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第6章のちょっと前「千客万来で嬉しいけど、今はちょっとそっとしておいてほしい勇者」⑥

「あら。目を覚ましたのですね」


 わたしが目を開くと、そこは自室のベッドの上だった。


 おそらくあのあとわたしは意識を失ってしまったのだろう。

 体調はかなり回復しているようで、わたしは身体を起こすと、「ごめん。わたしどれぐらい寝てたの?」と、ベッドの横に座るスピカに聞く。

「三日です。お聞きしました。あそこまで体調が優れなかったとは……」


「って、スピカぁぁぁぁ!? 何であんたがここにいるのよっ!」


「あら。魔王様の許可はいただいてましてよ?」

「シモンの馬鹿ぁ! 肝心なときにいなかったくせに余計なことしやがってっ!」


 話を聞くと、巨大芋虫の雨に降られて気を失ったところを、魔族たちに看病されたらしい。 

 スピカはそれで魔族に対する戦意を削がれてしまったようだった。


「それにしても、先日は災難だったのですね。風邪気味のところを噴水に叩き込まれ、寝込んでいるのに強制的に練兵をさせられ、呪いのドリンクを飲まされそうになった挙句に、もう先が無いだろうと言うかのように墓石の押し売りに遭うなんて……悪い意味で千客万来ですわね」

「あんたがそれ言わないでよね! 幹部全員不在のときの、あの襲撃が一番の災難だったんだから!」

「えっと……どんまい?」

「あんた絶対に馬鹿にしてるでしょっ! こっちは死ぬかと思ったんだんだからね!」

「ええ、それはまぁ。殺す気満々でしたから」

「……嫌(や)だ、この人。クリスと話してるみたいですっごい疲れる」

「あら。わたしと気が会う方かしら? 一度お会いしてみたいですわ」

「駄目。殺し合いになるから絶対にダメ」

「あらあら、残念ですわ」


 だってさぁ。人間が嫌いで反射的に殺そうとする人と、魔族相手なら問答無用で斬りかかる人だよ?

 会わせるわけにはいかないじゃんよ? ねぇ?



「香澄さん、起きてますか? って、あら。悪臭が二倍になっていると思ったら、どなたですか、この豚女は? 殺して差し上げても?」


「あらあら。喧嘩を売られてしまっては、こちらもミンチにしてあげなくてはいけませんわね? 下等な魔族風情が粋がっているのは見るに耐えないので、今すぐ生ゴミにしてしまいましょう」


「ああもう、どうしてクリスは今来ちゃうかなっ! ストップ! 掃除するのわたしなんだから、二人ともストップっ!」



 クリスにはお帰りいただいて(金平糖の瓶を持っていたので、プチ達を貸してあげることを条件に交渉成立しました)、わたしは冷や汗を拭いながらスピカに聞く。


「で、スピカは何しに魔王城に来たのよ?」

「実はですね、息子を探しているのです」

「そうなんだ……」


 ん? 息子?


 スピカはどう見ても二十代半ばぐらいなのだが、「スピカ、今いくつ?」と聞くと、「今年で四十二になります」とのことだった。

 詐欺だ。まさかお父さんと同(おな)い歳(どし)だったとは……


「うーん。この城に人間はわたししかいないけど?」

「ですが、二ヶ月前に魔王城に向かったきり、足取りが途絶えてしまっていまして。とても優しい子で、ここ数年は人助けの旅をしていたんです。息子の名はクロウと言うのですが……」


「えっ、クロウ?」


 ストラディバリって苗字に聞き覚えがあったと思ったら、そういうことかっ!


 クロウ・ストラディバリは、わたしと入れ替わりにあっちの世界に行った勇者であり、彼がスピカの息子さんということのようだった。


「息子をご存知なのですね! クロウは今どこで何を……」


「えっと……わたしの父の元で、ヤクザをやってます」


「――えっ?」


 あまりのショックで、スピカはしばらく開いた口が塞がらなかった。

「え、ホントに?」「ええ、たぶん間違いなく……」「嘘だと言ってください!」「言うだけならできるけど、事実は変わらないわよ?」「うぅ……」


 それからスピカは部屋の隅で体育座りをして黙り込んでしまった。


 まぁそりゃショックだよね。

 人助けの旅をしてた息子が、二ヶ月会わない間にヤクザになってたんだもんね……


 でも、わたしの部屋で落ち込むのはやめてくれないかな……  

 今回ばっかりは、どう声を掛けていいか分かんないよ。



「香澄ちゃん、目が覚めたんですね! えっと、その……元気が出るものを持ってきたんですけど……うきゃっ!」


「ミーアちゃん、大丈夫? ってか、またベタなことを……」


 部屋の外で、ミーアちゃんが尻餅をついている。

 それもそのはずで、ミーアちゃんが背中に背負った籠は、部屋の入り口よりも遥かに大きかったのだ。

 あぁ。恥ずかしそうに困ってるウサミミ少女、かわいいなぁ。


「ミーアちゃん、大丈夫?」

「うぅ……わたしがお見舞いに来たはずなのに。香澄ちゃんが人間の女の人にいじめられたって聞いてわたし、えっと、その、いっぱい心配したのですよぉ!」

「そっか……ありがとう。ごめんね、心配掛けちゃって」

「その悪い人は、もうお城にはいないのです?」

「ん? スピカならいるよ、そこに」

「うきゅっ!?」


 わたしは壁際で膝を抱えて落ち込んでいるスピカを指差した。

 ときどき「フフッ……」とか自嘲するように笑うから、はっきりいって怖いんだけど……

 ミーアちゃんは首を傾げたのち、わたしとスピカの顔をキョロキョロと見比べる。


「あの……香澄ちゃんがいじめたんじゃなくて?」

「うん。わたしはいじめられた方よ?」

「でも、その……いっぱい落ち込んでるように見えるのです」

「そんなこと言ったって、わたしは何もしてないもの」


 ミーアちゃんは自分の背丈と同じぐらいの高さの籠によじ登ると、そこからニンジンを三本取って降りてくる。


「えっ? ってかこの籠の中全部ニンジン!? って、うわっ! 廊下に更に二籠あるじゃない!」

「香澄ちゃんと作った畑でできたんです。その……『がんばれ!』って魔力を込めていっぱいお願いしたら、一晩で一籠分できちゃいました♪」

「……それはまた、すごいわね」

 シモンに隠れて屋上でちまちま家庭菜園をやっているわたしとしては、少し複雑な気分だけどね…… 

 今度、果物の木とかをミーアちゃんに育ててもらおうかな。


 それからミーアちゃんはわたしにニンジン一本くれると、そのままトテトテとスピカのほうへ駆け寄っていったのだ。


「えっと、スピカさんでしたよね? 何があったんです?」

「もういいですわ……息子はグレちゃうし、魔族には助けられちゃうしで、私なんてダメダメなんですわよ……」

「そんなこと言っちゃダメですぅ! 元気出してください! 美味しいニンジンあげますから!」

「そんな、ニンジンって……」

 しかし、スピカは顔を上げたところで目を丸くする。

 ミーアちゃんを見て目をキラキラさせて、しかしまたすぐに顔を伏せてこう言った。


「ケモみみ触りたい……触らないと死んでしまいますわ」


 クロウのお母さん! あなた絶対にもう復活してますよね!?


「えっと……ちょっと恥ずかしいけど、いいですよ? で、でもその代わり、元気になってくださいね?」


 ミーアちゃん、その女に騙されちゃ駄目っ!

 そのウサミミはわたしだけのものなのにっ!


「ああもうっ! この娘(こ)かわいいっ!」

「うきゅっ! いきなり抱きつくのは駄目ですぅ。びっくりしちゃうですぅ……」

「そんなの無理っ! しかもよく見れば肌は白くて瞳は綺麗な赤色で、ホントにもう雪ウサギみたいですわ! ずっと抱っこしてたいっ! この耳も、ずっと触っていたいですわ♪」

「わたしのケモみみっ! ミーアちゃんはわたしのなんだからねっ!」

「はわわっ! 香澄ちゃんもスピカさんも、ちょっと落ち着いてくださいですぅ!」


 それから三人でニンジンを仲良く食べた。

 わたしたちはスティック状に切ってちまちま食べていたのだが、ミーアちゃんは籠から次々に取り出しては、そのままのニンジンをポリポリかじっていく。

 ミーアちゃんがとっても美味しそうにニンジンを食べるのを見て、その可愛さにわたしとスピカとすっかり意気投合してしまった。


「すごい……もう籠の中が半分ぐらいになってる……」

「あらまぁ。こんな小さい身体のどこにそんな体積が……」

「えっと……ニンジンは別腹なのです」

「照れてる! ミーアちゃん、かわいい!」

「ですね! これはもう最高ですわ!」

「うにゅぅ……そんなに見ないでくださいですぅ……」


 こうしてウサミミニンジン同盟に、新たなメンバーが加わることとなった。




 それからわたしはスピカさんと話をした。

 わたしがクロウの次元同位個体であること、クロウが一緒に暮らしているであろうわたしの家族のこと、そしてクロウについて知っていることを伝えると、スピカさんはどこか安心した様子だった。


「そうですか……お母さんは、瑠璃花さんというのですね」

「ん、それがどうかしたの?」

「ああ、いえ。香澄さんが生きているってことは、あの子も生きているのですよね。それが分かっただけでも、来た甲斐がありましたわ」

「……次からはもっと穏便に来てくださいね? わたしの名前を出せば通してくれるはずですから」

「うふふ。ええ、近いうちにまた来ますね」




 この日の昼頃。スピカさんが人間の国に帰るのを、わたしとミーアちゃんは見送った。

 ちなみにその去り際、


「この子、やっぱり娘にほしいですわ。連れて行っちゃ……」

「駄目! ミーアちゃんは絶対にあげませんからっ!」

「うきゅっ!」

「冗談ですわよ。ミーアちゃん、香澄さんを頼みましたわよ」


 そう言って、スピカさんは魔王城を去っていった。


 次第に小さくなる背中を眺めながら、ふと思う。

 もしかして『その子』というのは、わたしのことだったのではないかと。 

 どうしてか分からないけれど、そんな風に思えてきたのだ。


 あ、ちなみに……


【来客その7:伝令兵と、いつの間にか城内責任者にされていたという事実】

【来客その8:よりにもよってこのタイミングで来ちゃった凶暴女(人間)】

【来客その9:よりにもよってこのタイミングで来ちゃった凶暴女(魔族)】

【来客その10:ニンジンをいっぱい背負(しょ)ってご機嫌のミーアちゃん♪】


 全累計:66人と21匹   


 ちょっとドタバタしてて迷惑だったりするときもあるけれど、

 やっぱりわたしは、幸せ者なのかもしれません。

 

「さて、と。今日は夕飯の支度、いつもより頑張っちゃおっかな……ミーアちゃん、何食べたい?」

「ニンジン!」

「言うと思った……それはさっき、百本ぐらい食べたでしょ」

「あ、あの……ダメですか? せっかくたくさんできたので、できれば皆さんに食べて欲しいと思ったのです」

「そうね。そういうことなら良いかも。ミーアちゃんも手伝ってくれる?」

「はい! がんばります!」




 というわけで、今日の兵士食堂の献立はカレーになった。


 いつもより少しだけニンジンが多めのそれを、みんなが美味しそうに食べてくれていて、ミーアちゃんはとても嬉しそうだった。

 もちろんそれは、わたしも、そして料理当番の兵士達も一緒だ。


 ちなみにシモン達の夕飯は、緊急時に城を空けていた恨みとタバスコをしこたまぶち込んだ激辛カレーにしてやった。(あ、ジョンの分はちゃんと普通のにしたよ?)

 後が怖いから逃げてきちゃったけど、『わたしの国では、カレーは人間の子供でも喜んで食べる』と言っておいたので、今頃はきっと悶え苦しみながら食べているはず……


 ドタドタドタドタ、バンッ!


「ミハエル、テメェには負けねぇ! 姫っ子、御代わりだ、三杯くれっ!」

「僕もこれしき余裕ですよ。ゴキ女、僕は四杯いただきましょう!」

「では、私は五杯いただけるかな。魔王たるもの、これしきで臆したりはできないからね」


 うわぁ。わたしがいない間に面白いことになってる!

 畜生! やっぱりその場にいたかった!


 駆け込んできたガルムとミハエル、そしてシモンに激辛カレーを手渡すと、三人は互いに睨みあったのち、その場で席に着いて食べ始めた。


 物陰で様子を伺っていたジョンとイチゴ、ミルクの皿には普通のカレーを盛ってあげて、それから一番見やすい特等席に座らせてあげる。


 突然始まった大食い選手権に、兵士食堂は応援と喝采で大盛り上がりだった。



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風変わりな恋愛小説はじめました。
「悪「役」令嬢なんて生ぬるい! ~婚約破棄を宣言された辺境伯令嬢は、ナメた婚約者に落とし前を付けにいくことにしました~ 」

王道の婚約破棄から始まるのに、少し変わった悪役令嬢ものです。
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