第0章「外伝・銀色の勇者」②
この地では、目に見えない線で区切られて、人間の国と魔族の国が隣り合っている。
魔族は人間と比較して圧倒的な力を有しており、一度諍いになれば、大抵の場合は人間に勝ち目は無い。
魔族の存在に日々怯え、生活しているのがこの国の人間の現状なのだ。
だが、そんな日々ももう終わりだ。
勇者である自分が、今こうして魔王と対峙しようとしてるのだから。
甲冑の兜を被ると、クロウは城の扉に手を掛ける。
ここからは微塵の失敗も許されない。
何せ、今まで誰もつけられなかった決着をつけようというのだ。
魔王の間に辿り着く間に敵がいようものなら、躊躇わず切り捨てるつもりだった。
大きな扉がゆっくりと開き、松明に照らされてもなお暗い城内へ入る。
「えっと……こんばんは」
「――――――っ、」
突然かけられた声に、クロウは咄嗟に聖剣の柄に手を掛ける。
全く気配を感じなかった。
魔王城にいるということは、魔族のはずだ。
この距離ならば、魔族どころか人間でさえ、気配を感じることが出来るはずだというのに。
「あわわっ、すみません、驚かしちゃいましたよね。ごめんなさいっ!」
クロウが振り返ると、そこにいたのは黒い髪をした男の子だった。
背丈は小柄で、驚かされたクロウよりもよっぽど慌てている。
どうやら、子供なので気配が小さくて気付けなかっただけのようだ。
クロウは抜きかけていた剣を再び鞘に戻す。
「それにしても、どうして子供の魔族がこんなところに……」
クロウが呟く。
独り言のつもりだったそれに、男の子は答えた。
「あなたをお待ちしていたからです。えっと……勇者様であっていますよね?」
「まぁ確かにそうだが……」
「よかった。魔王様から、勇者様を案内するように仰せつかっています。こちらへどうぞ」
「………………」
……調子が狂う。
魔族と人間の国は太古の昔から対立が続き、今もなお戦争状態にある。
こちらは城中の魔族を殺し尽くしてでも、魔王の首を取るつもりでいるというのに。
「……甘いな、俺も」
「あ、すみません。上手く聞き取れなくて……もう一度お願いできますか?」
「いや、独り言だ。気にするな。それにしても、どうして魔王は、君みたいな者を案内役として遣したんだ?」
「そうですね……僕が一番殺される可能性が低いからだそうです」
確かに、こんな非力な子供にはクロウも手出しができない。
けれど同じ状況で、子供を躊躇い無く切り伏せる兵士も少なくはない。
魔王は、戦争中の相手兵士であるクロウに、良識を期待したということだろうか。
だとしたら魔王は……
「………………」
そこまで考えて、クロウは首を横に振る。
これ以上は考えては駄目だ。
決意が鈍りそうになって、だからクロウは確認するように、魔族を屠るための剣を握る。
そうだ。ここには魔族を殺しにきたのだ。
「……君は、俺が怖くないのか?」
クロウはふと思って、魔族の男の子に問う。
「怖いですよ」
男の子はそう答えた。
「勇者様だけでなく、人間はみんな怖いです。まぁ僕の場合は、自分より背が高い人は大抵怖かったりするんですけど……あっ、僕、失礼なこと言ってませんか。ごめんなさいっ!」
「いや、構わない」
廊下で幾度と無く魔族とすれ違うが、睨まれこそすれ、手を出してくる者はいなかった。
やがて大きな扉の前で、「こちらです」と男の子が足を止める。
「勇者様。こんなこと失礼だとは思うのですが……お願いをしてもいいですか?」
「魔族である君の頼みを聞く謂れは無いが、まぁ言ってみろ」
「……ここで引き返していただくわけにはいきませんか?」
「それはできない相談だ。例え君でなく、人間の誰かに頼まれようともな」
「そうですね……分かっていたことです。失礼しました」
それから男の子は扉をノックする。
「魔王様。勇者様をお連れしました」
内側から扉が開かれ、クロウは大きな部屋へと一歩、足を踏み入れる。
ブワッ――――――
今まで感じたことが無いほどの濃い魔力が、扉から溢れ出している。
部屋の奥には虎を模った肩当の大男と、龍の翼を持ったタキシード姿の青年。
おそらくあれが魔族四天王の白虎と青龍だろう。
そしてその中央には、赤い瞳の少年が立っていた。
※設定裏話※
道案内はジョンです。
実はクロウの似顔絵を描いたのもジョンです。
『一番殺される可能性が低い』というのは、クロウが察した理由のほかに、ジョンが防御に長けた魔族だからという理由もあります。






