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コーラルのヒーローじゃなくなった日 後編

コーラル視点後編です!


作者はコーラルが本当に好きなので、ぜひ少しでもコーラルの気持ちが伝わればといつも以上に悩んで書きました!


読んでくださった皆様、ありがとうございます!

 突然グラウンドの上空に現れたバケモノが、翼のようなものを広げる。


 様なものといったのは、翼と呼んでいいか怪しかったからだ。


「総員!戦闘体制!!」


 騎士のハリアモンド先生の声を聞き、ニケ以外の勇者科は全員戦闘体制をとった。


「ギョュアァァアァーーー!!!!!!」


 今まで聞いてきた鳴き声の中で、一番嫌な声を上げながら、バケモノの体が黒く光りだす。


 あれが魔力で、コレが魔物だと肌で感じた。


 あんなもの、どう見たって人工のものじゃなかった。


 人類の作り出せる光じゃない。


 CGよりCGの様な魔物に、ハリアモンド先生が先行して斬りかかっていく。


 彼が人類最強だと、納得するほどの強さだった。


 でも、どこを切っても、何をしても、魔物にはダメージはなさそうだった。


 もともとひどかった造形が、どんどんひどくなっていく。


 かろうじて鳥だなと思えてた形は、どんどんぼろぼろになって大きな傘のバケモノみたいだ。


 腕が切られても、足が切られても動けなくなる人類と違うぞと、俺達を嘲笑ってるようにも思えてきた。


 切り落とされた魔物の切れはしが、ぼたんと気味の悪い音をたててグラウンドに落ちて、ウゴウゴ蠢き始める。


「キャァ!!」


 耐えきれなくなった救護科の女子が悲鳴を上げた。


 その声を合図にしたかのように、ソウを含めた勇者科が一斉攻撃を開始する。


 あの技科の奴は大丈夫なのかと、やっと思いたって木の方を見たらいない。


 焦ってニケの方を見たら、なんとあいつはニケと一緒に本校舎へ救護科の人達を避難させていた。


 そのあまりにも無駄のない避難誘導に、俺が知らないうちに避難訓練してた?とかバカみたいなことを考えてしまって、自分で自分を殴りたくなる。


 やっとわかった。


 あの技科の奴の方が、俺よりずっとリアルに魔王戦に備えていたことを。


 きっと、今戦ってる人達は勇者科として正しい。


 ニケ達は、ヒーローとして正しいかった。


 俺は、どうすんだ。


 俺の中で、また俺に問いかけてくるやつがいる。


 いつも、俺の中にいる冷たいこいつが、俺は嫌いだった。


 だって、こいつも俺だから。


 こいつは、俺のなりたいヒーローみたいじゃなくて嫌いだった。


 でも、何故か今はそうでもなかった。


「おい、ニケ。」


 ニケ達が避難をさせ終わったのを確認して、声をかける。


 戦いもしないで突っ立っている俺が呼んでも、ニケはマジで顔色一つ変えない。


 そんなニケをしっかり見ても、焦りとか変な気持ちが湧いてこなかった自分に、少し嬉しかった。


「ニケはさ、アレとどう戦う気?」


 ニケは俺の問いかけに答えずに、隣りにいる技科のあいつを見て、どこ?とぶっきらぼうに言った。


 本当にどこ?の二文字だけだったのに、技科のそいつはわかったみたいで、焦りもしていなかった。


「右足の指、ちょうど真ん中の長い指の中心かな。」


 言われてやっと、そいつが起動させてるスケスケのパソコンもどき的なやつに映っている魔物の足が、赤く光っているのに気がついた。


 振り返って本体を見てもそんな光はないので、パソコンもどきに特殊な何かがあるんだろうくらいしかわからない。


「何メートル。」


 また、短くそれだけ言うニケに文句も言わず、そいつがカタカタと少し手を鳴らすだけで、画面の中の魔物と地面が点線で結ばれる。


 画面の中だけなら、ゲームみたいだった。


「5.5メートルだよ。」


「ちっ。」


 ニケが、思いっきり舌打ちをする。


 人類は、空を飛べない。


 ジャンプ力のあるニケだって、人類だからたった5メートルだって飛べない。


 ニケが無理なら、ほとんどのやつが無理だ。


 戦い続けているハリアモンド先生が人類離れしてる。


 なのに、あんなものをバンバン作れる魔王に勝てるのか?


 人類最強でも歯が立たない相手に?


 今更すぎることを、俺みたいに気づくやつが出始めているのがわかった。


 武器や、心の牙を折らない奴らのほうが少なくなっていく。


 でも、今やっとその牙を向けようとしているニケなら、きっと届くと思った。


 技科のやつなんか、1%も疑ってない。


 よっぽど、自分のパソコンにも自信があるんだなと思ってよく見ると、光っている方の足は左足で、え?と声にも顔にもでてしまった。


 俺のそれに気がついたニケが、始めて画面をはっきりと見る。


「イーラ、こっち左な。」


「えぇ!?」


 しまったとか、またやらかしたとか言って赤くなっていく技科のやつのせいで、また俺の中のやつが言う。


「こいつら、ほっといていいわけ?」


 俺にしか聞こえない俺の声に、あえて返事をしなかった。


「ニケ、お前飛べばやれんの?」


 わかってて言ったから、ニケの返事を待たなかった。


 両手を握って、腕を伸ばしてかがむ俺は、ヒーローでも勇者でもなく、ダッセェなぁみたいな格好だ。


 身体が、俺の中の俺に乗っ取られてた。


 “ヒーローじゃない”冷静なコーラルが、自分の意志でニケのジャンプ台になりあがる。


「ほら、一発で決めろよ。」


 ニケは、マジでなんのためらいもなく走ってきた。


 1ミリも躊躇や遠慮をしないで、思いっきり俺を踏み台にする。


 マジで、少しも俺を疑ってなかった。


 ニケが踏み込む力が、重さが、それを伝えてくる。


「おら行け勇者!!!!」


 俺の腕の動きに合わせて、ブオンと音がなるほど勢いよく、ニケは飛び上がった。


 ニケは人類なのに、魔力なんてないのに、羽もないのに空を飛んだ。


 途中、勇者科の誰かが放つ槍かなんかまで踏んで道にして、もう何がどうなってんのかわかんねぇくらいビロンビロンになった魔物の端っこを駆け上がり、皆が攻撃していた頭や胸部へは目もくれず、ちゃんと左足を狙った。


「わりぃな鳥野郎!」


 ニケは、一撃で切断する気で剣を振り上げた。


「俺が勇者だ!」


 ザンッと、一撃で切り落とした足は落ちていく。


 でも、魔物にはダメージがないように見えて、見ていた人達がざわつくのがわかった。


 俺と、技科のやつ以外、落胆か絶望していた。


 そんな絶望なんて吹き飛ばす大きさで、ニケが思いっきり叫ぶ。


「コーラル!!!」


「わかってんだよ!」


 打ち合わせとかなかったのに、名前を叫ばれただけなのに、俺はそう返事をしていたし、身体が全力で走った。


 ニケは、俺の剣があるところに足を落とすとこまで計算していたと、走りながら理解した。


 ギリギリ足が落ちてくる前に剣を拾って、鞘を乱暴に捨てる。


 マジで、なんでこんな重いもん選んだ!バカだろ俺!と思いながら、その怒り全て込めて、落ちてきた魔物の足へ振り下ろした。


 技科のあいつが言っていた、真ん中の長い指を狙って。


 ダンッと硬めの肉を切るみたいな音の後に、中から小さくパキッと音がした気がした。


「ギャオアオォォォッ」


 叫びながら蠢く鳥野郎と、その足がみるみる砂に変わっていって、中からパキッといった音の正体と言わんばかりに小石が出てきた。


 その石が黒いせいか、技科のあいつの目に似てる気がしてしまった。


「全員退避!!」


「てめぇら引けぇ!!!」


 ハリアモンド先生とニケの声が重なる。


 魔物は力を無くしたように、雪崩になってグラウンドに砂山を作っていった。


 意外に、あの大きさの割に砂は少ないなと思ったけど、砂に見えてるコレが俺の知ってる砂かわかんねぇし、これからどうすればいいか全くわからない。


 内心めちゃくちゃ焦っていたけど、かろうじて技科のやつを守んなきゃと思えて棒立ちだけは回避できた。


 なのに、振り返るとまたあいつはいなかったし、見渡したらすぐ見つかったけど、見間違いかと思った。


 あの細いチビが、技科で“核弾頭”なんて呼ばれ方をしてる、あだ名がサルの人を必死で止めている。


 必死なのは顔と声だけで、自分よりデカくて走り出している人を引き止めてる様に見えない力の入れ方だ。


 あのサルの人がめちゃくちゃ軽くないとありえないくらい軽々と止めてる。


「今から砂は全部集めるんで!すぐに砂の成分を調べて成分表を叩き出すんで!!安全が分かるまで待っていてください!!!」


 あいつ、あんなでけー声出るんだと、中の俺が呑気に現実逃避した。


 現実逃避を打ち破るように、シャカシャカ音をたてて銀の箱…


 もう、それ以外に何も言えないドシンプルな銀の箱が、大きいのと小さいの2体?…二箱?…とりあえず2個、すごい速さでこっちへ向かってきた。


 車輪すら無い箱の、どこからシャカシャカと聞こえてんだよ。


 そんな俺の心の声は、大きい方が砂と一緒に吸い込む。


 グラウンド中に降ってきていた砂と砂山を、ゴォォと勢いよく吸い込んでいく銀の箱(大)は、吸い込むだけじゃなく、自分の中に砂が溜まると袋詰の状態で外に吐き出した。


 蓋もバコッと自分で開いたり閉まったりして、全自動だ。目らしきところはないのに、まるで全部砂の場所がわかるように綺麗に吸い込んでいく。


 小さい銀の箱は俺の近くまでやって来ると、銀の細い腕のようなものを両端からだして、自分の蓋を外し、中に入っていたガラスの瓶に水だと思う液体と、魔物から出た砂を入れて、自分で蓋を閉めるてから、ウゴンウゴンと控えめに動き始めた。


 大きな方も俺のそばに来て、あの小石ごと吸い込んでしまったのが見えた。流石にやばいと思ったタイミングでピーーー!と小さいほうが音を出し始めて、軽くパニックみたいになる。


 銀の箱(小)から、何にか書かれた紙が印刷機のように出てきて、コレが成分表かと理解できたら、パニックは落ち着いた。


 (大)の方が、最後なのか小さい袋を吐き出し、(小)がその小さい袋を器用に開け、中からあの小石を取り出して瓶へ詰める。


 欠片を別の瓶に入れ、また水みたいなものを入れて自分の中に閉まった。


 ウゴンウゴンと動き出した小さい方に、あぁ、その小石調べてくれんの?マジで助かるわ。サンキュと心のなかでお礼を言った。


 この銀の箱を作ったのは、きっとあいつだ。


 素直にすげぇなぁと思ってあいつの方を見たら、ダッシュで技科舎へ帰っていくのが見える。


「今じゃねぇだろ!!」


 流石に声を出してツッコんでしまった。


 でもあいつは、本当にイノシシもびっくりなほど真っ直ぐ帰っていって、ニケにすら会っていかない。


 箱すら置きっぱなしだ。


 あいつの代わりに、あの止められていたサルの人がいつの間にか俺のそばに来ていた。


 俺がビビってるのも気にしないほど、その人は銀の箱(小)から出た紙を真剣に読んでる。


 真剣に読むのはいいけど、小さい方に腰を下ろして椅子にするのはやめてあげてほしい。心配になる。


 ゆっくり集まってきた人達が、ザワザワ話し始めて、この箱も、この紙も、あいつの物なのに、 この人がやったことだと勘違いしてることに気がついて、すげぇ嫌だった。


 でも、聞こえているはずのニケはいつも通りの感じで俺のそばに来た。


 あいつがいないことに、疑問すら持ってなかった。


「ニケ、コーラル。」


 俺達を呼んで近づいてくるハリアモンド先生は、真剣な眼差しだった。


「ちょっと、話聞かせて。」


 その、疑われているような空気と言葉にに、俺は素でえっと言ってこわばった。


 でもニケは、わかっていたと言わんばかりに


「飲み物くらい奢れよ。」


 と言ってのけた。


 先生の方が、そんなニケにほっとしたような苦笑いをして頷く。


 その下手な笑い方が、科学のやつの笑い方に似ていた気がした。


「こーちゃん!!大丈夫だった!?」


 駆け寄ってくるソウに、俺はいつものような気の抜けた返事を返す。


 多分、ソウは足がどっか痛めてるけど、それをこんなとこで悟られるのを許さないやつだから、俺は後でちゃんと処置させることを忘れないように心に言い聞かせて、何も知らないふりをした。


「てゆーか、お前俺の活躍見てなかったのかよ。」


「見てたよ!!こーちゃんがジャンプ台として輝いてるところ!!」


「なんでだよ。最後かっこよく足ぶった切ったべや。」


「アレ足だったの?」


 ハリアモンド先生の声は、軽い質問をしてるもののそれなのに、顔っていうか、目つきがちゃんと探るものだった。


 何だか今日は、いつもよりこういう事がわかっちまうなと中の俺がつぶやく。


 俺が先生へ返事をする前に、話し始めたのはめんどくさそうなニケだった。


「まず、飲み物。俺緑茶の“デカワシ”しか飲まねぇから。」


 銘柄まで指定してふんぞり返ってるニケを、ハリアモンド先生は逆に疑うとかなく見つめた。


 本当に見つめたが正しい感じで、見つめたまま何も言わない先生に、ニケの方がイラッとした顔をする。


 今にも何?と喧嘩を売りそうなニケに、先生は聞いたことがないような声色を出した。


「ニケ……、お母さんの名前教えて?」


「…はぁ?」


 ジリっと先生が近づく気配がして、ニケはビュンっと嫌がる猫みたいに飛び退き俺の後ろへ来た。


 瞬間移動くらい早かった。


「そんな怖がんないでよ。ちょっと知り合いに似てるからさ。」


 そう言う先生は、気軽にハリーさんって呼んでねと言っていた時のテンションと声色に戻っていた。


 ニケはハリア…この際ハリーさんにする。


 ニケは俺の後ろから顔を出し、ハリーさんの指を見ていた。


 光っているのは、シンプルな銀の指輪。


「女の人と、結婚してるな?」


「うん!!超絶美人!!ニケと似てるって言ったやつとは180度ピッタリくらいタイプが別だよ!!」


 その言い方に俺はイラッとしたのに、ニケは明らかにほっとした。


 本当に、ホモが無理なんだなとわかったし、技科のあいつがホモと言われて焦っていた理由もわかった。


 俺だってキモいと思ってたし、それこそ、子供を残す気のない奴らとか、国民としての義務をはたす気のねぇだめな奴らだと思ってた。


 でも今、中の俺が「そのだめなってのは、誰の中のなんだよ。」と言ってくる。


 本当に、自分の気持ちで、自分の考えなのかよって。


 答えはすぐに出なかったけど、俺はニケより本気で怖がってない気がした。


 ニケと違って美形じゃないから、狙われることが無いからかもしれないけど、


 サルの人がホモだって噂だし、多分真実なのに、気持ち悪いとか、鳥肌が立つとかなかった。


「ニケのお母さんの話は、明日ゆっくりお茶しながら聞くとして、」


「やだけど。不倫は人を不幸にするんだぞ。」


「しないって!俺ほど愛妻家もいないよ!?タイプ180度違うし!」


「アンタ母さんのこと知らねぇだろ。180かわかんねぇべや。」


 完全に警戒したニケに気がついたのは、俺やハリーさんだけじゃない。


 一番人の気持に敏感なのはソウだ。


「こーちゃん、ニケとそんな仲良くなったの?ジェラルぅ。」


 わざとくねくねしながら話し出すソウは、ホモっぽいと怒られるのを狙ってるまである。


 でも、怒られることはなかった。


 ニケも、ハリーさんも、サルの人が小さな箱だけ持ち帰ろうとしているのに気がついたからだ。


「まかみ、俺もソレの説明聞きたいから。」


「ちっ。」


 完全に、完璧な、“こいつうぜぇ”の舌打ちだった。


 聖女の騎士にしていい感じじゃないガチのやつ。


 なのに、ハリーさんは何処か嬉しそうまであった。


 舌打ちするほどなのに、一応留まってくれたからかもしれない。


「成分表?この砂なんだった?」


 そう聞いたのがニケだったことに驚く。


 サルの人がホモだってことは、勇者科でも有名だったからだ。


 でもニケは、彼に嫌悪的なものを持ってなかった。


 そこで初めて、ホモの人だってタイプはあるという当たり前の事に気がついた。


 むしろ、同性愛者に風当たりどころか法的にも厳しいこの世の中で、堂々惚れてると公言しているほど愛している人なんて、本気度がすごいし、逆にそこら辺の男たちよりふらつかない可能性が高い。


 サルの人とか言って、心のなかでバカにしてたと思う自分を反省した。


 サルの人あらため“まかみさん”も、ハリーさんよりニケへの態度は優しめに見えた。


「成分的にも砂や。人類の土地と変わらんし、そぉ深い地層のもんでもない。後でわしのやつでも調べ直すけど、まぁ、結果は同じやろ。」


「え?コレまかみの機械じゃないの?」


 違うと言ってくれると思ったのに、まさかの無視だった。


 聞いたのがハリーさんだからだと思う。


 ガチで嫌われてる?って感じの無視。スルーじゃなくて完全に無視だった。


「ハリーさん、こいつになんかした?」


 ハリーさんにそう聞いたニケは、少し怒ってるまであるような声で、ハリーさんは両手を上げて無実のポーズを取る。


「まさか!俺はまかみのこと大好きだよ!」


「きっしょ。」


 まかみさんはさっきのニケみたいな、毛を逆立てるみたいに警戒してニケの後ろへ隠れるように移動した。


 ニケは嫌がってないし、何ならハリーさんからガードしてやってる感がある。


 後ろへ移動したまかみさん自身が、そんなニケに不思議そうにしていた。


「お前、ホモが駄目なんやなかったか?」


「俺が、巻き込まれなきゃ大丈夫なんだよ。お前は好きなやついるし一筋だろ。不倫は人を不幸にするから、異性も同性も関係なく駄目だし。」


「まかみへは純粋な愛だよ!不倫しません!」


 必死なハリーさんが何だか不憫になってきたところで、ピーーーとまた音がなり、そういえばあの小石も調べてくれていたと思い出した。


 箱から紙が出てきて、書かれている言葉は“一致する物質なし”だった。


「まぁ、そぉやろな。」


 やっぱり、人類の国に無いものなんだと実感する。


 まかみさんが箱ごと持っていこうとしたのを、またさり気なくハリーさんが止めたし、それはしょうがないことだと俺でもわかった。


「何を調べてたの?砂以外に何か検出できてた?まかみより、コレ作ったって子に話を聞いたほうがいい?」


 ハリーさんは技科舎の方を見た。


「ニケやコーラルが、魔物の弱点をわかった理由も関係するよね?」


 ハリーさんは正しいし、何も悪くないのに、あいつに会わせるのは嫌だった。


 あの、いかにも人と喋るのにむいてないあいつが、


 きっといっぱい努力していただけのあいつが、なんで魔物に詳しいんだって問い詰められる気がして嫌だった。


 俺だって、魔物を倒して褒められるどころか、色々話せと言われるなんて思いもしてなかった。


 でも、よく考えたら当たり前だ。


 俺達は、魔物が“人型”にならない確信を持てない。


 人類の中に裏切り者がいない確信も持てない。


 魔物が何なのか、どうやって砂があんな風に動くのか、原理も何もわかってない。わからないのが普通だ。


 普通じゃないやつが疑われるのは当たり前だ。


 でも、そんな事疑い続けて普通に生活できる気がしなかった。


 疑われ続けたって、絶対にきつい。


 ただの砂すら、成分が分かるまで怖かったし、何なら今でもあの小石がまた力を持ち始めるんじゃないかって怖がってる俺がいる。


 でも、この怖さがこの程度で済んでるのは絶対に箱達のおかげだし、作ってくれたあいつのおかげだ。


 あいつだって、怖かったから用意してたんだ。


 あんなに必死でまかみさんを止めていたあいつは、きっと誰より怖くて、怖い思いをさせたくなくて、必死になって考えて作ったんだ。


 俺なんて、真剣に考えてるつもりになってただけだ。


 学校の授業中、急に魔物が現れて俺が倒すって想像を何十回としてたのに、ただの妄想でしかなかった。


「このおっさんに言いたないなら、後でわしにだけどうやって魔石の存在を知ったか教えるだけでえぇ。」


「魔石?」


 まかみさんに聞き返したのはニケだ。


 俺も魔石なんて言葉を知らなかったけど、斬った本人だからあの小石のことだとわかった。


「ん?知らずにどー見つけ出したん。」


「イーラの画面に赤い丸がついてたから。」


 その通りだけど、その通り過ぎるニケのセリフに、もっとちゃんと言わねぇとあいつが怪しまれちまうだろと焦って、俺が補足を入れる。


「熱かなんかわかるサーモグラフィー的なので見てたし、サーモグラフィーなら技科の人達なら普通に作れる人いるんじゃね?魔物のエネルギーが一箇所に集中してるかもとか予想してたとか。」


「熱でわかったの?魔物のエネルギーって熱で感知できた?」


 ハリーさんさんの質問に、平然とした顔で答えるニケは、本当に当たり前のことのように言ってのけた。


「俺達は、魔物がどんなタイプでも倒せるように訓練して準備してきただけなんだよ。」


 ニケは、俺と違って魔物を倒したり、勇者と名乗ることで疑われ続ける可能性をちゃんと持っていたんだと驚きを隠せなかった。


 同時に、やっぱりこいつ等はすげぇなぁと思ったし、そんなこいつらが聖女様の騎士に疑われ続けるのは嫌だった。


「ニケ達はさ、何歳くらいから本気で魔物や魔王の事考えてた?」


 俺がわざわざここで聞いた理由は、ニケ達が努力してきたことをハリーさんに聞いておいてほしかったからだった。


 きっと、ニケ達は人より頑張ってきただけだし、それを聞けばハリーさんも信用してくれて、技科のやつへの聞き取りが威圧的なものじゃなくなることを期待した。


 でも、ニケはいつも予想を遥かに超えてくる。


「5歳からだけど。」


「え?聞き間違えた?15?」


「耳わりぃのかよ。5だわ。」


 聞き返した俺は悪くない気がするほど予想の何倍も低い歳だった。


 でも、ニケは嘘なんかついてないと顔を見ればわかってしまう。


「俺達は戦争を経験してねぇ。昔の魔王も、魔物も、実物を見れてねぇからこそ、魔物が生物でも、無機物でも、機械でも倒せるように訓練してきたし、どんなタイプの魔物なのか調べられるだけの技術や機械を準備してきただけなんだよ。」


 だけなんだよなんて軽く言っていいことじゃない。


 それをできている人がこの学校に何人、この国に何人居るんだろう。


「魔王が別の場所で魔物を操ってて、人類を疲弊させてから挑んでくる可能性だって十分あったから、まず魔物が生物かどうかわかるように備えてたし、違ったらエネルギー源はあるはずだから色んなパターンのエネルギーを感知できるやつを作ってたんだよ。たまたま熱が当たりだっただけだろ。」



 ニケは大した事なさそうにしゃべってるけど、お前それ絶対にめちゃくちゃ大変だったろと俺もソウも呆気にとられてる。


 ニケが空に浮いてるドローンを見て、そうか、こいつが感知したりもできるのかと感心した。


 また、素直にこいつらすげぇと思えてる自分が少し嬉しかった。


 俺は、ハリーさんの顔を見る。


 改めてみると、この人もイケメンだなと思った。


「俺も、ニケと一緒で魔石って言葉も知らなかったっすけど、さっき足を斬ったとき小石も斬ったみたいな感覚があって、砂の中から小石みたいなのが見えたから、それがそうなのかなくらいに思いました。」


 ハリーさんは、疑わずにそっかと頷いてくれてホッとする。


「まかみは、魔石なんてどこで知ったの?」


 この質問すら、まかみさんは無視だった。


 いっそ清々しい。


 この人は無視しても怪しまれないほどの実力者なんだろうし、キャラ的にも違和感ないんだろう。


 けど、同じ技科でもあいつは無視とかできないだろうし、話すのも絶対に苦手だろうから明日はフォローしてやろうと決めた。


 きっとソウも自然とフォローするだろうし、ニケだってぶっきらぼうに見えて大事にしてる。明日がきても大丈夫な気がしてきた。


「この箱の中に、魔石が入ってる?」


 まかみさんはやっぱり無視なので、代わりに俺がはいと答えていた。


 まかみさんはそんな俺を睨んだりしなかったから、本当は彼も、魔石なんて危なくて国の今後にも関わってくるものは、聖女の騎士にも重要なものだとわかってるんだろう。


「斬ったって事は、何個かに分かれてる?まかみが調べたい気持ちもわかるから、はんぶんこしない?国としても魔石があったって事実を証拠として保存とかしておきたいし。」


「国の無能共に渡すより、わしが調べるなり、わしの作るもんのエネルギー源にしたほうが何百倍も勝率は高いに決まっとるやろ。」


 睨むまかみさんをたしなめたのは、ニケだった。


「お前が国から怪しまれないための証拠にもなるから、半分渡しておけ。お前はちゃんと人類だろ。人類が作れるものじゃねぇって国が認めねぇと、魔王を倒したあとお前が魔族とか魔力を持ってるとか難癖つけられる可能性があんだよ。」


 ニケが言っていることは、本当に考えたこともないことだった。


 でも、考えたら全然ありえないと言えないことで、何だかグチャグチャとは違う、重くて嫌なものが腹に貯まるみたいな感覚がくる。


「わしは魔王戦の後、全人類なんてどぉでもえぇ。でも、お前はちゃうんやろ。標的になるんやとしたらお前や。」


「標的じゃ駄目だから、俺は人類として純粋に、才能と努力で魔王に勝つんだよ。」


 ニケが人類なのは当たり前の事なのに、すごい意味があるんだなと思った。


 聖人様達と違って、神の力なんかニケたちにはない。


 なんの力もないはずのニケが強すぎたら、魔族的な不思議な力だと疑心暗鬼になる人が出てきてもおかしくない。


 魔王が居なくなったら、人類の脅威は無くなる。だからこそ、次争うとしたら人類同士だ。


 ニケやまかみさんの強さや技術を奪い合ったり、巻き込んだりしてもおかしくない。


 だって、魔王がせめてくるまでは、人類同士で戦争していた事実と歴史が残ってる。


 俺は、人類の残酷さも、卑怯なところも知っていた。戦争を経験して無くても、学校生活で肌で実感していた。


 でも、目を背けていた。魔王や魔族だけを悪者に考えてた。


 そっちのほうが、悩まなくてずっと楽だった。


 でも、ニケも、まかみさんも、きっとあいつも違ったんだ。


「人類の俺が、魔王に勝つ。」


 いつも、俺が勇者だと言い続けてるニケ。


 やっぱりニケの覚悟は俺と段違いですごい。でも、そんなニケだけを頑張らせたくなかった。


「ニケ達が、俺と一緒で魔王戦の“後”を見据えてくれてて嬉しいよ。」


 ハリーさんは、さっきとぜんぜん違う晴れやかな顔で笑った。


「心配しないで。俺は平和と聖女の幸せを守る騎士、ハリーさんだよ。」


 重いものを吹き飛ばすような爽やかな笑顔だった。


「魔王を倒したあとも、一緒に頑張った君たちの幸せを守ってくよ!」


 俺達も、ニケを守っていきたいと思った。


 強さならニケの方が強いし、多分勇者なのはニケの方だけど、


 魔王を倒すなんて大役を終えたら、その後の大変なことを俺達と分け合って、一緒にバカやって笑って生きていけるような、そんな存在になりたいと思った。


 ハリーさんの携帯が震え始めて、そのままここで電話にでる。


 最新の機種だから、相手の顔もホログラムで出るはずだけど、ホログラム機能をオフにしてあるのか普通の電話みたいに耳に当ててもしもと話し始めた。


 どうやら相手は国の偉い人みたいで、魔物なんか出てきたからしょうがないだろうけど、パニックみたいに怒鳴り散らしている。


 ハリーさんがどんなに冷静に説明しても、この人聞けてないんじゃないかと不安になった。


 国が混乱するのはやめてほしい。まかみさんやニケ達はまだ10代なのに、戦った上でこんなに落ち着いてんだから、せめて国のおえらいさん達は、戦ってくれたハリーさんに意味わかんない難癖つけて怒鳴るのはやめろと思う。


 でも、ハリーさんは心も大人だからずっと大人な対応をしていた。声だってテンションだってずっと穏やかなものだ。


 目は笑ってないけど。


「そうそう、魔物は15年前のやつと見た目がかなり違ってたけど、砂でできてたのは同じだったよ。」


 そのハリーさんのセリフで、彼は第一次魔王戦を戦い抜いた人なんだと実感させられる。


 よく見ると傷の多い彼の手が、銀の箱(小)の蓋を開けた。


「魔石はねぇ。」


 箱の中にあった小石は、魔石なんてゴツい名前なのに綺麗だ。


 石自体も、消え方も。


 俺はそれを見てあっしか言えなかった。ソウは消えちゃったべや!!と叫んでるし、まかみさんは舌打ちした。


 ニケは、技科の校舎を見た。


 あいつを心配してるのか、あいつの目を思い出してしまったのか、俺にはわからない。


「消えたねぇ。」


 そう真実を言っただけのハリーさんを怒鳴る声が聞こえてくる。


 この人は何も悪いことしてねぇのになんなんだと思ったし、よく聞くとまかみさんが魔族で、自分の力に変えているんじゃないかとか、今すぐ取り調べろとか聞こえてきて腹が立つ。


 ニケが心配していたことが、もう現実に起こってる事にも、怒鳴ってるやつが今日魔物と戦っただけでもないのに決めつけで怒鳴ってるのにも腹がたった。


 魔王を倒したら、全人類どうでもいいと言っていたまかみさんのセリフが、こういう奴らのせいだとわかって、怒りと悲しみが同量湧き上がってくる。


 でもまかみさんは、“冷静に”ダムダムとハリーさんの足を踏んづけていた。


 流石に俺の怒りも悲しみもびっくりに負けて縮んでいく。


「わしが魔族やったら苦労してへんやろ。魔力や魔石の原理と力全て解明して、魔王から魔力を奪う物を作り上げることやって造作もあらへんかったはずや。」


 言ってることは事がすごいけど、とりあえずハリーさんは悪くないからやめてあげてほしい。


 ソウが止めないのが珍しいなと思ってソウを見ると、仲いいねと笑っているし本気だったから、えぇ?と中の俺が引いた。


 でも、仲悪いよりずっといい…うん。


「元々魔石の一つでも残っとれば、魔石の解明か、魔力に近いエネルギーを作り出せとったはずや。それをおめおめ前魔王に吸収されたほんまもんの脳無し共が。脳が無いなら無いらしく、魔王戦は体使ってカベとしてせめてもの有益を生み出すくらいしろ。」


「カベ的なのは、イーラが避難シェルターとか人工バリアとか考えてるからいい。誰一人死なねぇ戦いじゃねぇと、悲しみの連鎖が止まらねぇだろ。」


 そう言いながら、ニケがやんわりまかみさんのダムダムをやめさせる。


 なんていい奴と思っていたら、ハリーさんがニケに向かって、まかみの俺への甘えだからいいんだよと言って笑う。


 国の偉い人へ、最強の自分とまかみさんは親しいぞアピールだったのかもしれないけど、まかみさんはまたニケの後ろに隠れた。


 女子なら全員赤くなって、ハリーさんに落ちちゃうレベルのイケメンだから、こんな風に自信満々なのはしょうがないのかもしれない。


 ソウ的なものも感じる。


「あぁ、大神官が夢で神のお告げを受けたってやつ?」


 電話の相手が、聖女様の大神官だと知って唖然とした。


 冷静さの欠片もないし、知性も品性もない会話と怒鳴り声に、人類の未来に不安を持ってしまいそうだ。


 ハリーさんやまかみさん、ニケ達がすごい奴らじゃなかったら、魔王戦の勝利すら諦めていたかもしれない。

 

「大神官の夢の通り、人類の希望の勇者は現れてるのかもね。」


 ニケのことだ!と思ったのに、ニケはそのおっさん関係ねぇけどとはっきり言った。


 逆に安心して笑っちまう。


 神のお告げらしいのに。


 電話を適当な返事で切ったハリーさんが、魔石の入っていた瓶を手にとって揺すってみている。やっぱり、跡形もなくなっていた。


「ニケは、夢でお告げとか、神様に会ったとか」


「ねぇよ。」


 一秒も迷うことなく言い切る。バッサリだった。


 そうだよねと言ったハリーさんの態度から、あの大神官は元々信用されてねぇんだとわかる。


「俺も、守りたい人達のための騎士だよ。」


 ハリーさんは胸ポケットから、一目で古いとわかる折りたたみ式の携帯を取り出した。


 画面も小さくて、ボタンがついてるトランシーバーみたいな携帯の電源をつける。


 待ち受けに映し出されたのは、なんと聖女様とハリーさんのツーショットだ。


 距離が近いなんてもんじゃない。


 ほっぺがくっついている。


 しかも、2人共若くて、聖女様なんかセーラー服だから絶対に中学生の時だ。


 満面の笑顔で映っている聖女様は、教科書やテレビで見るより遥かに可愛かった。


 歳のせいじゃなく、心から幸せそうな笑顔のせいだろう。


「この写真持ってるやつ知らない?あいつこの写真を宝物にしてるはずなんだよ。」


「…初めて、見た…。」


 ニケの声が上擦っている気がして、お前もしかして神の子孫なの!?と驚きのままニケの顔見みた。


 そしたら、予想外のニケがいる。


 真っ赤だ。


 真っ赤に赤面している。


 え?なんで?と俺は思ってたのに、ハリーさんとソウは頷いたりニヤニヤしてる。


「スズはね、もうしょうがないから。可愛いと愛しいを届けに来てくれた俺達の聖女だからね。」


「ニケのタイプってやっぱりこういう感じねぇ?例の救護科の美少女とも雰囲気似てるしぃ?」


 ソウに言われて、マジだと俺も思わず声が出た。


 でも、本当にマジだと思ったのに、小さい違和感みたいなのも感じた。


「コルトもさぁ。スズとよく似ててかぁわいくてさぁ。」


 そう言いながら、今度はさっきの新しい携帯を見せてくるハリーさんは、親バカのテンションだ。


 画面いっぱいに聖人であるコルトキノス様の写真ばかりで、データ全部それ?と絶対にそんなわけ無いのにツッコんでしまいそうだった。


 でも、ただの親バカではない。


 ちゃんとニケの反応を伺っているのがわかった。


 よく似てと言っていたけど、聖女様と雰囲気や顔立ちは似ていない。


 二人ともかわいい系の美人だけど、聖人様の方は血統書付きの品が良くてすましている猫やマルチーズ的な可愛さで、聖女様は花がほころぶようなふわふわした可愛さだ。


「目とか色もそっくりでしょ?ニケはコルトみたいな目の形とか、目の色の人に会ってない?」


 つまり、写真を宝物にしている人は、聖人様と同じ目で、どちらかと言うと聖人様の系統の人だとわかった。


 ニケは、赤面を首を降ることで元に戻す。そんなことできんの?と心の中の俺が盛大にツッコんだ。


「知らないし、目が茶色のやつはこの学校で初めて会った。」


 嘘じゃないことは、皆に伝わる。


 ハリーさんはニケのお母さんを気にしてたし、多分探してるのは女の人だ。


 聖人様とタイプが180度違う美人だとしたら、ハリーさんの奥さんはふわふわ系の美人なんだなといらないことまで考察してしまった。


 古い方の携帯が大きめの音を鳴らして、ハリーさんはワンコールでとった。反射神経がすごい。


「はい!君の騎士ハリーさんだよ!」


 元気に返事をしたハリーさんは、さっきと違って俺達と少し離れ、幸せそうに電話している。


 ハリーさんが家族のように電話している聖女様は、ハリーさんと血縁関係がない。


 ハリーさんの本当の家族は、奥さん以外公表されていない。これは、居ないことを意味していた。


 彼の故郷は、魔王によって沈められている。


 きっと、家族や友人も。


 もしかしたら、探している人がそうなのかもしれない。


 ニケの言っていた“悲しみの連鎖”、それがとんでもないものだと今更ながら胸を刺してくる。


 電話越しに、大丈夫だよ、すぐ帰るからねと言っているハリーさんの声も顔も、家族に向ける愛のこもったものだ。


 俺にもわかるほど、慣れ親しんでいる家族の愛。


 避難シェルターなんて考えたこともなかった俺は、家族のことを考えていなかったと思い知らされる。


 なんでか、全員無事だって思い込んでいた。


 全人類死なないなんて無理だと思っていたくせに、自分の知っている人達が死ぬなんて思ったことがなかった。


 電話を切ったハリーさんが、もっと話してたいけど、今日は帰るよと言って、魔石の入っていない瓶を持っていくことをまかみさんとニケにわかるように見せていた。


「ニケ、明日この箱を作った子含めて皆で話そう。その時お茶と絶品のお菓子を持ってくるから。」


「やだけど。」


「やだけどは流石に駄目だろ!」


 思わず突っ込んでしまったけど、ニケは全く動じない。


「あいつは人見知りだし、俺もハリーさんの事良く知らねぇから信用はしてねぇ。」


 お前それやべぇだろ。聖女の騎士だぞと思ったけど、聖女の騎士がこれで引くわけない。


「俺がニケに勝ったら、会わせてくれる?」


 オッケーすると思っていたけど、逆にニケは冷静だった。


「信用の話だって言ってんだろ。逆にハリーさんは、信用してねぇ奴に幼馴染を会わせて平気なのかよ。」


 そうだなぁと悩むポーズをしたハリーさんは、


「誰に会っても守れるように、最強になったんだよ。」


 とドヤ顔した。


 でもニケは、予想に反してというか、驚くでも、引くでも、尊敬するでもなく、


「守らせてくれるやつなの?」


 と普通のテンションで聞いた。


 本当に普通にそうなの?みたいな感じで。


 ハリーさんは、ペースを崩されたとかでは無かったけど、直ぐには答えなかった。


 それが、きっと答えだ。


「俺の幼馴染は、ヤンチャ系だからね。」


 ハリーさんは、真っ直ぐニケを見る。


「ニケは、なんで勇者になろうと思ったの?」


「俺が、勇者だから。」


 このいつものニケのセリフに、守りたいとか、助けたいとか、色々な思いが込められてるのを今だからこそわかった。


「明日、もっと詳しく聞かせて。幼馴染と会わせたくなるほど仲良くなってみせるから。」


 ハリーさんが新しい方の携帯を俺達へ向ける。連絡を交換しようということだとわかって、俺達は素直に交換した。


 ニケの携帯がピロンと初期設定の音を出して、ニケっぽいなと少し笑ってしまった。


 俺達にちゃんとありがとうと言ったハリーさんは、またニカッと爽やかに笑って明日ねと言う。


「俺、人と仲良くなる才能あるんだよ。」


 自信満々に言い切るところが、ちょっとニケに似てるというか、同じものを感じた。


 帰る時、まかみさんにハグしようとして思いっきり蹴られていたのは見なかったことにする。ちょっと今日は色々キャパを使いすぎた。


 ピロンとニケの携帯だけではなく、俺達全員にハリーさんからメッセージが送られてきた。


“今日はもう会うことがないように祈ってる。”


 今日くらい、もう魔物や魔王の害が無いようにと願いが込められた言葉。


 いつ、何が起きてもおかしくない、昨日までと違う日常が始まってしまった証でもあった。


 でも、今日はもう魔物や魔王が現れない気がしていた。


 楽観的かもしれないけど、まかみさんに俺の剣を調べるから貸せと言われても、全く怖くないくらいだったし、そのまま壊しても大丈夫ですよと伝えたくらいだった。


 お疲れ様と言わんばかりに、一体のドローンがクーラーボックスを持ってきたせいかもしれない。


 ちゃんとニケ用に緑茶が入ってるし、俺達もドローンからスポドリを渡された。


 まかみさんの分がないのらしくねぇなと思ったら、いつの間にかまかみさんはいない。


 ソウはドローンにもありがとうと言って、ドローンがペコリとお辞儀するように半回転したので、すごいすごいとテンションと声をデカくしていく。


 うるせぇ!とニケがいつの間にか飲み干していたペットボトルをソウの顔面に投げつけた。


 たいして痛くもないのに、ソウは大袈裟にいたぁいと言って俺の後ろまで来る。


 この俺達の様子を、ドローンから見ているあいつが疎外感を感じないか心配だった。


 その心配をどうとったのか、ソウがこーちゃんこれからの武器どーする?と明るく聞いてくる。


 正直に、どーすっかなと声が出た。


 体術でソウみたいに戦える気はしない。武器も剣以外を触ったことがないから思いつかなかった。


 ニケの剣を見ると、勇者の剣にしてはシンプルで余計なものが一切ない。


 唯一装飾にしては控えめな丸い宝石のようなものが光っていて、これにもなにか意味があるんだろうなと思った。


 俺が見ていることに気がついたニケが、何?とぶっきらぼうに聞いてくる。


 こんなの俺がやったら態度悪いやつなのに、ニケは違って、ムカつくのに嫌いになれない。


 そんな自分にもニケにも笑えてきた。


「そういう軽そうな剣でも良いかなと思ったんだよ。どこで買った?」


 ニケは、当然のようにイーラが作ったと言った。


 あの技科のやつは、ラスボスじゃなかった。


 主人公を影で支え続ける、たまに何か爆発させてる系の凄腕博士的なやつだ。


 あいつすげぇなぁと、自然と声に出た。


 ニケは返事をしなかったけど、ペットボトルと剣を置いて俺達を見る。


「剣無しで一戦してやるよ。どうせあいつまだ時間かかるし。」


 ニケ“から”訓練に誘ったやつは、勇者科に今まで1人もいなかった。



そんなことで喜んじまう自分が単純でやなのに、俺はおう!と自分が引くほどデカく返事した。


 ソウはもっと調子に乗って、俺が勝ったらこのドローンの作者に会わせてよ。と言ってしまう。


 やべぇ、二度と会わせてもらえねぇかもと思ったけど、口には出さないでおいた。


 もちろん、俺はボロボロに負かされたし、ソウは負けず嫌いだから30戦もしたけど、1勝も出来なかった。


 しかも、ニケはいつの間にか俺達を置いて技科の校舎に向かっていたみたいだ。


 負けた手前何も言えなかったから、ソウの足をテーピングして、今日は早めに帰ることにした。


 帰り道で、ソウはギャンギャン文句を言っている。


 それくらい、ニケ達と仲良くなりたかったんだと思う。


 それは俺もだけど。


「明日は絶対に勝とうね、こーちゃん。」


 俺達の相手って魔王じゃなかったっけ?とは、あえてツッコまずに、そぉだなとだけ言った。

 

 空を見ると真っ青で、さっきの黒い魔物たちが嘘だったんじゃないかとか、夢だった気までしてくる。


 でも、そんなことがないことは、いつもより断然軽い身体がちゃんとわかっていた。



 ニケとあいつの目に見えてるはずの未来。


 誰も死ぬことのない魔王戦。


 ゲームの中ですら見たことなんてない、そんなハッピーエンドを実現させてみたい。


 本気でそう思えた。


 俺は、勇者にはなれないだろう。


 じゃあ、何になれるのか。


 技科のあいつはなんて言うか聞いてみたかった。


 絶対にニケは、は?知らね。しか言わねぇし。

 

 自分の中のニケがニケ過ぎて、俺は声も出さずに笑った。



 






 










 

銀の箱(小) 名前 ドラ 分類(成分分析器)


ライラが作ったシンプルな銀の箱(小)。

マグマや電流などの不可能なもの以外はほとんど成分分析を可能としているかなり高性能な成分分析器。

AIを搭載していて、声でも呼び出したり指示を出せる。

箱を横にも開けられるようになっていて、中にはスコップや軍手、純水などどんな人でも分析の準備ができるセットを搭載しているが、自動で分析もしてしまえる。

作者が機械類に詳しくないからただの箱なのではなく、ライラの感性でこのシンプルな箱型にされた。

名前をつけられたのもライラの感性ゆえ。



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