第23話 ご令嬢を諦(あきら)めない王子は考える
レオが婚約破棄を叫んだ後、王城にある王子や姫専用の宮にある自室で、護衛と言う名の監視が何人も付けられ、半ば、軟禁状態にあった。
陛下の許しが無ければ、レオが部屋から出るような行動が禁止されていたので、暇つぶしと実益を備えた王子としての書類を片付ける実務をしていたのだが、それ以外の時間は、レオが今までの事を振り返りながら、考える時間がたっぷりと用意されていたのだ。
レオは考えた。己が何故、婚約無効にされたのかをひたすらに何度も考えていた。
その中で、行きついた答えを声に出してみた。
「私がオレイヌ嬢を好きになったからだ。王妃教育や実践教育で忙しく、私に付き添えない時間を友人だったオレイヌ嬢に付き添いを代わってもらっていたのを私がオレイヌ嬢からの好意だと勘違いしたのが、そもそもの間違いだったのだから。」
自分の思った事を声に出してみると、スッキリとしたし、誰も聞いていないからか、レオの気持ちが固まった。
元々、エンディスとレオの婚約は、王家から権力にモノを言わせて、レオとエンディス嬢が婚約しなければ、公爵と公爵夫人は無理やりにでも離婚をさせ、公爵領を半分、もしくは3分の2に減すると脅した上で、王家が強引に推し進めた上での婚約だったようで。
公爵自体は、夫人と別れたくないばかりに、陛下の意向に従ったのだそうだ。
陛下も無茶くちゃな提案だと思っていたのだろうが、王妃の望む優秀なご令嬢と息子との婚約を取り付ければ、王妃の目が再び自分へ向かうのだと思い込んで、強硬した上での婚約だったのだから。
それと同時に、王家の地位を揺るぎないものにする為を目的とした、王家の王子と公爵家の令嬢の婚約だったのだそうだ。
それを王家の王子である自分が、(仮)婚約時の契約の中の約束を破り、婚約破棄を宣言してしまったがゆえ、(仮)婚約をした時の契約通りに、婚約無効の手続きが無条件で最優先に行われた。
その結果、レオとエンディスの過去に契約した婚約自体が、まるで無かった事になってしまったのだ。
王城の自室にて軟禁中のレオが思い出すのは、好きだと思っていたオレイヌ嬢ではなく、エンディスの事ばかり。
私がお茶会や学園で話した事にエンディスがどう答えたのか、どう反応したのかばかりを思い出すだけだったのに気付いて、レオ自身がガックリとしたのだから。
いくら周りから鈍いと言われていた自分でも、こんな時に思い出すのは、自分の好きな女性だけだと気付き、自分がエンディスに恋をしていた自覚が出て、目が覚めた思いになった。
日頃、どんなに政治面では優秀な発言をするだとか、勉学や剣術が凄いだとか言われていても、恋愛面では、己が初心者以下だと認めなければならなかったのはレオにとってはツラい。
自身の恋が、プラマイゼロより低い、マイナスからの恋愛スタートだとは思わなかった。
それも、自分の恋愛面がポンコツなせいで、エンディスに嫌いだと言われていたのを思い出し、地の底を這うような気持ちになった。
婚約をするのを嫌がったエンディスから出された約束を守れなかった私は、エンディスに好かれているなどと自分勝手に思い込んでいたし、どこまで自意識過剰であったのであろうかと。
バッキバッキに折れたプライドと沈んだ気持ちを少しだけ立て直した頃、母と弟が王城から出て行ったのだ。
母上と弟が出て行った原因のそもそもの始まりは、父である陛下が政治面で貴族達よりも優位に立とうとした結果、母である王妃に遠慮も配慮もせず、次々と優勢な勢力を持つ派閥のご令嬢達を側妃に迎え、王家の味方を増やしたのが最初だったのだから。
エンディスの父も臣下である公爵家の一員として、父と母が政略結婚をした直後に、隣国との政策の一環の一部として公爵も政略結婚をしたのだと聞いたし、結婚自体が陛下からの王命であったと聞いていた。
父上と母上の何もかも、歯車が合わなくなったのは、時期も悪かったのだろう。
王妃であった母も、リオンを出産する時期に、陛下が何人もの側妃を迎えるのが重なったせいか、母上に負荷がかかってしまったのだろう、出産する期日も早まり、出産時も、母子共にギリギリで命を繋ぎ止めた状態であったのだと私の乳母から、ある程度の年齢になった頃に聞かされた。
母上はそのせいで、3人目を産むならば、命はありませぬぞと医師と産婆に、陛下と共に告げられたそうだ。
父上は、それ以降、母上の元へは通わなくなったし、手紙も贈り物の1つもしなくなったのだと、母上が寂しそうに震えていた。大きくなった私を抱きしめて、声を震わせながら、「リオンが気にするから、あの子には言わないでね。」と、教えてくれたっけ…。
側妃達に母上が余計なお世話をされないようにと、母上には手紙も贈り物もしなかったのだと父上から私だけが聞かされていた。
母上とリオンの耳に入ったら、あの2人が気にするだろうから内緒にして欲しいと告げた、父上の寂しそうな顔も思い出したのだ。
私とエンディスが婚約する時に、母上から、暗殺者や害する者達を側妃達から大量に送られていたのだと暴露したので、父上は王妃の影の護衛を増やした上で、妃達を調査したのだそうだ。
王妃を「王子を産んでからは子を産まず、若くもない、用無しの女だ。」と言われていて、妃達の間だけで噂されていたのを知らなかったと悔やんだ父上は、悪質な側妃達の毒杯による処分とその後ろにいた一族達の首を挿げ替えて、さっくりとまとめて処分したのだそうだ。
「側妃達に王妃が害されないように、側妃達は姫しか産めなくなると言う薬を食事に混ぜ込んだモノを摂取させていたのだから、側妃達からは姫しか産まれず、レオやリオンが害される機会を減らしてもいたのだが、あやつらは、それでも王妃の地位が欲しかったようだな。情けない。」と父上が嘆いていたのを聞かされるのも、自分が第一王子だからと我慢していたんだけどな。
母上の目からは、側妃を減らしただけに見えたようですが、それでよかったんでしょうか?と尋ねれば、父上からは、側妃達が余分な事をしないように見せしめをしたのだ。これでしばらくは静かだろう。と黒い笑顔で言っていたのだから、父上も腹黒いと思った。
私は私で、疑問に思っていたことを聞いたっけ。
「父上は好きな女性と政略結婚をしたのに、私には、婚約する前に、好きな女性を側妃にしろと言いましたね。何故ですか?」
「私が好きな者を王妃にして苦労をしているのは聞いているし、知っているだろう。レオには苦労をさせたくないと思ってな。そう言ったまでだ。」
「王妃になったエンディス嬢が、幸せになれないのは嫌だと言ったので気付きましたが、父上のおっしゃりようでは、私だけが幸せで、王妃になったエンディスが不幸になるのが前提条件ではないですか。
それでは、エンディス嬢が私との婚約を嫌がるのだと知っていたのですか?」
「いいや。理解をする前の幼児のうちに言いくるめて婚約を契約してしまえば、後はどうとでもなるのだと思っていたのだ。
まさかエンディス嬢に土壇場で拒否されるとは思っていなかったよ。
あの条件を出してきたエンディス嬢なら、王妃に相応しいだろうと思った。公爵に無理を言って婚約した甲斐があったな。」
その後に、どう言って公爵に娘との婚約を頷かせたかを聞かされたのだ。
レオは、過去を思い出したからこそ、エンディスを好きだと気付いたのだ。ここから、巻き返さなければと決意し、王城からこっそりと抜け出して、エンディスに会いに公爵家まで行ったのだが、エンディスが身分を捨て、この国から出て行ったのだと知って、レオはショックだった。
王子である自分との婚約が無かった事になっても、貴族達には、エンディスが王子と婚約していた事実は消えないのだ。だから、この先、エンディスが婚姻するならば、他国へ行かなければ、婚姻出来ないのだとの事実は頭の中では理解出来ても、心が理解するのを躊躇ってしまう。
そこから、レオは考えた。
母上が侯爵夫人と仲が良かった事と、弟がエンディスの弟と交流していたのを思い出し、2人がエンディス達に合流するのではないかと予測し、自身に付けられている王家の影達を使い、調べたのだ。
案の定、父上と離縁をした母上を生涯独身のままいさせる為だけ(王妃までこなした女性を再婚相手には国内の貴族達がしないと言う計算もあって)、国内へ留めるように画策した父上のせいで、エンディスの行ったであろう隣国のトランドルへ出国出来ずに留め置かれて、国境沿いで滞在していたのを見つけたのだ。
王城からひっそりと抜け出し、私の書いた手紙をエンディスに渡すと言う条件と引き換えに、母上達を逃がしたのだから。
エンディスの専属執事をしていたアンソニーが母上達と一緒にいたので、エンディスとの合流が確実だと知れたのは、収穫だったな。
ま、父上からは、勝手に王城から抜け出した分、軟禁期間が延長されたけれども。それ位なら、私には何の影響もない。会いたい女性はエンディスだけなのだから。




