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第17話 ご令嬢は…

 お母様のご実家は侯爵家でした。

 私の生まれた家と同様に、もしかして公爵家よりも屋敷も敷地も大きくて広いと思ったわ。


 ポラディスも驚いていたから、私が驚いても変ではなかったわよ、ね?

 お母様はそんな様子の私達を見て、クスクスと笑っておられましたけれど、お母様の生まれ育った家なのですものね。


 でも、お母様のご実家が隣国とはいえ、こんなに近いなら、どうして今まで、お母様のご実家には遊びに来れなかったのかしら?

 お爺様とお婆様だって、私が生まれた時にうちへ来た以降は、遊びに来られなかったようだし、何だか変ね?


 それらの事を疑問に思うし、何かを隠されていたような、そんな違和感が(ぬぐ)えませんわ。

 それに、この疑問はここで聞いても答えてもらえないかもしれないと思ったし、後でこっそりと、お母様にお尋ねしましょう。気付いたら変だって思うもの。


 それにしても、お母様の生家である侯爵家が私達の住んでいた公爵家よりも広くて大きいのは、お母様のご実家が武門の家だからかしら?


 私がそうお母様に尋ねると、ニコニコと答えてくださいました。


 このお屋敷でも、訓練が出来るように、林や森が幾つかあるのだと。そして、屋敷が大きいのは、有事の際に、兵士を一人でも多く泊められるようにと、屋敷が大きいんですって。


 ふわー!凄いんですのね。


 訓練をする為に、山も森も川も谷も領地には幾つもあって、幾つかは侯爵家専用の訓練場として活用しているから、領地の方も広いのよ。って、お母様にご実家自慢をされましたわ。


 納得しましたわ。

 兵士を泊めれる程に大きいお屋敷なので、元王妃様とリオン元王子様が泊まっても、何も問題ないのですね。


 だからなのですね。

 武門の家なら、屋敷の警備も万全だと言う事ですか。それを知っているお母様だからこそ、のんびりと構えておられたのですわね。


 ポラディスはお爺様とお婆様には初めてお会いするのだと聞いていましたけれど、私だって、お爺様とお婆様に合う前は緊張していましたわ。


 私が生まれた時にお祝いで、お爺様とお婆様は公爵家へ訪れて、生まれたばかりの私と会ったそうですけれど、生まれてすぐの記憶なんて私にはありませんし、私自身が覚えていないんですもの。

 私が覚えていないんですから、初めてお会いするポラディスと一緒ですわ。


 凄いドキドキでしたのよ。


 しばらくは、お母様のご実家であるこの侯爵家にお世話になるんですものね。第一印象は良い方がいいでしょう?だから、緊張しましたの。


 次期王妃と言う肩書で出会った他国の方々は、嫌われようと何をしようと、私自身の生活を脅かすものではなかったから、初対面でも、大きく緊張せずに済んでいましたの。


 でも、身近な父上に嫌われていたんだって分かっていた私は、肉親からの愛情を与えられるのは当たり前でないって知っているからか、お爺様とお婆様に嫌われたくなくて、大いに緊張しているんだって理解しているわ。


***


 なんて私って余計な事を考えていたのかしら?悩んでいたのが馬鹿らしいと思える位に、お爺様とお婆様との初対面は上手くいきましたわ。


 でもね、私がこの侯爵家の養女で、ポラディスが養子になっていると、お爺様が教えてくれて、養子の件を初めて聞きましたの。


「お母様がこの国で伯爵位になられるから、私達もその子供として扱われると思っていたんですわ。それなのに、どうしてですか?」


 私が疑問に思えたことをお爺様にお聞きしましたのよ。そうしたら、お爺様が私の疑問に答えを返してくださったわ。


「娘は初恋の君の所へ押しかけて、後妻になる覚悟があるけれど、2人を自分の都合に巻き込みたくないんだと言っていたんだ。


 私達は、一度、私達とこの国の者達と、隣国とで決めた政策の一部として、娘は隣国へ嫁いだが、不幸な事に、今回、離縁になってしまった。


 娘を不幸にする為に隣国へ嫁に行かせた訳ではないのだよ。次こそは娘に幸せになって欲しいと思う親の気持ちと、娘のその願いを叶える為に、親である私達が手助けしただけだ。

 それに、孫を他人の家に出すほど、耄碌(もうろく)してはいないのでな。あっはっは!」


 とっても単純で、分かり易いお答えに、ポラディスも私も、納得しましたの。


 私達も成人が近いのですし、お母様が幸せになる機会を邪魔するつもりはありませんわ。こぶ付きでは、お相手の方も困るでしょうし、私達も、お母様の初恋相手をお義父様なんて呼べと言われても、呼べないですもの。

 だから、お爺様とお婆様のなさった事に納得したのですわ。


 それからは、お婆様とお母様と私とで、お揃いになるようなデザインをした服を注文して、3人で着ましょうって約束したの。

 少しずつ色とデザインを変えて、3世代で着れるようなドレスを頼むんですのよ。ウキウキするわ。


 お爺様からは、いざと言う時に使える護身術を私が教えてもらえる事になったの。もちろん、ポラディスもお婆様やお爺様とご一緒出来る事を約束したわ。


 ポラディスも、お婆様やお母様、それに、私と服の色を同じにした部分を作って、デザインを一部分だけ一緒にした服を作る予定なの。


 お爺様の行う訓練にも参加して、剣術を磨くんですって。元王子のリオン様もポラディスと一緒に、侯爵家の騎士達に混じって訓練する予定だと、お爺様から聞いたのよ。


 お爺様やお婆様との対面を終えた私達は、元王子様と元王妃様がこの侯爵家に訪れるのを待ったけれど、私達と同じ日には、到着しなかったわ。


 私達みたいに、さっさと逃げられる立場でなかったお2人は、王城から出て、王家の影を振り切って身を隠すのにも時間が掛かるって知っていたので、私達よりも到着が遅れるのは、理解していたの。


 お2人がいらっしゃるまではと、侯爵家での生活に少しでも早く馴染むように、私もポラディスも努力していたわ。


 お母様は元王妃様がいらしたら、話をした翌日に、初恋の方の所へ押しかけ妻になりに行く予定になっているの。毎日、そわそわと落ち着かないお母様の姿は、恋する乙女のようで、その姿を私とポラディスに揶揄(からか)われているけれど、ね。


 それに、初恋の方にあれしてあげたい、これを食べさせたいって語るお母様の方が、私よりも乙女思考だって思えたの。母親と言うより、年の離れたお姉さまって感じでね、可愛らしいのよ。


 ポラディスは、私と違って、複雑そうな顔をする時もあるんだけれどね。


 そうして、侯爵家での生活を始めてから20日後、だいぶ遅い到着になった元王妃様と元王子様が、侯爵家に到着しました。


 アンソニー様がお2人と一緒に馬車から出てきたのには安心したのだけれど、3人の表情が硬かったわ。


 侯爵家の執事に戻ったアロンゾの案内で、お爺様とお婆様と一緒に、私とポラディスとお母様も一緒に、3人と応接間に入ったわ。


 そこで、何故、王城を私達と同じ頃に出ていた筈がこんなに遅くなったのかの説明が、アンソニー様からされました。


「私達が王城を出るのに、元王妃様のご実家の方で手引きをしてくれたんだが、同じタイミングで、レオ王子が軟禁されていた王城から市井に脱走してね、大変な騒ぎになったんだ。

 その騒ぎに紛れて、王都から馬車で隣の街までは出れたんだけど、今度は、そこで王家の影、陛下からの捜索の手が伸びて来たと元王妃様のご実家からの知らせが来て、ね、ほとぼりが冷めるまで、匿われていたんだよ。


 匿われていた場に、レオ王子が現われて、エンディス嬢に渡して欲しい手紙があるので、頼むと言われたんだ。

 レオ王子からの手紙をエンディス嬢に渡してくれるなら、隣国へ逃す手伝いをしようと言って、王家の影を王太子権限で王城に戻してくれたんだよ。


 だから、こんなに遅くなったし、エンディス嬢には、元婚約者の手紙を渡さなければならなくなったんだ。済まない。多分、婚約し直して欲しいと懇願する手紙だと思う。その理由までは分からないけれど。」


 え!そんな不幸の手紙みたいなもの!受け取りたくないし!読みたくもない!でも、受け取って読めって事よね。その条件を達成しなければ、王家の影を動かすぞ!って遠回しに脅してきてるんでしょ!まったく!最低よね!やる事なす事!あの失言大王が!


 内心では罵詈雑言だったけれど、3人の為に、仕方なく、嫌々にレオ王子からの手紙を受け取りましたわよ!仕方なく!


 一人、部屋の中で、怨念が籠っていそうな手紙を読む気力もないし、一人で手紙を読む勇気もなかったので、皆の居るこの応接間で手紙を読みましたわ!


 恐々(こわごわ)と蝋で押し印してあった封筒を開け、手紙を取り出し、読んでみました。


『美しく優しいエンディス嬢へ


 エンディス嬢に向かって、勝手に婚約破棄を宣言した私だが、エンディス嬢には何の落ち度もなかったと知り、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 オレイヌ嬢と私が友人だったと言っても、今は到底、信じてもらえないだろうと思う。

 私の一時の気の迷いと、それに伴う勘違いで、男爵令嬢だった彼女にもだいぶ、迷惑をかけてしまったのだと反省をした。

 エンディス嬢の友人だからこそ、私の話し相手をしていただけと今は理解している。


 申し訳ない。済まなかった。


 落ち度のない君に冤罪を告げ、裏切ってしまった。

 真実を知った今は、ただひたすら、自分が情けないと言う感情が私を追い詰め、君に謝罪をしたいと感じている。


 こちらから婚約破棄を告げたのに、君の方から婚約無効の手続きを進めて、王城で受理されたのだと聞き、ショックだったよ。

 私が君に捨てられたのだと知ってから、私が君を好きだと言う事実に気付いたんだ。


 だから、もし君がこの手紙を読んで、私と再度、婚約してもいいと思えたなら、私宛に返事を書いて欲しい。


 もし、もう一度、私との婚約をするのが駄目だと言うなら、返事は書かなくていい。


                        君を失いたくないレオより』


 手紙を読み終えた私は、怒りで手が震えた。


 自分本位で、自分の都合ばかり押し通そうとするこの元婚約者、いいえ、婚約無効になったんだから、その婚約自体が無かった事になっている相手と、また、婚約して欲しいですって?!

 冤罪に、濡れ衣を着せて!私を婚約破棄したいと言ったその口で、何と言う壮大な寝言を今更、ほざくのかしら?!


 人を馬鹿にするのもいい加減にして欲しいわ!!


 私の手の内にあった手紙を、その場にいる皆が回し読みをして、読んだ人から順番に怒りに飲み込まれていく姿を眺めながら、私からは絶対に!返事を書かない!と言う決意をしていたわよっ!!

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