第5章のちょっと前 「呪われし勇者」②
何とか廊下での作業を片付けて、門と正面扉の間にある前庭の清掃に取り掛かる。
広い! ぶっちゃけすっごい広い!
前庭はイチゴとミルクが二人掛かりで一時間かけて掃除しているそうだ。
「ってことは、二時間コースかぁ……」
他の作業もあることだし、ってか今日はやらなくてはいけないことが山積みだし、細かい部分は……
「香澄さん。今日は来客があるからいつも以上に丁寧に頼むよ」
「あ、シモン……はい、了解ですぅ……」
やります。細かいところまでやりますよぉ……
せめて去っていくシモンの背中を恨めしく睨み、わたしは作業に取り掛かった。
風上から風下の方へと落ち葉を掃き、掃き、掃き……いつになったら終わるんだろうと思いながら掃き掃き掃き……ビュオォォォと風が吹くのにも負けず掃き掃き掃き……
そして一時間半! わたしはようやく掃き終える。
「やったぁ、終わ……り? あれ?」
風が吹いているせいで、掃いたはずのところにもまた落ち葉が……
うわぁ、マジかぁ……これちょっとショック大きいかも。
「あ、あの、香澄さん? どうしたんですか?」
「ん?」
振り向くと、そこにはジョンが心配そうな顔で立っていた。
「どうしたの、ジョン?」
「え、えっと……それは僕が言おうとしていたというか。香澄さんが疲れた顔をされていたので、どうされたのかなぁと思いまして。あ、勘違いならすみません……」
「あ、ううん。その通りかも。心配してくれてありがとうね」
それからジョンに落ち葉が片付かなくてがっかりしていたことを話すと、「ちょっと待っていてください」と、ジョンは土に自分の人差し指を触れさせた。
次の瞬間、わたしは景色に違和感を覚える。
風は依然として強く、木々の枝を大きく揺らしている。
けれど、その枝から葉っぱが全く落ちなくなったのだ。
「ジョン、葉っぱが落ちなくなったんだけど、もしかして……」
「えっと、はい、そうです。僕は一応、水の眷属ですから、ちょっとこの辺りの木々に元気になってもらいました」
「ちょっとって……さらっとすごいことをするわよね」
「すみません……」
「あ、ううん。褒めてるの、褒めてるのよっ!」
「ありがとうございます。えっと、僕も手伝うので、早く片付けてしまいましょう」
そう! わたしが欲しかったのは、こういう言葉なのよっ!
ジョンの言葉が心にじーんと響いて、自然と笑みがこぼれた。
一頻り感動したあと、わたしは再び箒を握って落ち葉を掃く。
落ち葉が最初より少なかったことと、ジョンが手伝ってくれたこともあって、二十分程度で掃除は終わってしまった。
わたしは集めた落ち葉をリヤカーに積むと、ジョンに「ありがとう」と言う。「どういたしまして」と照れ笑いするジョンの顔が可愛らしくて、自然とわたしも笑ってしまった。
よし! とりあえずこれで前庭は片付いたから……
「グルルルルグワァァァァ!」
「グランドラゴンが逃げたぞ! 追えぇぇっ!」
ドッカーーーーン!
「またかぁぁぁぁっ!」
落ち葉を盛大に浴びたかと思うと、飛んできたリヤカーが直撃してその下敷きになる。
「大丈夫ですか、香澄さんっ!」
「もうヤダ……ちょっと立ち直れないかも」
「香澄さん、しっかりしてくださいっ! 香澄さんっ!」
走り去るドラゴンの足音とこちらに目もくれない兵士達が、この上ないほどに恨めしかった。
そんなときだった。
門が開いて、一騎の龍車が入ってくる。
そんなときって?
もちろん落ち葉にまみれてリヤカーの下敷きになってるときですとも。
誰が入ってきたって?
もちろん魔王に謁見予定のお客様でしょうとも。
……この状況、マズくない?
自分でも分かるほどに、全身から冷や汗が噴き出していた。
ジョンくん、心のオアシスです!
登場人物の中で一番まともな存在! 第5章での活躍をお楽しみに!
※設定メモ※
この世界の魔法・魔術は木火土金水の5属性。
玄武:北・水 青龍:東・木
白虎:西・金 朱雀:南・火
ちなみにシモンは土の眷属です。
魔族が使うのは魔法
人間が使うのは魔術
魔術は、呪文や魔術式を使って魔法を再現しようと生まれました。
魔術を使うのは魔術師
魔道師は、魔術を新たに編み出すほどの知識を持つ魔術の学者です。この世界に片手で数える程しかいません。
グリードは魔道師なので、何気に凄い人。
書くだけ書いたけど、必要になった時に、本編でまた解説を入れます。






