第29話 ご令嬢は困惑し、王子と…
あれ?なんで?どうして?!誰も動いていないの?えっ?!隣の席のご夫人の手を握ってみると、硬かった。
本当に時間が!!私以外の時間が停止しているみたい!!
『ヒロインにも聞いたが、この世界をリセット、そう、初めからやり直しと言ったか、そのやり直しをするか?』
どこから声がするの?誰っ?!
「えっ?!やり直し?ここまで頑張って来たのに、今更よ!やり直しはしない!」
今更よ!生き延びるために頑張った全てを無にされては堪らないわ!
『規則なんでな、ヒロインと悪役令嬢にこれを聞かないのは、物語の強制力としては違反になるんだよ。』
は?なんて物語の都合だけで勝手な事を言うの?!
「必要なら、仕方ないけど、あなた誰っ?!強制力って?この状態はいつ戻るの?!」
『うるさい悪役令嬢だな。物語の強制力を担当するモノと名乗っておこう。必要だから聞いたんだ。
でなきゃ、わざわざこんな手間をかけてまで尋ねない。
この状態はもうすぐにでも戻るから、その淑女らしくない態度は止めておくんだな。』
「分かったわ。最後に聞かせて。また私とオレンに聞きに来ることは無いのね。」
『何もなければな。この世界に差支えが無ければ、もう尋ねに来ることは無い筈だ。』
「それだけは知りたかったの。ありがと。」
『戻すぞ、良いか?』「ええ。」
私が答えた次の瞬間、お茶会でのさざめく音と庭園で吹くそよ風が戻ってきた。何もなかったかのように。
焦ったし、怖かったのは、本当。でもね、婚約破棄後に断罪され、処刑されるよりかはマシよね。
物語の強制力って、私がレオ王子と接触したから聞きに来たのかもしれない。オレンからの手紙もその事について書いて送って来たのかも…。ヒロインには聞いたって言ってたものね。
出来たら、もう二度と来ないで欲しいわ。心臓に悪いったらありゃしないわ!あー!怖かった!
それに比べたら、レオ王子を無視する方が楽よね。うん!そうしよう!いない者として過ごせばいいんだわ!
そうして、お茶会がお開きになって、王子様方に見送られたご令嬢達がいなくなった庭園で、レオ王子を第1から第3王子様と一緒に私も見送ったら、王子様方付きの侍女と侍従に付き添われ、護衛騎士の代わりに第2王子のガザドルミン殿下が私を連れて、王子様方とのお茶会を行なう応接間まで案内されました。
ガザドルミン殿下が「気楽な上着と替えてきます。」と言って、出て行きました。
侍女に付き添ってもらってトイレ休憩を済ませたら、王子様方がいらっしゃる30分後までは、ご夫人方から仕入れた噂や話を忘れないようにと、手帳に書き込んでいました。
王子殿下のうちのどなたかがいらっしゃれば、入室の際に、侍従が名を読み上げてくれるので、それまでは、私の気を抜く時間です。侍女も侍従達も休憩だと分かっているので、見て見ぬ振りをしてくれますから。
レオ王子には見つからないように配慮してくれると、ガザドルミン殿下が言ってくれたので、大丈夫でしょう。レオ王子がこの部屋に無理に押し入ろうとしても、他国の王城で好き勝手には出来ないですし、護衛騎士に止められますわ。おーっほっほ!
良い機会だから、レオ王子の恥をトランドルの王族だけにはバラしておきましょうか。
そうすれば、私と接触しないようにしてもらえるだけの配慮をされるでしょうね。これでも、武門の侯爵令嬢ですし、王様の薦めた王子様方の婚約者候補ですもの。
30分後、第1王子のハイドルミン殿下、第2王子のガザドルミン殿下、第3王子のレンドルミン殿下が揃って入室してきました。
テーブルの上には、庭園のお茶会では出なかった軽食やケーキが並び、話が弾みました。
その中で、どうして私がレオ王子と婚約無効になったかを包み隠さず話しました。ええ。王家だけに。
「ひどいな。王太子といえど、情けない限りだ。」
弟達には言ってなかったが、商会の伝手とエンディスから直接、聞いていたので、初めて聞いたように振舞った。エンディスはまだ私に気付いていないので、歯がゆいが。
「情けないですね。本当に。兄上達がこんな王子でしたら、恥ずかしくて堪りません。」
「誠意が見えない。騎士としても尊敬出来ないです。」
殿下方の感想が普通だと知れて、ホッとしました。あの国にいたのでは、いつか私は、気が狂ったり、神経がおかしくなってしまったかもしれません。逃げれて良かった…!
ついでに手紙の事も言っておきましょう。
お母様もポラディスからも、私のいる侯爵家の当主のお爺様からも、王家にだけはレオ王子の手紙の件を伝えていいと許可をもらっているのだから。
「実は、もう何度もレオ王子から再婚約をして欲しいと言う手紙をもらっているのです。それで、今日は、何かをされるのではと、とても怖かったのです…。」
私が若干、萎れた感じで告げると、ハイドルミン殿下が心配そうに聞いてくれました。
「その手紙は持ってきのですか?」と。
「…はい。」と私が答えて、私が合図をすると、私の家から連れてきていた侍女が持っていた、読むと気分がたちどころに下がるレオ王子からの不幸な手紙を何通も差し出してきました。
「どうぞ。読んで下さいませ。
私が忙しく王妃教育を学んでいる間、私の代わりにお茶会に付き合ってくれていた私の友人へ勝手に思慕を抱き、してもいないことをさもしてたかのように言い、冤罪を押し付けて、私へ婚約破棄を告げて来たのですわ。
レオ王子は、幼少時から私へ向けて、失言しかしなかったのです。そんな事しか言わない方を誰が好きになると言うのでしょうか?
そんな方を好きになる女性は誰もいないと私でも思いますわ。私は、再婚約など、死んでもしたくないですの!」
殿下方がレオ王子からの手紙を回し読みしながら、「うわ!」とか、「笑えない。」とか、「酷過ぎる。」と言いながら、読んでいる姿を見て、これが普通の感性よね。と、安心したのでした。
「ここまで来ると、エンディスが危ないな。レオ王子と同じ地位でないと無理やり連れ去られる心配もある。
エンディス嬢、貴女には不本意かもしれないが、私と婚約した事にしてもらえないだろうか。でないと、安全とは言えない。私の婚約者であれば、王城から近衛騎士をエンディス嬢に派遣出来るんだ。
我が国でも、レオ王子が訪問しないように貴女の家族に危険を増やさないようにと気遣って、正式な書簡を送ったばかりなのだ。
それが、行き違いになってしまって、今回、レオ王子の訪問を断れなかったのだよ。済まない。」
「兄上達も結構、頑張っていたんだよー。でもね、レオ王子が来るのは、砂漠の国の皇太子が来る前に、間に合えばいいかと思っていたんだって。だから、エンディス嬢、ごめんねー。」
「私だとドルミン兄上よりは格が落ちるので、レオ王子と対等な位置の兄上の方が安全でしょう。」
「ありがとうございます。」
この時の私は、、レオ王子のせいで正常な判断がズレていたのかもしれない。レオ王子が怖くて、得体のしれない気持ち悪さに震え、「はい。」と答えてしまったのです。
そのまま、ハイドルミン殿下と婚約すると言う正式な書類に署名をしたのでした。




