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黒兎の御伽噺  作者: 白烏黒兎
冒険者
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第三十四章 “中央特別区”観光巡り 前

最後の文の“試合”→“模擬戦”に変更しています。

「おめでとうございます!」

「ようこそ冒険の世界へ」

「これからもよろしくねー」

「お2人が仲間になるのは心強いです」

 無事、冒険者と成った2人を彼らは迎え入れる。

「これで俺も冒険者だな」

「まだ必要最低限の身分証だけどね」

 成果を確かめるようにPDAを起動する。

 点灯する画面には、冒険者としての証が表記されていた。

 顔写真に氏名年齢、そして依頼の種類と達成度、ランクを示す5角形が記されていた。

 依頼を一度も受けていない新人のため、五角形の内部は空欄のままであり、中央にある冒険者としてのランクも最低値を示していた。

「でもさ、これ一つで色んな手続きができるんだから驚きだよな。それだけに失くさないように気を付けないといけないけど」

「実際のところ、書類やそこまで多用しない証明書とかを纏められるのは大きいよね。紙媒体で持ち運ぶと雨や嵐が怖いし。それに、まだPDAが稀少だった頃は町ごとの通行手形や証明証に荷物が圧迫されていたって言うしね」

「それはあんまり想像したくない話だな」

 その言葉には悠兎も同意であった。

 宿に置いた背嚢の中身の内容物は取捨選択した物だが、それでも内容量の半分以上が埋まっている。

 最低限の着替えや野宿用物資であれなのだ、更に旅食や金品の事を考えれば紙束の保管には厳しいものがある。

「噂のマジックバッグなら問題にはならないんだろうけれどね」

 曰く、魔術を用いて内部空間を拡張した鞄。

 嘘か真か、城一つ分の建材が丸々納められたという話だ。

「それはそうですが、魔術や神秘の本場という西の大国でも年に数個しか製作されませんし、その軍事観点での利便性の高さから、上流階級が独占していますし」

「結局、わたし達みたいな一介の冒険者が手に入れるには、コネか遺跡から見つけるしかないからねー。性能としては出土品の方が高いって話だから、馬鹿みたいに高値で売れるんだよねー」

「その金額は親子三代は遊んで暮らせるそうですね。ですが、個人的に欲しいですよね。服に小物に薬品に、数えればキリがありませんから」

「あ、ぼく聞いた事がありますよ。遺跡群が有名な迷宮都市では遺跡探索を主とする冒険者がいるそうです」

 それは一種の冒険者ドリームといえるのか。

 故に一攫千金を夢見る者は未だに多く存在するそうだ。

「ま、お前達はまだ冒険者になったばかりなんだ。将来の目標を持つのは良いが、まずは足場を固めるところからだな」

 会話に花を咲かす新米達に声を掛けたのは、壮年である犬の獣人。

「あ、スーさんもおかえりー。用事は済んだのー?」

「ああ、今日は完全にオフだ。さて、2人も丁度登録が終ったようだし、約束の観光案内を始めようか」

「ですね。それじゃ支払いを済ませてくるよ」

 アルフィードは席を立つとレジカウンターへと向かう。

 レジカウンターの店員と数度の会話を行うと、レジに備え付けられた端末にPDAを翳した。

「そういえば組合の連盟店だと電子マネー決済ができるんだったか。利用可能なのは連盟店だけとはいえ、意外と近代的で驚きだよな」

「嵩張る小銭を持ち歩く必要が無くなるのは良いんだけれど、利用残高が組合の貯金に直結しているから使い過ぎが怖いよね」

 自身のPDAの画面を操作すれば、数字の羅列が表れる。

 10万前後のそれは組合に預けた全財産であり、電子マネー決済が可能な限界数だ。

「持ち運びは楽だけど、お金の実感が薄くなりそうだよね」

「気を付けないとな……いやホントに」

 過去に衝動買いした物品の数々を思い浮かべながら、そう心に刻むのであった。


          ●


「まず案内するのは、滞在中お前達が一番世話になるだろう“組合本部”だ」

 カフェを出て数分、一向がやってきたのは組合本部の前だ。

 本部に出入りする人間が途切れる事は無いものの、人の波はどこにも見当たらない。

 その場所は先の喧騒が嘘の様に落ち着いていた。

「ご覧の通りピークを過ぎればこんなもんだ」

「それでも田舎に比べれば十分に人は多いですって」

「朝とはぜんぜん違うんですね。すかすかです」

 人混みがなくなったためか、本部前の広場が一望できる。

 その敷地は広く、ちょっとしたお祭りぐらいなら出来そうだ。

 そんな広場が埋まるほどの人混みはどれだけ異常であったのか。

「美味しい依頼を先取りというのもあるが、この町の依頼には委託業務というものがある。依頼の五区分の中では“雑務”に当たる。区分から分かる様に、基本は雑用だな。朝から夕方に掛けて、建材や荷物の運搬、特定地域の巡回、地区の清掃とかだな。ただ、これらの報酬はさほど高くは無いが、昼食代や賄いが出る。駆け出しの冒険者にとっては飯代を一食分浮かせて、そこそこの金を得られるのは大きい。それにやりようによってはトレーニングにもなるしな」

「確かに僕やレイラの装備は家族のお古を貰えたけれど、一から準備するとなるとお金が掛かるか」

「依頼をこなして新調しましたが、装備の有無は大きかったです。お古とはいえ武器が無ければ、目標金額に届くのはもっと遅くなっていたでしょうね」

「本当に身一つだけでやっていける奴はそうはいない。大抵の駆け出しは“雑務”依頼をこなして装備と体を整えるのが基本だ。家族に感謝しておけよ?」

 シューヴァラの言葉に田舎組みは、誰にともなく感謝の言葉を呟いた。

「それとだ。昇格条件の一つに“雑務”の達成数がある。他の区分を十分に達成すれば問題は無いが、こなしておけば昇格が早くなるのは確かだな。一つの町に長期滞在する場合は最低でも1月あたり3回はこなすと良いぞ」

「社会への貢献ってやつだねー。冒険者は何だかんだ言っても暴力で食べてるようなものだからさ。『私達は怖くありませんよー』っていう無害アピールは必要だよねー」

「有り体に言えばそういう事だ。それに町の住人と交流を持っておけば情報の収集や物資の融通を利かせてくれたりもする。持ちつ持たれつの関係が理想的だな」

 シューヴァラとパールの説明に新米達は納得する。

「“組合本部”についての説明はこれぐらいでいいだろう。依頼報告とかの細かい説明は実際に依頼を受ける時にな。次は“訓練場”の説明をしておこう。アルフやレイラも前の町では依頼ばかりで利用しなかったから、一緒に確認するとしようか、こっちだ」

 そう言うと、シューヴァラは次の目的地へ案内を始めた。

 向かう先は組合本部の裏、そこには本部に負けない程に巨大な建物が建っていた。


          ●


 組合本部の裏に回れば、そこには土が剥き出しとなったグランドが広がっていた。

 広さにして野球場がすっぽり入ってしまうだろうか。

 見上げれば太い鉄の骨組みに支えられた観覧席が、グランドを囲むように存在していた。

 利用者は多いのか、広いグランドでありながら多数の人影も見えた。

 また、訓練なのか試合なのかは分からないが、グランドでは武器を打ち合う姿も散見された。

 そんな光景を横目に歩く事数分、グランドを挟んで組合本部の対と成る場所にそれは建っていた。

「ここが“訓練場”の入口だ。高さは“本部”に劣るが、敷地面積は本部より広いぞ」

 目の前には長方形の建物が聳え立つ。

 窓の位置から5階建てであることが分かる。

「名前で分かると思うが、ここにはトレーニング用の器具や設備が豊富に存在している。また途中にあったグランドを利用した“武闘祭”や競技の会場としても利用されるな」

「はい、昔父上と観覧した時は観覧席が埋まるほどの人だかりでした!」

 当時の記憶が甦ったのか、どこか上気したような表情になる。

「一般人は祭り以外に関わりは無いだろうが、冒険者としては多用する施設だ。試しに中まで見て行こうか」

 中は意外と清潔であった。

 長い年月で染み付いたであろう汚れや使い込まれた設備はあれど、キチンと清掃が行き届いている事は一目で分かった。

 新米達が周囲を見渡していると、シューヴァラは複数ある受付の一つで手続きを行っていた。

「冒険者6人と一般の子供1人だ。支払いはPDAで頼む」

「はい、でしたら料金はこちらとなります。支払いはこちらの端末にPDAを翳してください」

 PDAを翳すと鈴の様な電子音が鳴る。

 受付嬢との金銭のやり取りに新米達が口を出そうとするが、シューヴァラは片手で制止する。

「確認しました。ではPDAをお持ちの方はこちらの端末に翳してください。お持ちで無い方はタグを発行いたしますのでお申し付け下さい」

「えっと、ぼく持ってないです」

 おずおずと手を上げるカルシェに受付嬢はにっこりと微笑む。

「でしたら、こちらのタグをお持ち下さい。首に掛けるか手首に巻くかをして失くさないように気をつけてくださいね。また、こちらは退場の際に返却となりますのでお忘れないようお願いします」

「は、はい! わかりました!」

 受付嬢を担当するだけあってか、その整った微笑みに顔を赤くする。

「よし、それじゃあ施設の見学といこうか。今日は見学だけだから俺が払っておくからな。実際の利用は後日に個人で体験してくれ」

 それぞれがシューヴァラに礼を伝えると、内部の見学が始まった。

 まずはそこでは前世でも見たことがあるような数々のトレーニング器具が置かれた部屋。

「怪我や装備の調整期間で体が鈍らないように利用する連中が多い。近接武器を主に扱う連中が利用するな」

 稽古場なのか、畳が敷かれた部屋や竹刀が立て掛けられた部屋。

「ここでは体術や剣術の講習が開かれているな。護身目的の子供や我流で覚えた技術を矯正しようとする冒険者がよく参加している。アルフ、お前が気にしている剣術の基礎を覚えるには丁度良いと思うぞ」

「あはは、バレてましたか。まぁ財布と要相談ですが一度は絶対に受けたいですね」

 続いてはまるでカラオケルームのように扉が並ぶ場所。

 窓が無いため中を窺う事はできないが、扉に備えついた使用中のランプが幾つも点灯していた。

「ここはレイラのような遠距離武器を扱う連中が利用する。中を見てみろ」

 未使用となっている扉を開くと中は小さな個室となっていた。

 まず目に入るのは、壁に埋め込まれた真っ黒なガラス窓。

 景色も見えないガラス窓の下には数人が腰掛けられるベンチがあり、何かを収容するためのロッカーが置かれていた。

 そして、ガラス窓の隣には何かの端末が置かれており、入口とはまた別の扉があった。

「取っ手の端末にPDAを当てて開けてみろ」

 指示の通りにレイラがロッカーを開けると、中には弓と矢筒、胸当て等の装備が納められていた。

「これは……私の装備? 宿のロッカーに仕舞った筈なのに?」

 浮かぶ疑問にシューヴァラが答える。

「組合のロッカーは一種の異空間になっているそうだ。その中に収めた物は同じ設計のロッカーならばどこからでも取り出せる。内容量はランクと金銭で拡張できるそうだ。長物や重鎧を収めるのは駆け出しには無理だが、弓や軽鎧程度ならこうして利用ができる訳だ。……ついでだ、そこの扉に入ってみな」

 端末を操作しながら新たな指示を出すシューヴァラ。

 その行動に疑問は尽きないが、直ぐに分かるだろうと入る。

「……何ですかこれは?」

 扉から一歩踏み出せば、目の前には草原が広がっていた。

 青空に照らされたそこは、地平線まで伸びていた。

 建物の立地を考えれば、冒険者本部まで届いてもおかしくない距離だ。

『ここは射撃場だ。草原が広がってはいるが、実際は二メートル四方程度の広さしかないから気を付けろ』

 シューヴァラの声に振り向けば、何も無い空中に扉と四角く切り取られた枠があった。

 枠の中にはシューヴァラだけでない仲間の顔ぶれもあり、彼らも驚いている様子であった。

『本来なら目標を設定して試射をするが、今日は見学だけだ。受付で申請すれば仮想矢弾を提供してもらえる。新しい弓を手に入れたら調整で試射してみるといい』

 驚きに目を丸くする一行をそのままに見学は続く。

「こっちはシャワー室と更衣室、汗で汚れるから着替えを持ってくるのを忘れずにな。そしてここは簡易食堂、リーズナブルな価格で軽食を提供してくれる」

 その後も幾つかの施設を見回り、遂には最後の一つとなった。

「最後に、このグラウンドな。利用は基本自由だが、他の利用者との接触に各自で気をつけて利用する。また隅にある倉庫では訓練用の装備や武器の貸し出しを行っているぞ」

 鍛錬なのか外周をランニングを行う集団や、隅に置かれた目標に魔術らしきものを行使する者も居る。

「あそこの仕切りは何ですか?」

 鴉弥が指差す先には赤の三角コーンと黄色と黒のチェーンで仕切られた区画があった。

「ああ、あそこは新人用基礎訓練(ブートキャンプ)のスペースだな。組合運営の行事だから邪魔しないようにしておけよ」

「ブートキャンプ?」

 意味を問おうと口を開くと、一つの集団がやって来た。

 それは先ほど外周をランニングしていた一団であった。

 一団の顔ぶれは若く、新米達と同年代のようだ。

 息も絶え絶えに膝を着く彼らに教官であろう男が大声で指示を出す。

「これより10分の休憩を取る! その間にトイレ、水分補給を済ませておけ!」

 そう伝えると、教官はどこかへ去ってしまう。

 残された面々は汚れも気にせず地面に横たわっていた。

 心なしか、周囲の冒険者達が向ける視線が生暖かい。

「見ての通り体作りも兼ねた鍛錬だな。誰も彼もが戦う術を習得しているわけじゃない。ああやって若手を集めて一ヶ月半の集中鍛錬を行う。やり遂げれば実戦でもそこそこ動けるようにはなるぞ。どうだ? 参加してみるか?」

「俺は遠慮しておきます」

「ボクも右に同じ。鍛錬に関しては家の流派式がありますから」

 即答する。

 実践は鞠の監督下であったが、何度も行っているのだ。

 鍛錬自体も、鴉弥は門下生であったし、悠兎はその知識がある。

 それよりも、一ヶ月半も拘束されるのは御免であった。

「ま、そりゃそうだな。あれは本当のド素人相手の訓練だからな。お前達には必要無いな」

 息も整ってきたのか何人かは立ち上がって建物内に入っていく、水分補給のためだろうか。

「フム、この周辺は空いているし丁度良いか」

 そんな様子を眺めていると、シューヴァラが提案する。

「ユウトにアヤ。ウチのメンバーと軽く模擬戦をしてみないか?」

 その提案に2人は目を丸くした。

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