一章 8
朱里は汚物を見るような目で私を一瞥したあと焼き魚定食を買って戻ってきて私からちょっと離れたところに座った。
からあげ定食のトレイを持った五十嵐がその向かい側の椅子を引く。
あー、めんどくせえ。でもどっかで話を付けないといけないのは間違いないから、早い方がいい。気を窺ってるうちに状況がどんどんひどくなりそう。よりによって高校時代から付き合いのある美香子まで取り込まれかけてたのだ。……私、人望ねーな!
食い終わるまで待っとこうかなと思ったが、べつにあいつらの都合にあわせてやらなくてもいいかと席を立った。五十嵐の隣の椅子を引いた。朱里を見る。朱里が焼き魚定食から顔をあげた。
「おっす」
「ん、何?」
なんつーか、ふつうに返してきた。
こいつ、つらの皮があついな。
「あんたみんなに私の悪口吹き込んでんの?」
「なんのことやら」
「私、あんたになんかした?」
五十嵐がおもしろがって私の横顔を見ている。
うぜーな。見てくんなよ。
「性欲がうさぎ並みつったね」
あ? んなこと言ったっけ。言ったとしてそんな些細なことで? みたいに思った。
あ。思い出した。言ったわ。美香子に朱里を紹介したときだ。「こちら木村美香子。ゴリラの親戚。かっこ握力が強い。こちら塩沢朱里。うさぎの親戚。かっこ性欲が強い」…………ああ、言ったよ。言ったさ。でもあんなのただの冗談じゃん。
いや、覚えがあるな。私が鈴木をいじめだした理由ってなんだったっけ。なんかくっだらねーことが気に食わなかったからだったと思う。それと似たような感じか。あー……。あらためて私と朱里って似てるなぁと思う。私とこいつの違いは、私は美香子に殴られたが、朱里は殴られなかった。たぶんそんだけだ。溜め息をつく。
「とりあえずやめてくんない? あることないこと言いふらすの」
「はて。心当たりがないからなんのことやら」
「いちおう、何人かからあんたが吹き込んだって証言もらってるんだけど」
「誰が言ってたのそれ」
「言うわけねーだろ」
おまえみたいなタイプに言ったら敵認定で報復しだすんだろ? 私も昔やったわ。けっ。朱里がちらりと五十嵐を見た。助けろ、と言ってるように見えたが五十嵐はにやにやしてるだけで特に反応を示さない。五十嵐はどっちの味方にもつくつもりはないらしくてなんかまあこういうやつらって利益で繋がってるだけで基本薄情だよな。このまま問い詰めてものらりくらりで埒が明かなそうだ。はぁ。しょーがない。私は対朱里用の切り札を切る。
「知り合いの社長紹介してやっからやめろ」
「すみませんでした。やめます」
朱里が言った。
五十嵐が噴いた。




