いざ!ドキドキ面接タイム
「でかいな……」
「協会本部だからな」
蓮司が肩を竦める。
「全国の支部をまとめてる場所だ」
「全国?」
「裂け目がどこに出るか分からねぇからな」
そう言いながら入口へ向かって歩き出す。
旭も後を追った。
「そういや」
歩きながら旭が口を開く。
「教習所って何する場所ですか?」
「ん?」
「イグゼクター教習所のこと」
「ああ」
蓮司は頷く。
「簡単に言えば養成施設だな。能力者を集めて育てる場所だ」
「警察学校に似てるな」
「まぁそれに近いな」
少し考え込む。
「それだったら蓮司さんも能力者ってことか?」
旭は蓮司を見た。
「ああ」
蓮司は当然のように答える。
「能力者だぞ」
「やっぱり」
「じゃああの三人も?」
旭は怪花の時に助けにきてくれた黒髪の少女たちを思い出す。
「玲奈たちか」
蓮司は笑った。
「全員能力者だ」
「マジか……」
旭は少し驚く。
黒髪の少女は植物を生やしたりしてまさかとは思ったが、残りの2人も能力者だったとは思いもしていなかった。
「能力者しかイグゼクターになれないんですか?」
「基本はな」
蓮司は続ける。
「能力がなきゃ怪花相手は厳しい」
「でも能力さえあればなれるわけでもない」
「え?」
「能力なんてただの道具だからだ」
蓮司は指を一本立てる。
「使う奴が駄目なら意味がない」
「逆に能力が微妙でも強い奴は強い」
旭は小さく頷いた。
「試験は何やるんです?」
「ああ」
蓮司が頷く。
「まず面接をして、検査を含めた簡単な実技試験だ」
「実技試験?」
「能力者としての適性を見る」
旭は少し眉をひそめた。
「俺……運動神経皆無だけど?」
「まぁ能力者特有の反応や傾向を見るぐらいだから気にすんな」
「なるほど」
少し安心した。
「ちなみに倍率は?」
「年によるが五倍から十倍くらいだな」
「高っ」
「まあ給料はいいしな」
「急に生々しいな」
「でも大事だろ?」
否定はできなかった。
「それに」
蓮司は続ける。
「本来なら筆記試験やら書類審査やらもあるが
お前は推薦扱いだ」
「推薦?」
「ああ」
蓮司は平然と言う。
「怪花相手に生き残ってる時点で大健闘だ」
「なるほど」
「ちなみに推薦者は俺だ」
「……」
そんなやり取りをしているうちに。
二人は協会の入口へ辿り着いた。
自動ドアが開く。
広々としたロビーが目に入った。
その瞬間。
「相馬教官」
女性の声が聞こえた。
振り向くと、協会の制服を着た若い女性がこちらへ歩いてくる。
二十代半ばほどだろうか。
長い黒髪を1つにまとめている。
「お迎えに参りました」
「ああ」
蓮司は軽く手を上げた。
「助かる」
女性は旭へ向き直る。
「天城旭さんですね」
「はい」
「私は協会職員の藤崎真琴です」
丁寧に一礼する。
「本日はこちらでご案内させていただきます」
「よろしくお願いします」
旭も頭を下げた。
「じゃあ俺はここまでだな」
蓮司が言う。
「え?」
「試験官でもない人間が付いて回ったら色々言われるからな」
「それもそうか」
「頑張れよ」
蓮司は笑った。
旭が呆れる。
「それでは」
真琴が歩き出す。
「まずは面接会場へ向かいます」
旭は一度だけ大きく息を吐いた。
いよいよだ。
自分が何者なのか。
少しだけ分かるかもしれない。
そう思いながら、真琴の後を追った。
「……今年の面接の相手はキツいぞ~。頑張れ、天城」
◇
「ありがとうございました……」
「はい。ありがとうございました」
氷室信義はそう言って一礼した。
受験生が退室する。
扉が閉まるのを確認すると、手元の書類へ視線を落とした。
そして迷うことなく判子を押す。
不合格。
それを確認してから次の書類の束へ戻した。
氷室は協会人事部所属の面接官である。今回は教習所を志望する者達の面接を担当する。
しかし、やること見ることは大して変わらない。
能力は『真偽判定』。
対象が嘘をつくと、その人物が赤く光って見える。
単純な能力だが効果は絶大だった。
経歴を誇張する者。
名誉欲だけで志願してくる者。
協会の権限を目当てにする者。
そんな受験生を何人も見てきた。
能力のおかげで嘘はすぐに分かる。
だから容赦なく落とす。
その結果、協会内ではこう言われていた。
――氷室が面接官を担当した年は合格率が下がる。
原因筆頭。
そんな言葉を向けられたことも一度や二度ではない。
だが構わなかった。
イグゼクターに必要なのは才能だけではない。
力だけでもない。
最後にものを言うのは誠実さだ。
少なくとも氷室はそう信じている。
人を守る立場の人間が、自分自身に嘘を吐くようでは話にならない。
それが長年この仕事を続けてきた結論だった。
書類を一枚手に取る。
次の受験者。
天城旭。
推薦者の欄を見る。
そこには見知った名前が記されていた。
相馬蓮司。
氷室は小さく眉をひそめる。
(相馬教官の推薦ですか……)
正直なところ。
この時点で嫌な予感しかしない。
あの男は妙な人材ばかり連れてくる。
協会の規格に収まらない人間を見つける才能だけはあるのだ。
(できれば既に不合格にしたいところですが……)
内心でため息を吐く。
だからといって、見る前から評価を決めるのは違う。
それは自分が最も嫌う行為だった。
氷室は姿勢を正した。書類を机に置く。
「次の方、どうぞ」
静かな声が面接室に響いた。
数秒後。
扉が開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、一人の少年だった。
黒髪で特別目立つ特徴はない。
年齢も書類通りなら十七歳前後。
少なくとも第一印象は普通だった。
「どうぞ、お掛けください」
「失礼します」
少年――天城旭は椅子に腰を下ろした。
氷室は改めて書類を確認する。
天城旭。
推薦者は相馬蓮司。
記憶喪失。
住所不明。
身元不明。
書類として見れば不安要素しかない。
なぜ推薦されたのか分からない。
「私の名前は氷室信義です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「初めに言っておきます。私の能力では目を見た対象が嘘を言っているかどうかが分かります。もし嘘をついたら、あなたの身体が赤く光ります」
「分かりました」
「ですから、面接で聞くこと自体は少ないです」
「はい」
「覚えている限りで構いませんので正直に嘘のないように答えてください」
「はい」
その返事にも特に違和感はない。
多少、動揺している部分もあるが、記憶喪失にも関わらず連れてこられたのが原因なのだろう。
(検査だけで十分なのに、なぜ試験まで?意味が分かりませんね)
氷室の旭に対する印象はいいとは言えなかった。
質問を開始していく。
「自己鍛錬など、自分の能力向上に努めた経験はありますか?」
「あります」
意外にも即答だった。
「具体的には?」
「家の警備です」
氷室はペンを止めない。
まだ耐えられる。
警備ならあり得る。
「他には?」
「武器を使って敵をなぎ払ったり」
ペンが止まった。
「武器ですか」
「はい」
「どのくらいの頻度で?」
「毎日です」
赤く光らない。
嘘ではない。
「継続期間は?」
「三年くらいです」
嘘ではない。
氷室は静かに書類へ視線を落とす。
(この年齢で三年間の武装訓練経験……?相馬教官は何を連れてきたんですか)
「なるほど」
とりあえず書く。継続的な自己鍛錬経験あり。戦闘経験あり、と書類に記入する。
「何か趣味はありますか?」
旭は少し意外そうな顔をした。
「趣味ですか?」
「ええ」
氷室は頷く。
「趣味の内容そのものが重要なのではありません。人は興味のあることに時間を使います」
「そのため、何に興味を持つのかを見ることで、その人の思考や価値観がある程度分かるんです」
「なるほど」
「納得してくれたところで改めて、天城さんの趣味は?」
「読書です」
「どのようなものを?」
「歴史物とか」
氷室は頷く。
「なるほど」
「戦記物も好きですね」
「ほう」
「戦術とか指揮とか」
赤く光らない。
氷室は静かにメモした。
戦略思考あり。
(戦闘経験だけでなく戦略面でも学習も怠らないと?これほどの経歴の持ち主とは......)
「何か資格は持っていますか?」
天城は少しだけ考えた。
「一級在宅士です」
氷室のペンが止まった。
「……」
天城は真顔だった。
氷室は能力をずっと発動している。赤い光は見えない。
つまり嘘ではない。
「一級在宅士、ですか」
「はい」
聞いたことがない。
国家資格にも、民間資格にも、海外資格にも覚えがない。
「どういった資格でしょうか」
「長年の経験と実績が認められて取得できました」
嘘ではない。
やはり赤く光らない。
(知らない……)
氷室は内心で困惑した。
(私が知らないだけで主要な資格でしょうか)
一瞬そう考える。
だが、自分は資格制度にかなり詳しい。
知らない方がおかしい。
しかし、嘘ではない。赤く光らない。
(後で調べましょう)
氷室はそっとメモを取った。
これ以上踏み込むのは危険な気がした。
「では」
咳払いをする。
最後の質問。これは毎年必ず聞く。一番受験生達が赤く光るからだ。
「天城さん」
「はい」
「イグゼクターは非常に危険な仕事です」
天城は静かに頷く。
「怪我をするかもしれません。命を落とすかもしれません。……それでも目指しますか?」
数秒の沈黙。今までとは違う。
天城もそれを察したらしい。
少し考えてから答える。
「正直、怖くないとは言えません」
赤く光らない。
本心だ。
「でも」
天城は顔を上げた。
「誰かがやらなきゃいけない仕事なんですよね」
氷室は黙って聞く。
「俺は助けてもらいました。だから……今度は自分が誰かを助ける側になりたいんです」
赤く光らない。嘘ではない。全部本心だ。
氷室はゆっくり頷く。
「そうですか」
そして初めて少しだけ表情を緩めた。
「それは良いことですね」
天城は少し照れ臭そうに頭を掻いた。
氷室は思う。
どこか変な受験者だった。
経歴も妙だ。
だが、少なくとも誠実だった。
それだけは間違いなかった。
「以上です」
氷室が書類を閉じた。
「面接は終了となります」
「あ、はい」
旭も慌てて立ち上がる。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
氷室は軽く会釈した。
「次は適性検査になります」
「職員が案内しますので、指示に従ってください」
「分かりました」
扉が閉まる。
「……私もまだまだですね」
氷室は窓の外の町を見ながら呟いた。
◇
旭は一礼し、面接室を後にした。
扉を静かに閉める。
その瞬間。
「ふぅ……」
(面接緊張した~)
思わず息を吐いた。
想像以上に疲れた。
椅子に座って話していただけなのに、怪花と向き合った時とは別方向の緊張感があった。
「お疲れ様です」
廊下では真琴が待っていた。
「随分疲れてますね」
「面接ってあんなに疲れるものなんですか」
旭は苦笑する。
「人によりますね」
真琴も微笑んだ。
「氷室さんの面接は特に厳しいので」
「やっぱりですか」
「協会でも有名ですよ」
有名なのか。
旭はなんとなく納得した。
あの雰囲気は確かに普通ではなかった。
怒られているわけでもないのに妙な圧があった気がする。
(蓮司さん……あんな怖い人いるなら教えてくれよ)
そして蓮司を思い出して頭の中で文句をブツブツ言う。
真琴の後を歩きながら、先程のやり取りを思い出す。
引きこもり時代の生活を言った。
ゲームの中で武器を使って大量のゾンビも倒したし、3年間は引きこもってた。ゲーム以外だと漫画やラノベばかり読みあさっていた。特に昔の軍事物や能力系の漫画は好きで読んでいた。
(大丈夫だったよな……?)
面接の最初にあんなこと言われた手前、ヤケクソに言ってみたが終わってから一気に自信が無くなってきた。
よく考えたら変なことを色々言った気がする。
特に資格の質問は一段と危ない綱渡りをしたと思ってた。
(ネットスラングで言われてたしな)
嘘は1つもついていない。……はず。
(まあ……いいか、赤くも光ってなかったし)
旭は思ったよりも楽観的な性格だった。
今さら面接のやり直しは出来ない。
結果は結果だ。
それに、最後の質問だけはちゃんと答えられたと思う。
(それでも目指しますか?)
氷室の言葉を思い出す。
あの時は迷わなかった。
あの黒髪の少女。蒼汰。詩織。おばさん。蓮司。
この世界で出会った人たちの顔が浮かぶ。
数日前までは他人だった。
なのに、気付けば助けられてばかりだった。
(助けられたままで終わるのは嫌だな)
それが今の正直な気持ちだった。
裂け目のこともある。
帰りたい場所もある。
でも、今はそれだけではない気がしていた。
真琴に案内され、旭は長い廊下を歩いていた。
途中で見える訓練場や研究室らしき部屋はどこも慌ただしい。
ここが協会の教習所の中枢なのだと実感する。
「こちらです」
真琴が立ち止まった。
目の前には大きな自動扉。
その横には、【実技試験場】というプレートが取り付けられている。
「次は検査兼実技試験ですね」
「はい」
旭は小さく息を吐いた。
蓮司はあんな簡単に言っていたが面接が想像以上に緊張した。
もしかして実技試験の内容もハードではないのか。
真琴が端末を操作する。
自動扉がゆっくりと開いた。
中は広かった。
体育館どころではない。
小さなドーム施設のような空間が広がっている。
「広っ……」
思わず声が漏れる。
「一応壊れてもいいように作られていますから」
「いや物騒だな」
その時だった。
「来たか」
低い声が響く。
旭が振り返る。
そこには一人の男が立っていた。
短く刈った黒髪。
日に焼けた肌。
無駄のない体格。
年齢は三十代後半ほど。
ただ立っているだけなのに氷室と同じく妙な威圧感があった。
旭は直感する。少なくとも普通の人間ではない。
「実技試験担当の高城だ」
男はそう名乗った。
「天城旭です」
旭も軽く頭を下げる。
「面接はどうだった?氷室に何か言われたか?」
「誠実だって言われました」
一瞬だけ。
高城の眉が動いた。
「そうか」
短い返事だった。
だが、どこか納得したようにも見える。
「だったら、後は簡単だ」
「簡単?」
「次は口より行動を見る」
高城は腕を組んだ。
「それが俺の担当だ」
そう言って試験場の中央を指差す。
旭が視線を向ける。
そこには巨大なシャッターがあった。
「実技試験では模擬戦闘を行う」
「模擬戦闘ですか」
「そうだ」
高城は頷く。
「天城旭、お前は怪花との交戦経験がある」
「いや、交戦というか」
「報告書を読んだ。相馬の報告書をな」
(蓮司さーん……)
どうやら言い訳は通じないらしい。
「よって通常試験ではなく実戦形式を採用することにした」
高城が端末を操作する。
直後、重々しい音を立てながらシャッターが開いた。
旭は思わず目を見開く。
「うわ……」
そこにいたのは巨大な人型ロボットだった。
黒い装甲。無機質な赤いセンサー。三メートル近い巨体。
ゲームなら興奮するが、現実となると勘弁してほしい。
「相手はあれだ」
嫌な予感しかしない。
「勘違いする受験者が多いが」
高城はロボットを見つめたまま言う。
「この試験に正解はない」
「正解がない?」
「能力を使って逃げてもいい。攻撃してもいい。なんなら能力を使わなくてもいい」
旭は首を傾げた。
「自分をアピールしろ」
高城は旭を見る。
「こちらは結果だけを見ているわけじゃない。
何を考え、どう動き、どう戦うか……そこを見ている」
旭はロボットを見上げた。
「ちなみに倒したら加点ですか?」
「……やってみろ」
高城は少しだけ口元を緩めた。
初めて見せた笑みに近い表情だった。
「イグゼクターを目指すなら……常に全力を見せろ」
旭はロボットを見る。
そして自分の手を見る。
能力。
正直、よく分かっていない。
分かっているのは、ここで何かを見せなければならないことだけだった。
「準備はいいか?」
高城の声が響く。
旭はゆっくり頷く。
「はい」
「いい目だ。」
高城が一歩下がる。
「氷室の評価を裏切るな」
観測室の研究員達がモニターへ視線を向けた。
ロボットの両目が赤く点灯する。
そして、高城が右手を振り下ろした。
「実技試験――開始!」




