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Dependence Ghost  作者: 琴羽
教師・鴨居廉
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26/52

幕間

「つまり、こうして物質が持つエネルギーを求められるできるわけです」


 三時間目の物理の授業。教科書を音読するだけだった俺の授業は、最初の頃と比べたら見違えたと思う。授業のたびに緊張することもなくなった。

 それでも、三年G組だけはどうにもやりにくい。

 授業中、いやに視線を感じて気になってしまう。田村からの熱心な視線が、常に向けられている。

 表情を見る限り真面目に授業を受けている様子だけど、黒板よりも俺の方に視線が向けられている気がする。

 やがて授業が終わって片付けを始めると、田村が教科書を片手に持ってやってきた。


「鴨居先生、ちょっと質問いいですか?」

「授業のコマ以外は、業務時間外なんだけど」

「何言ってるんですか。先生は先生なんだからちゃんと教えてください」


 田村は俺の言い分も無視して、教科書を開くと勝手に質問を始める。自分に分かるか不安だったけど、なんとか記憶を掘り起こして答えることができた。


「ありがとうございます。ちょっとスッキリしました」


 田村は自然な笑顔を浮かべてお礼を言った。

 こうして田村と向き合って話すのは新宿での一件以来だ。あんな終わり方になってしまったけど、特に変わった様子は見られない。


「それはなによりだけど、質問を受け付けるのは今回限りだからね」

「えー、なんでですか。また仕事をサボるんですか?」


 ちらとクラスの様子を見る。

 田村と話していると、一部の生徒からくだらない冷やかしを受けるのが面倒だった。今も例の男女四人グループがこっちを見てひそひそと笑い合っている。

 もちろん、そんな理由は話せないけど。


「サボるんじゃなくて、次の授業の準備とか忙しいからだよ」

「鴨居先生って、全然忙しそうに見えないですけど」

「見えないだけでいろいろあるんだよ。それに、答えられないことも多いし、訊くなら他の先生を当たってよ」


 荷物をまとめて、そこで話を終わらせようとした。

 それでも、田村はまた食い下がる。


「いやです。他の先生に訊いてもつまらないし」

「つまらないって……。遊びじゃないんだから」

「それは分かってます。けど、他のおとなの人なんて信じられないから……」


 その言い方は卑怯だ。弱みを見せられてしまうと、途端なにも言えくなる。

 俺はわざとらしくため息を吐いてから答えた。


「言っておくけど、俺が答えられる質問なんてほとんどないからね」


 そう言うと、田村の表情がパッと明るくなった。


「もともと先生の解説には期待してないけど、たくさん質問しに行きますね」


 いたずらな笑顔を浮かべながら、田村はそう言った。

 その笑顔だけで、生意気なその態度も許してしまえた。



 この日は、すべての担当する授業が終わったあと一度家まで戻った。

 夜の調査まで少しだけ仮眠を取ったあと、ノートパソコンを開いてそれと向かい合う。

 ブラウザを立ち上げて、そこで調べるのは、かつてこの学校――私立國城東高校で起きた事故や事件について。

 旧校舎で出会うあの猫背の幽霊がこの学園の生徒だったというなら、なにか関係する記事が見つかるはずだと思った。

 検索にヒットして出てきたのは、どれも信憑性のないうわさの類ばかりだった。ネットなんていつの時代もそんなものばかりだし、歴史のある学校となれば格好の的だ。

 古い掲示板やくだらないSNSの投稿。一見して関係なさそうなものまで、一つ一つ開いて確認をしていく。検索結果一ページ目の最後、気がかりな見出しを見つけた。

 それは十年前ニュース記事だった。


『私立國城東高校付近の交差点で男子生徒がトラックにはねられる。異変に気づいた運転手がすぐに救急へ通報したが、搬送後間も無く死亡が確認された』


 そのニュース記事には、生徒の個人情報は一切載せられていない。まともなニュース記事ならそれも当然だ。けれど、調べ方を変えれば、伏せられた情報もすぐに見つかった。

 学校専用掲示板に、それはすべて載っていた。

 その生徒の名前は「中原悟」というらしい。その名前とともに、長い前髪が目を隠した陰気な少年の写真が投稿されていた。


 間違えるはずがない。あの猫背の幽霊の少年だ。


 掲示板には、事故の凄惨さを書き込むものが多く、彼の生前に関する信頼できる情報はほとんど見当たらなかった。

 インターネットの情報なんて不正確だ。それが学生の利用する掲示板なら、なおさら信用なんてできない。それでも確かに言えることは、彼が内気そうな見た目通りの人物だということ。

 その彼がどうして幽霊になってしまったのか。

 強い後悔があるのか、激しい恨みでもあるのか。想像したところで正しい答えに近づくことはない。


「結局、なにが目的なんだろうな」


 あの猫背の幽霊がこの「中原悟」だとして、どうして俺たちの邪魔をしてくるんだろう。

 彼の生前を知ることができれば、なにか理由が摑めるんだろうか?


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