表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒兎の御伽噺  作者: 白烏黒兎
冒険者
27/36

第二十六章 それぞれの思惑

 とある建物の前で一行は2手に分かれる。

「それじゃ、また後でね」

「うん、またね」

 騒がしく遠ざかる一行を、二つの影が見送る。

「さーて、宿も取ったし荷物を置いたらこの後はどうしようか? ボクはパール達とPDAのカバーとかの買い物に行くんだけれど、一緒に来る?」

 さらりと地獄への片道切符を差し出すのは勘弁して欲しい。

「いや、昼飯ついでに少し町の様子を見てみたいから止めておく。あ、俺の分のケースをお願いしていいか?」

「うん、構わないよ。どんなのが良い?」

「あんまりゴテゴテキラキラしてないシンプルな物が良いな」

「了解、期待してて。じゃあ荷物を置いちゃうね」

 背中の背嚢を背負い直すと建物の中へ入っていく。

「個人用簡易宿所なんだっけか。日本にもそういうものはあったけれど、利用する事は無かったな」

 イメージとしてはカプセルホテルというのが近いだろうか。

 トイレは共有であり、汗を流すシャワールームが一階の隅に設置されている。

 それは家族や組織等の集団というよりは、個人が泊まるための宿であった。

「俺も荷物を置かないとな。そろそろ肩が凝ってきたし」

 肩に感じるバックパックの重さを確かめながら、自身も建物の中に入る。

 狭くはないが、広くもない受付を越え、廊下に出ると無数に並ぶ扉が目に入る。

 部屋番号を示すプレート以外に違いは無く、ふとすれば自分の借りた部屋すら見失いそうだ。

 また、扉同士の間隔は狭く、居室の狭さが垣間見える。

 上階へ続く階段を上れば、その先にも同じ光景が広がっていた。

「俺の部屋は――っと、あったあった」

 扉のプレートと見比べるのは受付に渡された居室の鍵。

 その鍵を刻印された番号と同じ扉へ差し込む。

 抵抗も無く、すんなりと鍵は開いた。

 そのまま部屋の扉を開けば、居室の中を一望する事ができた。

「本当に寝泊りするだけの部屋なんだな」

 部屋の中は簡素と言っても良かった。

 狭い居室の大半は、セミダブルのベッドに占領されており、残るスペースには小さな机と椅子、そしてクローゼットが有った。

 嵩張る荷物をクローゼットに置けば移動の邪魔になる事はないだろう。

 外に面した壁には、採光用の小窓が備え付けられており、外の景色を眺めることができた。

「外の音が殆んど聞こえないし、意外と防音対策はしっかりしてあるんだな」

 アルフィード達からの紹介ではあったが、十分当たりの部類だろう。

 全国に展開しているチェーン店のようで、宿泊金額は一泊5千円程。

 それが安いかどうかは分からないが、防犯や防音などの設備の良さからすれば良心的なのかもしれない。

 そんな事を考えながら背嚢をクローゼットに置くと、微かに金属が擦れる音がした。

「あ、そういえば」

 と、背嚢から取り出すのは銀のロケットペンダント。

「落し物として届けるのを忘れてたな」

 次々とやってくる未知の光景や出来事に、すっかり頭から抜け落ちていた。

「散歩ついでに届けてくるか」

 忘れないよう袴のポケットにしまう。

 とりあえず外出に持っていくのは、財布とPDAとペンダント、そして護身刀だけだ。

 武器を持つのは少々物騒ではあるが、このご時勢では護身用の武装程度なら見逃されるようだ。

 何せそこらのゴロツキですら刃物類を持っているらしい。

 町の住人ならばともかく、余所者である旅人にちょっかいを掛ける者は少なくないらしい。

「さーて、腹が減った事だし、俺も飯ついでに散歩と行くか」

 考えなくても、この世界は魔術や異種族といった自身の想像しない光景や出来事で溢れている。

 そんな世界を知りたいという好奇心の赴くまま、彼も未知の世界に繰り出した。


          ●


「それじゃ行ってくるねー!」

「夕食までには戻りますから」

「行ってらっしゃい」

 採取用の荷物を置いたかと思えば、姦しく2人が宿のロビーから出て行く。

 新しい友人との買い物にハシャいでいるのがよく分かる。

「……行ったか」

 結果、残るのは男2人だけ。

 宿のロビーに設置された休憩スペースの一角。

 近くに人が居ない事を確かめて、椅子に腰を降ろす。

 何とも花が無いが、これから話す事に関して都合が良い。

「あの2人についてだが、どう思う?」

 端的に問いかけてくるシューヴァラ。

 その問いが指す2人とは、今しがた出て行った2人ではない。

「……やっぱりあの黒兎(・・・・)なんですか?」

 初めて出会った時から、おや? という疑問はあった。

 そのために疑問で返す事になったが、シューヴァラは頷く。

「間違いない。あの黒兎が人化した姿だろうよ」

「そうなると、アヤさんは噂の白鳥ってところですか」

 別れる寸前に一言二言程度しか会話しなかったが、その声色は覚えていた。

 アヤの方は咄嗟の事だったために怪しいが、あのユウトと2人組みという時点で間違いはなさそうだ。

「ウチの女集も気付いてはいるようですしね。まぁ悪い人ではないみたいですし訊く必要は無いでしょう」

「素直で善良な人間だからな。特に注意する必要も無し、普通に仲良くすればいいだろう」

 穴だらけな経歴に森を抜けたにしては不自然に身奇麗な装備と、他にも怪しい部分があるがそれは時間が経てば解決する程度のものでしかない。

 しかし、実際に話した感触としては、ただの一般人としか感じられなかった。

「それよりも注意、というより覚えておいた方が良いのは、あの2人の支援者についてだな」

 出会ったばかりの頃は、身一つの無一文だった筈だ。

 それが、今やその辺の駆け出し冒険者並みの装備を持っている。

 何かしらの協力や支援があったのは確かだ。

「俺達よりも後の目撃情報だと、あの猟師になる。あの話が正しいのなら、支援者は“彼等”になるだろうな」

 心情としては信じられない思いだが、状況を考えるとありえない事ではない。

「あの2人と行動を共にすれば、彼等と関わる事があるかもしれん。だが、それは天災に飛び込むと同義だが――」

「それこそ大歓迎です。僕もレイラも、そしてパールや貴方だって平穏より未知の大冒険を選ぶ大馬鹿者じゃないですか。――それに、その程度で友達を止める理由にはなりませんし」

 確かめるかのような物言いに、ハッキリと言い返す。

「スマンな。年を取ると疑り深くなってイカン」

 頭を掻きながらシューヴァラは苦笑する。

「いえ、シューヴァラさんが疑ってくれなければ、未熟な僕達は何度騙されていた事か」

「そうだな。お前達がもう少し疑うという事を覚えてくれると助かるんだがな」

「そこはホラ、勉強中ですので将来に期待してくださいって事で、ね」

「なら、夕飯まで値引き交渉の勉強としよう。財布は持っているな? 市場で実践学習といこうじゃないか」

「あれ? 藪をつついて蛇を出しちゃったパターンかなコレ」

 引き摺られるような格好で、外へと連れ出される。

 結局、男達が戻ったのは予定の時間間近となるのであった。


          ●


 とある居室。

 そこは装飾華美な家具に彩られていた。

 そんな部屋に響くのは破砕音。

 毛の長い絨毯の上ではあったが、叩きつけられれば瓶は割れる。

「たかがガキ一匹、まだ捕まえられねぇのかッ!?」

 苛立ちをそのままに叫ぶのは一人の男。

 豪奢な椅子に腰掛け、周囲を睨む。

 その怒号に周りを囲む何人かは肩を竦める。

「す、すいやせん。見つけはしたんですが……その、大層腕が立つ護衛に追っ手全員が伸されちまいまして……」

 一人の男がこれ以上の刺激をしないよう、言葉を選びながら言う。

「ふざけんな!! ここまで来て今更護衛だと!? クソ兄貴の差し金とでも言うつもりか!?」

「かもしれません。領内は早くに抑えていましたからね。こうして我々の目が届かない別の領地に逃げた事で合流できたという事でしょう」

 別の男が確かめるように予測を告げた。

「クソッ! 領内で始末する事が出来ていれば今頃既に……っ。これも全部あんのクソ兄貴のせいで台無しだ!!」

 近くに有った蓋の開いた瓶をひったくる様に掴むと、コップに注ぐ事なくそのまま一気に飲む。

 一息で瓶の半分を飲むと一息吐く。

「領主の証たる領璽さえ手に入ればそれで良い。だが問題は、現状その領璽の行方を知っているのがあのガキだけだって事だ。それもあのクソみたいな親父と兄貴が隠しさえしなければ……っ」

 怒りが再燃してきたのか、瓶を握る手が震える。

「おい! その護衛がどんな奴か判るか?」

「それが……夕方の路地裏は薄暗かった上に、フードを目深に被っていたんで顔は分かりやせんでした。ただ、素手での武術に長けた人間としか」

 男の報告に目を覆う。

 下手に視界に入れていたら、手に持った瓶を叩きつけてしまいそうだったからだ。

「あークソッ! いいか? 国からの使者が来るまでにガキは捕まえて、領璽を手に入れる。これは絶対条件だ。万が一見つからなければ、領地も爵位も全てが国へ没収される。そうなれば没落貴族まっしぐらだ! そうなると困るのは誰だ? ああ、もちろん俺だな。だが、お前等も巻き添えになるのは確かだ。領地内で散々好き勝手したもんなぁ? 今は権威があるからこそだが、それが無くなれば? ただの平民となればどうなるか。お前等の頭でも理解できるだろ? そしてその余裕はそれ程無い」

 その言葉に周囲の男達はどよめく。

 自身が今まで何をしてきたか、心当たりは山ほどあるからだ。

「分かったらさっさとガキを見つけ出せ! そして領璽を手に入れろ! 手柄を上げた奴には相応の報酬を用意してやる!」

 叱咤か褒美か、どちらに反応したかは分からないが、部屋の中に居た男達が慌しく動き出す。

 そんな男達を眺めながら、一人瓶の残りを飲み干す。

「……あのクソ兄貴め。虫の餌にするのは早かったか」

 傍の窓から外を眺めて呟く。

 ガラスに反射する自身の顔の向こうには、闇夜に包まれた町を満月と星々が優しく照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ