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一章 5

 

 というわけでちょっと行った先の路地裏に入って御園がもう少し落ち着くまで待って、薬局で包帯とか消毒液買ってきて(ほんとは消毒するより流水でよく洗って雑菌が入らないようにしたあとにテープで患部を覆って止めて湿潤療法するのがいいらしいね? 今回は皮一枚切れただけだったからなんとかなったけどみんなはちゃんと医者行こうね)長谷川の傷を応急処置したあとファミレスに移動した。昼時は過ぎてるから客は少なかった。窓際の奥の席を取る。注文取りにきたお姉さんに長谷川がポテトフライと人数分のドリンクバーを頼んだ。私はとりあえずカルピスを人数分取ってきた。窓際に押し込まれて長谷川に隣を埋められた御園が窮屈そうに、バツが悪そうに体を縮めてときどき目を擦っている。私の隣でハセ友がスマホをぽちぽち弄っている。

「んで、ようするにどういうことなわけ? 朱里は何言ったの」

「こないだ買った服着てったら、塩沢に“普段のとセンス違うけどどこで買ったの?”みたいなことを訊かれてですね、師匠と行ったことを話したら、“あいつ服ださくて笑っちゃった”、って師匠が言ってたと塩沢が言い出して」

「なんでそんなことになってんの?」

「いや、そりゃ俺に言われてもわかんないっす」

「わたしも」

 御園がちっちゃい声で言った。

「にゃにゃみが、」

 ふざけてるわけじゃなくて泣き声で発音がふにゃふにゃになっているだけだが、かわいいな、にゃにゃみ。

「“あんたのお兄さんクソバカにしてたよ”って、朱里が。自分の恋人と比較してこきおろしてたって」

「はぁーん」

 よくわかんないが、多少はわかった。

 私は朱里に攻撃されている。

 こりゃ美香子の態度があやしかったのにも朱里がなんか一枚噛んでるのかな? ……ん? でも朱里と共通の友達の長谷川や御園に私の悪口を吹き込めるのはわかるが、そもそも朱里と美香子は仲良くなくね? まあとりあえず美香子のことはいま直接関係がないからおいとこう。

「とりあえずもっぺんちゃんと言っとくね。わたし、言ってないよ。それ」

 確かに長谷川の服はセンスいいとは言いづらいし。

 あれ御園の兄かな? と思った人物に対していい印象を抱かなかったことまでは事実だ。

 でも私はそれを朱里に話していない。

 つーかちょっとすげーなとも思う。だってそれらは確かに私が内心である程度思っていたことで、朱里は話していない私の内心をわりと的確に言い当てている。美香子との「悪口言うなら本人のいるところで言え」の約束がなかったら実際に喋っていた内容だったかもしれない。なんかこえー……。

 一応、朱里が私に対してそういうことをしだした理由とか心当たりないか訊いてみたんだけど、御園も長谷川もお手上げだった。

 ハセ友はオムライス食ってた。美味そうだな、ちくしょう。

 私はフライドポテトをつまむ。

 なんかこう間接的に朱里に報復する手段が取れたらいいのだがそういう方法は特に思いつかないので直接朱里に聞いてみるしかないか。縁切っても悪評を流され続けたらふつうにだるい。

「つか、おまえさ、あー、言いたくなかったらいいんだけど、兄貴に犯されてるって何?」

 長谷川が訊きにくそうに言う。

 御園が俯いてまた啜り泣きをはじめる。

「親とかそれ知ってんの?」

 小さく頷く。

 私は絶句する。

 え、親とか兄弟ってそんなえぐいことできる生き物なの?

 私の親とか基本的に猫可愛がりだが。親ってそういう生き物じゃないの?

「まじかよ。親なんて言ってんだ」

「お兄ちゃんはかわいそうだから仕方ないでしょって」

 さっきから御園の話の登場人物の全員が正気だとは思えないんだが。

 そういうものなんだろうか。辛い目にあってる人間が声を上げなかったら見た目は平和なんだから我慢してね! ってのは普通のことなんだろうか。程度もよるが、たぶん私が思ってるよりもずっと普遍的に起こってることなんだろう。

 ハセ友がカルピスを飲み干してアイスコーヒーを持ってくる。ついでに私のコップに新しいカルピスを注いできてくれた。

 長谷川が頭のてっぺんをがりがり引っ掻いて「あー……」と唸った。

「とりあえずおまえの両親おかしいし兄貴もおかしいよ。んでおまえもちょっと変になってるよ。いきなり師匠にやつあたりはねーだろ」

 御園は答える代わりにすんと鼻を鳴らした。

「おまえさ、当分俺のとこ来いよ。泊まってけ。ぜったい家いたらダメだから、な?」

「助けられないくせに中途半端に手を伸ばさないでよ」

 御園がぼやく。

 悲痛な声だった。

「助けるから」

 長谷川が言う。

「じゃあ付き合ってよ」

「うん、付き合う付き合う」

「適当に……」

「適当じゃないって。俺、おまえ好きだよ。昔からけっこー見てたよ」

「ほんとに?」

「ほんとほんと」

 長谷川が御園の手を取ってぎゅーっと握りしめた。御園が長谷川の肩に頭を預けた。

 ハセ友が「おめでとー」と言って小さめにぱちぱち手を叩いた。つられて私も祝福しといた。



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