第二十二章 初めての友人
木々が無く、広がる緑色の絨毯の上。
大型の獣が近づかないこの場所で、彼らは腰を据えて休憩していた。
お互いに自己紹介も済ませ、和気藹々としている内に質問コーナーへと突入していた。
「2人ともご両親が行方不明、か。この家業、何が起きるか分からないとはいえ……ご愁傷様です」
「気にしなくていいよ。それにこうなったら、もう自分達で稼ぐしかないからね。幸い、武器や道具とかの貯えは両親の予備があったから、冒険者になろうって2人で決めたんだ。幸いサバイバルの知識はあったから、森の中の果物や木の実とかを食べながら移動していたんだ」
「南の町の出身ですか。確か海に面した場所でしたね。私達はまだ行った事は無いんですが、どんな町なんですか?」
「あー、俺達はずっと町の外れに住んでいたから詳しくは無いけれど、やっぱり港が近いから新鮮な海産物が美味しいって話しだな。あとは他所との交易で珍しい物が見られるってぐらいか?」
「人付き合いが苦手な冒険者は、町から離れた場所に居を構えると聞くが、2人のご両親はそういった者だったのか?」
「え、あっはい。求道者な面もあったので周りとの関係性を考えて町の外れに住んでいたって聞いています。おかげでボク達が地元の町で冒険者登録すると少し揉めそうだったんで、ここまで来たんです」
一方から投げ掛けられる質問を捌くのは、白と黒という印象が強い2人。
どこか言葉に詰まりながらも、質問に答えていく。
表面上はにこやかだが、その内心は落ち着かない。
……ね、念のために出身地の打ち合わせをしておいて良かったよ……。
完璧とはいえないが、何日にも渡って打ち合わせた甲斐はあった。
「――というわけで、ボク達はこの近くの町で冒険者登録して、次の日には中央の知り合いを訪ねに行こうと思ってたんだ」
旅に出た冒険者である両親が行方不明となった孤児という設定はなんとか貫いた。
2人で組んでいるのは、互いの両親がチームを組んでいたから。
庇護者を失った今、知己を頼って中央へ向かっているという設定だ。
多少のボロで多少不振がられるで有ろうが、どうにかなるなる。
ただ、中央に行くというのは嘘ではない。
冒険者達の総本山であり、鞠からも始めに行く場所としてオススメされた場所である。
「それは良いと思うんだけど……、あれ? 両親から聞いてないの?」
「えっと、何をかな?」
思わず聞き返してしまったのは、言いたい事が分からなかったため。
「冒険者登録すると、一ヶ月はその登録した町に拘束されるんだよ?」
「え?」
その情報は、まさに寝耳に水といえた。
「昔はそんな事は無かったんだがな。近頃交通の便も良くなってきたせいか、冒険者の身分証を手に入れるとさっさと大都市の方に向かう者が増えてな。身分証の発行には町も一部負担していてな、そんな事を繰り返されると町への負担ばかりが溜まると制限された訳だ。それが五十年程前の話だ」
説明をしてくれたのは犬の獣人であるシューヴァラ。
グループ内でも年長者である彼は、他の者よりは冒険者の事情に通じていた。
「へ、へぇー。そうなんですか」
鞠はそんな事は知らなかったんだろう。
多分3桁は軽く生きていそうだ。
五十年など彼女にとってはあっという間の出来事なのかもしれない。
「町にとっては貴重な労働力だからね。ただ、悪い事ばかりじゃないよ。登録した町の中では、冒険者割引にプラスして、更に割引や優遇措置を受けられるから。活動資金を溜め易くはなるんだよ」
「初心者が受けられる依頼はどうしても報酬が安いからねー。身一つで出稼ぎに来た人でも時間を掛ければある程度は溜められると思うよー」
「政治的な観点からすれば、破産してスラムの住人や賊の類になられるよりは、多少の金を掛けてでも労働力を確保したいんだろう。実際、冒険者は命がけの場面も多く、命を落とす者は後を絶たない。そうでなくても、大怪我やトラウマでの引退も珍しくない。とある支部だと、常に人手不足だと職員が嘆いていたな」
「ある意味世知辛い話しなんだな」
「それはそうとして、だとすると中央までの移動で資金が厳しい事になるね。というか、知識が当てにならないかも……」
この一ヶ月、鞠からは様々なものを教わった。
解体方法や森の中での歩き方などは、確実に有用であると断言できる。
しかし、金銭感覚や一部の一般常識については再確認が必要そうだ。
「引き篭もり過ぎて、世間一般に疎くなっちゃたんだろうね……」
「――? 元から町外れに住んでてあんまり人と関わらなかったんでしょ? なら、知らなかったのは仕方がないんじゃないかな?」
「あー、うん。そうだね」
まさか指している相手が、元ペットの事だとは夢にも思うまい。
「割引が使えないんじゃ、出費が嵩んじゃうなぁ」
包んでもらった支度金は大金ではあるが、収入が無い現状ではどうにも心許ない。
「生き物狩っても売れないんじゃ意味無いよな」
狩猟の成果を売るにも、衛生面や信用面で身分証というのは必要だ。
最悪、獣化して原始的生活を送れば食事には困らないだろうが、人らしい生活からは遠のく事になってしまう。
金銭問題に頭を抱える2人に、手を差し伸べる者が居た。
「……困っているなら手を貸そう。貸し一つだがな」
シューヴァラだ。
「俺達もそろそろ中央へ移動しようと考えていてな。ついでに中央までの案内も吝かではない。無論、我らの割引サービスの恩恵を分けられる分、金銭的にもかなり余裕が出来ると思うぞ?」
「……ボク達としては助かる提案だけど、対価が気になるね」
2人にとって喉から手が出るほどの好条件ではある。
だからこそ、その意図や対価が気になる。
「始めに言ったとおり、貸しを一つ。それは将来、何らかの形で返して貰えばそれで良い。そして、貸しは中央に案内する事。道中は質問に答える代わりに、何らかの手伝いをしてもらう事で対価にするとしよう。それに、ウチはアルフィードを筆頭に2人と年の近い者同士が多い。友好にしろ打算にしろ何らかの繋がりを作っておくのはお互いにとって悪くないと思うぞ」
そう告げて周囲を見渡せば、アルフィード達は首を縦に振る。
「成る程ね。……どうする悠兎? ボクは悪くない提案だと思うけれど」
貸しという点が気にはなるが、ある意味将来性を買ってもらっていると見て良いだろう。
「……町中で痛い目を見ながら知識のすり合わせをするのは避けたいし、俺は賛成だな」
「ボクも右に同じ。という事でよろしくお願いしまーす」
2人揃って頭を下げる。
「やったぁ! お友達が増えたよー!」
「同世代の知己は少なかったですからね。友好の輪が広がるのは喜ばしい事です」
「同年代の男友達……っ、それも冒険者っ!」
彼らは三者三様に喜びを表す。
特にこの中で唯一の人間であるアルフィードは何故か感極まっていたが、日々女性陣の注文に挟まれる苦労を伝えられる相手ができたからだろう。
この場にそれを知る人間は居ないが。
「そうと決まれば、依頼をちゃっちゃと終らせて帰ろうか。元々、町を出る前に食べようと思って、夜に美味しいお店を予約していたんだけど、2人も一緒にどうかな? 昼までに戻れば、2人分を夕食に追加するのは間に合いそうだしね」
「ねぇねぇ、それって、もしかしてマリッツァおばちゃんのお店? だったらやる気出てきた! 今なら草の十本、二十本すぐに見つけられる気がするよぉー!」
「気がするだけじゃないですか。ですが、食欲というのは三大欲求に数えられる程大事なもの、蔑ろにしてはいけません。ぶっちゃけキャンセルは聞きませんよ? やっぱり止めたなんて言葉が聞こえたら――」
「安心してください。セッティングは既に完了しています。だから、安心してその弓矢を仕舞って下さい」
泣いた子共が泣き止むどころか失神しそうな目つきをするのは、年若い女性としてどうなのか。
少なくとも、豹変した女性2人に悠兎たちは着いて行くことが出来なかった。
「えっと、俺達が参加しても良いのか? 何か高そうなお店らしいけれど」
「いや、そこまで高くはないさ。ただ隠れた名店というだけだよ。それに新たな友誼と門出を祝うのは冒険者の嗜みだからね」
「それじゃあ、ボク達も遠慮無くご馳走になろうかな」
「ご飯は人が多いほど美味しく食べられるから大歓迎だよ。それじゃ休憩も取ったし、残りを採取して帰ろうか」
「よぉーっし、あと十分で終らせるよ!」
「草木の精霊の力も借りましょう」
美食に燃える彼女達の奮闘も有り、目的の草が集まるのにそれ程時間は掛からなかった。




