと口を開いた。



「あの…僕、いや俺、何か、怪しい的なこと、喋ってましたか?」


「はぁ!!?嘘だろお前っ、今までのが無意識とかありえんの!!?」


 まかみさんじゃない人からツッコミを受けてしまい、彼に何かを喋っていたことは確定してしまった。


 でも、彼やたきちゃん達の反応からして、“魔王である”事はバレていない……と、思う。


 心のなかで、冷静になれと叱咤する自分に従い、ゆっくりと息を吐いて深呼吸する。


 まかみさんにしっかり向き直ろうとしたら、ギブさんの温かい手が俺の両手を包みこんだ。


「銃殺なら、殺したんは人類の国のやつか裏のやつや。」


 ギブさんの突然のスキンシップに驚いていた俺は、逆にまかみさんの問いかけにはパニクらなかった。


「なんでお前は、人類側で戦っとんねん。」


 人類を憎んでいる人達が、人類にも少なくないことは良くわかっていた。


 魔王側につきたいなんて人達が現れる予想だってできるほど。


 その可能性を、この人だって考えてるからこその問いだった。


 この天才の“もしも”を下回るわけにはいかない。


 この人に危険視されては、難易度が桁違いで上がるのは、火を見るより明らかだ。


 この人なら、俺が魔王である可能性にすらたどり着く可能性がある。


 それを念頭に置き続けることを改めて自分に刻みつけるように、慎重に言葉を発した。


「俺の母さんも、人類だから。」


 まかみさんの眉間に小さくシワが寄ったけど、俺はわざと気にしてないふりをしてそのまま続ける。


「ニケや、ニケの大切な人達も、人類だから。」


 ニケも、ニケの家族や将来のお嫁さんも、たきちゃんやギブさん、目の前のまかみさん達だって人類だ。


 父さんの殺戮の罪滅ぼしなんかじゃない。


 俺の幸せ実現させるための、私利私欲の戦い。


 だって、俺は魔王だ。


 強欲じゃないわけがない。


「だから、この戦いで完全な勝利以外目指してない。」


 ちゃんと周りを見えていたから、まかみさんじゃない人が俺に問いかけてくることもわかることができた。


「妻が殺されたら、普通は衰弱死しなくね?キレて復讐するだろ。」


 俺が何かを答える前に、彼は後ろにいた友達らしき人に思いきりゲンコツを食らってしまう。


 急いで止めたかったけど、目の前にまかみさんがいて彼の元へはいけなかった。


「俺間違ってなくね!!?」


「んなことしたって戻ってこねぇんだよ!!」


「ならせめて息子ぐらい育てろよ!!なんだ衰弱死って雑魚か!!?」


 また殴られそうな彼は、本当に何も悪くなくて申し訳なさしか無かった。何とかドローンを使って彼らの間に入りこませ、殴られることは回避させることがでたけど、もう一人友達のだと思う人が後ろから軽く小突いたのは止められなかった。


「マジでお前が悪いじゃん。デリカシーねぇよ。」


「何も悪くないよ。きっと母さんだって、育児放棄だけはしてんじゃねぇよって思ってると思う。」


「そうだべ!!?」


「でもね、父さんは……死ぬほど母さんを愛してたんだよ。世界が母さんかなら、母さんの人だったんだ。」


「おっも!!!!!!」


 彼の心からの叫びに、思わず笑ってしまう。


「そんなオトンを愛せたほど、強くてえぇ女がオカンやっただけやなぁ?」


「そうだよね。運命じゃん。」


 そう言ってくれるたきギブコンビが優しすぎて、後光が見えた気がする。


 騙し続ける代わりに、絶対に何も奪わないから、どうか俺が死んだあと生涯幸せに暮らしていってほしい。


「ムキムキなのにいい女なの?美女でムキムキあり得るか?」


「美女じゃないよ。顔はほとんど俺と一緒。」


「「えぇ?」」


 クラスの殆どが俺を上から下まで見る。


 見てからのええ?だった。


 これは言わないほうが良かったかという焦りより、お前ムキムキは無理じゃんという皆の心の声が聞こえてきて、そっちがショックだった。


「嘘じゃないし………、母さんより筋肉つかなかったけど。目力も受け継がなかったし、目の色や髪質も父さんの遺伝だけど。」


「お前それ、母ちゃんと同じなの髪色だけってことじゃね?」


「いいでしょ別に!!」


 まさかギブさんのほうが彼に食って掛かってくれるなんて思っていなかったけど、それを止める間もないほどほぼ同じタイミングで、パシャっと写真を撮られる音がなった。


 まかみさんが携帯を俺に向けている。


 彼なら、無音のものや、カメラに見えないものをどれだけでも用意しているはずなのになと思ったけど、そのまま無言で教室から出ていく後ろ姿を何も言えずに見送った。


「サルは気にせんでえぇよ。」


 たきちゃんが後で消させとくと言ってくれたけど、あえて首は横に降った。


「彼が撮ったなら、必要だと思ったんだよ。俺が嘘をついてない確証もないし。」


「あいつも、ライラくんと同じで人類の勝利に本気やからね。」


 俺は、心から嬉しいという思いを込めて頷いた。


「私達は、嘘ついてるなんて思ってもないしね。もしそうなら男優賞ものだよ。指先まで冷たくなってたんだから。」


 優しいギブさんの手が、いまだに右手を握っていてくれていることに気づき、彼がホモだと思われないか心配だった。


 でも、そんな俺に気づいた様にギブさんは、逆に手を握る力をゆるく強める。


 たきちゃんも、俺の両肩に手をおいた。


 守られてしまっている。


「まかみも、きっと調べ上げて晒そうとかそんな気はないよ。」


「調べることは全然いいんだよ。でも、ホントに事件になって無いし、母さんたちの写真を入手するとかは無理だと思うから、まかみはスッキリしないかもね。」


「えぇ?写真なら一枚は確実にあるだろ。産まれたら全員撮るやつ。」


 さっきゲンコツを食らってしまった彼が言うように、この国では誕生日を祝うと言う名目で、全ての人類は子供と両親の写真を国に撮影される。


 もちろん、何もやましいことがない人達は無料で国から我が子との写真を提供してもらえるだけだし、ほとんどの人達は強制である事を知らないほどだ。


 でも、これは国…、いや、母さんのことを殺した奴らが、母さんや父さんに似ている子供、同じ色の子供を見つけ出すためのものなので、拒否権は無いし、拒否すると重い罪をかせられる。


 それでも、隠れて子供を産んだ人達や、駆け落ちした人達は撮っていないこともあるので、余計に写真がないというのはあのクソジジイ達以外からも冷たく見られてしまうというのが現状だ。


 俺は、この国で産まれてないから国へ写真は提出してない。写真は“歳の偽り”を明るみに出すことにもなるし、魔族かもしれないという疑惑を深めるものだ。


 だから、この写真に関しては他より多くのパターン返答を考えていた。


「俺ね、出産の時ほとんど死んでたんだよ。」


 これも、本当の話だ。


「母さんはね、筋肉がつきすぎてて自然分娩に適さない身体だったんだ。」


「そこまで!?そんなガチガチな事ある!?」


「あるんだよ。男性より女性の方が筋肉が付きにくいのは、やっぱり出産するためってのが大きい程なんだ。普通の何倍もガチガチな母さんでは普通の何倍も大変だった。」


 彼がまだ何か言いたそうだけど、わざとわからなかったフリをして続きを話す。


 こっちのペースへ持ち込まなければ、何を話しても意味をなさないからだ。


「俺は無理やり取り出されたに近かったんだよ。でも、すでに仮死状態って言うか酸欠で、頭部や胃からの出血も発見されたんだ。」


 この話は、実はニケにすらしていないことだった。


 ニケに両親の事や写真の事を聞かれたら答える気でいた回答だけど、ニケは一度も聞いてこなかった。


「だからね、直に母さんとは別々の所に連れてかれたし、誕生おめでとう!ってムードでもなくて、俺が赤ちゃんの写真は撮ってないんだよ。」


 この制度も完璧じゃないからこその言い訳。実際、俺と同じ理由で赤ちゃんの時は撮れなかった人もいるだろう。


 写真を提出したかをデータ化している国だからこそ、俺は提出してあることにできている。


 もし、まかみさんレベルの人が調べたら提出していないとわかるので、あえて提出したかを有耶無耶に話した。


 俺が死んだら、100%の祝福として撮影されるだけで、写真のデータを国へ提出なんかしなくてもいいようになってほしい。


「すごいよね?そんなに苦しめた俺のことを、母さんは本当に愛してくれてた。」


 この国に来てから、何度も何度も母さんにとって俺はどんな存在だったか考えた。


 でも、大きくなるにつれて、あぁ、あの時の母さんのコレは愛だったなと気づく事が増えていき、今では、母さんの俺への愛を疑ったりしていない。


「だからお前、そんなちびなの?」


「これは父さんの遺伝!!」


 反射的に叫んでしまったけど、魔王から遠ざかるのでまぁ…良しとする。


 また小突かれてしまった彼に大丈夫か声をかけようとすると、ぜんぜん違う方からぜんぜん知らない声がした。


「だからお前、さっきから大口叩いてんだな。」


 大口は叩いてないんじゃ?と振り返ると、三人くらい固まってニヤニヤしながらやめてやれよとじゃれている。


 このやめてやれよはやめてやれよではない感じだ。


 わかっているのか、言われた方もやめなかった。


「どっかの誰かが魔王に殺されても、叱る親も何もねぇもんな?」


「あぁ、そういうことか。低身長のどこらへんが大口なんだと思ったよ。」


 俺の返事や態度が思っていたものではなかったらしく、そいつの顔は歪んでいく。


 でも、どうせすぐ顔を忘れるだろうし、俺は特に話すこともなくPCへ向き直った。


 人工バリアの案を映し出し見返す。やっぱり動力を早くどうにかして実現に持ち込みたい。


 力を使えばバリアなんて余裕なのに、作るとなるとこんなにも大変だ。


「マジでバリアなんて作る気?無理じゃね?神の子でもないのにさ。」


 神なんていない。


 だからこそ、答えは決まっている。


「できないと、死ぬんだよ。」


 しかも、俺以外の誰かだし、どんなに力があったって死んだ人は生き返らせれない。


 何としてでも、死亡は阻止させなければ。


 全人類生きて、俺が魔王としてニケに倒されるのを目に焼き付けろ。


 そして、ニケ達の強さと、たきギブの優しさ、まかみさんやたまきさんの凄さに感服して、崇め讃えて100年の平和と幸せな日々を約束し、日々幸せを噛み締めて感謝して生きていけ。


 ニケと救護科の美少女のラブストーリーを映画にして大ヒットさせたっていい。


 また集中できそうだったので、今度はマスクをしてPCを打ち始めた。


 今度はちゃんと変なことを喋らず、ニケが昼ご飯とおやつを要求しにくるまで作業することができた。


 ニケはお弁当を持ってくるか、購買で買うだろうと思っていたから、ニケの分のお弁当なんて作っていなくて、わりと本気で蹴りを食らわされる。


 作るのは全然いいけど、手作りのお弁当を渡すのってホモっぽいんじゃないのか?


 またホモがわからなくなったし、蹴りの重さで、ニケの成長を実感した。


 お昼を作らなかった罰として、今日は大量のザンギをご馳走する事になり、お昼ご飯を食べたらすぐ帰宅した。


 本当に、一日があっという間だ。



 

 


銀の箱(大) 名前 パン 分類(大型掃除機)


ライラの作った、大型の掃除機。

AI搭載で、ライラが指示を出したものを無くなるまで吸い尽くし、容量がいっぱいになったら自分で黒いゴミ袋に入れて外へ出す。

見た目はシンプル過ぎる銀の箱だが、色々詰まっている。

掃除機なのに見た目が完全にただの銀の箱なので、初めてパンが魔物の砂を掃除し始めたときは、勇者科の生徒だけでなく、ほぼ全生徒がどこから砂を吸っているのか地味に気になった。

大体もう一体の銀の箱(小)である成分分析器のドラとセットで活躍する。

名前は安直にパンドラの箱からライラがつけた。

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