第18話 ご令嬢の弟は呆れる
エンディス姉上宛に届いたレオ王子からの手紙をこの部屋にいる者達が順番に読んでいった。
もちろん、姉上宛の手紙をここにいる者達が読んでいいという許可を姉上本人から、もらっていたんだけど。
手紙を読んだ母上とお婆様は顔色を青くして無言だったし、「執着心が怖い」と元王妃様は静かに怒りを滾らせていたよ。
大事な教え子だった姉上を蔑ろにされて怒っていたように見えたアンソニー様と、孫娘を大事にしなかったのを母上経由で聞いていたであろうお爺様は、エンディス(嬢)を馬鹿にしているようで、この手紙には腹が立つと怒りを見せながら、ここに来たら、ゆるさないがな。と口々に言っていたんだ。
リオンは、「兄上はいつの間にか、得体のしれない者になってしまわれたのですか。」と嘆いていたっけ。
私は、その姉上宛の手紙を読んでから、思った事がある。
凄く気持ち悪い手紙だなと。
この手紙を破かずに、よく最後まで読んだのですね。姉上は凄いわ。と思ったのが最初で。
次に込み上げてきた気持ちを表現したら、こんな感じだった。
何だこれ!?一国の王子が元婚約者に書く手紙ではないだろう?
どうやったら、姉上に会う度、失言をかましていたのが今になって、何もなかった事にされてるんだ?許されると思うのか?馬鹿なのか?頭の中が変なのか?謝罪もついでのように書いてあって、誠意が感じられないのは気のせいなのか?
それに、殿下が浮気をした挙句、姉上に婚約破棄を告げたんだぞ。そんな殿下が、姉上に許して受け入れてもらえるなどと思っているのだとしたら、とんだお笑い草だ!ありえない!
私には殿下の気持ちも行動も、全く分からない。理解も出来ないし、したくないよ。
…常識をわきまえていて、普通の感覚があるリオン元殿下との交流があった私は、レオ殿下が失言さえしなければいいのにとか、リオンの兄上だし、第一殿下であるレオ王子が優秀だと言われていたので、姉上の言う未来が来なければ、姉上は幸せになれるのだと思っていたんだよ。姉上が婚約破棄を告げられる以前は、ね。
殿下が正気に戻られれば…この先、あの国は大丈夫だろうと言う気持ちがほんの少しだけ、私の中にはあったし、姉上との婚約を無効にされた後は、優秀だと言われていた、以前のような第一殿下に戻られるのだとばかりに思っていました…。
ええ。元王妃様達を隣国に逃がす為の協力と引き換えに、姉上宛の手紙が渡されたのですから。
私自身、その手紙の中身は姉上に対する謝罪の手紙だと思ってました。これで以前のような殿下に戻られ、あの国も安泰だろうとも思っていたのは本当ですよ。
手紙を読んだから、分かったんです。事実と想像がまったく違いました。
まさか、姉上に(殿下と)再び婚約して欲しいと言う手紙だとは思いませんでしたよ。
第一殿下であるレオ王子の恋愛面が、幼児以下だと言う事実が判明したんですから。呆れました。
殿下の弟であるリオンは、とっくに初恋を済ませているそうだし、初恋も破れて見事な失恋をしたから、もう拗らせられないんだと笑っていたんだ。そのリオンとレオ殿下の初恋に対する兄弟格差がくっきり浮かび上がってきた今。
姉上には、同情するよ。これが男女逆で、私の事だったとしたらと思うと、相手の女性を気味悪く思うし、そんな女性は全力で遠慮したいと思うのが想像出来た。
元王妃様やリオンから少しづつ色々な事を聞いていた陛下の話も、聞けば聞く程に、陛下が恋愛下手だとは思っていたよ。好きな子の気を惹く為に、真逆な事をして誤解され、嫌われる方へ進んでいたんだから。
まさか、親子二代にわたっての恋愛感情の表現が下手で、告白するタイミングが最低な時ばかりで、相
手へ告白するのも下手くそな男性だとは思えない人達が!だよ。王様や王子様と言って、連想される素敵さもかけらもないのを庶民が知ったり、聞いたりしたら、爆笑ものだよな。
あ!父上も恋愛下手だったな。
結局、母上には愛想を尽かされた上、強引に離縁されて。
挙句に、生まれた国、ロンデリンの隣国であるトランドルまで、子供を連れて逃げられたんだから。
父上のあれは無口で、男は背中で語るっていう独自の思い込みと勘違いを拗らせたのと、愛の表現が少な過ぎて、夫婦間でのコミュニケーションと言葉が足りてない状況だと息子である私は冷静にそう思ったけれど、ね。
子供で成人していない私が、大人である父上と母上の事に余計な口を出せる訳がないからと静観してたんだ。その結果、離縁となってしまったんだけど。
母上の方は、姉上の婚約を勝手に決めた一件で、父上を見放したんだと思う。あれさえなければ、今も夫婦でいられたんだろうに…とも思うけど、今更だよね。
私自身も、公爵家の当主よりかは、騎士になりたかったから、隣国に行くと言う姉上の策に便乗したんだし、助かったけどな。
リオンも私と同じ理由で隣国行きを選んだんだから。
王家が窮屈で、王子でいるのが面倒で、そこから抜け出したかったんだって散々、愚痴を聞いていた。
それと、騎士になりたいと言う私と一緒にリオンも騎士になりたいと思っていたんだと打ち明けてくれて、その同じ夢を語る友人としても、一緒にロンデリン国から出れたのは幸運だった。
姉上には申し訳ないけれど、自分達の夢を叶える為に、姉上の婚約無効を願っていたんだよ。
だから、姉上が困った時は、手を貸そうと言う話をリオンとはしていたんだし、姉上に協力したいとその場ですぐに、手紙を書いた。
まずは、姉上が殿下に好意を持った事がないのだと言う事実と、婚約破棄で殿下には愛想が尽きたので、二度と会いたくないと思っている事を姉上に相談され、再婚約をする気が全くないし、殿下を逆に嫌っているのだと言うのをたっぷり書いた手紙を私とリオンが早く着くように出したんだ。
私は公爵家の当主である父上宛で、リオンは陛下宛で、それぞれが姉上の再婚約を勝手にしないように!とも書いたんだ。
ついでに、余計な事をすると、元妻にあなたが更に嫌われますよ。とも書いておいたので、しばらくは身動きが取れないだろう。
母上は、明日朝一番で、初恋の方の所に行って、押しかけ妻になるそうだし、元王妃様は、隣国であるこの国での再婚に、燃えるような意欲をみせているけどね。
それを知らない父上と陛下は不憫だとも思うよ。
でも、切り替えが早いのは彼女達のせいではなく、結婚相手との生活が良くなかったせいだけどと思うけどね。
だから、私は結婚願望がないんだ。リオンは、機会があれば…と言っているけど。
姉上の手紙でない手紙を隣のトランドル国から出せば、私達のいる場所はバレるだろうけれど、レオ王子が第一殿下であっても、陛下や公爵家当主宛の手紙を自由に開封して、読む事は出来ないからね。
しばらくはそれで平穏が保たれるだろうけれど、その間に母親達が再婚してしまい、姉上が新しい婚約をしてしまえば、彼らが隣国の者に手出しは出来なくなるだろう。
だから、未だに混乱しているだろう姉上へ私から提案したんだ。
「姉上があの方から逃げられる道は3つあると思います。
このトランドルで、すぐにでも新しく婚約するか、婚姻するのが一つ目。
二つ目は、ここからすぐにでも出て、ロンデリンが干渉出来ない国まで移動した後に、その国で暮らす事。
三つ目が、独身でいたい方やご事情がある方々が入る修道院へ、姉上が独身のままで入る事ですね。
どれを選ぶのも姉上次第ですけれど。」
「ポラディス、ありがとう。あの方からの手紙に私、動揺していたわ。明日朝まで自分の身の振り方を考えてみます。
朝食の席で、皆様に私の出した結論をお伝えしたいと思いますわ。朝食時でしたら、お母様もまだ家にいらっしゃるでしょう?」
「ええ。母親としての意見もあるから、朝食時でいいわ。」
その日は、各自が自室での夕食となった。
明日朝までに、姉上はお心を決めるだろうな。
王子と言う立場や、元王妃様を取り戻そうとするだろう陛下とレオ王子が手を組まれたら面倒だし、その決断にあまり時間をかけられないだろうと予想したんだ。
だから、母親達もすぐにでも動き始めたんだろう。
明日の午後からは、元王妃様は再婚の為のお見合いという男女で会う茶会が早速、組まれたのだから。あ、母上の初恋の方は外しての見合いだけどね。連日の見合いとなるのも決まったんだ。
リオンは、複雑そうな表情と、「微妙な気分だな。」という物言いをしていたけど、反対はしてなかったよ。




