第5章のちょっと前 「呪われし勇者」①
「困りましたね……」
「どうしたのよ、ビビリ四天王?」
朝食前。
わたしは難しそうな顔をしているミハエルに聞く。
「いえ。タコ女を頼りにしなくてはいけない状況でして、困っているのですよ。イチゴとミルクが風邪を感染し合ってしまったようでして」
「魔族って風邪引くんだ……あと、サラっと『タコ女』とか言うのやめてもらえる?」
「あなたこそ、いい加減『ビビリ』はやめていただけませんか? あれからもう二週間も経つのですが」
というわけで、今日はちょっと忙しい日です。
だというのに……
ぽろっ。
「きゃっ!」
ガッシャァァァァァンッ!
朝食の片付けをしていて、お皿を運んでいるとき、足元に落としてしまったデザートのバナナの皮を踏みつけて、盛大に転んでしまった。
顔面を床に打ち付けるわ、頭の上に食器が降り注ぐわで、めちゃくちゃ痛かったりするのだ。
おまけにベチャリなんて音が頭の上でして、髪の毛の間にマヨネーズと思しき感触が染み込んでくる。
しかも、痛みを堪えながら顔を上げた瞬間に、目の前にフォークとバターナイフが落下してきたりするものだから、本当に怖かった。
「おい、大丈夫か姫っ子……ぷっ、くくくく……悪ぃ、くくくく……」
「無様ですね。ええ、とてもあなたにお似合いです。すばらしい気分ですよ」
「どうだ、立てるか? 立てるならまず掃除を頼むよ。私の城を汚さないで頂きたいものだね」
あ、シモン、起きるの手伝ってくれるわけじゃないんだ……
ってか、みんな酷いや……
唯一優しい声を掛けてくれそうなジョンは、朝食を終えた後にシモンに急ぎの用を言いつけられて既に退室済み。
なんかちょっと泣きたくなってきた。
割れたお皿とかを拾うのはガルムが手伝ってくれたけれど、わたしの顔を見るたびに笑うものだから、あまり感謝の気持ちが湧いてこなかったりしたのだ。
そのあとお風呂に入って服も着替えたが、臭いは完全には落ちず、
廊下掃除中に窓から入ってきたカラスに集られ、
やっと掃き終わったと思った瞬間に突風が吹いて、チリトリの中の埃がわたしの顔に降りかかり、
百メートル以上離れている練兵場から弾き飛ばされた剣が窓から飛来して目の前を掠め、
驚いた拍子に再びチリトリの中身をぶちまけたのを、よりにもよってミハエルに目撃されて鼻で笑われ、
散々たる罵詈雑言に耐え切れずにクソ外道を追いかけたら、階段を踏み外してごろごろと転がり、
ぶっ倒れてチリトリが偶然頭に乗った状態をノノに見られて、「無様ね、とてもお似合いよ」と本日三回目の台詞を聞かされ、
『それ言うためだけに出て来てんじゃないわよカタリナ!』と言おうとして舌を噛み、
最後まで言えていないのに「ワタシによくそんな口の利き方をできたものね」とカタリナに踏みつけられ、
ついでに何故か髪の毛を数本、ブチリと引き抜かれて悶絶し、
戻ってきたミハエルにその光景を見られて同情されて、とっても惨めな気持ちになり、
そしてわたしは、いくら何でもさすがに気付く。
今日のわたしは、めちゃくちゃついていないのではないかと。
「カァカァ阿呆ォ阿呆ォ」
「馬カァ馬カァ、ケタケタ」
「バッチィ、バッチィ、キッタネェェェ」
カラスも依然としてわたしに群がってくるし。
ってか、こっちの世界のカラス、マジでムカつく……
「ああもうウザい、散れっ! あちちいけっ!」
ちりとりを振り回していたら偶然カラスの一羽に当たり、カラスたちは「ヤバン、ヤバン!」「バンゾクッ、ゲヒンナバンゾク!」「バーバリアンッ!」「ババァ、ババァ!」と言い残して逃げて行った。
「ってか、誰がババァだゴルァ!」
わたしの叫んだ声は、澄んだ空に吸い込まれて消えていった。
完全に遊びモードです。私が!
魔王+四天王(ジョン含む)の食事は、基本的には香澄、イチゴ、ミルクの3人で準備しています。
香澄が朱雀の席で食べたのは最初の1回だけ。以降は給仕係です。
というか香澄さん、いい加減、ジョンの立場に気づきましょう!
子供だからって、ただの幹部を四天王と同列には魔王も扱いませんって。ってか、消去法で玄武の席じゃん、そこ!
ですが香澄は、2章④の
「ジョン。あなたも呼ばれていたのね」
「はい。魔王様のご好意で、いつもご一緒させていただいているんです」
というやり取りを鵜呑みにしています。






