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黒兎の御伽噺  作者: 白烏黒兎
冒険者
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第二十四章 幕壁の門

アルフィードの口調とバスの説明部分を修正しています。

 石橋を越えてから少しして。

 遠目に見えていた影が、その姿をはっきりさせる。

 それは盾だ。

 人々の営みを守護する町の盾だった。

 見上げる程の壁の幕が彼ら一行を迎える。

 高さとしては十メートル程で、生前のビルにも及ばない。

 それでも、外敵から守るための実用的な造りに圧倒される。

「デッカイ壁だな……」

「壁の上に人が居たり、狭間らしきものが見えるし、中に入れるのかな?」

 生前の日本でもお目に掛かった事のない存在に目を丸くする。

「驚いたか? この幕壁はかなり昔に造られたものでな。自己修復や対物、対魔の処理もされているおかげで、未だ現役で活用されている町の盾であり、門だ」

「それだけではありません。一般的な材料のみで構築されているにも関わらず耐久性は高く、上級魔法ですら防ぐ事が可能と云われています。そして未だに同条件での再現は出来ておりません。故に、遥か昔に失われた技術がどの程度かの目安にもなるので、歴史的価値も高いんですよ」

「そうそう、それにこの国で幕壁があるのは中央とココぐらいだっけ?」

「ここと中央以外にも幕壁は在ったけれど過去の大戦で消失しているからな。本拠地だった中央はともかく、記録上の激戦地から離れていたこの町ですら、四辺の内の二辺が消失しているんだからな。当時の大戦がどれ程のものだったかも想像もつかないよな」

 お上りさん丸出しな2人に、冒険者組みが解説をしてくれる。

 彼らも2人が常識に疎い事は理解している為、付随する情報まで教えてもらえる。

 秘め事の多い身としては、こうして情報を戴けるのはありがたい事であった。

「――っと、お前達、邪魔になるから道を退けるぞ」

 シューバラの声掛けに、視線を正面に向ける。

 見れば、何やら四角い物体が向かってきていた。

 彼らの背丈を越える大きさのそれは、地面に二本の轍を残しながら走っていた。

「えっ、あれって」

 その物体に2人は見覚えがあった。

 呻り声を上げ、複数の硬質ゴムの車輪で走る。

 記憶にあるその物ではないが、近しい形状のそれは。

「車?」

 それは外部からの攻撃を想定しているのか、物々しい装甲に包まれてはいた。

 また、屋根にはドーム状の銃座と思われる部分が二ヵ所有り、その射手の姿も見えた。

 不届き者が近づけば、風通しが良くなる事は想像に難くない。

 それ以外は、基本的に生前目にした物と大差は無い。

「アレは組合の大型バスだ。一般人と冒険者用があるが……あれは一般人用か。割高になるが、目的地まで早く、安全に着けると富裕層がよく利用しているな」

 開けた道をバスが通る。

 エンジンらしき音はするが、排気ガスの臭いは無い。

 使われている技術は未知のものだが、その形状と役割は生前と変わりなさそうだ。

 車体側面の窓はスモークガラスとなっており、中の様子を窺う事は難しい。

「日本、というより地球の文化の名残ってやつか?」

「他の世界に類似品が無かった、とは言い切れないけれど、そうかもしれないね」

 エンジンらしき音を響かせ、遠くなる姿に2人は囁き合う。

 生前では見飽きるどころが、そこにあって当たり前の存在だった。

 そんな事実が風化してしまう程に遥か未来の今、こうして出会う事が2人には感慨深い思いだった。

「あのバスもネクストフォン同様、遺跡や異界(ダンジョン)から掘り起こされる遺物(アーティファクト)の一種だな」

「しかし、製造技術が科学、魔学、はたまたその技術の混合と、現状で全車両を十全に運用可能としているのは冒険者組合だけなのです」

「国によって主流の技術が違うからねー。東と西で全然違うからどうしても扱えない物は出てきちゃうよね」

「国柄だけじゃなくて、土地の問題っていうのもあるからね。それはともかく、最近はバスを日常的に利用できるようになって冒険者として一人前とか言われているんだ。割引があっても安くない金額だから、日常的に利用できるのは相応の稼ぎを持つ実力者って事だしね。俺達がそこまで稼げるようになるのは、まだ当分は先の話なんだけどさ」

 青空を天井とした簡易的な授業は、町の入口に辿り着くまで続いた。


          ●


「町へはここを潜って入るんだ」

 アルフィードの先導で一行は歩く。

 ここは幕壁の中、町と外を区切る場所だ。

 幕壁の門は大きく開かれ、何十人という人間が一度に往来しても、まだ広さに余裕がある。

 石の通路に日光が遮られて入るが、暗くはない。

 天井や各所に備え付けられた器具が、内部を柔らかく照らしていた。

「意外と中は広いな。あと、蛍光灯じゃなさそうだけど光源はあるんだな」

「そうだね。けれど、元からじゃなくて、後付けされたものみたいだ。ほら、あの削れた部分は多分篝火の跡だろうね」

 既知の物と、眼前の未知を2人は比べる。

 日本語が通じるとはいえ、ここは海外より遠い異世界だ。

 生前の日本とのカルチャーショックは尋常ではない。

「明かりはあるけれど、中は暗いから足元に気をつけて」

 彼らに誘導されるままに中に踏み込めば、広場があった。

 中では、幾つかの組に列が別けられ、それぞれで検査が行われていた。

「なぁ、これって……」

「うん、簡素だけど空港の保安検査場そのまんまだね」

 彼らの記憶に甦るのは過去の修学旅行の思い出だ。

 それぞれ目的地は違えど、出発地点である空港の印象は強く残っていた。

 旅行への期待を籠め、クラスメイト達が金属探知機を潜ってX線検査装置に荷物を通す。

 そんな記憶と目の前の光景が重なった。

「さて、僕達は冒険者だからこっちだね」

 その中の一つ、通行検査と看板が掲げられた場所に着く。

 人の列が幾つも並ぶ中、彼は武器や鎧を纏う人間が多い列を選ぶ。

 並んではいたが、列の進みは速く、そこまで待たされる事はなかった。

「次の方どうぞ」

 声を掛けてくるのは町の警備兵だろうか。

 同一の制服とボディアーマーを装備した人間が他にも散見された。

「すいません。依頼の帰還手続きと、冒険者引率サービスで2人の通行許可をお願いしたいんですが」

「はい、分かりました。それでは帰還手続きから行いますので“PDA”をここに翳して下さい。全員、荷物はこちらの台に置いて下さい」

 警備兵が示す先には、X線検査装置らしき物体と何かしらの端末。

 その端末は、コンビニなどでよく見かける読み取り端末だった。

 端末から伸びるコードを辿れば、パソコンらしきモニターも存在していた。

 言われるままに、荷物を渡し、PDAを端末に翳す。

 ピピ、という軽い電子音が読み込みの合図のようだ。

 そのまま警備兵はモニターを覗き、何度か画面をタッチする。

「はい、帰還の手続きが終了しました。荷物も異常有りませんでしたのでお返しします」

 彼らの手続きを終えた警備兵は、2人に向き直る。

「では、お2人の通行許可ですが、PDAはお持ちでしょうか? お持ちでしたらこちらに翳していただくだけで、仮の許可証が発行できるのですが」

「あ、えーっと……」

 思わず、言葉に詰まってしまう。

 PDAを持っていると言うのは簡単ではあったが、先のパールの話が頭を過ぎる。

 確認のためとはいえ、貴重品を取り出す事に躊躇してしまう。

「心配しなくていいぞ。彼らは基本、職務で見聞きした事を部外者に口外する事はできんからな。ただ、後ろに並んでいる者には見えないように気をつけろ。流石にそこまで口封じはできないからな」

 迷っているとシューヴァラから助け舟を出される。

 その助言に2人はPDAを取り出す。

 警備兵も“ネクストフォン”を知ってはいるようだが、軽く瞠目するだけで職務に忠実だった。

「では、こちらの認証端末に翳してください。仮の通行所を発行いたしますので」

 促されるままに悠兎はPDAを翳す、が。

「あれ? おかしいな、故障か?」

 モニターを覗き込む警備兵の顔が困惑に染まる。

「どうかしたのか?」

「申し訳有りません、読み取りに少々時間が掛かっているようでして。……おかしいな、たかが機種IDのデータ読み込みにこんな時間が掛かるなんて」

 後半は聞こえないように呟いてはいたが、悠兎の耳はしっかりと捉えていた。

 どうしたのかと不安が高まってきたその時、警備兵は顔を上げた。

「――っと、ご迷惑をお掛けしました。仮の通行所の発行の方、完了致しました。正式な手続きは冒険者組合にて行ってください。また、PDAが通行証明書の代わりになりますので、決して失くさないようお気をつけください」

「あ、はい。ありがとうございます」

 次に鴉弥が手続きを行うが、何の問題も無く、あっという間に終った。

 同じ機種の筈なので、自分のPDAに原因は無いだろう。

 単に機器の調子が悪かっただけなのだろうか。

 そんな事を考える悠兎を連れて、一行は検査場から離れる。

「うーん、町の出入りの確認で使うあたり、PDAってかなり多用するんだね。物が良くても、普段から迂闊に取り出せないんじゃ逆に不便だね」

「あー、そうだよね。普段使いするならカモフラ用にカバーかケースを用意しないと不味いね。確か組合の売店で売っていた筈だから、この後一緒に買いに行こうよ。2人の機種でも着けられる物も有ったと思うし」

「あ、やっぱりそういうアクセサリはあるんだ。でも、可愛いのってあるの?」

「勿論ありますよ。鴉弥さんの機種だとフリーサイズになると思いますが、種類は豊富ですので気に入る物が有る筈ですよ」

「そうなの? それは楽しみだよ」

 年頃の女の子らしく盛り上がる女性陣。

 その背後を男性陣が苦笑しながら着いて行く。

「アレ……確実に長時間コースだな」

「女性の買い物が長いっていうのは、何時の時代も変わらないんだな」

「幸い、組合近くには本屋や武器屋とかの時間を潰せる所はあるんだ。それ程苦にはならんだろうよ」

 こうして一行は町の中へと足を踏み入れるのだった。


          ●


 気が付けば日は暮れ、外よりも幕壁の中が明るくなった頃。

 通行人も減り、門を閉じるための撤収作業が行われていた。

 警備兵達が夜間通行に使用する、必要最低限の検査機器以外を運ぶ中、とある警備兵は気付いた。

「……どうかしたのか?」

 声を掛けた相手は、同じ警備兵。

 機器のメンテナンス資格を持つ彼は、撤収指示の出された機器の一つの前で首を傾げていた。

「ああ、いやさ。今日、冒険者の通行でちょっと調子が悪くなって」

「それってつい最近導入した新型だろ? そんな直ぐに故障するものなのか?」

「そんな筈はないんだけど。で、今軽く調べたんだけど、センサー類に問題は無かったんだ。だからシステムに問題が無いか見てたんだけどさ」

 彼が指し示すモニターには、とある記録(ログ)が表示されていた。

「調子が悪くなった時間に、組合からの接続記録(アクセスログ)が残っていたんだよ。いや、指名手配とかの記録更新とかで、組合から不定期で接続することはあるんだけどね」

「聞いている限り問題らしい問題が見えないんだが?」

 モニターを見ても、接続元は冒険者組合となっていた。

 それ自体は不思議ではない。

 各地に存在する冒険者組合は、その手の広さから情報収集に関して右に出る者が居ない。

 結果として、危険情報などを町と共有し、こうした防犯事業に一枚も二枚も噛んでいる。

 この機械類ですら、組み上がるまでのどこかで組合が関わっているだろう。

「いや、だけどさ……」

「何だよ歯切れが悪いな。はっきり言えよ」

「じゃあ言うけれど。組合は組合でもこの町にある支部からじゃない、本部からの直接接続なんだよ」

「は?」

 思わず呆けてしまう。

「本部ってあの本部か?」

「どの本部か知らないけれど、中央の本部だとするならそうだよ」

「あの秘密主義が高じて、中央の組合職員ですら分からない事が多いあの?」

「そうだよ。おまけにIDを見るに、職員じゃなくて幹部以上の権限持ち。そんな人間が、数ある衛星都市の、それまた無数にある検査機器の一つだけに接続するなんて奇妙じゃないか?」

「さあな。お偉いさんの考える事は分からんよ。案外、暇に飽かせて悪戯でもしてたんじゃないか」

「そうかなぁ?」

 悪戯にしては、意味も意義も無さ過ぎる。

「それか、その時にチェックした冒険者がお偉いさんの関係者だったりしてな」

「……もしかしたら、そうかもしれないな」

 思い出すのは2人組みの若者。

 まだまだ若い彼らは、“ネクストフォン”という超高級品を持っていた。

 あの若さであんな物を手に入れる程の伝手と考えるとなると、成る程ありえない事ではなさそうだ。

「とにかく、故障じゃないのなら、とっとと片付けて飲みに行こうぜ。最近、良い店見つけたんだ」

 結局、考えても答えは出ないのだ。

 ならば、美味い飯と酒の食べ方について考えていた方が有益だ。

「ほぅ、じゃあ期待させてもらうとしようか」

 善は急げと、検査機器を転がすと広場が俄かに騒がしくなる。

「あぁ? 何だ一体?」

 騒ぎに視線を向ければ、ある一団が騒いでいた。

 未だ残る通行待ちの列に対し、割り込みを強要しているようだ。

 近くに居た、手隙の警備兵達が制止に走っている。

「うっわ。あいつ等、隣の領主の連中じゃねぇか」

「え? 隣の? あんなに規律の無い連中だったっけ?」

 偉そうではあったが、少なくとも権力に笠に着ての横暴など行わなかった筈だ。

「おいおい、何時の話だよ。新聞の技術ニュース以外もしっかり読んでおけ。あれは次期領主のドラ息子が集めた連中だ。ただのチンピラに権力を与えた悪い例だまったく」

「ドラ息子? それって次男じゃないのか?」

「前領主は病死、継承権を持つまともな長男は行方不明。残った次男のドラ息子がそのまま次期領主へスライドインって訳だ」

「えっ、それって――」

 次男がバリバリ怪し過ぎる。

「おっと、それ以上言うなよ。証拠が無い(・・・・・)。状況証拠ですらあやふやだ。そう(・・)だとしたらとっくに隠滅されているだろうよ」

 嫌悪感を隠さずに言う。

「それに、デビルローチのせいで不足した食料をボッタクリ価格で押し付けてきやがるしよ。おかげで飯が高くてしょうがねぇ」

「日照りでも飢饉でもないのに? そんな事しても何の得にもならないと思うんだけど」

 無用な恨みばかりが募っては、彼の領地の民にも被害が出かねないのだが。

「単純に金を儲ける事しか考えていないみたいだぞ。おまけに組合支部長の娘を狙っているそうだ」

「領主の座の次は組合幹部の座か……ホント、権力が欲しいんだね」

 冒険者組合というのは、各国に対して一定の影響力を持っている。

 その情報収集力と冒険者という、どこにでも居る戦力。

 そして、遥か昔から蓄積された高い技術力。

 力でもって弱者を甚振る事しか考えない人間が、自由に出来るその座に至ればどうなるか。

 火を見るよりも明らかだった。

「――おい! そこの2人、その機器を持ってきてくれ!」

 領主の一団を制止していた一人が声を上げる。

 その声が示すのは、最後になった検査機器を片付けていた2人だった。

「あーはいはい、待たせて問題を起こされる前に別口で通すって事かよ」

「権力を優先しているみたいで気分は悪いだろうけれど、一般の人が被害を被らないようにしないとね」

 今、倉庫へ運んでいた機器を騒がしい一団へ向ける。

 その日最後のお客様は、何とも傍迷惑な一団であった。

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