二章 8
二ヵ月ぐらいして美香子とファミレスで飯食ってるときにそれまでタイミング逃したり忘れてたりで言い損ねてたラメタの顛末を改めて話した。
「ほーん。それで? どうなったの」
「五十嵐が食っちゃった」
「……」
さすがの美香子も無言になった。
私はサラダのレタスをフォークの先でつついた。
「五十嵐が、花ちゃん、食っちゃった」
「それは、なんていうか、その、ご愁傷様」
以下。三者 (相沢、五十嵐、花ちゃん)の証言。
「お話ししたいことがあります」
私と相沢をファミレスに集めてすげー気まずそうに五十嵐が言った。
「おう。なんや。言うてみぃ」
相沢はやけに高圧的である。私はなんも知らなかったのだが相沢はこのときにはすでに花ちゃんから大筋を聞いていたらしい。
「花さんとお付き合いすることになりました……」
「え?」
まじ? 私は隣の相沢を見る。
「ほぉ。ほんで?」
「えっと、あの……ちがうねん。言い訳ですけど。きいてください」
五十嵐は気まずすぎて相沢の関西弁が移っている。
「俺ら、ふざけてホストムーブしてたじゃないですか。おまえ帰ったあとに、なんかそのうち花さんの目がとろんとしてきてですね。こう、女の子が手を出してほしがってるのって、わかるとき、あるじゃないですか」
「ほぉ。ほんで?」
「その、ですね」
「“やばいと思ったが、性欲が抑えきれなかった?”」
私は言った。(※未成年のファンとみだらな行為をした音楽家の男性の発言である)
「そう。……チガウ! チガウ!」
いや、頷いてから否定すんなよ。説得力ねーな。
まあヤリ捨てずにちゃんと付き合うことになってるなら、そんなに非難しなくてもいいんだろうか。んー。微妙なラインだな。
「ほお。ほんで?」
相沢はずっと笑顔である。
笑顔で圧をかけ続けている。
「すみませんでした」
「べつにあいつとおまえの二人のことやし俺に謝る必要はないよ」
一拍。
「ほんで?」
「あの」
五十嵐がしどろもどろで言い訳を続けようとするが、それ以上言葉は出てこなかった。
いつもわりと居丈高な五十嵐が俯いて小さくなっている。
「いや。そうやのうて。智之どうなったん」
相沢が言った。
あ、そうじゃん。花ちゃん、彼氏同棲じゃん。
「花のとこからは荷物纏めて出て行ってもらいました。ラメタのことはまだ相談中ですけど抜ける方向で動いてます」
うおぅ。智之くん彼女をNTRれ、住処を奪われる。憐れすぎる。
限りなく自業自得に近いけど。
「ハナ?」
透かさず。
この圧、向けられてるの自分じゃなくてよかったぁ。
「あぶ」
五十嵐が聞いたことのないタイプの悲鳴をあげた。
ポテトフライが運ばれてきてから話しはじめたのだが、誰も手をつけていない。
メロンソーダの氷が溶けていく。コーヒーがとっくに冷めている。
「まあええやろ」
ふうっ、と息を吐きながら相沢がこぼす。
五十嵐を押し潰しかけていた圧力がスッと消える。五十嵐もう瀕死だけど。
「いいの?」
と、私。
「最初に言うたと思うけど、俺あいつのこと好きなんは好きやけど付き合いたいとかとはまたちょっとちゃうねん。俺らもうとっくに終わってるし。なんか、不幸なんが見てられんかったんよ。だから、幸せならOKです」
思ってた形とはちゃうけど。みたいな感じで首を傾げながら、でもサムズアップを作る相沢をちょっといい男じゃん、と思う。
「そんかわり不幸にしたら殺すけどなぁ!」
サラッと言う。
五十嵐は普通にビビってたけど、相沢、目が笑ってたから冗談だと思う。
んで花ちゃんいわく。
「相沢といっくん(五十嵐くん)と三人で話してるときに、なんかの拍子に私が“武勇伝”って言って、そしたらいっくんが“武勇伝?”って相沢を見て、突然“武勇伝武勇伝、武勇でんでんででんでん!”って言い出して。相沢が合いの手いれて自前の伝説ベストテンを発表しだして」
(※「武勇伝」はお笑いコンビ、オリエンタルラジオさんの持ちネタ。俺の伝説ベストテン! と、どこかズレた武勇伝をテンポよく小気味よく発表していく。でもいくらなんでも意味がないなら「小学生にビンタ」しちゃダメだと思う)
「私、もうお腹抱えて笑っちゃって。そしたらラメタのこととか、智之のこととか、全部どうでもよくなっちゃって。私を笑わせてくれるこの人が好きだなぁって」
ちなみにこのときのことを五十嵐に訊いたら「あー、花、あんとき彼氏とラメタの愚痴ばっかであんまりにも話がつまんなくて。無理矢理でも話題変えたかったんだよね。岡橋の武勇伝とか一ミリも心動かされなかったし。もうウソくせーのなんのって」とのこと。ついでに「武勇伝って何言ったの?」「岡橋?」「いや、あんたの」訊いてみたが「おう、聞きたいか俺の武勇伝」までは言ってくれたけど肝心の内容については「二回はやんねーよ」と言って教えてくれなかった。
何言ったのか気になった。
付き合いはじめてすぐだからかもしんないけど、智之くんのこと喋るときの花ちゃんは後ろ向きなことしか言わないのに対して五十嵐のこと喋ってる花ちゃんは楽しそうであかるかったからそれだけでもまあいいことなんだろうな。
以上。回想終わり。
私としては五十嵐のことを自分のキープくんみたいに思ってた朱里が静かにブチギレてたのが、メシが美味かったです!
美香子がハンバーグを一口大に切りながら「あんた、彼氏は欲しいんだよね?」と言った。
「え、うん」
「それ、あんたが“自分は彼氏持ちだー!”って言ってなかったら、傷心の相沢くん落とせたんじゃない?」
私はフォークを取り落とした。
「……あんたって頭いいとこ以外はほんっとバカだよね」
美香子が米とハンバーグを口に運んだ。




