第4話 今までを思い出す3
とってもいい笑顔で話を終えたお母様。
そのお母様に頭痛継続中の私も呼ばれたので、一緒に談話室へ向かいました。
この家の筆頭執事であるアロンゾは、いつも通りに隙のない完璧な笑顔で、お母様と何かを話しながら移動しています。
私は、その2人の後ろに付いて歩いていくだけですけど。
私の後ろには、私付きの侍女のベルとリンダが付いてきています。ティーワゴンも一緒に。
いつの間にお茶の用意をされたのかしら?
私達が通りすがる時にちらっと見えた父上は、これから起きる事の成り行きを見ていたのでしょうか。
何も言わないままで立っていたので、怖かったです…。
心なしか、父上の顔色が良くないように見えた気がしましたが、気のせいだと思う事にしましたわ。
家の駒である私に、ご自分が心配されたのだと知れたら、父上の方でも屈辱を感じるでしょうし。
だから私は、自分の気のせいだったと思って、知らない振り、気付かない振りをしましたの。
***
我が家の談話室は、日本でいう家族だけの居間のようなモノの位置付けでしょうか。
内緒話や家族で寛ぐ場所なんですよ。
他の部屋の様には広く作られていないけれど、こじんまりとしていて、例えるなら、日本の一般家庭にあるような応接間、そんな狭い感じの部屋なんです。
我が家の談話室では何でもアリで、家族で(主にお母様と私と弟で)ゆったりしたり、内緒話をする為の部屋となっていますのよ。
他の家ではこういう狭い部屋をどんな扱い方や使い方をしているのかを知らないのは、私がまだ8歳だからですわ。
それと、他の家には特別な関心がほとんどないからですの。
お友達が出来れば、また、興味の持ち方も捉え方も違ってくるんでしょうけれど。
談話室では、アロンゾもお母様も一緒にお茶を飲みながら、お母様が王城であった事の殆んどを話しました。
私はそのお母様がした話が本当だという確認の為に頷くだけで済んでいます。
私付きの侍女のベルとリンダも、お母様の話を部屋の隅で耳を澄まして聞いているのでしょう。時折、頷いていましたもの。
私から改めて話をしないで済むのは助かりましたわ。
私だって、何度もうんざりする内容の話を繰り返して話すのは面倒だし、その話をする度に、王城での事を思い出して、怒りを再燃するのは面倒だし、腹立たしいんですのよ!
婚約破棄されて、冤罪で国外追放や処刑を言って実行してくると分かっているあの王子のどこに好意を持てと?
将来、酷い事をしてくる予定の男の相手を私自身がしたくないんですから!
今更、攻略対象である相手がどんなに見た目が良くて、性格が良くても、私を悲惨な結末に追い込む事を知っている時点で、そんな相手を私が好意を持つ筈はないってーの!
それこそ、本人の意思をまるっと全無視して悪役令嬢の地位にいつの間にか就かされていたんだから、私だって、勝手にしてもいいはずだわ!
私はこの先も悪役令嬢にされないように気を付けた上で、出来るだけ、攻略対象となっている男性を避けてゆくの!そして、この国から逃げるのよ!!!
それにしても、この頭痛、いつ治るんだろう?しつこいな…。美味しいお茶の味を味わう邪魔をするんだもんなー。はぁ。
「…ではこれ以上、アルディス様とご一緒に隣国から付いてきた私共は、もうこの家に義理立てする必要もないのですか。
お嬢様がこの家に嫁ぐ際に連れてきた者達は、私を含めた皆、アルディス様が療養と称した別居をなさる際に、ご一緒致します。」
「それは助かるわ。皆、隣国へお嫁入するからって、付けてもらえた優秀な者達ですもの。
娘のエンディスと息子のポラディスを連れて行くのに、大人はともかく、子供達には私のせいで不便をかけたくないのです。
夫と結婚するかしないかを最後に決断したのは、この私。
ですが、私の子供として生まれた2人には何の責任も落ち度もない事なのだから、不便な生活をさせたくないって思っていたの。」
「アルディス様とご当主様は政略結婚でございました。
確かに、お二人のご結婚は国と国を結びつける一環の中にあった政策の一つでございましたが、アルディス様がご結婚を断れば、どなたかが代わって嫁いできていた筈でした。
そこで、この家のご当主様がアルディス様に一目ぼれをしたのだと、熱心にアルディス様を口説いたので、皆、政略ではなく恋愛だと思い、祝福したのです。
それがまさか、エンディスお嬢様をアルディス様のご生家の決まり事である、恋愛結婚推奨の決まりを破り、家の駒扱いになさるなんて、嘆かわしいばかりです。
私共、アルディス様に付いてきた者達もそんな風になっているとは思いもしませんでした。」
「私もね、夫が娘に関心を寄せないのは、夫の仕事が忙しいからなのだと思っていたわ。
だから、娘との交流は忙し過ぎる夫には出来ないのだと思っていたぐらいなのよ。
でもね、息子であるポラディスが生まれてからは、ポラディスの方にだけは頻繁に、それこそ数分しか会えなくても会いに来ていたので、不思議に思っていたの。
それもあって、思い切って夫に聞いてみたの。
「ポラディスにはマメに会いに来ますけど、エンディスには会わないんですか?」って。
夫もね、「息子は後継ぎだから、今から私に慣れてもらわないと、仕事を教える段階になった時に話も出来ないようでは将来、困るからだ。」と言うので、それはそれで、男同士ではそういうものなのかと思っていたのよ。
だって、娘は夫にとっては異性だし、話す内容も娘と同じ女性である私と違って、夫は異性だから、話す内容が思いつかないから、娘にあんまり会わないようにしていたのだと思っていたわ。
それにしても、娘に会うのが息子に比べて極端に少ないので、この頃は、それに違和感を持っていたし、その理由と行動を不審に思って、納得出来ないでいた部分もあったの。
そこに今回、娘に説明もせずに勝手に婚約を決めてきたでしょう?
そこまでされれば、馬鹿な私だって気付くわ。夫が娘をこの家の都合の良い駒としてしか思っていないんだわ!って。
そうよ、これで夫の本音を知れたんだわ!って。
私の事も、体のいい、子供を産み育てる者ぐらいにしか思っていなかったんじゃないのか?と、思えてきたの。
だからこそ、いつでも出ていける準備を進めておく気にもなったのよ。」
「そうですか。
エンディスお嬢様の事を気に掛ける素振りもない扱いを聞いているだけで、怒りが湧いてきますし、アルディス様の言う通りなのだと思えます。
私共、使用人が公爵家の内情に口を出すのを躊躇っておりました。
今回の件で、アルディス様がお嬢様の環境を変えようとなさって、ご当主様の態度の違いにもお気付きになられました事に安堵いたしましたので。
この国の第一殿下が学園に入る頃、殿下も初恋を経験してのぼせ上ったりするか、側妃に迎えたいと思える相手を見つけるのだと想像出来ますれば。
それまでの間が別居状態になり、また離婚へ向けての準備期間になるのでしょうか。
ですから、その時が来るまでの間、アルディス様のご生家へお嬢様とお坊ちゃまとご一緒に、この国を出る下準備をするのですね。」
「生家のお父様とお母様に、今回の件での詳しい手紙とその補足が出来る使者を送るように、アロンゾ、それを優先して、一番でその手配を頼むわね。別居が多少、遅れてもいいから。」
「はい。了解いたしました。
取りあえずは、離婚を視野に入れた別居の準備をすぐに調えてゆきます。」
「ええ、頼むわね。王妃様の方からも、エンディスの付けた条件に合うような、エンディスの幸せに配慮出来るような方を優先してくださるのですって。
王家から派遣される方々は王妃様の息がかかった者が来られるように裏から手をまわすそうですわ。
それにプラスして、実力のある良い方を手配をしてくれると言っていたのよ。楽しみだわ。
そうそう、あくまで、王妃様と私の間で内密にお約束を交わしたの。これは内緒よ。」
「それは重畳でした。」
「王妃様もね、まずは側妃ありきの陛下の姿勢を嘆いていらしたし、離婚したいと言っていらしたもの。
エンディスの味方をして下さると言って、仮婚約の契約書にこっそりと、私との契約書をも紛れ込ませて、こちらが、ううん、女性であるエンディスが逃げやすいようにと契約して下さったのよ。」
「では、王妃様もこの国から出るおつもりであるとの認識で間違いないでしょうか?」
「ええ。そうしてちょうだい。その事も生家へ向けて出す手紙の内容に書いておくわ。
ただし、王妃様との契約や、離婚する気だとか、この国から出ると言う事はまだ、他の者達には伏せておいて。
一応、生家のある国の隣国であるこの国の混乱を招きたくないのと、夫やその親戚、陛下や王族、この国の貴族達には出来るだけ秘密にしておきたいの。
でないと、私や娘、息子にどんな危険が起きるか分からないでしょう?」
「その旨、重々、承知いたしております。安全を期して動きます。内密にも致します。
この家の筆頭執事になりましたが、その役目を後進に譲る為に、私も別居についていくのだという姿勢で動き出す事にいたしましょう。」
そう言って、アロンゾもにっこりと微笑みました。
よっしゃ!!これで、お母様とポラディスの心配をしなくていいのだわ!と私は安心したのでした。
私自身も別居についていく準備をしようとしていたのに、その日の夜から、熱により5日間も寝込みました。
記憶を思い出したせいで起きた、ただのしつこい頭痛だと思っていたんですけど、ね。
どうやら、発熱によって起きていた頭痛でした…。どおりで、頭痛の波があるのだと思ったわ。
異世界転生あるあるでしたわね。知恵熱なんて…。




