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二章 4

 


 大学の食堂で野菜スティックを齧ってたら、相沢が「ここかめへん?」と言って椅子を引いて、座った。「まだいいって言ってないんだけど」「まあまあ」適当な笑みで誤魔化そうとする。べつに拒否らないけどさ。「ちょっとご相談がありまして」相沢が広げだしたのは先日のキャンプのときにまさに三島さんが持ち出してきたパンフレットと同じものだったので私はげんなりする。

「あんた、私と友達やめたいわけ」

「まさか。お友達に儲け話をちょろっと共有して甘い汁をやな」

「あんたが吸う汁を、あたしにさしだせと?」

「そこは努力次第で」

 私は鞄に手をつっこむ。

「あんたと絶縁するように朱里達に回しとくわ」

「わーわーごめんごめん。ちゃうねん。ほんまに言うてたわけやないねん」

 両手をあわせて「赦して」と拝み倒すので、取り出しかけたスマホを鞄に戻す。

 相沢がほっと一息。

「高校のときの元カノがマルチ、ハマってもうてん」

 まさしくこれ。

 相沢の人差し指がパンフレットをとんとんと叩く。

「なんか今カレに誘われたらしくてな。んで俺に入ってくれへんかって言うてきて、それ断って、おまえ騙されとんで、って説得しようとしててんけど、それで連絡切れてもうてん。心配で友達の伝手辿って近況聞いてたんやけど、どうもあんまりええことになってないらしくてなぁ」

「ほぉん」

「ほしたら、三島さんがまさしくそれの会員で、今度セミナーこうへんか? って。元カノもそこくるんやないかな思て」

 直接出向いて説得できれば。みたいなことを考えてたらしい。

「その元カノ、年下?」

「いや、俺らと同じおない

「ほっとけば?」

 私は言った。だって二十歳でしょ。なら完全に自分の責任で。今カレくんに唆されたなんてなんの言い訳にもなんないわけで。私にはわかる。彼氏に洗脳された女ほど面倒くさいものはない。彼氏に洗脳されてた女が言うんだから間違いない。

 相沢は酸っぱいものを食べたときの顔をした。

 なんとなく事情を汲み取って私はちょっとにやっとする。

「まだ好きなんだ?」

「んー。そこは難しいとこやねんけど。まぁ一応そういうことになるかなぁ」

 へえ。ほぅ。

 …………ん?

「なんで私にその話したわけ?」

 勝手に行って勝手に説得してくればいい。

 ここまでに私の存在はまったく不要だ。

「一生のお願いなんですけど」

 相沢は中途半端な敬語を使いながら両手をあわせて私を拝んだ。

「セミナー、一緒に行ってもらえませんか」

「ヤだ」

「心細くて。だってよう聞くやん。友達の洗脳解くためにいったら、そいつが洗脳されて帰ってきたって。ミイラ取りがミイラ。俺、影響されへん自信ないねん。お金好きやし。でも七宮さんそういうの我関せずっぽいから。ほら、知り合いに頼まれてもちゃんと断れたあたり」

「朱里でも誘えば?」

 相沢が顔を顰める。

「あいつはあやしい。嬉々として乗っかってもおかしくない」

 そうかもしれない。

 朱里はどちらかといえばこういうので結果を出せるタイプのような気がする。手下を作って洗脳してそいつらに汁を貢がせる。女王蜂を私より上手くやれる。

 んじゃあ。

「五十嵐は?」

「言うてみた。返事保留って」

 こんなあやしい話持ってこられてすぐに断らないあたりあいつもしかしたら思ってたよりいいやつか?

 んー。めんどうだし変なことに巻き込まれるのは嫌なんだけど、同時にこういうセミナーみたいなやつに潜入っての自体はちょっとおもしろそうだなと思う。一生に一回ぐらいは経験しといてもいい気がする。

「まあちょっと考えてみるけど、それいつ?」

「話を聞いてくれただけでもありがとうございます」

 ホームページを印刷したA4の紙を三枚出してくる。読んで欲しそうな部分に線を引いてある。まめだなこいつ。赤線引かれた代表の名前「岡橋秀樹」というのがパッと目につく。会社名はライフオブメタバースでなんじゃそらと思う。直近のセミナーは一週間後で「ここ!」と注釈入り。

 試しにスマホで「岡島秀樹 詐欺」で検索をかけてみる。すぐにあやしい情報がうじゃうじゃ出てきてそのなかにYouTuberがセミナーに突撃していく動画があった。

「これ見た?」

 相沢に訊いてみる。

「なに?」

 動画を開く。相沢が画面を覗き込む。

 セミナー内に突撃したYouTuberが「この会社は詐欺会社でその根拠は投資を謳ってるのに金融庁のHPの登録業者にカインドオブメタバースの名前が載っていない、金融商品取引法と出資法に違反している」と騒ぎ立てている。「ライフオブメタバースとちゃうな?」相沢が言う。ほんとだ。

 どうやらカインドオブメタバースはライフオブメタバースのやってるようなマルチ商法の会社ではなくて、お金預けたら利率うん%で運用してくれるみたいな投資関連の会社らしい。つーかライフのマルチ商法にしてもカインドの投資にしてもメタバース(仮想空間)となんの関係あるわけ? なんかバカを騙すために会社名に進歩的な言葉を使いたかっただけ感がありありと出ている気がした。

 動画は三年前のものだ。「代表の岡橋秀樹」の名前は動画内でも出てきた。最終的にセミナーの人に退出を迫られてYouTuberの二人組が出ていって、セミナー側が呼んだ警察と少し話して「そういうことなら帰って大丈夫ですよ」言われて二人がその場を離れる。ちょっと離れた駐車場で感想会をやって終わる。

 こういうのを収益化するYouTuberもどうなのか、こいつらいわゆる迷惑系じゃね? とも思わなくもないのだが、それ以上に詐欺に近いことをやってる会社のセミナーに対して警察がその場でその連中を逮捕したりすることはできない、ということに驚いた。

 冷静に考えてみると相手側がほんとに詐欺会社のセミナーなのか、ほんとは金融庁のHP にちゃんと載ってるのにYouTuber側がおもしろくするために「載ってないですよね!?」と騒ぎ立てているかもしんないとか正確なところはわかんないわけでそういう大捕物に発展しないのはわかる。

 結局のところ「民事上の揉め事」に過ぎなくて、この段階では刑事事件として詐欺罪での被害届とかが出てるとかじゃない。もしその手の被害届が出てたとしても、いまこの場の揉め事とはあんまり関係がない。つーかこいつらべつに詐欺の被害者じゃねーし。弁護士さんみたいな専門家ですらねーし。ちゃんとした捜査が出来てないわけだから公権力による対処は行き過ぎなのだろう。

 第一印象よりは「YouTuber側の方も大概変じゃね?」という気になってくる。

 でもなんかうげー、ってなった。

「よーするにカインドオブメタバースで資金集めでけへんようになったから、潰して新しく作ったのがライフオブメタバースってことか?」

 まあだいたいそんな感じっぽい。

 つーか思ってたよりちゃんと詐欺っぽいな、これ。

 なんかこういう会社転がして金作ってる連中がいるんだなーと思うとパパはまっとうにやってるんだなーって見直してあげたくなる。

「そういや七宮さんとこのパパさんってなにやっとるん?」

「家具売ってる」

 輸入したのだったり。作ったりしたのを。

 だから私の一人暮らしにあたってテーブルとかベッドとかはちょっといいやつをくれた。

「継いだりするん?」

「いや、将来的にどうするの? って聞いたら、売っちゃおうか、て言ってた」

 株式の67%を持ってるから売ろうと思ったら売れるらしい。

「ほぉーん」

 相沢が感心するけど、私、この方向でマウント取るのはあんま好きじゃねーんだよな。なんつーか私の力じゃないから。じゃあ嘘八百で作った彼氏が私の力が私のなのかって言われたら。(無言で目を逸らす)

 チャイムが鳴った。

「あ、ほな、おれ、次講義やから」

「あたしもだわ」

 階段登るとこまで一緒に行って、相沢は二階で、私は三階に向かった。




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