二章 5
講義受けながらどうっすかなーと考えてたがまあ行ってやってもいい気がした。
後ろの方の席で耳半分の講義を聴きながらスマホでマルチ商法のことを調べる。
日本での正式名称は「連鎖販売取引」で、具体的にはある商品の顧客が同時に販売者になって別の顧客に売りつけていく商業形態のことを言う。これ自体はべつに違法ではない。違法なのは「ネズミ講」でネズミ講は商品を売買せずに会員権みたいな形のないものを売ってたらしい。(なのでこないだ長谷川が「ネズミ講に誘われた」と言ってたのは厳密には間違い。まあ一般人にとっては似たようなもんだろうけど)
でも「マルチ商法」も「ネズミ講」に負けじ劣らず問題が多かったからいろんな法規制が入って、例えば「勧誘目的だと告げずにアポイントメントを取るのはダメ」だったり「一回断った相手を何度もしつこく勧誘するのはダメ」なのだそうだ。んで「ほんとうはダメなんだけど、これぐらいならべつにいいんじゃね?」つって、料理教室だとかにかこつけてマルチに勧誘する輩が後を絶たない。(例えばこないだの三島さんの「キャンプに来て、ついでに勧誘」みたいなのはダメ)
私は安直に法テラスとか消費者センターとかに駆け込めばなんとかなんじゃね? と思ってたのだが合法でかつ当人の同意があって完璧に自分の意思でやってる以上、法律や消費者センターが関与できる余地はあんまりない。という体験記が書いてあった。いわくマルチやってる人と話した感想は「宗教にハマってる人と話してるみたいだった」とのこと。いわゆるニセ科学や口コミ、実際は大したことのない体験をもとに商品の良さを信じ込んでいて客観的・科学的な事実を受け付けない。みんなで「これいいよ!」って言い合うことでそういう集団を形成している。
これ思ってたよりずっと厄介そうだぞ……?
いや、説得するのは相沢で私は付き添うだけだから特にちゃんと考えてやる必要はないのだが。つーかここに載ってる体験記、読み物として結構おもしろいな。おもしろがってちゃいけない内容のような気もするが。
「随分熱心に調べ物をしてるね」
いつのまにか真横にきてた教授が私を見てにっこりした。
ギョッとした。
「あ、さーせん……」
「マルチはいいことないよ?」
とだけ言って、通りすぎていった。
死ぬかと思った。
講義が終わって教室を出る。美香子から連絡が来ている。「講義終わったら飯いかない?」とのこと。美香子相手にちょっと愚痴るか。
校門で合流してファミレスに雪崩れ込んだ。ミックスフライ定食を頼んでモリモリ食ってる美香子の前で鳥胸肉のサラダをつついてるとなんか虚しくなってくる。ドリンクバーでカロリーを摂取する。キャンプいったときに夜の河原で長谷川と御園がいちゃいちゃしてたこととか楽しく喋ってた。ちょろっと岡橋なんちゃらのやってるマルチ商法のセミナーに忍び込もうとしてることを言ったらそれまでは手叩いて笑ってた美香子が急に真面目な顔して「よくわかんない会社作って金集めてるような反社絡みかもしんないんでしょ? 危なくね?」と言う。
あー……その視点はなかったな。
「向こうも学生詰めてるほどヒマじゃないんじゃない?」
「そうかなぁ?」
ハンバーグに箸を伸ばそうとした私の手に左肘を落として美香子が首を傾げる。痛い。ひどい。
それから私の服にちらっと視線を走らせた。
「あんたさ、コンビニバイトでブランド物って絶対金足んないでしょ? どうしてんの。なんとなくだけど、お父さん出してる感じじゃないよね?」
「あー、えー、まあ世の中にはいろんなシステムがございまして」
目が泳いだのが自分でもわかった。
「分割払いみたいなやつ? 四、五回に分けたら買えたりするの?」
美香子はそれだったら私もちょっと欲しいなみたいな口ぶりである。
「その、定額支払いという、やり方が」
「……リボのこと?」
美香子が息を呑んだ。
「おまえやったな? リボってあれでしょ。金利のせいで元金減らないやつ。支払いいくら残ってんだ。お父さん知ってるの⁉」
「待って、美香子、落ち着いて、そんな乱暴な使い方はしてない!」
「ほんとに?」
「……はず」
「おまえさぁ」
美香子を宥めるのに2時間ぐらいかかった。
絶対パパに連絡して立て替えて貰ってリボじゃなくパパに金返すように約束させられた。
リボの件はさておき、前の件で変にぎくしゃくせずにこういう中身のない女子会やる仲にちゃんと戻れてよかったなと、なんとなく思いました。




