第4章「奇跡の勇者」⑩
「ほぅ……大きく出ましたね。この僕を止めると」
「無謀なのは分かってる。あんたが滅茶苦茶強いんだってことも知ってる。だけど誰かが、それは違うって言わなきゃ、何も変わらないじゃない!」
「それならば、やってみてくださいよ」
言葉が終わるや否や、目の前からミハエルの姿が消える。
わたしは咄嗟に盾を展開するが、直後、背中にずっしりとした衝撃を感じて身体が宙に浮く。
続いて腹に殴打。
その直後には右足を捕まれ、人間達の上を放り投げられた。
その間、全くミハエルの姿は見えなかった。
何か特別なことをしているわけじゃない。
魔族の四天王であるミハエルにとっては、たぶんこれが普通なのだ。
地面に落下する。
身体中に激痛が走って数秒呼吸ができなくなり、それから咽るように血を吐いた。
口の中に血の味が広がる。
痛みのせいで目の焦点が定まらない。
立ち上がろうとしたが、身体が言うことを聞かなかった。
それでも無理矢理に足を地面に着け、腕で胴を何とか持ち上げたところで、意識が遠のきそうになる。
一瞬だけ視界が真っ白になって、気がついたときには再び地面に伏せていた。
だけど、諦めるわけにはいかなかった。
再びわたしは力ずくで顔を上げ、
そして、見てしまった。
それは、腕が曲がるはずのない箇所で折れ曲がっていた。
元々綺麗ではなかった服はべっとりと赤い染みで汚れ、何箇所も引き裂かれている。
破れた服の下には生々しいあざがいくつもあり、皮膚が裂けているところもある。
地面に広がって酸っぱい臭いをあげている吐瀉物の上にその顔は転がり、目の端には涙の乾いた跡があった。
美しかった赤い髪は赤黒いものがこびりつき、頭は左右非対称に脹れたり窪んだりしている。
わたしの目の前にぞんざいに捨てられているのは、
間違いなく、チナちゃんだった。
「酷い……」
涙が出た。
殺すにしたって、こんなのはあんまりだ。
地面を掻き毟る。
何を守ろうとしていたのか、それすら分からなくなる。
「これが、人間のすることなの……」
「ええ、そう。これが人間のすることなのよ」
そう言ったのはミハエルではなかった。
ゾッとするほどに冷たい声。
聞こえてきた女性の声に振り向くと、そこにはいつの間にかノノが立っていた。
「人間はね、魔族が嫌いなのよ。魔族を見たら石を投げる。一人の魔族を大勢で囲む。最初にちょっとだけ臆病な顔をして、それからみんなでとっても楽しそうに笑うのよ。殴って、殴って、殴って、殴って、蹴って、刺して、潰して、抉って、そうやって殺すの。滑稽よね」
ノノはその顔に深い笑みを浮かべる。
それはまるで狂ったようにクスクスと嘲笑い、
「そんな人間達が、ワタシたちのことを悪魔だと言う。バケモノだと言う。この世界で自分たちだけが異端だというのに、必死で正しいと思い込もうとしている狂信者共! それが人間なのよ!」
しかしノノの目は、とても悲しそうだった。
いや、これはもうノノじゃない……
「あなたは、誰?」
「おかしなことを聞くのね。ワタシはただの魔族よ。人間に殴られ刺され殺された、極当たり前に人間を呪うただの魔族……それだけよ」
そう言った女の背中には、カラスのような六枚の黒い翼が生えている。
それから女は、人間達に振り向いた。
香澄vsミハエル
まぁ結果は見えてますけどね。
すてらは偏った思考の持ち主で、戦闘シーンは意見をぶつけるときの小道具のような扱い。
そもそも戦闘シーンを描くのは下手っぴです。戦闘だけで魅力的な話を書ける自信はまだありません。
ノノの中の、もう一人の人格さん登場。
乖離性同一性障害(二重人格)というわけではなく、ノノの中に別の人格が後付けで入り込んで来た感じかな? 本人、殺されたって言ってますしね。
ノノ自信が本来持っている能力は「千里眼」。
チナちゃんが亡くなったのを知って、ノノは涙を流しました。






