↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dependence Ghost  作者: 琴羽
教師・鴨居廉
PR
32/52

岐路

「今週まで、ですか」


 とある空き教室で、たった今教頭から言われた言葉を反復する。

 莉菜と再会を果たした日の午後、夕方の授業のために出勤した俺を待っていたのは、教頭からの呼び出しだった。

 そして、そこで告げられたのは、今週末までで俺の契約を打ち切る、というものだった。

 木曜日の今日、つまり明日で最後ということだ。事前に真知子先生から話を聞いていなかったら、大きく取り乱していたかもしれない。


「そうです。休職してた先生が一人、来週から戻ってくることになりましてね。その穴を埋めてもらっていたあなたは、お役御免というわけです」

「そうですか」


 自分でも驚くほど淡々とした声が出た。

 覚悟ができていたからなのか、教師という立場に固執する理由がなくなったからなのか。これからどうしようか、なんて冷静に考えている自分がいる。


「こんな状況でも冷静だなんて、とことん熱意のない人ですね。どうして教師になったのか、逆に興味が湧いてきますよ」

「もっともな疑問だと思います」


 教頭は「ふん」と鼻を鳴らしていらだちを隠さない。


「とりあえず残り今日と明日、しっかりと頼みますよ。くれぐれも学校に悪評が立つような行動は慎んでくださいね」


 それだけ言い残すと、教頭は空き教室を出て行った。

 殺風景の狭い教室に、一人取り残される。なんとなく、すぐに教室を出る気分にはならなかった。

 来週からどうしようか。教師の立場に変わる潜入の方法を探すか、いっそ匙でも投しまおうか。考えたって正解は分からない。


「少し疲れたな」


 最近、いろいろなことがあり過ぎた。戦うことも考えることも、もうしばらく遠慮したい。


「リオに報告して……、一応犬塚にも言っておかないとか」


 一人つぶやきながら狭い教室をぐるぐる回る。ふと、そんなことをしている自分に気づいて自嘲した。

 まったく、なさけないくらいに余裕がなくなっている。

 いつまでもこの教室にいても仕方ない。廊下に出て職員室を目指す。それほど私物を置いていないとはいえ、明日までに荷物の整理も進めないと。

 ちょうど授業間の休みに入ったのか、廊下は生徒たちで賑わっていた。その間をすり抜けて進む。

 と、見知った顔に遭遇した。


「またふらふら歩いてどうしたんですか?」


 そんな生意気な言葉で話しかけてきたのは河野だった。俺は思わず足を止めてしまった。


「いつも暇そうにしてるみたいに言わないでよ」

「すいません。あんまり授業終わりの雰囲気に見えなかったので」

「それは合ってるけど、教師には授業以外にもいろいろあるんだよ」


 言っていて、少しむなしくなる。クビを告げられるのが"いろいろ"なのか。

 そこで話を終わらせて、また歩こうとした時だった。「あの」と、河野に呼び止められてまた足を止めた。


「もしかしてなにかあったんですか?」


 河野は突然そんなことを言った。


「なんで……?」

「いや、なんとなく。ちょっと様子が変な気がしたので」


 まさか見透かされるとは思わなかった。

 だから少し動揺をした。


「河野はさ、あの日の夜、アレを消した俺のこと恨んでる?」


 そんなこと、本当は訊くつもりじゃなかったのに。

 河野の顔を見たら、訊かずにはいられなかった。


「どうしてですか?」

「だって、アレは河野にとって大事な存在だったんでしょ? それを目の前で無理やり消したんだから、恨まれて当然かなって」


 廊下の真ん中で話す内容じゃないのは分かってる。通りかかる生徒たちが、不思議そうに視線を向けてくるのは気づいていた。

 それでも今、確認をしておきたかった。


「確かに、なにしてくれてるんだとは思いましたよ」


 河野はいらだちの混じった声でそう答えた。


「やっぱり――」


 と、俺のその言葉は、すぐに河野の真剣な声で遮られた。


「それでも、俺は救われたんです。別にアレから守ってくれたからじゃなくて、先生がくれた言葉に救われたんです」

「俺の言葉?」

「楽な方に逃げるなって。しがみつかなきゃダメだって。あの時、先生がそう言って引き止めてくれたから、俺は新しい道で頑張れてるんです」


 目から鱗が落ちたような、ハッとした気持ちだった。

 俺はあの時、ちゃんと河野を引き止めることができていたのか。

 忘れ物をしたと言って廊下を引き返す莉菜のように、全部を投げ出そうとする河野へ、俺はちゃんと手を伸ばせていたのか。


「そうか、それでよかったんだ」

「それ?」


 自然とこぼれた声に、河野は怪訝な顔をした。


「やっと、答えが見つかった気がして……」


 さっきまで空き教室で一人悩んでいたのが嘘みたいだ。

 結局、塵霊なんてなにも関係ない。ただ手を伸ばして、引き止めればいいだけのことだったのか。


「よく分かんないですけど、なにか解決したならよかったです」


 そう言って河野は笑った。


「ありがとう。おかげで、やることが分かった気がするよ」


 河野に感謝を告げてから、急いで校舎の外へと出た。

 まずやるべきことは一つだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。