第5章「天使と勇者」⑭
本作品には道徳的・人道的に不適切な表現が含まれます。ご注意下さい。
わたしたちは男性に案内され、子供達の集まる部屋に入った。
クリスは本の場所を教えられると、素直に部屋の端にある本棚へ真っ直ぐ向かう。
落ち着いたというより、おそらく早く終わらせるのが得策だと悟ったのだろう。
わたしが二人分の自己紹介をすると、早速クリスは本を開く。
それを眺めながら、わたしはシスターのような女性にいただいたお茶を一口飲み……
「『任侠桃太郎』……」
ごふっ! げほげほっ!
「ちょっと待って……」
なんでこの世界に桃太郎があるの?とか、なんで異世界に来てまで任侠?とか、そんな問題をすっ飛ばして、この物語はダメだ。
教育上も問題大有りだけど、何より道徳的に!
だってわたし、この話知ってるけど……
「何です、香澄さん?」
「その話、前にネットで読んだことがあるけど、人格破綻作家のアホ小説よ。黒咲なんとかって人が書いた、日本の文学界に喧嘩を売るような内容の……」
「何でも構いません。わたしは早く終わらせたいのです」
「で、でも……」
「……邪魔すると刺しますよ?」
「あ、うん……わかったゴメンネ……」
犬、猿、雉を従えて、鬼ヶ島での決戦を終えて、感動のラスト(笑)。
「めでたしめでたし、と」クリスが読み終わると、子供達は目を輝かせてクリスに抱きついていた。
難しい言い回しも多かったと思うし、内容を理解できているのかも微妙だが、子供達にとっては関係ないようだった。
お姉さんが一生懸命に本を読んでくれた。
そのことが子供達には嬉しかったようだ。
「あの、ちょっと、離れて……」
子供達に塗れて慌てるクリスが可愛くて、わたしは笑みをこぼしてしまう。
「香澄さん、笑ってないで助けてください……これでは本末転倒です」
「ううん、その必要はないわよ」
わたしは首を横に振る。
「この子たちはね、純粋なの。クリスが頑張って本を読んでくれたから、クリスのことが大好きになっちゃったのよ。分かってあげて」
「………………」
子供達に囲まれて、無表情でクリスは座っていた。
けれど次第に緊張が解けていき、
そしてふと、クリスが小さく笑った。
「あーっ、お姉ちゃん笑ったぁ!」
「わ、笑ってません」
「嘘だー! わたしも見たもん!」
「わたしもわたしも!」
「笑ったお姉ちゃん、かわいかったのに!」
「なっ……そんなことは……」
「かわいかったよねー」
「「ねー!」」
「………………ふふふっ」
それは優しい笑いだった。
クリスは子供達の笑顔に微笑み、そして目の端に涙が溜まる。
笑顔のまま、涙を隠すようにその目を両手で覆って、とても嬉しそうに涙を流したのだ。
「お姉ちゃん、泣いてるの?」
「お姉ちゃん、どうしたの? どうしたの?」
「ううん、なんでもない。なんでもないの……」
「………………」
人間嫌いのクリスが、人間の子供達に囲まれて泣いている。
無理も無いのかもしれない。異常なまでに人間を嫌悪していたのだ、もし過去に何かがあったり、何か事情を抱えていても不思議ではなかった。
別に今回のことで、クリスの人間に対する考え方が変わるとは思えない。わたしだって狙ったわけではないし、そんな簡単なことでもないのだろう。
だけど少しでもいい方向に進んでくれればいいなと、思わずにはいられなかった。
「魔族にも、あんな人がいるのですね……」
「えっ?」
わたしたちは、魔族の国から来たことも、当然魔族であることも隠していた。
ジョンもクリスも、この街に来てからは髪で耳を覆っていたし、気付かれることはないはずだったのだ。
わたしはすぐそこで囁かれた声に振り返る。
先ほどの言葉は、神父姿の男のものだった。
「あなた、一体……」
「私はこの聖堂の大司教をしております、ワイトといいます。あなた方のことは、そろそろいらっしゃる頃だと思っておりました」
「――――――っ、」
わたしはこの状況が、非常にまずいものだと気付く。
聖堂という敵の本拠地の中で、敵戦力は未知数。
戦闘となればわたしはほとんど無力に等しいので、クリス一人で対処せざるを得なくなってしまうのだ。
「クリス、行くよっ!」
「えっ、香澄さん?」
わたしはクリスを無理矢理立たせると、聖堂の出口へと走った。
わたしたちを追って来ている様子は無かったが、せめてジョンと合流できるまで、気を抜くわけにはいかなかった。
道徳的・人道的に不適切な人格破綻作家すてらです。
すみません、ご法度だと知りつつやってしまいました。
大変深く反省しております。
『任侠桃太郎』は全5話で、URLはこちらになりま……ぐぼあっ!!(殴)
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香澄 「この外道っ!! ホント信じらんない! 恥を知りなさい恥を!!」
すてら「親父にもぶたれ……平手でビンタされたことなんて無いのに!!」
香澄 「そりゃ父親はビンタなんてしないでしょうよ……あんたみたいな馬鹿を殴らなかったら、それこそ育児放棄だわ」
立派な両親に育てていただきました。自慢の父と母です。
※設定裏話※
セラフィムの大聖堂は、教会のほかに寺子屋を兼ねるイメージです。
ワイト大司教は寺小屋の先生をしています。子供たちにも大人気です。
聖都セラフィムは大都市で、共働きの家庭も多いです。本来ならば読み書きなどは家庭で教えるか、高い学費を払って学校に通わせますが、経済的に難しい家庭は聖堂に預けに来ます。
ワイトは子供たちをとても大事にしていて、彼や修道女達の愛と頑張りのおかげで、子供たちはまっすぐすくすくと育っています。






