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黒兎の御伽噺  作者: 白烏黒兎
冒険者
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第二十三章 石の大橋、旅景色

今回は短いです。

 森から出るのにそこまで時間は掛からなかった。

 悠兎達が彷徨っていた場所は、その気になれば簡単に抜け出せる場所であった。

 人がよく行き交うためか、自然と均された街道を歩いて30分程か。

 何度かすれ違っていた人の姿も徐々に増え、気が付けば沢山の人間がそこに居た。

「はぇーデッカイな」

「こんな大きな石橋なのに跳ね橋なんだ。だとするとあの小屋は制御室かな?」

 目を見開く悠兎達一行の目の前に現れたのは、向こう岸までが百メートルはありそうな川だった。

 そんな川を渡すために架けられた石橋は、大きな馬車が余裕を持ってすれ違える程の広さがある。

 通路の端には、個人で開いているであろう小さな露天が広がっていた。

 その光景は小さな市場だった。

「あの横に掛けられた細い橋は何なんだ? 固定されているようだし」

 橋の影に隠れるように渡されている小さな橋。

 とはいえ、馬車の一台なら通れそうだが。

「ああ、あれは非常用通路だ。大橋が架かっている昼間は関係者専用通路として封鎖されているが、夜は大橋が跳ね上げられた後の夜間用通路として利用されているぞ。ただし、安くない利用料を取られるから、なるべく大橋を渡るようにした方が賢明だな」

「でも、魔物とか賊の侵入とかの心配は? 見たところ遮断機も柵も無い様だけど」

「その点は大丈夫。魔除けと結界の術式が刻まれて、特定の人間以外は通れないし。最悪橋ごと落とす機能もあるって話だよ」

 シューヴァラとアルフィードから薀蓄を聞きながら、2人はその光景に目を輝かせる。

「すっごい景色だね。ボク達の初の旅景色に相応しいね」

「なら、写真でも撮っておくか?」

「それは良いアイデアだ」

 背嚢の隠しポケットからPDAを取り出す。

 2人にとっては慣れ親しんだ形ではあるが、他のメンバーからすればそうではなかった様だ。

「ちょ、ちょっと待ったぁー!」

 街道から外れ、意気揚々と写真を撮る2人に待ったが掛かる。

「そ、それって稀少機種の“ネクストフォン”じゃん! 今まで発掘された中の最新型で滅多に見つからないっていうあの!」

「え、これってそんな凄そうな物なのかい?」

 猫耳の少女、パールの尋常ではない反応に嫌な予感を感じる。

「凄いってもんじゃないよ! 基本、中央のオークションですら滅多にお目に掛かれないと噂の“ネクストフォン”! 王侯貴族ですら持っているだけでステータスになるという、あの“ネクストフォ――もがっ!?」

 音量調節の壊れたスピーカーはシューヴァラの手によって黙される。

「シッ! 声が大きい。――とりあえず2人も写真を撮り終えたのなら隠しておけ」

「あ、はい」

 周囲を見回しながらPDAを片付ける。

 幸い、パールの声は騒音としか取られていないようで、迷惑そうな視線だけがあった。

「むぅー! むぃー!」

 小柄なパールにとって、大柄なシューヴァラの手は口を塞ぐには過剰だったようだ。

 酸素欠乏で徐々に青ざめる顔から、限界が近いことは察せられた。

「あー、手を放すから声を小さくしろよ?」

「むん! むん!」

 必死の懇願が通じたのか、鼻を覆う大きさのマスクは外される。

「――ぷはぁっ! スーさん! 私を殺す気!? ってはい、声を小さくしますっ」

 再度マスクを着用されそうになったためか、その気勢は大人しくなる。

「でも、良いなぁ。可愛いワンポイントイラストまで有ってさ。……ねぇ、アルくん。次の目標は遺跡での“ネクストフォン”発掘にしない?」

「……“ネクストフォン”が発掘される遺跡って上位冒険者しか入れない場所ばっかりだったよな?」

「だってー、組合から支給されるPDAってゴツくて重くて可愛くないじゃん。せめてもう少しマシな機種が欲しいぃー」

「なら、侵入制限を越えられるよう地道にランクを上げる事だ。それにランクが上がれば、組合からもう少しマシな機種を支給してもらえるぞ?」

「やっぱり、それしかないかー」

 意気消沈するパールを横目にシューヴァラが忠告する。

「で、だ。所有者登録はしてあるだろうが、必要な時以外はあまり見せびらかさないほうが良い。今のパールの話を聞いたとおり、その機種を欲しがるヤツはどこにでも居るからな。トラブルの元になりかねん」

「これってそんな厄介な代物だったんだね……」

 鞠は好意で渡してくれたのだろうが、トラブルホイホイは困る。

 一番困るのは、ダウングレードをする気が起きないという事か。

 現に、パールが不満げに振り回すPDAは頑丈さを優先したためか、重厚で重そうなデザインだった。

「だが、一生物の代物だ。見た目は薄いが、耐久性は支給されるPDAよりも高い。噂じゃ、胸ポケットに入れていたら、魔剣の一撃を防いでくれて助かったって話もある位だ。下手な防具よりも頼りになるぞ?」

「たしかに、多くの戦闘が想定される冒険者にとって頑丈なのは利点ですね」

 PDAをしまった部分を擦る。

「さて、立ち話はここまでにしようかリーダー、さっさと依頼を済ませて2人の宿も取らなきゃならんのじゃないか?」

「あ、そうでした!」

 シューヴァラの声掛けに他のメンバーも我に返る。

 “ネクストフォン”の衝撃は意外と強かったようだ。

「えっと、じゃあ2人には申し訳ないんですが依頼の処理から済まさせてください。そうしないと他の手続きが面倒になるんで」

「気にしないで、ボク達の参加は元々予定外だからね。宿まで案内してもらう時点でありがたいさ」

「それに、登録しないとはいえ、冒険者組合の雰囲気も知っておきたかったから渡りに船か?」

「2人ともありがとう」

 こうして、アルフィード一行に連れられて町へと向かうこととなった。

 両隣に広がる露天を通り過ぎ橋を渡る。

 橋を渡ってから半刻も経たない内に、2人はこの世界で始めての町を目にする事となった。

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