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黒兎の御伽噺  作者: 白烏黒兎
冒険者
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第二十五章 異国の町

「異国情緒あふれ過ぎだろ」

「人種もさることながら建築技法もバラバラだ。建築基準法はどうなっているのかな?」

 幕壁を抜け、広がる景色に思わず出た第一声がこれだった。

 右を見ても左を見ても、そこにあるものは異国。

 人種が違う程度ではない。

 異形の特徴を備えるだけではなく、存在の有り方からして違う者も居る。

 建物に関してもそうだ。

 区画整理はしっかりとされており、馬車が通るためか歩道は広く、見通しは良い。

 だが、立ち並ぶ建物は木造、石造、鉄筋コンクリート、果ては近未来的な謎素材と様々だ。

 おかげで道は整っているにもかかわらず、酷く乱雑している印象が強い。

「やっぱり初めてだと驚くよねー」

「見慣れてしまえば、賑やかなものなんですけれどね」

「いや、やっぱり賑やかで済まないって」

 苦笑しながらも、2人の反応に同意する。

 やはり彼等からしても、この光景は普通ではないようだ。

「おいおいお前達、この町で驚いていたら、中央に行ったらひっくり返るぞ?」

 そんな中、シューヴァラ一人だけが冷静だった。

「あれ? ベテランだっていうシューヴァラさんは別として、他の皆は行った事ないの?」

「ああ、僕とレイラは地方の出身でね。2人で故郷を飛び出してこの町で冒険者登録したんだ。そしてつい最近、拘束期間を終えたばかりだよ」

「ほぅ、そうなると2人の関係は」

「はい、私とアルの関係は、いわゆる同郷の幼馴染というものですね。パールとシューヴァラさんと出会ったのは、冒険者登録をした時だったんですよ」

 そうでしたよね、とパールに視線を向ければ頷いて同意する。

「うんうん、あれは偶然だったよね。スーさんに連れられて登録したら、同年代の子が居るって聞いたんだ。で、その縁でこうしてパーティを組んで一緒に旅することになったんだよ」

「田舎では年の近い者も居なかったからな。年の近い新人同士の交流で何かを得られればと思っての提案だったが、こうして良い縁に恵まれた。無論、お前達2人との出会いもだ」

「そう言われちゃうと照れちゃうね」

「俺達も、初めて出会えた相手が貴方達で良かったですよ」

 何らかの下心は有るだろうが、騙す事など無く手伝ってもらえる時点でありがたい。

「――はいっ、それじゃ冒険者組合に行こうよ。こんなところでぼやぼやしていたら日が暮れちゃうよ」

「それもそうだ。組合はここから少し歩いた所にあるんだ。人が多いから迷子にならないよう気をつけてね」

「おおっ、冒険者組合! まさかこの目で実物を見られるとは……っ」

「確か、異世界ファンタジーの定番なんだっけ? そうなると次は先輩冒険者の手荒い歓迎かな?」

 数多くの物語の定番(テンプレ)を自身が追体験する事実に感極まる悠兎。

 サブカルチャーに疎い鴉弥だが、悠兎との交流にて多少の知識は得ていた。

「いやいや、そんな冒険譚みたいな出来事は地方なら兎も角、中央に近いこの町じゃありえないからね?」

 アルフィードの指摘は感極まる彼の耳に届かず、町の喧騒の中に消えていった。


          ●


「ふぉおお! 本物の冒険者組合……っ!」

「4階、じゃなくて5階建てかな? 高さもそうだけど、敷地も結構大きいんだね」

 案内されたそこには、見上げる程大きな建物が存在していた。

 つるつるとした白磁の壁は、単なる木材や石材に塗料などを塗ったというには、何かしらの技術によって製造された物のようだ。

 見上げれば窓ガラスが幾つも填め込まれており、近代的な建造物だ。

 その外見だけならば、生前の日本に存在したショッピングセンターに見えなくもない。

 そんな建物の大きく開かれた入口からは、大勢の人間が出入りを繰り返していた。

 人種、種族様々な人々が行き来する様は、平成時代の日本出身の2人からすれば一種の仮装パレードにも見えた。

「ねぇ、ここまでの道程で気になる事が有ったんだけれど、質問いいかな?」

「良いよ良いよ、気になる事があったら何でも聞いて。冒険者の先輩としてアーちゃん達の質問には何でも答えちゃうよ!」

 人々の流れを眺めていた鴉弥の疑問にパールが反応する。

「アーちゃん……? いや、何だか人種が偏っている様に見えてね。冒険者組合は聞いていた限り、多種多様の人種が加入していると思っていたんだけれど……」

 生前には付けられた事の無い愛称に一瞬面食らうが、悪い気はしなかった。

「あー、あの人達か」

 種族単位として見渡せば、予測の可能、不可能合わせても両の手に収まらない。

 だが、人数の割合と見てみるならば、大半が背の低い者達が埋め尽くしていた。

 何所を見ても、必ず一人は目に入る彼等は、小柄な背丈ではあるが、若くは無い。

 彼等は無邪気で快活さを併せ持つ子供ではなく、成熟した雰囲気を纏う大人であった。

「今はある意味、彼等“ドワーフ”とってのお祭りみたいなものだからねー」

「お祭り?」

 少なくともそのような雰囲気は町の中では感じ取れなかったが。

「うーん、説明するよりは中に入って見れば分かると思うよ」

「論より証拠という奴だな。手続きの間の暇潰しにもなるだろう」

 そんなやり取りをしている内に、一向は冒険者組合の中へと入る。

 エントランスを抜ければ、そこは吹き抜けた造りの広いロビーと受付があった。

「何だ? あの人だかりは?」

 受付から離れたロビーの隅、そこには人の塊が出来ていた。

 塊の大半を構成する者がドワーフらしき者なのは何故なのか。

 そんな人混みの隙間からは、何らかのガラスケースの一部が見えた。

「あれが祭りの原因だよ。でも、先に手続きを済ませないと。僕達の依頼もあるけれど、君達の正式な通行手続きも早めに済ますに越した事はないからね。確かめる時間は後で取れるよ」

 気にはなるが、まだ自身の持つ通行証は仮のままだ。

 早く正式な物にしなければ、どんなトラブルが待っているか分からない。

「そこまで複雑な手続きではありませんので、心配はいりませんよ」

「なら、俺は少しの間、依頼の処理のために別行動させてもらうとしよう。手続き自体は依頼を受けたメンバーの誰かであれば行えるからな。手続きを終えた後は若い者同士、交流を深めると良い」

 そう告げると、シューヴァラは草の束が収められたバッグを持っていく。

 彼は一人、立った今入ってきた入口から外へ出て行く。

「このロビーは新規加入や依頼、免許の申請とか、主に書類上の手続きを行う場所なんだよ。だから依頼の処理とかは、別の場所になるんだ。ほら、僕達の受けた依頼は薬草の採取だったけれど、魔獣や魔物とかの狩猟になると血とかの汚れがね……」

「他には冒険者組合の設備である資料書庫や訓練所等の施設利用目的でしょうか。ちなみに、この構造はどこの冒険者組合も同様のものとなっています。今回は通行証の正式発行ですので、終らせてしまいましょう」

 果たして、手続き自体はすんなりと終った。

 受付に用件を伝え、何枚かの用紙への記入し、出入り分の通行代と通行証の発行代を支払うだけ。

 ただ、特に審査の様な物を受ける事無く済んだのは、滞在期間の短さもある。

 明日には、彼等と一緒に中央とやらへ出発するのだ。

 当然、問題を起こせば通常よりも重い処罰を受けるが、そんなつもりは一切無い。

「はい。登録の方、完了しました。こちらの通行証が適用されるのは、明日の朝5時からとなります。町を出る際の手続きに、PDAを使用しますので紛失にご注意ください」

 返されたPDAの画面には通行証が映し出されていた。

 通関時にこの画面を見せれば、PDA自体が通行証代わりになるという。

 旅をするには重荷になるであろう、書類の山を一括できるのは楽では有るが、紛失した時が恐ろしい。

 何であれ、後は正式に適用されるのを待つだけだ。

「手続きは終ったし、少し見に行こうか。中々お目に掛かれない代物だからね」

 そう言ってアルフィードはドワーフの山を指差した。


          ●


「だぁー! テメッ割り込みすんじゃねぇ!」

「あんだと!? オメェがボケッとつっ立ってんのが悪い! 後がつっかえてんだよ!」

「喧嘩はお止めください。騒ぎを起こす方は強制退場となりますよ」

「あぁ!? どう見ても割り込んだコイツが悪いだろ!?」

「はぁ!? こいつがボサッとしてるのが悪いじゃねぇか!?」

「……では、あちらで決着を付けて頂きましょうか。ポチッとな」

『ぬわーーっっ!!』

 人目憚らず喧嘩していた2人が宙を飛ぶ。

 それを視線で追えば、壁隅に置かれた巨大クッションに飛び込む。

 その周囲では、殴り合いをする者達もいれば、青あざだらけの顔で酒を酌み交わす者達と様々だ。

「……え? 何あれ?」

 思わず目を丸くしてしまう。

「僕達もそうだったけれど、初めて見たら驚くよね。あれはドワーフ流の交流ってやつかな」

「主に男性ドワーフ同士で行われるものです。職人気質であり、荒くれ者が多い冒険者を相手する者程その気質は強いですね。彼等の種族特性の一つに頑強さがありますので、殴り合い程度ではそこまで被害はありませんから。そして最後に酒を酌み交わすことで決着とするようです」

「それはまた……喧嘩するほど仲が良いって話なのかな?」

「首都から離れる程、その傾向が強いって聞くねー。やっぱり魔物や魔獣の被害が多いと、行儀良くしている余裕が無いっていうのもあるんだろうねー」

 先ほどの2人に目を向ければ、顔に青あざを作りながらも既に酒を酌み交わしていた。

「まぁ、彼等の事は置いといて本命と行こうか」

「ああ、うん。そうだな」

 異種族特有の文化に圧倒されるばかりだ。

 彼等を横目に見物用と思われる列へ並ぶ。

 時折、湧き上がる怒声と宙を飛ぶ影を眺めなていると、自分達の番が回ってきた。

「うわぁ、これは凄いね。こんな業物そうそう無いよ」

 一目見て声を上げる鴉弥。

 刃物に詳しい彼女は、その価値に気付く。

 目の前にあるのは小型のショーケース。

 そこには一本の両刃のナイフが刃先を空に掲げるようにして収められていた。

「そうでしょそうでしょ。でもね、それだけじゃないんだよ。あのナイフは何でも切れるの!」

「その言い方には語弊がありますよ。正確には意思ある存在以外を切る事が可能なんです」

「意思? どういうことかな」

 言いたい事が理解できず、首を傾げる。

「言葉の通りです。あのナイフは人の皮どころか、産毛すら切れないにも関わらず、非力な子供でもバターを切るように鉄を切り裂いたそうです。行われた実験によると合金どころか、概念である上級結界すら断ち切ったそうです。故に、ああやって刃先を真上に向けて飾っているのです。横にすれば自重で台座が切り裂かれてしまいますから」

「人の手で作られたにも拘らず、ちょっとした神器みたいな代物だからねぇ。結果として物作りが生きがいのドワーフ達が少しでも技術を盗もうと、こうして全国各地から集まっているんだよ」

「おまけに製作者がドワーフの大御所なのも、原因の一つだね。()の作品が出回ること自体そんなに無いうえに、こうして衆目に公開される事自体が稀だからね」

「彼等からすれば一種の展覧会みたいなものだから“お祭り”なんだね」

 彼等は技術の向上すべき職人であり、作品のファンでもあるのだろう。

 事実、眩い物を見るように目を細めて鑑賞する者も居た。

「申し訳有りませんが、大変混雑しているため、鑑賞はお一人様3分とさせて頂いております。鑑賞いただいた方は、次の方へ譲ってください」

 誘導員の声掛けによって、一行の鑑賞は打ち切られる。

 後続に道を譲って列から離れる中、鴉弥は悠兎が一言も発していない事に気付く。

 何かを考えるように眉を顰めていた。

「どうしたの? 気分でも悪い?」

「ああ、いや。そうじゃないんだけど……」

 歯切れ悪く彼は言った。

「あのナイフさ。作ったのってクローフィズさんかもしれない」

 声を抑え、鴉弥だけに聞こえるように言葉を続ける。

「前に話したよな。猟師から助けてもらった時の話」

「うん、ボク達を助けるためにナイフと引き換えに――ってまさか」

「ああ、その時のナイフなんだよ。展示されていたのは」

 思わず、携えていた刀を握る。

 それは、誰かに知られてはならないという防衛本能からか。

「作った本人かどうかは聞いてないけど、猟師の反応からすると、な」

 どこか確信めいた物言いの後、悠兎は口を閉じる。

「それなら、あんまり言い触らさない方が良いかもしれないね」

 腰の鞘を撫でながら気持ちを整える。

 その製作者である彼女の顔が浮かぶ。

 ……人間国宝って、まだ柔らかい言い方だったんだね。もう、これ以上の厄介事は無いよね、鞠?

 一段落着いたら、嘗てのペットを問い詰めようと決心したのだった。

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